コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- こちら藤沢家四兄妹
- 日時: 2014/10/27 23:29
- 名前: 和泉 (ID: l5ljCTqN)
初投稿です。
よろしくお願いします。
☆special thanks☆
ちゅちゅんがちゅんさま
冬の雫さま
紫桜さま
猫又様
はるたさま
八田 きいちさま
夕衣さま
波架さま
また、読んでくださっている皆様。
☆目次☆
日常編
>>1 >>3 >>5 >>7 >>10 >>11 >>14 >>18 >>19
>>22 >>23
夏祭り編
>>26 >>27 >>28 >>31 >>32 >>33 >>34 >>37
>>45 >>47
長男過去編
>>55 >>58 >>61 >>63 >>65 >>68 >>71 >>73
>>77 >>78 >>79 >>84
双子お使い編
>>86 >>89 >>90 >>92 >>93 >>96
次女誘拐編
>>100 >>102 >>103 >>104 >>105 >>107 >>108 >>109
>>111
長女デート編
>>112 >>114 >>117 >>118 >>119 >>120
長男長女の文化祭編
>>122 >>123 >>124 >>129 >>131 >>132 >>133 >>134
>>135 >>136 >>137 >>140 >>141 >>146 >>147 >>148
>>149 >>150 >>154
佐々木杏奈の独白
>>157 >>158 >>159 >>163
同級生と藤沢家編
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- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.146 )
- 日時: 2013/12/22 22:11
- 名前: 和泉 (ID: /N0hBVp7)
♯66 「おいていかないで」
リカの文化祭から一週間と少し。
今日は父さんが病室にいけないため、俺、ナツが母さんのもとへと訪れた。
先程までうつらうつらと舟をこいでいた母さんは、俺の気配でようやく意識を取り戻したようだ。
「おはよ、涼子さん」
「あら…、えっと」
「ナツだよ」
「ああ、そうだった、夏くんだ」
母さんが困ったように笑う。
「私の息子なのよね」
この間、記憶をなくした母さんにすべての事情を話した。
母さんは怒ることもパニックになることもなく、ただただ静かに俺たちの話を聞いていた。
そして聞き終わると、ぽつりとこう言った。
「残酷ね」
それは母さんを傷つけた立花紫乃に対してなのか、
母さんをこんな目に遭わせた運命に対してなのか、
それとも自分自身に対しての言葉なのか、俺にはわからなかった。
「残酷だわ」
母さんは、その日一言も口を利かなかった。
それから少しずつ時間をかけて、ようやく俺は母さんから警戒を解いてもらえるようになった。
何をするでもなく、ただ他愛ない話をする。
母さんは静かに自分の失った時間を追い求めていた。
「近いうちに、リカちゃんと双子ちゃんに会いたいな」
「まだ早いんじゃない?」
「でも、私が記憶をなくしたことは教えていないんでしょう。
長い間会えないのも不自然じゃないかしら」
「でも」
「私が記憶をなくしたことを知ったら、ショックを受けるかしら」
間違いなく。
少なくとも、リカは。
リカはひどくショックを受けるだろう。
『あなた、だあれ?』
自分の存在を消される苦しみを、知っているリカは。
それはもう理屈じゃなく反射的な感情なのだ。
「………もう少し、落ち着いてからね」
「わかったわ」
母さんは意外にもあっさりと引き下がった。
「そういえば、俺明後日文化祭なんだ」
「へえ」
行きたいなぁ、と母さんがふわりと微笑んだ。
「俺のクラスは洋菓子を売るんだ。余ったら持ってきてやるよ」
「やだ、太っちゃう」
「涼子さんはもう少し太るべき」
二人でくすくすと笑いあう。
早く、また幸せな時間に戻りたい。
心の奥で、小さな何かが燻ったような気がした。
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.147 )
- 日時: 2013/12/23 08:41
- 名前: 和泉 (ID: 6xDqgJhK)
♯67 「長女と同級生の朝」
みなさんおはようございます。
藤沢家長女の藤沢リカです。
あたしは今全力で現実逃避したい気持ちです。
「どうしたの、藤沢さん」
「何故ここにいるのかしら日下部くん」
「藤沢さんに会いたかったから?」
「殴るわよ」
今日は、ナツ兄の通う一ノ宮高校、通称イチコーの文化祭だ。
あたしは双子と父と行く予定で、朝から慌ただしく用意をしていたのに。
午前9時丁度に我が家のチャイムが鳴り、扉を開けると日下部が現れた。
「おはよう藤沢さん、イチコーにいかない?」
没頭に戻る。
「っていうか、イチコーの文化祭、身内以外が行くには招待券が必要なはずよ。
あんな人気校の招待券が手に入るはず」
「あるんだな、それが」
そう言って日下部が取り出したのは、間違いなくイチコーの文化祭の招待券。
端には小さく藤沢夏というサインも入っている。
「ナツさんの知り合いって言う名文で、ナツさんが招待券押さえてくれました!
