ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M / 作



Memory1 必然の出会い   ~02~



「ミーシャと出会って、気持ちがスッキリした。ありがとう」

ミニリュウは海を涙目で眺めながら言うと、何かをそっと取り出した。そして、夕焼け空に掲げる。
何しているんだろう、と思っていると空が朱色に染まり、夕日が海を輝かせた。海に金色の九弱が羽を広げた姿が映ったように見えた。
私がすごいなあと思っていると、風が吹いた。その風がミニリュウの掲げた何かを連れさらい、海に投げる。

「ちょ、ちょっと。あれは何?」

なぜだか許せないような変な気持ちになって、私は聞いた。ミニリュウは苦笑いをしてこっちを見る。
やっぱり涙目だ。あれは、大事な物に違いない。

「あれは、ギルドへ入るための許可証だったんだ」

「ギルド?」

私が裏返った声で訪ねるとミニリュウはうん、とうなずいた。横顔が悲しげに見える。

「ギルドはね、一人前の探検隊になるために修行をする所なんだ。私、ずっと前から探検隊になりたかったの。冒険とか、そういうの大好きだから。だから、頑張ってギルドに行って、試験を受けて、許可証をもらったんだけど……。私、弱虫だから、許可証をもらったとたん、一人じゃ怖くなって逃げ出しちゃった」

「に、逃げ出したって……」

「うん。逃げ出した後にこの海岸に来て、会ったのがミーシャ。明るくて、ちょっと不思議なミーシャをを見ていたらスッキリした。だから、許可証は捨てたの。どうせ、私みたいなポケモン、無理だから。こんな私がギルドに入門しようなんて、千年早いよね」

そう言って、ミニリュウはにっこり笑った。
どうして、あんなにニッコリしていられるんだろう。ずっと前から探検隊になりたいという夢を、持っていたのに。いまさら捨てるなんて……。

「その許可証って、どういう物なの?」

私が聞くとミニリュウはビクッとした。

「どういう物って……。小さな石に、プクリンの絵が書いてあるのが許可証だけど……」

「わかった」

私は言うと、即座に海にジャブジャブ入った。やっぱりポケモンの姿は泳ぎにくく歩きにくいけれど、ミニリュウのために。

初めて会ったポケモンだけど。ついさっき知り合ったポケモンだけど。自ら夢を捨てるなんて、私は嫌だ。




   *



「ミーシャ! 何してるの? もういいよ」

ミニリュウが私の後を追いかけて来る。
でも、私は動きにくい体を動かして必死に許可証を探し回った。人間なら、このくらいの水の深さなんて、踝くらいまでなのに、メリープになったからもう体の半分が水に浸かっている。

ゴボッ……!

急に底が深くなって、必死だった私は水に飲まれた。水が私をぎゅっぎゅっと強く包む。息が出来ない。苦しい。苦しいけれど、許可証を探すんだ。私がポケモンになって、初めて会って、まだ信用できるってわけじゃないけれど、ほうっておけない。

水の中で何か光るものが見つかった。見ると、プクリンの絵が刻まれた石だ。これだ! 許可証を見つけた!


「ミーシャ!」

水の中でも平気なミニリュウが、スイスイと体をクネクネさせて泳いできた。そして、私を水から救う。

「お願い。あきらめないで。だって、まだギルドに弟子入りをして失敗したわけじゃあないんでしょう? やる前からあきらめるなんて、絶対ダメ、ダメだから!」

「ミーシャ……。ありがとう、ありがとう」

ミニリュウは目をうるうるさせてそう言うと、石を大事そうに受け取った。やっぱり、あきらめたくはなかったんだ。探してよかった、と私は思う。

「不思議だね。初めて会ったのに、こんなにもミニリュウの事を気にするなんて。でも、あきらめてほしくなかったんだ」

私はそう言って、ポケモン世界に来てから一番最初の飛び切りの笑顔を見せた。ミニリュウもつられるように笑って、それからはっとする。

「ミーシャに会ってよかった。自分の夢を捨てないでよかったって、思えたから。私、ミーシャは人間だった時もすごく、いい人だったんだと思う。ミーシャに会ったから、夢を捨てないで済んだ。だからね、私といっしょに探検隊をやってくれないかな?」

「え……。でも……」

私は突然のミニリュウの言葉に声を詰まらせた。
ニリュウはとってもいいポケモンだ。それは私が、よく知っている。でも、私は人間だった。

「でも、私は人間だから……。どうして、ポケモンになったのか、調べなくちゃ」

「人間にやっぱり、戻りたい? どうやって調べるの?」

「うーん……」

確かにどうやって調べればいいんだろう。ミニリュウの他に、知っているポケモンはいない。もう選択肢は一つしかない。

「わかった。私、探検隊をやってみるよ」

「ほ、本当?」

ミニリュウは瞳をキラキラさせた。二つの瞳は、希望の詰まった宝石のようだ。

「ありがとう。ありがとう。じゃあ、まずはギルドの親方の所へ行こうよ」

「親方?」

私が問い返すと、ミニリュウは許可証をバーンと見せる。

「この石に書いてあるプクリンが親方だよ。すっごく、おっかないって話だけど……。だけど、もしかしたらミーシャが人間になったこととか、何か知っているかもしれない」

「本当?」

「多分ね。じゃあ行こう!」

ミニリュウはそう言うと、海を背にして歩き出した。
私もなれない足取りで歩く。足元の砂がシャリシャリと音を立てた。
人間の頃の事は何も覚えていないけど、今をしっかり生きよう、と私は強く思った。

―――これから、このミニリュウが大切な物を気づかせてくれるとも知らずに。

~Memory1終了~