*人魚姫* 作者/ひさこ ◆tON3cp20n

*22*



「美波さんは、奈々さんの何かの言葉にフラッシュバックをおこしてしまったんだと思います」

医者は続けた。

「その時に過去のトラウマ―――つまり心的外傷を鮮明に思い出してしまい、自らを傷つけた・・・」

医者は黙り込んだ。

俺はまだ状況が分からなかった。

虐待。

フラッシュバック。

トラウマ。

考えようとしているのに、思考は停止してしまっている様だった。

美波はどんな生き方をしてきたのだろう。

それは多分、俺には想像もつかないようなものなのだと思う。

「それで、島津は・・・」

顧問が不安の色を浮かべながら聞く。

「それは大丈夫です。傷もそこまで深くなかったので。1週間もすれば退院できるでしょう」

「よかった・・・」

顧問がはぁっと息をついた。

俺も安心した。

安心して、脳もだんだんと動き始めているようだった。

肩の力が抜けて、視界がぼやけた。

目の縁から温かい水がこぼれる。

俺は静かに泣いた。

顧問の鼻も赤くなっていた。

それは悲しみからではなく、安堵からのものだった。

でも、

全ての問題が解決したわけではなかった。