俺の兄さん  シンジ /作



5話 悪夢と兄さんの話



ここは深い山の中。

ちょっと遊びに来たつもりなのに俺達はどんどん奥へ奥へと進んでいく。

子供の好奇心なんてそんなものだ。

「兄ちゃんっ。ちょっと休もうよ。」

俺は言った。
今日は日差しが強くムシムシする。
けれどここは木々のせいで地面に光が届かない。
その分涼しいかといったら別問題だった。
ムシムシする。
時折吹く風がなまぬるくって気持ち悪い。
山の中のせいなのかツーンとカブト虫のにおいが鼻を刺激する。
けれどそんなにおいなんて気にならないくらいムシムシする。

暑い。

道が分からない俺達はただ山の中の道なき道を進むだけだった。

「・・・そうだな。休むか。」

兄さんは言った。
小学生がそんな風に言うとなんだかアホくさく見える。
けれど俺にとっては兄さんは一番近い存在だったからそんな事は一度も思ったことなんて無い。
兄さんはそんな事を言うとその場に座った。
俺もどこにも座るところなんて無いから草の上に座る。

俺はふとポケットに飴が入っていることを思い出す。
バアちゃんに昨日もらったやつだ。
ちょうど2個ある。

「兄ちゃん。はい、これ。」

俺はそう言って飴を渡した。

「ありがと。」

兄さんはそう言った。
俺の小さな手と兄さんの俺よりか少しだけ大きい手がかさなる。

「飴、溶けてると思う。」

俺は言った。
この暑さで溶けない飴を聞きたい。

「そうだよな。」

兄さんはそう言うとその飴をポケットに入れた。俺も余った方の飴をポケットに入れる。

それにしても暑い。

頭がクラクラしてくる。
自分の意識がだんだん遠のいていくのが分かった。
しかし、その時事件は起こった。
足首にぬるっとする気持ちの悪い感触がした。
それをよく見ると蛇だった。
色は青々としていた。
そして結構大きい。

(青大将だ!)

そう思った。
けれど小学生。それも2,3年生がどうにかできるだろうか。
それはどんどん俺の脚を伝いながら俺の方に近づいてくる。
胸の辺りに鈍くて重い痛みがする。動けない。
兄さんはそいつを足で踏む。

「このっ!零夜のところじゃなくて俺にかかって来いっ!」

兄さんは必死にそいつを踏み潰す。
けれどそんな俺はそんな中で気が遠のいていく。し、胸の辺りがキリキリと痛む。
兄さんが必死に対抗しているせいなのか今度は兄さんの方へ行く。

「・・・いッ・・・た・・・・。」

薄い気の中、兄さんの足が赤くなっているのがぼんやりと見えた。


「兄さんッッッッ!」

ここは俺の部屋。
暗くて周りは見えないが分かった。

(夢・・・か・・・)

けれどそれは俺の幼い頃の記憶でもあった。

「・・・いっ・・・」

胸の辺りがキリキリ痛む。
俺は枕元に置いてある薬ビンを開けて薬を取って口へ運ぶ。
頭を赤い兄さんが過ぎる。

何も出来ない自分に腹が立った。