*人魚姫* 作者/ひさこ ◆tON3cp20n

*21*



美波は病院で手当をうけていた。

その間、俺と奈々と半ケツはずっと黙っていた。

半ケツは怒った様な表情で。

奈々は放心した様な表情で。

俺は心配した様な表情で。

自分のことで精一杯だった。

沈黙が続く中、医者が顧問を呼んだ。

どうやら話があるようだ。

「先生、俺も・・・」

俺は先生に頼んだ。

先生は何も言わずに手招きをした。

医者についていくと、清潔感のある部屋に案内された。

「さ、座って下さい。」

医者が言う。

「で・・・その時の状況を教えてもらえますか?」

俺達の方を向きながら医者が続ける。

「橋本から聞いた話だと、橋本と島津が言い合いになって、橋本があんたなんか消えればいいって言ったらしくて。それを聞いた島津がいきなり自分で自分の腹をカッターナイフで切ったらしいです・・・」

顧問が言いにくそうに言葉をつまらせながら説明した。

医者は何か考えているようだった。

しばらくして医者が言った。

「美波さんはおそらく、虐待を受けていたでしょう。」

俺は耳を疑った。

虐待。

俺には縁のない言葉だった。

あの美波が、虐待を受けていた・・・。

俺はまだその事実を受け止めれなかった。