*人魚姫* 作者/ひさこ ◆tON3cp20n

*20*



美波のTシャツがみるみる赤く染まる。

そして足元には血だまりができた。

美波はカッターナイフをポトリと落とし、ふらりと倒れた。

奈々は美波の思いがけない行動に、どうすればいいのか分からなかった。

「な、奈々の・・・せい?」

奈々は焦った。

自分が、美波を殺してしまった―――?

まだ死んでしまったと決まったわけでは無いが、その思いが強かった。

どうしようもなく奈々が立ちすくんでいると、美波の悲鳴を聞いて部員のみんなが集まってきた。

「美波っ!!」

そう言って最初に入ってきたのは、

涼真だった。

「み・・・なみ・・・?」

涼真の目が驚きから、焦りの色に変わる。

「きゅっ、救急車!早く!はやくーっ!!」

涼真が叫ぶ。

誰かが電話で救急車を呼んでいる声が聞こえる。

奈々は、相変わらずどうすることもできなかった。

涼真に、奈々がやったって思われたらどうしよう・・・

そんな思いだけが奈々の心でグルグルとどうどう巡りをする。

涼真の視線が奈々にゆっくりと向けられた。

「奈々・・・」

その涼真の言葉は、苛立ちを押さえた声色だった。

「これ、奈々がやっ・・・」

「やってない!!」

涼真の声が言い終わる前に奈々が言う。

「やってない!やってない!やってない!奈々はやってない!」

奈々は呪文のように繰り返す。

「やってない!やってない!やってな・・・」

「奈々っ・・・!」

取り乱している奈々の肩を抱いたのは、

半ケツこと高木翔だった。