メイドと追っかけと職人と巫女と
作者/マッカナポスト

第五十三話・・・あくまでも悪魔
ふと思えば空は日が暮れつつあった。
まだうっすらと暗くなったばかりの夕日が少しずつ山に溶け込み、太陽が山裾に沿って孤を描く。
そんな『美しき情景』までも、今は背景でしか無い。
まだ明るくおぼろげな夕日を背に、虚は唐突に服を脱ぐ。
すると、中からどこまでも純白の__まるで生き物のような、袈裟が姿を現す、背景と果てしなく不釣合いに。
珍妙で不釣合いな夕日と純白の袈裟との組み合わせは、彼の漆黒の髪をますます輝かせ、『美しき情景』はおろか、神々しくさえも演出していた。
この美しさは罪だと思う。
「この袈裟が、俺が寺に生まれたことを思い出させてくれるんだよな」
下のほうで一つに束ねていた髪を解きながら、微笑気味に呟いた。
そういえば初めて工房で出会った時も、この袈裟姿だったな、と優大は思い起こす。
そんな一瞬の沈黙を、虚自らが打ち砕いた。
「さてと、“継承式”に入りますか」
「「はぁ?」」禅と優大のハモり、本日二回目。
すると犀霞が声を立てて笑い、話を切り出す。
「じゃあ私が説明するから___」
今回の“継承式”っていうのは、虚を寺の住職にじゃなくて、霊媒師として継承する儀式だよ。
いきなりだけど、住職としての藤堂家は、そろそろ滅亡すると言えよう。
何でかって?
次期継承者の虚の父__私の兄さんは虚の母さんが死ぬ前に家出している。
虚は元々住職になるつもりが無いから__まぁ名前も名前だしね__継承者になることはまず無い。
私の妻は第一性別が違うし、母さんとの遺産相続の件もあって金が手に入ったから、私と別居している。
夫婦と言うものは悲しく儚いことだよ。
おっと、話が逸れたね。
となると、残りの継承者は誰もいない。
もともと一族の名前は有名でも、何処までも捻くれてたからね、人数は身内しかいないくらい本当に少ないんだよ。
だから、虚が継承者にならない限り、藤堂家は滅亡する。
だけど、虚は藤堂家が滅亡してでも、霊媒師になりたいらしい。
その強固な意思は既に聞いている。
何で藤堂家を滅亡させる様なことをするのか、私にも判らないけどね。
一種の復讐なのかもしれないね。
まあそこら辺は隣にいる私の愛しい虚に聞いてみな。何にも答えてくれないと思うけど。
閑話休題はここまでとして。
即ち、今回の継承式はあくまでも虚の住職としての継承式ではなく、霊媒師としての継承式で、強制的に住職にならない為のものなんだ。
虚の、人生を賭けた一世一代最後の復讐さ_____
ぷっつりと、語りを終えた犀霞は、虚を真っ直ぐ指差す。
笑みを浮かべ、こう放った。
「虚、常に異端であれよ」

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