*人魚姫* 作者/ひさこ ◆tON3cp20n

*19*



しばらくの沈黙がまた続いた後、奈々が椅子から勢いよく立ち上がった。

「今日、あんたが涼真と一緒に遅刻してきて、ほんとムカついた!バスでもずーっと楽しそうに話してたし。」

美波はあまりの気迫に声が出なかった。

「今日だけじゃない!あんたが水泳部に来たときからいつも、いつも涼真と過ごしてたじゃん!!それまで涼真は奈々のものだったんだよ!?何で途中から入ったやつに涼真をとられなきゃいけないのよ!!」

奈々が目に涙をためながら叫ぶ。

「奈々はずーっと涼真だけを見てきた。あんたなんかに、奈々の気持ちなんて分かんないよ!!
あんたなんか、消えればいい!!!」

その時、美波の頭の中で変化が起こった。

―アンタナンカ、キエレバイイ―

その言葉は、鼓膜にこびりついたように忘れられないものだった。

目の前が大泣きしている奈々から、昔の自分の家に変わる。

あたしの前に立ちはだかる大きな影。

その人は小さいあたしの髪を引っ張りながら何かを叫んでいた・・・。

「いやあああぁぁぁぁぁっ・・・・・!!!」

美波の声が会議室に響き渡った。

会議室だけじゃなく、外にまでも。

そして次の瞬間、美波は自分のペンケースからカッターナイフを取り出し・・・

自分の腹部を思いっきり横に切った。