コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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こちら藤沢家四兄妹
日時: 2014/10/27 23:29
名前: 和泉 (ID: l5ljCTqN)

初投稿です。
よろしくお願いします。


☆special thanks☆

ちゅちゅんがちゅんさま

冬の雫さま

紫桜さま

猫又様

はるたさま

八田 きいちさま

夕衣さま

波架さま

また、読んでくださっている皆様。


☆目次☆

日常編 

>>1 >>3 >>5 >>7 >>10 >>11 >>14 >>18 >>19
>>22 >>23

夏祭り編

>>26 >>27 >>28 >>31 >>32 >>33 >>34 >>37
>>45 >>47

長男過去編

>>55 >>58 >>61 >>63 >>65 >>68 >>71 >>73
>>77 >>78 >>79 >>84

双子お使い編

>>86 >>89 >>90 >>92 >>93 >>96

次女誘拐編

>>100 >>102 >>103 >>104 >>105 >>107 >>108 >>109
>>111

長女デート編

>>112 >>114 >>117 >>118 >>119 >>120

長男長女の文化祭編

>>122 >>123 >>124 >>129 >>131 >>132 >>133 >>134
>>135 >>136 >>137 >>140 >>141 >>146 >>147 >>148
>>149 >>150 >>154

佐々木杏奈の独白

>>157 >>158 >>159 >>163

同級生と藤沢家編

>>164 >>165

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Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.130 )
日時: 2013/11/03 08:30
名前: 和泉 (ID: MTFzUrNw)  


目次作成中です。
とりあえずナツ君編までは作りました。

これからもちまちま追加していきます。

Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.131 )
日時: 2013/11/03 16:56
名前: 和泉 (ID: m.emTaEX)  


♯57 「長男と長女の文化祭の朝」

記憶をなくしてしまったみたいなんだと、父さんは泣いた。

気弱な人だった。
それでも、一家の大黒柱としてしっかり立っていてくれた。
いつも優しく笑っている父さんが泣くところを、俺はこの10年一緒に過ごしてきて初めて見た。


目が覚めた母さんは高2以降の記憶を無くしていたらしい。

原因ははっきりしない。
倒れたときに強く頭をぶつけたせいかもしれないし、何か頭に悪性の腫瘍ができてしまった可能性もあるらしく、すぐに検査された。
しかし腫瘍は見つからず、脳内に異常は見つからなかったそうだ。