ちなみにこれをもらう条件は、イチコーの文化祭で藤沢さんの虫除けになること。
いやー、願ったり叶ったりだね」
あのくそ兄貴。
あたしは深くため息をついた。なんでこんなタイムリーな人間呼ぶかな。
正直、あたしは今、日下部を直視できないのだ。
オレンジジュース間接キス事件があたしに残した傷は深い。
今やつと一日一緒とか全力で遠慮したい。
「ナンパは自分で何とかするから、イチコーには別々に行こう。
あたしは双子の面倒を見る義務が」
日下部の誘いを、すっぱり断ろうとしたときだった。
「ないない。義務とかない。日下部くん、リカをよろしくね」
どーんといつかみたいに勢いよく背中を押された。
何これデジャヴ。
よろめいたあたしの体を日下部が片手で受け止め、
もう片方の腕で後ろの人物が投げつけたあたしのコートとバッグをキャッチする。
小器用なやつめ。
「〜っ、父さんっ!!」
あたしは背後に立っていた父さんに噛みついた。
しかし父さんは余裕の表情でひらひらと手を振っている。
「いってらっしゃい」
「行かないってば!」
「アヤ、ヒロ、リカ姉先にイチコー行くって!!」
「待ってよちょっと!!」
『リカ姉、いってらっしゃーい!!』
「ちょっと、ほんとになんなの!?」
ドアから顔をのぞかせた双子をにらむと、双子はにこにこと手を振った。
「あったかく見守るんだよねー」
「ねっ」
「は!?」
何を言っているんだ。
わけがわからず目を白黒させていると、父さんがピースサインでとどめをさした。
「ナツ君主催の、"リカと日下部を生暖かい目で見守りつつ応援しようの会"の会員になりました!」
「アヤ、会員No.2なんだよ!」
「おれはNo.3」
「ちょっと待て」
元凶はお前か藤沢ナツ!!
あたしの隣で日下部はにこにこと笑っている。
どうやらあたしの同級生は、ナツ兄という最強の味方を手に入れたらしい。
いったい何をしたんだ。
どうやら日下部とイチコーに行くという選択肢しかあたしには残されていないらしい。
反抗するのもめんどくさい。
早々に諦めたあたしは、深いため息と共に閉まっていくドアを見つめていた。
あたしはまだ知らない。
イチコーの文化祭で、「鬼」に出会うこと。
あたしはまだ知らない。
忘れていた現実が、目の前に迫りつつあること。
知っていたら、イチコーには決して行かなかったのに。
この世界は、いつだって残酷だ。
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.148 )
- 日時: 2013/12/28 20:41
- 名前: 和泉 (ID: F5B8s22.)
♯68「同級生と長女と長男の文化祭」
「…………」
「…………ナツさん、お疲れさまです」
イチコーの校門をくぐって受付を済ませ、二人で一枚ともらったプログラムに俺と藤沢さんは苦笑した。
プログラムにのっていた、ナツさんのクラスの模擬店の紹介文がこちら。
『ナツお兄ちゃんのお菓子のおうち』
『我がクラスの救世主兼アイドル、戦う女子力ことナツくんを中心に作った手作りお菓子を販売しています。
ぜひ一度食べに来てね☆』
「これ、もはや嫌がらせ……」
「ナツ兄の目が最近死んでいたわけが判明したわね。
今朝なんか修行僧みたいな顔で家を出ていったもの。
……家に帰ってきたら指差して笑ってやる」
「藤沢さぁぁぁぁん!!!!
