メイドと追っかけと職人と巫女と
作者/マッカナポスト

第四十一話・・・惰性【番外編】
悪の組織の放つ言葉が、必ずしも正しくなくて、只の戯言であるとは限らない。
それどころか、相手との意見の食い違いによって自分の行いを棚に上げ相手の事を『悪』と呼ぶ権限など私たちには無い。
第三者から見れば相手が『正義』であり、自分こそが『悪』であると言う場合もある___例として、自分が『悪』と呼ぶ人間が味方を作り組織を持っているように。
だから与党と野党が存在し、源氏と平氏が存在する。
しかし、正解など存在しない。
存在してはならない。
なぜなら、一応『答え』と認められたものが二つ(又はそれ以上)存在するから。
一部から見れば、その二つの敵同士が同じ事を言っている様にも見えるかもしれない。
大袈裟に言えば同属嫌悪、と言ったところか。
だから、必ずしも与党が正解ではない___寧ろ最近は野党の発言力の高さによって与党の早期解散が相次ぎ、それを再び繰り返すように。
問題は支持する人間の多さ、又は本人の誘致的能力の高さなのではないだろうか。
___そんな事を、更衣室の窓越しに展開されるフラグ立ちまくりのヒーローショーを横目に心の中で呟く拓夢。
こんな無限ループの考えこそが只の戯言なのではないかと思うが。
それより驚いたのが、そのヒーローショーの悪の敵役が優大の部活の先輩だった事(ちなみに優大はバスケ部所属)なのだが。
ようやく慣れないメイド服に着替え終わった時、ふと隣から声がかかる。
「田丸、お前メイド服着るために生まれてきたのか……?」半ば行く末を心配しているような哀れみの声を発したのは、
拓夢の所属する剣道部の先輩、
城ノ内源であった。
「心配しなくても大丈夫ですよ……。つかそんなに似合ってるんですか、俺?」本気で心配する拓夢に対し、源は
「俺に聞くな馬鹿、俺のキャラクター性が崩壊しても構わぬと言うのか」と、苦笑。
「もうその時点でキャラが崩壊していると言うか……」拓夢はただただ苦悶。
「別に構わないよ、僕はもう已めたんだからさ、あの頃の僕を」ちなみに拓夢と源の初対面は5月である為、小学校からの源と虚の歪な関係は当然の如く知らない。
それでも、当時スーパースターであった虚や、深窓の令嬢ならぬ深窓の美男と謳われる源の存在は小学校の頃から知っていた。
完璧無欠で有名な虚の転校(当時はその話で中学どころか小学校までもが持ちきりであった)も当然知っていたのであったが。
「僕も廃れたものだよ、まったく」そう言って快い笑みを浮かべた源は、自分の頭をぱちん、と叩いた。それはまるで、自分の過去が素晴らしいかのように。
「城ノ内先輩こそ、メイド服似合うんじゃないですか?」
「生憎ながら僕は王子キャラとして通っているものでね」
「良いですね、何だか」うっとりしたように拓夢が笑うと、源はほんの一瞬、眉を顰めた。
「男でメイド服着るなんて恥ずかしいですし」
「そんな事言うから男女問わずメイド喫茶の店員の希望者が減るんだろうが」源は再び苦笑した。
「?」拓夢の頭に疑問符が浮かんでいるのを悟ると、源は淡々と続ける。
「たとえば自分の友達が悪い先輩とつるんでいて、自分も仕方なくそのグループに入ってしまったとする。最初はそのグループが『悪』だと思っている先入観によって拒みがちになる筈だ。でも自分の仲間が笑っているのを見ると、自分まで楽しくなって、どんなに悪い事でも一線を越えて当たり前になってくる。で、最終的にはその悪いグループが自分にとっての当たり前になるわけで、ちっとも自分が『悪い』とは思わない___寧ろそれが自分にとっての『正義』になるだろ?」
説明が一区切りついた所で、源は一息つき、再び続ける。
「つ、ま、り、お前がメイド服に少しでも慣れるには良い意味でも悪い意味でも一旦先入観を無くしていく事じゃないかな、仮令その答えが幾つもあって、その答えが劣勢だとしてもね」
___まぁ、そういう誘い文句で詐欺やらに引っかかる人が多いけど、お前なら常識的な善悪の分別くらい出来るだろうし、たかが文化祭だしな。
そう言葉を締めくくった源は、長くなってごめんな、と謝った後に音も無く更衣室を出て行った。
無音の空間の中、拓夢はふと思う。
城ノ内先輩は、自分と似ている気がする。
心の何処かに深い闇を持っている。
まぁ、先程の戯言のようにそれが闇だかもいまいち良く分からないのだが。
全く、思春期の人間とは面倒なものである。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク