メイドと追っかけと職人と巫女と

作者/マッカナポスト

第五十話・・・最後の∵【言い訳】


【   粗   】

ついつい歌を口ずさみたくなる様な。
田舎に生まれた訳でもないのに、何故か懐かしい気持ちが込み上げた。
後悔に苛まれたあの頃の日々が残響として耳を駆け巡っていたが、そんな事も忘れてしまうくらい。
此処はひぐらしのモデルかよ。


「………………」二人とも、何も言葉が出なかった。
「何だよ__つかいちいち止まってないで早く家入ろうぜ、暑い」ぼりぼりと首の辺りを掻き毟る辺りも様になる人間は、恐らく虚只一人だろう。
「僕生まれて初めてだぞ、家を見上げて首が痛くなったの」
「同じく」
「……はぁ?こんな家の何処が大き____」
「「全て」」
「___ったく、五月蝿い奴は出て行ってもらうからな」
「ナターシャは五月蝿くしてません」
「そういうのが五月蝿いんだろ!!?」虚と禅がどうして仲良くなったのかが優大には全く理解できなかった。





【   澱   】




「おっさ――――ん」襖を開け、上がり框に身を乗り出して叫んでも、返事が無い。それどころか生活音すら聞こえない。
荘厳な門を眺めている時も感じたのだが、藤堂家だけに温かみが無いというか、変な寒気を感じる。気のせいだろうか。
「_________っ」虚が思いっきり間を空けた後に舌打ちをしたので思わず優大は驚いてしまった。





「こんの糞爺が…………」ふと虚が呟くと。





その途端。反対側の渡り廊下(渡り廊下がある時点で凄い)から、ぬっと人影が現れた。
「やぁ、クソジジイの降臨だよ」
「違ぇよ、漢字で糞爺だろ」四十代前半と言った所だろうか、毒々しい爽やかな笑みを浮かべながら、アイドルのような糞爺はやって来た。


___何だろう、虚が源と喋っている様にしか見えない。
「私は源君とは違うよ、断じて」__考えていることを読み取られてしまった、しかも危険で鋭い眼光をぎらぎらと煮え滾らせながら。





「ふ……っははは、もう皆馬鹿だなぁ、私の名前は藤堂犀霞だよ」理解不能の高テンションで自己紹介をされてしまった、いきなり壁を感じる、万里の長城級の。

「さいか……?」
「あぁ、『さい』という言葉は愚かな物ばかりで深いんだよ。犀、碎、偲、最、晒、切、___数えたらきりが無いくらいにね」
「………………」
「その全てのカスを、深い霧の中に、霞の中に隠すんだよ」
「………………?」
「藤堂家は代々、名前の意味がいい意味じゃないんだ__単刀直入に死とかそういう言葉はないにしろね」
「正しくもないし、間違ってもいない。そんな狭間を追求したがっている象徴なのかな___」意味ありげに頷く犀霞だったが、優大はますます犀霞が解らなくなってしまった。



やれやれ、先祖を呪うよ、とふと呟いてから犀霞は続ける。
「でも困ったものだよ?源君には『妖刀は何処にあるんだ』とか言われてね、二次元の世界なのか知らないけど私にはさっぱりだよ」その話は聞いたことが無かったのだろうか、虚が思わず吹き出した。
解らない人のために。ちなみに元ネタはDRRR!!です。
「という訳で、」


笑み。そして硬直。


「お盆にどんな事情があったか知らないけど、此処に来るのは当然のことなんじゃないのかい、虚______」
そういって食虫花の様に不敵に笑う姿は、何故か虚に似ていた。