*人魚姫* 作者/ひさこ ◆tON3cp20n

*7*



プールへ着くと、美波が遊びの様なクロールでばちゃばちゃと泳いでいた。

先生が呆れた顔で言う。

「あいつ・・・、本当に伝説の飛び込みをしたのかぁ・・・?」

「ほっ、本当ですって!まじなんですよ!なっ、美波・・・」

美波は俺達の方を見ると、目を大きく開いてプールから上がった。

「え、なななな何でしょぅかあぁぁ??」

焦りすぎだから。

美波、どうした?

まぁいいか・・・

俺は事情を説明する。

「俺が先生に、美波がさっきやった飛び込みについて質問したんだよ。そしたら、見に行こうって・・・」

「えぇ?!」

美波はひときわ大きな声で言うと、俺の方へ来て小声で囁く。

「なんで先生連れてくるのぉ・・・・あたし、人に見られると泳げないって言ったじゃん・・・・」

「え、だってさっきも泳げてたし。」

「それは、水谷くんだからでしょ?」

え?

今何と?

俺の名前が聞こえた様な気がしたんだけど・・・・

俺が驚いた顔で美波の方を見ると、美波はしまったという様な顔で口を手で押さえる。

そのリアクション、古い。

美波は明かにオドオドしながら

「あ、いや・・・・今のは・・・・」

と必死に言葉を選んでいる。

俺はどうしろと。

俺達が気まずい空気の中いると、先生が

「島津、泳いでくれないか・・・?」

と切り出した。

美波は俺に小声で

「しょーがないなぁっ・・・」

と言うと、俺のゴーグルをはめて飛び込み台へ登る。

結局泳ぐんかい。

美波は深呼吸をして・・・・

飛び込み台から美波の足が勢いよく離れる。

そして、指先から静かに水へ入った。

先生の顔を見ると呆気にとられている様だった。

そして美波はまたバタフライをする。

さっきと同じだ・・・・

本当に蝶のように美しい。

太陽が反射する水面でさえも、美波を取り囲むベールに見える。

先生がボソリと呟いた。

「水谷・・・、島津は伝説の飛び込みだけじゃないぞ・・・・・」