そうなると一番可能性が高いのは、ストレス。

『本当の母親でもないくせに!!』

母さんが倒れたあの日、立花紫乃が口にしたあの言葉。

母さんは平然とそれに言い返していたけれど、父さんは見逃さなかった。
母さんの目が、一瞬ひどく揺らいだことを。


どれだけ愛情を持って接しても、自分が子供たちの本当の母親になれることはない。
しかも自分は病弱で、子供たちに十分に接してあげることすらできない。

もっと元気だった頃に戻れたら、誘拐なんてさせない。
子供たちをきちんと守ることができたのに、と。

母さんは自分を責めた。

そしてそんな意識が、倒れた際に母さんの時間を巻き戻したんだろう、と父さんは言った。
一番母さんが元気で、そして楽しかっただろう高校二年生に。

親友だった俺の両親が生きていて、時おり体調を崩すことはあっても体が自由に動いて。
守りたいものは自分の手で選んで守ることができた、高校時代に。

でも時間を巻き戻すなんて言ったって、言ってみれば母さんはただ記憶を無くしただけ。

父さんと結婚した時の幸せな思い出も、父さんのプロポーズも覚えてない。
父さんは母さんにとって恋人ではなく、ただの後輩に戻ってしまった。

俺たちにいたっては、存在すらしないことにされてしまったのだ。

母さんの優しさが、今はただただ残酷に思えた。


母さんが記憶をなくした、なんてリカ達に言ったら傷つくのが目に見えている。
かといって自分一人で抱えきれるものでもなかった父さんは、俺に相談した。

そして二人で、しばらくは面会謝絶で通そうと決めた。
一時的なものかもしれない、まだ元に戻る可能性もゼロじゃない。

それまで、母さんの面倒は俺と父さんの二人で見よう、と。


リカが不満そうに飲み終えたカフェオレをテーブルに置いた。
双子が食べ終えたのを見計らい、食器を片付けるべく台所にたつ。

手伝おうと隣に立つと、リカは小さな声で俺にこう言った。

「何かあったんでしょう」

「…………」

「面会謝絶なんて言い訳で、あたし達が母さんに会わない方がいいと思うような、何かが起きたんでしょう」

リカには、どうやら隠し事はできないらしい。
黙って食器を拭く手を速めると、リカはこちらを見ずに淡々と続けた。

「父さんとナツ兄がそうした方がいいと思うなら、それに従うわ。
もう何も聞かない。
双子もしばらくはあたしが面倒見るから、母さんにかかりきってくれて構わない」

でもさ、リカはもっと小さな声で言った。

「またちゃんと話してよ。
家族なんでしょ。
どんなことでも受け止めるから」

うん。

俺は黙ってうなずいた。

早く母さんの記憶が戻れば良い。
過ぎた優しさに苦しめられるのは、あまりに辛いから。

「今日、見に来なくて良いなんて嘘よ」

リカがふいにそう言った。

「母さんいないんだし、あたしの中学校最後の文化祭なんだし、ちゃんと見ててよね。
寝たりしたら許さないから」

「寝たりしねぇよ。ちゃんと見てる」

「どうかしら」

「任せろ、ビデオの用意もバッチリだ!」

「録画は遠慮しとく。
黒歴史だって言ってんでしょ。」

「カメラもちゃんと持ってくからな」

「人の話聞いてる!?
記録に残すなバカ兄貴!!」

ぽんぽん言い合う俺たちを、まだ朝食を食べていた父さんが目を細めてみていた。

しかし。

「あ、言い忘れてた」

家を出る直前になって、リカが藤沢家に爆弾を落とすことになろうとは誰も予想だにしなかった。

「赤ずきんのパロディ、一応恋愛ものだから。
狼と赤ずきんのラブコメディ。
ラブコメ苦手なら要注意よ」

…………ちょっとまて。

赤ずきんをやるのはリカで、狼をやるのは日下部。

つまりはリカと日下部のラブコメディ、だと?

日下部がリカに片想いしてるのは知っている。
悪いやつじゃないと思うし、なんとなく応援もしているけれど、それとこれとは話が別だ!!

誰が好き好んで大事な妹のラブシーンを見たいと言うのか。

「兄ちゃんは、断固認めんっっっ!!!!!」

「まあまあナツ君」

「認めないもなんもないでしょ。行ってきます」

『いってらっしゃーい!!』

「待てリカぁぁぁぁぁあ!!」

「落ち着こう、ねっ、ナツ君」


何はともあれ。
次女の文化祭です。

Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.132 )
日時: 2013/11/04 11:58
名前: 和泉 (ID: x6z9HA8r)  


♯58 「長男と客席の高校生」

「リカ姉が主役?」

「おう、そうだぞー」

「ビデオの用意はできてる、ナツ君」

「ばっちりっす隊長」

隣で父さんがそわそわしている。
なんてったって、娘の晴れ舞台だ。
めんどくさがりのリカが舞台に立つなんて、しかも主役だなんて、
これから先一生に一度あるかないかの大イベントだ。俺も少なからず浮き足立っている。

ただ、ひとつ突っ込みたい。

「へえ、リカちゃん赤ずきんなんだ。
まあ稀に見る美少女だしなー」

「ですよね。
今まで芸能事務所とか勧誘されたことなかったんですか?お父さん」

「あるよ、街を歩く度声かけられてるよ。
でもリカ、寄らば斬るみたいなオーラ出してるからなぁ。
一睨みでスカウトマンが逃げちゃうの」

「あ、それわかるっす。
リカちゃん美人だけど、目付きがどうにもね」

「待てお前ら」

俺は父さんの隣でうんうんと頷いている、佐々木と浩二を睨み付けた。
あまりに自然に馴染みすぎていて突っ込みが遅れたが、おかしいだろ。

なんで俺の妹の文化祭を、二人が見に来ているんだ!!
「百歩譲ってこの中学の卒業生の浩二はよしとしよう、なんで佐々木がいる」

「暇だったからですね」

「そーそー、佐々木さんから暇だってメールが来たから、俺がナツ誘って遊びにいこうとしたんでしょ。
そしたらリカちゃんの舞台だなんて面白いこというから、見なきゃ損かなって」