やめてあげて、心の傷をえぐらないで!!」
「何言ってんの、えぐるだけなんてそんな生ぬるいことしないわ。
やるならえぐってからさらにその傷口に塩塗り込むわよ」
「マジ鬼畜です藤沢さん!!」
どうやら俺と一緒に文化祭にいくよう仕組んだナツさんに、藤沢さんはそうとうおかんむりらしい。
くわばらくわばら。
怒れる女王様はプリントを見下ろして深いため息をついている。
「たぶん、浩二さんと佐々木さんあたりの仕業だろうね」
俺がいうと、藤沢さんは綺麗な顔をきゅっとしかめた。
「…………あたし、あの二人苦手」
「え?」
「なんか、怖い」
藤沢さんが誰かを嫌うような発言をするのを、初めて聞いた。驚いて聞き返す。
「なんで?」
「浩二くんは胡散臭い。
小学生の時からそうなの。ナツ兄といるとき、いつも目だけ笑ってない。
なんか企んでる気がする」
「佐々木さんは?」
「落ち着かない。
あの人見てると、なんだか頭の中がざわつく」
だから、苦手。
藤沢さんはそう吐き捨てると、もう一度プログラムに目を落とした。
「ナツお兄ちゃんのお菓子のおうちは後でもいいわよね。
お昼時まで遊ばない?」
話を変えた藤沢さんにそれ以上追求することは諦め、片手をあげて笑って見せた。
「賛成。藤沢さん、どこ行きたい?」
「三年のクラスの“イチコー伝統お化け屋敷“」
「…………ゴメンキコエナカッタナ」
「だから、お化け屋敷」
きっかり三秒、俺は停止した。
「やだよ!!やだやだ、イチコー伝統お化け屋敷って、やたら怖いって有名じゃん!!」
「怖くなくちゃ面白くないじゃない」
「俺心臓弱いから!!」
「じゃあ鍛えるわよ」
「鍛え方を激しく間違えていると思います!!」
「えーと、北校舎3Fっと」
「俺に拒否権は無しですか」
とりあえず、ごーいんぐまいうぇいな藤沢さんに付き添って、イチコー伝統のお化け屋敷へと向かうことにした。
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.149 )
- 日時: 2013/12/28 22:12
- 名前: 和泉 (ID: e.d4MXfK)
♯69 「同級生と長女と長男の文化祭 2」
そんなこんなで、inお化け屋敷。
「なんか出る!!なんか出てくるよ藤沢さん!!」
「お化け屋敷なんだから、なんかでてこなきゃおかしいでしょう」
真っ暗闇のなか、平然と懐中電灯を手にした藤沢さんが突き進んでいく。
その後ろをビクビクしながらついていく俺。情けない。
ふふふふふっという笑い声があちこちから聴こえてきた。
「藤沢さん、なんか笑ってる!!何かが笑ってるよ!!」
「へー。幽霊がM1でも見てるんじゃない」
「幽霊がM1見てたらさすがの俺も突っ込むよ」
前をいくグループの叫び声を華麗にスルーして、バカな会話を繰り広げる俺たち。
そんな俺たちの足元から、ずばーんと髪を流した血だらけの男が顔を出した。
「うわぁぁぁぁあっっ!!!!!」
叫ぶ俺に。
「邪魔よ。足元から出てくるアイデアはすばらしいけど、客の進行方向妨げてんじゃないわよ」
全く動じない藤沢さん。
それどころがお化けにダメだし。
お化けがすごすごと引き下がったぞおい。
その後も、
「うわぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「血糊が足りてないわよ。つけなおしてきなさい」
「や、ちょ、うぉぉいっ!!!!!」
「こんにゃくの位置、低すぎ。
皮膚に当たらないからこんにゃくの意味なし」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあっっ!!」
「あなたは演技力が足りてない。
ゾンビじゃなくて横綱に見える。はい、次。」
なんでだろう。
なんでこんなに藤沢さんは生き生きしてるんだろう。
お化け役の生徒もなんで藤沢さんの言うことを真面目に聞いて、
こんにゃくの位置を高くしたり血糊つけ直したりしてるんだろう。
そこで俺はようやく理解した。
藤沢さん、お化け屋敷大好きなんだな。
お化け屋敷に入ること10分。
出てきた藤沢さんは清々しく笑っていて、俺はげんなりと壁に手をついていた。
「次!どこ行く?」
笑顔の藤沢さんがこちらを振り向く。
