俺の兄さん  シンジ /作



11話 俺の母さん



「・・・38.7℃?」

体温計を見ながら兄さんはそう言った。
なぜ疑問文なんだ。と、言う疑問はあったが別になぜか?と、問うつもりは無かった。

「・・・ん~っ。ちょっと待っててね。」

兄さんはそう言うと再び俺の部屋から出て行った。
ふと、俺は時計を見た。

(8時7分・・・)

いつもなら兄さんはとっくに家を出ている時間だった。
別に俺は兄さんを引き止めたくて引き止めているわけではない。
けれど心配性な兄さんは勝手に俺にかまっている。

(学校。あるんだろ。)

そう思ったが俺はそんな事を言うつもりは無かった。
いや。本当は俺は兄さんにかまってもらいたいのかも知れない。
けれど「かまってください。」なんていえる奴が居るだろうか。と、思うし、自分でそれを認めるつもりは無い。断固、認めない。
別に、事実を否定するつもりなんてどこにも無い。ただ、絶対に事実を事実だと認めるつもりは無い。

ガチャリ

ドアの開く音がした。
兄さんは俺の前に膝立ちになると言った。

「おでこ。」

兄さんの手にはヒエピタがあった。

俺、嫌いなんだよな・・・

だからって嫌だなんて言わない。
それに見栄なんて張ってるとは認めない。
しかたなく俺は前髪を右手で上げた。

「・・・んっ。」

冷たさが体の中でイナズマのように走り抜ける。
思わず兄さんの制服のすそなんて握ってしまってなんかいない。と、言いたいが、握ってしまったのは事実なわけで。

そんな事はさて置いてだな。
兄さんはこれからどうするつもりなのだろう。
こんなところで油を売っている時間は無いはずだ。
でも兄さんは相変わらず優しい笑顔を浮かべている。
その綺麗な金髪のせいなのかもしれないし、兄さんが綺麗な顔のせいなのかもしれないけれど、本当に母さんに似てる。

母さんの顔なんて記憶には無いけれど、記憶の片隅の写真の母さんに似ている。

俺の母さん。そんな感じだ。

「零夜。今日は寝てなよ。」

兄さんは俺の頭をやさしくなでて言った。
兄さんはそのまま俺の部屋から出て行ったんだけど・・・