今朝、確かに俺の元に浩二から遊びにいかないかとメールが来た。
リカの文化祭の舞台を見に行くから、と断ったのは俺だ。
まさかこう来るとは思わなかった。

何故用事があるとかうまいこと言えなかったんだ、俺……!!

けど、そこではたと疑問を持つ。

「お前らさ、最近仲いいよな。
気づいたら二人でいるし」

「まあな」

「付き合ってんの、佐々木と浩二」

時間が止まった。

父さんは何も聞いてないふりをしようとしているが、耳をそばだてているのがまるわかりだし、
双子に至っては目をキラキラさせて「カレカノ?カレカノ?」とひそひそ話。
カレカノなんて単語教えたのだれだ。

しかし、フリーズすること5秒。

二人は同時に、

『はっ、ないわー』

鼻で笑い飛ばした。

「こんな腹黒女、死んでもお断り。
俺の趣味は優しくて可愛くて裏表ない子だから」

「そんなの私の台詞です。こんな腹黒詐欺師は全力でご退場願いたいですね。
ただ利害関係が一致したので仕方なく一緒にいるだけです」

二人は思いっきり顔をしかめて言い放つ。
しかし違和感をぬぐいきれない俺は首をかしげた。

「でも二人、息ぴったりだし。
なんだかんだ言って、一緒にいるとき楽しそうだし。
なかなかにいいカップルかと思って応援してたんだけどな」

二人がまた同時に固まった。
俺が何か変なことを言ったかと首をかしげると、隣で父さんがこらえきれずに吹き出した。

「どしたの父さん」

「いや?若いっていいなぁって思って」

くすくす笑う父さんの隣で、天然怖い天然怖いと佐々木と浩二は呟き、
双子はカレカノカレカノ?とにやにやしていた。

何このカオスな空間。

俺が呆れ顔で脱力したところで、リカのクラスの劇が始まるとアナウンスが流れた。

この空間はもう放置に限る。
俺はリカの舞台をビデオに収めると言う使命があるのだ。

ビデオを構えた俺の前で、幕が静かに上がった。

Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.133 )
日時: 2013/11/04 14:08
名前: 和泉 (ID: fOW/FHMu)  


♯59「赤ずきんとラブコメディ(笑)」


さて、そんなこんなで舞台が始まった。

「むかーし、むかし。
あるところに、赤ずきんという少女がいました。」

舞台袖に出たナレーターがそう言うと、ぱっと舞台が明るくなる。
舞台の真ん中に、赤ずきんの母親役だと思われる女生徒と、リカが立っているのが見えた。

「赤ずきん、悪いけどおばあちゃんのところにこのパンを届けてくれないかい?」

「クロネコヤマトに宅配頼んだ方が早いと思うんだけど」

「このあたりは狼がでるらしいから気を付けてね」

「狼が出る場所にわざわざ娘行かしてどうするの。
遠回しに死ねって言ってますか」

「それじゃあいってらっしゃい」

「……あたしの話聞く気ないよね」

「こうして赤ずきんは話の進行上仕方なく、おばあさんの家に行くことになったのでした」

…………なんてシュールな赤ずきんなんだ。
こんな脚本書いたの誰だ、いったい。

俺はぽかんと口をあけ、浩二と佐々木はすでに肩を震わせている。

確かに、この赤ずきんにリカははまり役だ。

俺が呆けている間にも、舞台は進んでいく。

「道中で綺麗な花畑がありましたが、この赤ずきん見向きもしません。
綺麗な小川もありましたが完全にスルーしました。
おかげで赤ずきんに声をかけるつもりだった狼は後をつけ回すだけになり、
完全に声をかける機会を失っております!!」