笑顔の原因は明らかにお化け屋敷だけれども、まあいいかと思うことにした。
「安全で心穏やかにいられる場所がいいかも」
「じゃあ、あえて"ヲタクの聖地、アニメ漫画研究部"にでも行ってみる?」
「それいろんな意味で心が折れそうだからやめて」
俺はくすくす笑う藤沢さんの横からプログラムをのぞきこんだ。
その時だ。
「—————————リカ?」
か細い女の人の声が聞こえた。
その声は、確かに藤沢さんの名前を呼んだ。
ばっと振り向く。けれど、こちらを見ている人なんて誰もいない。
声の主はもう雑踏に紛れてしまったみたいだ。
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
ふわりと笑って、俺はこの場から離れるために藤沢さんの手を引いて歩き出した。
なんだかひどく、胸騒ぎがした。
「リカは今、14なのよね?」
「落ち着きましょう」
「あの子、リカじゃないかしら」
「落ち着いてください」
「だって、藤沢さんって呼ばれていたわ。
あの子、リカじゃないかしら。
リカは藤沢さんという方にもらわれたんでしょう。
あの子、リカじゃないかしら。
だって孝人さんと同じ顔をしていたもの。
左の手首に、ぎざぎざの傷跡があったらリカなのよ。
手首に、手首を見せて」
「落ち着いて!!」
「あの子の手首を」
「手首確認してどうするんすか!!」
「…………」
「彼女がリカさんだったとして、あなたはどうするんすか」
「…………私が、傷つけたの」
「…………」
「手首の傷だけは、孝人さんじゃなく私がやったの。
あの子を殺そうとしたの。
私も死のうと思ったの。
でもできなかった。結局、私はあの子を忘れて救われようとした」
「…………何度聞いても、吐き気がするくらい最低な話っすね」
「…………でも、ちゃんと思い出したの。
やり直したいって、思うのはいけないことなの!?」
「…………さあね」
リカさん次第っすよ、全ては。
お化け屋敷から少し離れた階段の踊り場で、二人の狂った男女が壊れた言葉を吐いた。
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.150 )
- 日時: 2013/12/29 12:21
- 名前: 和泉 (ID: e.d4MXfK)
♯70 「長女の秘密と割れたクッキー」
その後、あたし、リカは日下部と一緒にいろいろ見てまわった。
美術部、書道部、それから結局アニメ漫画研究部にも行った。
あたしは何故か部員の一人にコスプレさせられそうになった。逃げた。もう二度といかない。
そして、お昼時。
あたしと日下部はようやく『ナツお兄ちゃんのお菓子のおうち』へと足を向けた。
4Fの、一番長い行列のある教室。
そこがナツ兄の本拠地だった。
「これは軽く拷問ですね」
「写真に納めないとっ!!」
「藤沢さぁぁぁぁぁんっ!!」
きらきらと目を輝かすあたしの横で、日下部が慌ててデジカメを取り上げる。
何するんだ、少年よ。
「リカ。お前っ……」
「どーも、ナツおにーちゃん?」
教室の前に立っていたナツ兄が、死んだ目でこちらを見る。
そしてナツ兄の現在の格好はというと、コックのコスプレだった。
襟と袖口に赤のラインが入っているのが特徴で、
明らかに料理目的でなくコスプレ目的で作られたものだとわかる。
しかしそれが文句なしで似合っているのだ。
どうやら客寄せに使われたらしい。
ぶれないイケメン、なにそれむかつく。
「浩二と佐々木が、悪のりしてアニメ漫画研究部から借りてきたんだよ。
写真撮影会するって条件付きで」
「ご愁傷さまです」
アニメ漫画研究部、恐るべし。
ははは、もうどーでもいーよと笑うナツ兄。
なんかもう悲しくなってきた。
すると。
「ナツ兄ーっ!!」
「あー、リカ姉もいるっ!!」
「せーのでいく?」
「おっけー、せぇのっ!!」
可愛らしい声と共に、教室の前の行列を横切って小さな影が腰に衝突した。
軽くよろめいたけれど、きっちりキャッチ。
「こら。人の多いところで走っちゃダメでしょ、アヤ」
「ヒロ、お前さりげなく腹に頭突きすんな腹に」
『へへへっ』
あたしたちのすぐあとから来ていたらしい、双子だった。
「ねーねー、ほめて!!
