俺の兄さん  シンジ /作



3話 僕の『笑顔』の『嘘』



「・・・コン・・・コン」

俺の部屋のドアがノックされる。

ふと、僕は我に返る。

今は12時を過ぎた頃。
僕の部屋をノックするのは零夜しかいない。
けれど彼がこんな時間に僕に用事なんてらしくない。
だからこそ心配になる。

僕はその場から立ち上がってドアの前にむかう。
ドアノブに手を掛けたところで自分を落ち着かせる。

(さっきの事は忘れよう。零夜には何も想わせてはいけないんだ。僕は彼にとってのたった一人の兄だから。)

僕は心の中でそう、つぶやいた。

「・・・どうかした?」

ドアを開けながら笑顔で僕はそう言った。つもりだった。
僕は何でも顔に出やすいタイプだから笑顔で感情を隠すことしかできない。

けれどそこに居た彼は何かに怯えていた。

『何か』と、言うよりも『周りのすべてのもの』に絶望でもしたかのように僕を見ていた。

抱き枕をしっかりと持っている彼になにか、不信感を抱く。
僕の顔が自然と引きつっているのが自分でも解った。

それでも彼は普段無表情な顔にうすらと笑顔を浮かべて口を開いた。これでも彼は頑張って笑っているのだろう。

「・・・兄さん・・・邪魔じゃなかったら一緒に寝ても良い?」

・・・悪い夢でも見たのだろうか。それにしてもらしくない。
いつもの彼は一人で何でも抱え込んでしまうのに。
何も言わないよりはこっちのほうが断然良いのだが、それにしてもらしくない。こっちの気まで狂う。

けれど彼を僕は部屋に招き入れた。

彼が何かに怯えているのなら少しでも側に居てあげたいと思ったから。