メイドと追っかけと職人と巫女と

作者/マッカナポスト

第三十話・・・独りよがりの高貴なる騎士


             *
こんな時間に目が覚めたのは久々だった。

まだ夜が明けたばかりなのか、母なる太陽を包み隠す濁った雲が、徐々に色味を濃くしてきていることが、優大にも分かった。
_______それにしても、昨日は忙しい日だった。
拓夢が上げた悲鳴は1日経った今でも鮮明に脳裏に刻み付けられており______
優大が拓夢の後を付いて店を出ようとした瞬間に黛店長にこっそり差し出された手紙を、優大は未だに読めないままでいた。
____手紙なんて古風な手を・・・・・。

ゆっくりと身を起こすと、昨日の手紙が眼中に入る。
仕方あるまいと恐る恐る手紙を開くと、達筆な字が手紙を埋め尽くしていた。

『急に手紙なんて渡しちゃって申し訳なかったね。まだ話した事も無かったのに唐突に書いてしまった。許してくれ。
拓夢ちゃんや虚にはへタレキャラで通っているようだね。僕から見ても筋金入りのへタレだとは思うけどねw
だからこそそんな君が気に入ってしまってね。僕自身もよく分からないんだが_____まぁ、君の想像にお任せする事にするよ。
僕もよく源たちに馬鹿にされる事が多いから通じ合えるところも多いんじゃないかな。・・・なんてさ。
こんなノリで行くと虚や拓夢ちゃんならこの手紙の概要は想像できる筈なんだが、優大君はそんな高難易度の事は無理だと思うので、一応書いておきます。
_____君と一回話がしたいんだ。ゆっくり。明日は店は源に任せてあるから暇だと思う。

無理なお願いをごめん。
明日正午、店の前で待ってます。              



黛 禅より

P.S ちなみに、この事は拓夢ちゃん達には内緒にしておいてくれないか。』





優大は一瞬状況が理解できなかった。この場で何が起こっているのか。この文が何を意味しているのか。なぜ拓夢達にこの事を隠さねばならないのか、という疑問を抱いたのは、それからしばらくしてからの事であった。



ただ感情のない操り人形のように手紙を持ったままそっと部屋を抜け出す。______どうやらまだ拓夢は眠っているようだ。
古風な泥棒のように忍び足で階段を下りる優大の姿は滑稽ともいえる。
飾り気のないその場にあったパーカーとGパンをそのまま身に着け、せめてものお洒落をと、いつもとは違う落ち着いた雰囲気の銀縁メガネを付ける。色の褪めた衣服は、洒落た銀縁眼鏡と清涼な雰囲気を思わせる優大本人の雰囲気とは一切釣り合っていなかったが、優大はそのような事は気にする筈も無くさっさと身支度を済ませてしまった。



その時だった。突如上から小さな声が降りかかってきた。
「優大、拓夢には内緒にしておくから。禅は良い奴だから、お前とも気が合うだろう。____________気をつけろよ」

虚らしからぬ優しい言葉に、優大は心が落ち着いた気がした。




「あ、あとお前まさかその格好で行くつもりじゃ無いよな・・・・?」

「え?何で?」優大のきょとん、とした顔に思わず虚は溜息を吐いた。
「______下のGパンは未だしも、上のパーカーはやめとけ。はっきり言うが薄汚ぇ。・・・・俺のYシャツとベスト貸してやるから」そういえば虚のYシャツ姿はあまり見た事がなかった。そういう意味でも優大は少し関心を持った。



2分後。



「ほらよ」素っ気無くYシャツとベストをを2階から投げ落とされる。優大は決して良くは無い反射神経で何とか服を受け取ると、急いで着替え始めた。虚がそれを夢うつつになりながら頬杖を突きながら見つめていると、知らぬ間に優大は着替え終わっていた。
虚は「お前、Yシャツの裾はベストから出しておくもんだぞ」と最後に言葉を付け加えると、優大に聞こえないほど小さな声で「行って来い」と呟いたまま踵を返し部屋に戻っていった。
ほんの少し大きい虚のYシャツは仄かに良い香りがした。優大はその事に少し喜びを感じながら、工房を静かに出て行ったのであった。












「_______行ってきます」












ほんの少しの好奇心と、不安と、寂しさを感じながら。