赤ずきん冷めすぎだろ。
そしてナレーター、なんでそんな実況中継みたいなナレーションなんだ。

「しかししびれを切らした狼が、とうとう赤ずきんの前に姿を現しました」

そこでさっきからようやく狼が、舞台の真ん中に登場した。

やたらとリアルな狼マスクを被った男子生徒が。

まさか、あれ。

「日下部、お前、哀れな……」

ついつい心の声が漏れた。
お前一応イケメンなのに。
ウケ狙い係にされてるじゃねーか。

「あなたがずっと好きでした!
俺と付き合ってください!!」

赤ずきんを食べるつもりは毛頭ない狼。
狼は赤ずきんにずっと片想いをしていたけれど、
なかなか告白する機会も友達になるきっかけもなかったのだとナレーターが切々と語る。

これ、まんまリカと日下部の関係なんじゃ……。

そして、赤ずきんの返答は。

「…………はっ」

鼻で笑って終了だった。

日下部がなんだかあまりに哀れだ。
しゃがみこんだ背中がなんとも言えない哀愁を漂わせている。
明らかに演技だけではない落ち込みようだ。

客席から狼頑張れー!!と声援がとぶ。
俺でも声援飛ばしたくなるよ、これ……。



そんなあまりにむちゃくちゃな始まり方の劇だったため、
きちんとストーリーが成立するのか不安だったけれど、その後舞台はきちんと軌道修正を始めた。

森の狩人と呼ばれる強盗団が、おばあさんを撃ち殺して美しい赤ずきんを誘拐し、人売りに売ろうと企む。それをたまたま知ってしまった狼は、赤ずきんを救うため急いでおばあさんの家に向かう。
そこで間一髪、おばあさんが撃たれる直前に間に合い、体当たりで銃を奪うが自分が撃たれてしまう。

手に汗握る展開。

俺も途中から完全に話にのめりこんでいた。

「赤ずきん、逃げろ!!
奴等の目的は君だ!!」

日下部の迫真の演技。
しかしなんだか笑えてしまうのは狼マスクのせいだそうに違いない。

さて、一方で赤ずきんは一切動じない。
動じず、ただじいっと強盗団を見つめている。
そして一言。

「なめんじゃないわよ」

赤ずきん、ことリカが思いっきり襲いかかってきた強盗犯Aを投げ飛ばした。

………えぇぇぇぇぇぇえ!?

その後も赤ずきんは回し蹴りからのアッパー、飛び蹴り膝蹴りそして上手投げを繰り出し、
強盗団を鮮やかにのしてしまった。

まるで何かのアクションスターのようだ。
客席から惜しみ無い拍手が贈られる。
しかし俺たちの目は死んでいた。

「なあ、ナツ」

「なんだ、浩二」

「昔俺さ、武道習ってたじゃん。
自慢気に技をいくつかナツに伝授した覚えがあるんだけど」

「俺もさ、浩二に教えてもらった技をリカに自慢がてら伝授した覚えがあるわ」

「………一番教えてはいけない相手だったようですね」

『リカ姉かっこいい!!』

強盗団役の男子、哀れ。

さて、舞台上では赤ずきんが撃たれた狼を手当てしているシーンだった。

「ばかね、自分の身ぐらい自分で守るわよ」

「でも、俺は君を守りたかったんだ!!」

そんな狼に対して、赤ずきんは微笑む。

「ならあたしより強くなってから出直してきなさい。
そうしたら、おとなしく守られてあげる」

……この赤ずきん、イケメンすぎないか。

結局、劇はナレーターがうまいことオチをつけて、拍手喝采の中終了した。

面白かった。
そこは確かに偽らざる気持ちだけれども、
あの赤ずきんの家族としてはなんだか胸中複雑な俺たちだった。



Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.134 )
日時: 2013/11/09 17:36
名前: 和泉 (ID: Kwou2MmU)  


