メイドと追っかけと職人と巫女と
作者/マッカナポスト

第三十三話・・・卑猥で狂おしく、愛しい愚民共め。【後編】
*
そして時は再び現在へ戻る。
「過去にタイムスリップでもしていたのかい?」冗談交じりの言葉だが、上辺だけであり実際は緊張感に満ちた一言である。
「そうですね、貴方に会えて事件の事を思い出さないわけがありませんし」
「皮肉交じりだね、僕にだって言い分は無いわけじゃないが、口論にさせるつもりで君を呼んだわけじゃないんだ」宥めているのだか敵意を表しているのか分からない。確かに彼に口論を望むような雰囲気は無いが____望むと言うと聞こえは悪いが____どちらかと言うと皮肉返しに近い言葉なのは事実だ。
「まぁ、暫く君のタイムスリップに身を任せながら余韻に浸っている事にするよ」
______やっぱりどうやってもこの人とは噛み合わないようだ。優大は身をもって感じた。
・
・
・
・
・
・
半年前:事件直前、渡り廊下にて
「沢村副会長っ!ふ~くかいちょうっ!!」禅と同い年の男子が幼さの残る笑顔を浮かべ、禅に近づく。
「あのさ、『副会長』って呼ぶのやめてくんない?」友人とは対照的な冷たげな一言。しかし顔には薄ら笑いを浮かべている。
「はははっ、だってさぁ…高校の生徒会の副会長の略なんて誰も分かんないでしょ?」
「そこが悪いところなんだろww」
笑顔が浮かぶ日常。いつもの廊下。何もかもがありきたりで。幸せで。
その瞬間だった。
「禅っ!!!ぜっ・・・・ぜ・・・・・・・・ん!!!」息の切れる音で声が掻き消される。今にも倒れてしまいそうな蚊の泣くような声で必死で訴えようとするが声は宙へと消えていく。
「中条!どうした!!?」思わず声を張り上げる禅。
「お・・・俺っお、俺____!!」ヒステリックな声を上げ、震えを抑えきれないようだった。
「どうしたんだよ…?落ち着いて事情を話せ」自分でも恐ろしいほど冷静だった。
しかしその冷静さは後に罪の道へと導く結果となる。
「俺……、吉岡を…さ……刺した_______」重苦しい余韻。恐ろしいほどの静寂。中条と呼ばれた男は、その静寂に耐えられなかったらしく、そのまま地面にへなへなと座り込んでしまった。
「ばっ…馬鹿か!!いくら性格の悪い奴とはいえ_______お前、只の罪人だぞ!!」驚くほどの冷静さを保ったまま禅は、一頻り叱り終わった、といった表情をみせた。
そして恐ろしい一言を当たり前のように紡ぎだす。
「こういう時は“頭を使わないと”、だろう?」不敵な笑みに先程まで温和な雰囲気を湛えていた渡り廊下は恐怖に凍りつく。
流暢に紡ぎだす戦慄への一言が、周りの空気を凍りつかせた。
「ああ、あんなところに菅野がいるじゃないか」
「?」
「自分で言うのも何だが、僕は多少は先生に信頼されてるから、さ」
「…?」
「お前たちには出来ないけど、僕には出来るかな」
「……?」沈黙の中に疑問符が並ぶ。
「まだ分からないかなぁ?」
「簡単な事さ、中条が犯してしまった罪を“無くす”だけ、それだけの事だよ」
「__________!!!!」
張詰められた空気の中で咲く一輪の黒い薔薇は笑みさえ浮かべていて。
「近くにいた人に罪を擦り付ける」
「人間なら当然考える事だろう_______?」

小説大会受賞作品
スポンサード リンク