メイドと追っかけと職人と巫女と

作者/マッカナポスト

第四十四話・・・獄落


脈絡の無い展開で申し訳ないのだが。
時系列は優大と禅との対峙、虚と源とのデートに巻き戻される。

田丸拓夢には、恐らく優大より付き合いが長いのではないかと思しき友人が只一人、存在する。
現在も優大達の工房に屡来てくれる常連客の一人であり__結局何も買わずに帰っていくのだが__つまり、今現在も変わらぬ友情を保ち続けているということになる。
元々友人の多かった拓夢だったが、小、中、高と青春の時を共にしてきた彼とは、友人というより兄弟のように接してきた。

女顔の拓夢に引けを取らぬほどの端正な童顔の持ち主であり、虚と拓夢を掛け合わせたような、何処と無い妖艶な雰囲気を醸し出す人間である。
その顔と相反するかのように無邪気で腹黒な一面は、長年苦楽を共にした拓夢の影響であると言えよう。
今は歌手としての道を歩んでいるが、本人によると拓夢の影響により、つい最近バイト感覚でメイドを始めたらしいが、思いのほか人気らしい。

しかし、彼の兄こそが優大の大学時代の親友を殴った犯人であり、優大を退学にまで追い込ませた張本人である為、為るべく優大が居ない時間に来るように心がけているらしい。

つまり、拓夢との関係を大袈裟に言えば『禁断の友情』__となるのである。







そんな彼の名は____







「拓夢!!」拓夢以外誰も居ない工房内に、アルトボイスが響き渡る。

そんな拓夢当本人は、現在『狩りに行く』(モン○ン内で)という口実をつけて二段ロックのかかった部屋のベッドで熟睡している。
優大が居ない事でやけにでもなったのだろう。
拓夢は布団の中で薄笑いを浮かべながら、その友人のその後の動きを予測していた。

___箪笥の中とか覗き始めたりして。






しかし。

拓夢の予想は悪い意味で裏切られた。






彼はさも当たり前のように二段ロックを開錠し、ずかずかと部屋の中に入り込んできたのであった。
そして又もさも当たり前のように拓夢の布団をぺらり、と捲る。






「せどいつ見っけた」
ちなみに『せどいつ』とは性同一性障害の略だそうだ。中学の頃勝手に彼が拓夢に付けた渾名だ。

「……お前もせどいつだろうが、このキス魔」最初に口にした言葉は、優大たちには絶対に口にしないぶっきらぼうな言葉。

つまり、本音である。
優大の事を一番好きなのは解っているのに、何故か一番本音を流暢に言えてしまうのは、彼____



中条真織であった。



「キス魔ってお前……俺キスなんて男にした事無いぞ」
「忘れたのか!?成人式の日だよ、俺の家でパーティー開いたら散々酒を飲み散らかした挙句に俺にべたべた擦り寄ってきやがって最終的にはキスどころじゃない、服まで脱がされたんだから!!」
「ごめん、全っ然覚えてない」
「……!!単細胞なの?お前って実は人間じゃないん____」
「はは、単細胞なんて万物の祖先じゃないか、嬉しい限り!」
「うううう……っ!!!」何も言えなくなってしまった。完全に劣勢どころか敗戦だった。

「つか俺今日話する為に拓夢ん所来た訳じゃないんだよな」
「じゃあ何?」




「俺、今日ライブなんだ、あと四時間くらいで始まるんだよ」
「はぁ!?」もう驚くしかなかった。余りにも唐突過ぎて話の流れにすら付いて来れない。
「だからさ、お前に飛び入りゲストとして参加してもらいたいんだよ、メイド服で」





「死ね」





「いやさ、一文字たりとも返答になってないって」
「断る」
「何でだよ……」
「嫌って言ったら嫌なの!!」まるで女子のように頑なに拒む拓夢。
どうしても連れて行きたかった真織は、絶対に断られるとは解っているが、強行作戦に出た。
「じゃあ、やってくれたら五万円あげ『行く』」


……馬鹿な奴だった。


とりあえず、そんな所で。
拓夢の半年振りのメイド姿の『匂い』を真っ先に嗅ぎつけたのは、
例のアレだった。

拓夢のメイド姿。
それこそ戦慄の始まりであり、
『伝説のメイド』と名高い拓夢本人にとっての、
一種の伝説なのだろう。