♯60 「同級生とオレンジジュースの間接キス」

俺はやりきった。

狼のリアルフェイスマスクを全力で投げ捨てて、俺、日下部音弥は大きく息をついた。

この劇疲れた。主に精神的に。

「日下部くん、お疲れさま」

「お疲れさま………、藤沢さん、いつあんな凄まじい格闘術身に付けたの?」

控え室の空き教室に入ってきた藤沢さんに、俺はため息混じりにそう尋ねた。
俺の好きになった女の子は、そこらにいる男よりよっぽど男前だったようだ。
蝶のように舞い、蜂のように刺していた。

何故あんなことができたのか、不思議に思って尋ねると、
藤沢さんはオレンジジュースのパックにストローを差しながら一言。

「ナツ兄が昔教えてくれたの。
ナツ兄、あんな細身だけどケンカはそこそこ強いのよ。
運動神経もいいしね」

ナツさん、あなた妹に何教えてるんですか。

っていうかナツさん、あなた運動神経よくて、イチコーでトップとれるくらい頭よくて、イケメンって。
全世界の男子を敵に回す気ですか!?

俺が頭を抱えて唸ってるのを見て、藤沢さんは首をかしげてオレンジジュースを飲んでいた。

「藤沢さん、オレンジジュース好きなの?」

ふと気になって尋ねると、藤沢さんはこくりと素直に頷く。

「おいしいから。たまにすごく飲みたくなるの。
でも一番好きなのは、ナツ兄が淹れてくれたカフェオレね。」

そう言って、藤沢さんは幸せそうに笑った。

本当にナツさんが好きなんだな。
そう思うと、胸の奥がチクリと痛んだ。
兄妹って言ったって、ナツさんと藤沢さんは血が繋がっていない。
藤沢さんがナツさんを恋愛感情で好きになる可能性はゼロじゃないんだ。

そう思うと、じくじくと胸の奥が疼いた。

やだな、俺。
ナツさんに嫉妬してる。

『藤沢さんが笑ってくれるならそれで良い。
その隣にいるのが、俺じゃなくても』

こないだのデートの時、そう思ったばかりだったのに。

ぼんやりと黙りこんだ俺。
すると、藤沢さんは何を思ったか手元のオレンジジュースに目をやって、
ああ、と俺の口元にジュースを差し出した。

………………え?

「喉乾いたんでしょ、飲む?」

待って待ってお嬢さん。

「え、でもこれ藤沢さん口つけてなかった?」

でも藤沢さんはきょとんと首をかしげている。
気づいてないの、藤沢さん!?

俺は心中焦りながら藤沢さんに尋ねる。

「いや、間接キスになるんじゃないかな…って」

そう言った瞬間。
藤沢さんの顔が一気に赤くなった。

「う……わ、ごめん、あたし……!!
なし、今の無しっ!!」

真っ赤な顔で慌てる藤沢さん。
そのとたん、ぷつんと俺の中の何かが切れた。

慌ててジュースを引っ込めようとした藤沢さんの手首をそっと掴む。
それをそのまま自分の口元に引き寄せて、ストローをくわえた。

藤沢さんが停止した。

俺はゆっくりとジュースを飲み込んで、そっとストローから口を離した。
藤沢さんは目を見開いて、俺を見ている。
俺はそんな藤沢さんににっと笑いかけると、そっと手首を引いて、藤沢さんの体を引き寄せた。

そして

「ごちそうさま」

耳元でそっとささやいた。

動かない藤沢さんの肩をとん、と叩いて、俺はまたあとでね、と教室からゆっくりでる。
きっと藤沢さんには余裕綽々に見えているに違いない。

けれど、がらりと空き教室の扉を閉めた俺は、

(バカバカバカ、何やってんだ俺ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!)

全力で走り出した。
顔が熱い。
きっとさっきの藤沢さん以上に真っ赤になってるに違いない。

何やった、俺、今何やった!!?

口の中に少し残ったオレンジジュースの味が妙に生々しくて、恥ずかしくて。
ばたばたと全力であてもなく走っていると、勢いよく誰かにぶつかった。
謝ろうとして顔をあげると。

「日下部君?」

「……………ナツ、さん」

今一番会ってはいけない人がそこにいた。


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