メイドと追っかけと職人と巫女と

作者/マッカナポスト

第二十九話・・・∞の世界と有限の人生


             *
優大の脳内の錯乱状態はさておき、拓夢達は一足早く店の中へ駆け込んで行った。
源たちが勤める洋服店、『@ho‐me』は店内の3割程がロリータファッションコーナー、残り7割はTシャツのみ(比較的高価だが、デザイン性に富んでいる)の販売という奇妙ともいえる店である。

「ふぅ、やっと落ち着ける」拓夢が安堵の溜息を吐くと、虚が呆れたようにせせら笑う。
「まったくあんな馬鹿のせいでたかが洋服屋行くだけで一仕事だ」優大を軽蔑する虚の言葉に拓夢は反論することも無く、むしろ同意していた。
「優ちゃんは店の外で修行させとく?」本気で言っているのか、冗談で言っているのか分からない。
「いやぁ、拓夢ちゃん、こういう時は店長に任せておこうよ」源はそう言って『@ho‐me』の店長を呼んだ。
身長は拓夢と同じくらいだろうか。誰も寄せ付けない独特の空気を漂わせる『店長』と呼ばれる男は、拓夢に軽く会釈をした。
「どうも、店長です」シンプルすぎる挨拶を拓夢と交わすと、名刺を懐から取り出した。
名刺に書かれていた名前は二文字の漢字。

<『@ho‐me』店長 黛 禅>

「???????」拓夢は一字たりとも彼の名前が読めなかった。
「漢字、苦手なんですか?僕の名前は“まゆずみ ぜん”。虚とは中学時代の友人なんです」_____なるほど。じゃあ源サマとも友人だったのか。拓夢は当たり前のことをさも難しいことのように呟いた。
それを聞き取ったのか、虚は拓夢まで馬鹿になってきたのか、とこれからの工房の存続が心配になってきた。
「虚ちゃんってヲタク友達多いの?」拓夢がいつもの活き活きとした声で尋ねる。
「仕事上な。霊媒師として今は働いているが、元々は住職だった。だから仕事上ヲタクに狙われやすかったのかもな」
「狙われるなんて虚、俺らそんなに変態じゃないぞ?」そう言って源はふわりと笑った。
「『レッツ●ー!陰陽師』とか流行ってたからなぁ・・・。」禅が懐かしむように呟く。
「え、それって禅さんが高校くらいの時じゃ・・・?」拓夢が的確にヲタクスイッチをONにしてツッコむ。
「あぁ、そうだった!あれは僕が高2の時だった!!さすがだねぇ、拓夢君」感心したように禅が大袈裟に頷く。
拓夢はその言葉を完全スルーして『ロリータファッションコーナー』に目を遣る。
「わぁ・・・・・っ!!!!!」拓夢が思わず感嘆の声を上げる。
「どうだい?僕たち『@‐home』の店員選りすぐりのロリファッションコーナーは?」
「つかメイド服率すごいですねww」拓夢は笑わざるを得なかった。
「拓夢ちゃん、路上ライブでは大体ピンクのメイド服だったでしょ?・・・でも僕的には黒が良いかな、メガネも掛けて」完全に源の顔には(^p^)マークが浮かんでいる。
「なんでピンクだって分かるんですか?」
「・・・僕、ファンだったんだよ?」
「「は?」」この衝撃発言に、虚と拓夢は石のようになった。
「あ、言っちゃいけなかったかな?」やっと気づいた源は後退りをしてごまかし笑いをする。




















「こっ・・・・・こいつも追っかけだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

拓夢が絶叫した3分後(つまり何も知らない優大がやっと店内に入ってきた2分後)、洋服店『@ho‐me』店内には源の悲鳴が響き渡ったという。