メイドと追っかけと職人と巫女と

作者/マッカナポスト

第五十九話・・・終着点


人間というのは、運命という言葉に流されすぎると必ず失敗するらしい。


『運命』という言葉を好むのは比較的女性の方が多いと思われるが、男子はまったくそういった事に関心が無いと言えば男女差別になりかねない。
凡てが導かれて今がある、という考え方も悪くはないし、ポジティブシンキングだとは思うが、原理としては悪徳宗教と似かよっていると言えよう。

ところで『永遠回帰』という言葉をご存じだろうか。

『永遠回帰』とは、人類凡て終着点は同じ__即ち、人生には絶対的な価値など存在しない、意味など無いという考え方である。鎌倉時代に流行った『無常観』と近い考え方とも考えられる。またニーチェがこの考え方を『ニヒリズム』とし、多用した事でも有名だ。

僕もこの考え方には賛成だ。
世の中とは永遠に同じことの輪廻であるという思考は大変斬新で、今という時代を生きる人にとっても大切な考え方であると思う。
人生に理由や意味など無いと認めることで、人は強くなれると思う。





「凡てを認めることの怒り、悔しさ、無力さ__それを俺達は一番知っている」





虚がそう唐突に呟くものだから、優大は気が動転してきたようだ。

「え?な、何が言いたいんだよ?」これから発される真実の重大さなど知る由もなく、優大は聞き返す。
「これから言う大切な事の前に、それだけは覚えておけ」虚はにこやかとは言えない表情で優大に釘を刺した。





「今から伝える事は単純明快だよ、たった一つなんだから」拓夢は優しげな笑みを作ってみせた。
「しかも辛い事ではないぜ?寧ろ嬉しい事?」源はそう付け加えた。

「もう契約も終わるし、タイミングとしては丁度いいかと思って」禅が普段は見せない快活な笑みを浮かべた。

「俺と源は四月からイギリス行っちゃうし、まぁこれを伝えられれば任務完了って訳で、もうお別れだな」
「四月ってあと二週間もないだろ?もう準備しなきゃだしさ、あは」


虚と源、相変わらず息が合っているようで合っていないといった雰囲気だが、じわじわと込み上げる離別の悲しみに必死で耐えているように受け取れた。





「準備はできた?」

拓夢は優大の頭を大袈裟に撫でまわしながら、苦し紛れにそう言った。


準備なんて出来ている筈ないじゃないか___そう言いたかったのに、口から出る直前で止まってしまった。


何が起こるか、
何でみんな意味の解らないことを言うのか、
何を言いたいのか、
何のためにみんな集まったのか、

分かるはずもないのに。
頷いてしまった。





「____うん」


「じゃあ___入ってきていいよ」

「は?」拓夢は最後まで意味の解らないことを言う。

皆が後ろの入り口の方を振り返る。
優大もたまらず入り口の扉の方を見やる。










「政孝_______?」

拓夢の、

恨むべき、

己の敵が、

そこにはいた。

_____と思われた。