メイドと追っかけと職人と巫女と

作者/マッカナポスト

第四十六話(2)・・・タイムパラドックスの悪戯X


幸せなはずの結末を あたしが望んだ夜に
幾万の誰かも愛を誓う
なんだか、素敵なんです。

夜光の蝶の羽ばたく先の 甘い蜜の香り
そしてあなたに恋をしました
刹那に酔う町で__________










「そして僕は、妖艶に舞う」

妖艶という言葉の檻に縛られ、虚しく唄うのは、君だった。
残念なことに。


懐かしい、あの頃と変わらない古ぼけた匂いの混じったスタジオで、
満員の客の中、一番輝いているステージに上がっていたのも僕で。


そんな中を突き抜けるような甘いヴォイスで、観客を魅了してたのは君で。


その姿を見て、
『美しい』
と思ってしまったのは、

僕だった。










透き通る汗までもが輝いて見えるこの小さなステージで、只管に真っ直ぐにエレキギターを奏で、きらきらと歌うその姿は、全く洒落ていなくて___寧ろ色気を醸し出していた。
鈍く輝きを放つエナメルのベストと、眩しすぎるほどのネオンとスポットライトが、奇妙なコントラストを放っていた。


瞳に微かに据わる妖艶の紅は、耳障りなノイズの様な僕に何かを訴えてくるようだった。


大して経験していない恋愛を悲しげに歌い、
心優しい人を偽善者と呼ぶ癖に偽善を歌い、
好きでもないロックをただ我武者羅に歌い、




そんな姿が余りにも虚しくて、愛おしかった。




「え~、次で最後の曲となります」そう言った途端ブーイングの声が上がる。女子と男子五分五分といったところか。
「と、その前に!飛び入りゲストを紹介したいと思いますっ!」歓声の中にどよめきが入り混じる。よくある展開なのに皆何故同じ反応をするのだろう。

「直ぐお隣のアキバで伝説とまで呼ばれた、『むむたん』こと田丸拓夢さんです!!」






女子軍は疑問符を浮かべながらもとりあえず歓声を上げているといった雰囲気だったが、男子勢の圧倒的な歓声に気圧されている様にも見えた。

久しぶりのステージに、少しだけ足が竦む。
その歓声は、拓夢の心をますます高揚させた。






「みなさぁ―――ん!!復活しましたっむむたんです!」






隣で奏でられる柔らかで深いビート。真織に全く似合わない小洒落た音律は、何処かジャズの様な雰囲気で。
呑まれてしまいそうだった。


歓声は最高潮を迎え、どよめきが打ち消される。
歓喜の環は益々広がりを見せ、懐かしい匂いが拓夢の周りに取り戻される。
硝煙と汗が入り混じった様な古ぼけた__かつての幸せの象徴。

我武者羅に歌ったあの頃の残像。
昔飽きるほど歌った愛の標。
メイドなのにも拘らずアイドルらしからぬ歌を選曲した僕は、逃げているように視えるのだろうか?

決して代表曲では無いと言うのに、
真織がこの曲を選んだ意味が、
僕にはまだ理解できなかった。


そして、コラボ何かも入り混ぜたりして、幻想的な舞台は幕を閉じた。
舞台を降りて笑顔を撒き散らした後の、
疲れたような君の瞳は、
とても美しかった。










『そして僕は、帰路に着き、くだらぬ言葉で愛を語るんだよ。』
これで充分でしょ。










卑猥に誘うネオンの
騒ぎを抜け出したなら
朧の月の明かり消して
抱き寄せて


音も無く散る花がひらひらり
チープなガラスの飾り
解いた黒の髪が広がって
とてもね、綺麗なんです。


明日には消えてゆく優しさを
あたしが望んだように
幾万の誰かも愛を誓う
なんだか流行りの幸せに包まれ
笑っていたいのです


表通りは狂喜のフロア
切り裂くロックンロールミュージック
ジャズマスターの艶美な響き
虜にする、ふたり


神様がいないのなら
あなたのやりかたでいいの
誰も知らない遠く彼方
連れてって


音も無く散る花は淑やかに
虚ろなラジオのノイズ
素肌の薄い紅が鮮やかで
とてもね、綺麗なんです。


泡のよに消えてゆく温もりが
寂しくほのかに名残り
ここにいるあたしはありのままに
誰か嘯く虹色の結末を
信じてみたいのです


さよならをするんだから
ありふれた言葉でいいの
童話のような星屑の空
描いてよ


音も無く散る花がひらひらり
チープなガラスの飾り
解いた黒の髪が広がって
とてもね、綺麗なんです。


明日には消えてゆく優しさを
あたしが望んだ夜に
幾万の誰かも愛を誓う
なんだか流行りの幸せに包まれ
笑っていたいのです__________