アヤ、すとらっくあうとでけーひんもらったんだよ!」
「景品?」
「そう、あめちゃん!なんかね、さんかしょーだって!!」
アヤ、参加賞はストラックアウトに参加した人全員もらえるんだよ。
「あとね、くれーぷ食べた!」
「そうか。確か隣のクラスがクレープの屋台やってたな。
美味かったか?」
「美味しかったよ!!……でも……」
アヤとヒロが少し口ごもる。
どうしたんだ、と首をかしげると、ふわりと後ろからお父さんが現れた。
「ナツ君のせいだよ」
「は?」
お父さんが困ったように笑っている。
それを見て、あたしはようやく納得した。
「ナツ君が美味しいご飯ばっかり作るから、うちの子達舌が肥えちゃってね。
これもおいしいけどナツ兄のお菓子のほうがおいしい、食べたいってごねるから、早々に連れてきちゃった」
なにか食べさせてあげてよ。
そう言って笑うお父さん。
困ったような嬉しいような顔をしたナツ兄が、口を開く。
「この店には俺の作ったお菓子があるけど……。
今のところ30分待ちなんだ。
待てる?」
こくりとうなずく双子。
いい子だねと頭を撫でてあげると、私の手に頭をすりよせてきた。
列の最後尾にアヤの手を引いて並ぶ。
ヒロは日下部にぶん投げて、さあ30分待つぞと気合いを入れ直したとき。
どんっと教室から出てきた人があたしの肩にぶつかった。
とさり、という小さな音とともにその人が持っていたクッキーが床に落ちる。
「大丈夫ですか?」
落としたクッキーをさっと拾い上げて、渡してあげようと顔をあげると。
「…………っ」
あたしにぶつかった、20代後半くらいの綺麗な男の人が強く息を飲んだ。
その隣の長い黒髪の女の人が、あたしのクッキーをもつ左手を凝視する。
「…………どうかしましたか?」
少し割れてしまったクッキー。
早く受け取ってほしくて軽く揺らしてみせると。
「え」
女性がクッキーでなく、あたしの手首をがっと掴んだ。
「ちょっと」
「なにしてるんすか、アンリさんっ!!」
——————————アンリさん?
頭の奥で、何かがうずく。
ばくばくと心臓が動く。
「藤沢さん!?
何してるんですか、離してください」
日下部の声が遠い。
あの日も、そうだった。
『生きてる証拠をあげる』
こうやって手首を掴まれた。
逃げようとしたのに。
あたしは、逃げようとしたのに。
鬼は、ほんとの鬼は、
「手首、私が傷をつけたの……」
やめて。
「ぎざぎざの、傷」
いたい。
手首も頭も心臓も痛い。
怖い。
あたしがぎゅっと目をつむったときだった。
「やめて、お母さんっ!!」
聞きなれた声が聞こえた。鈴を鳴らすような、綺麗なとおる声。
声の主を確認した瞬間、全てが繋がったような気がした。
何で、気づけなかったの。
『また会えるよ』
彼岸花の花言葉をあたしに教えてくれた人は、こんなに近くにいたのに。
胸騒ぎも落ち着かない理由も、こんなに簡単なことだったのに。
彼女がいやいやをするように首を振る。
やめて、壊さないでと狂ったように泣き叫ぶ。
それを無視して、あたしの前にたつ女性はうっそりと微笑んだ。
「どうして泣くの?
見つけたわよ、杏奈。
あなたの大事な妹を」
その瞬間、彼女は。
「……………佐々木っ!?」
ナツ兄の同級生の佐々木杏奈さんはその場に崩れ落ちた。
彼岸花の花言葉は『再会を誓う』。
この言葉を教えてくれたのは、あたしの実のお姉ちゃんだった。
どうして思い出せなかったの。
佐々木杏奈と藤沢梨花は、正真正銘、血の繋がった姉妹だったのに。
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