ポケモン不思議のダンジョン昼*夜の探検隊 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M/作


Memory3 キセキの探検隊   ~01~



「ヘイヘイへーイ! おめえら、おいらの邪魔するんじゃねーぞ」

剣風の森の入り口付近で、ヘイガニがはさみをカチカチ鳴らしながら言った。ミニリュウがむっとして言い返す。

「邪魔はしないよっ。それに、この仕事はヘイガニのじゃなくて、私たちの仕事なんだからね」

そうしている間にも、切れるような冷たい風が過ぎていく。私は、モコモコした綿飴のような体だから風がいくら打ち付けてきても大して寒くない。メリープになって、やっと長所が見つかったような気がする。

でも、まだ技の出し方は曖昧だ。ちょっと体に力をいれると、<でんきショック>を繰り出してしまう。いっしょにいるのが水タイプのヘイガニだから、なおさら気をつけなくては。しかも、ヘイガニのこの性格……。ちょっとでも足を引っ張るようなことをしたら、本気で怒ってきそうだ。

「ヘイヘイ、落し物探しなんて、さっさと終わらして帰ろうぜ」

ヘイガニは言うと、ズカズカと進みだした。私たちも、ヘイガニの後をちょこまかとついて行く。

森はザワザワと騒がしかった。抹茶色や黄緑色、深緑色のクリスマスツリーに似た針葉樹がずーっと続いている。その針葉樹の枝にとまっている鳥ポケモンたちが、私たちをじっと見つめていて何だか居心地が悪い。

ザアアアアアア――――ッ…………。

風が木々を強く揺らし葉がつねに空を舞っている。地面の砂も風が舞い上げ、空は何色かわからないくらいだ。また、不思議のダンジョンと言われるだけあって、分かれ道が多かった。
それでもダンジョンに慣れているヘイガニは迷うことなく進む。

「あっ、これ、オレンの実じゃない?」

ミニリュウがはっとして小さな草の茂みのそばに置いてあったオレンの実を拾ってきた。もしかして、もう依頼完了?
ヘイガニがほっと息を吐く。

「簡単な仕事だったな、ヘイヘイ」

誰もが安心したその瞬間……!

「スピ―――!! それは、おいらたちの物だー!」

木々の間から大量のスピアーが、羽をブンブン鳴らしてミニリュウに技で襲ってきた。スピアーたちのトゲの先のような手から、ロケットのように尖った光が幾つも放射される。<ダブルニードル>の技だ。

「スピスピー! オレンの実を返せ!」

スピアーは怒りに任せて、ミニリュウを襲う。スピアーたちの攻撃を避けながら、ミニリュウはきゃっきゃっと叫んだ。

「ヘイヘーイ!! <バブルこうせん>をくらえっ!」

ヘイガニの<バブルこうせん>が、宙を舞っているスピアーたちに向かっていった。しかし、大量の泡の<バブルこうせん>は、あっけなくスピアーたちのトゲに弾かれてパチンッという音と共に跡形もなく消える。

「ヘイヘイ? おいらの技がきかねー!」

ヘイガニが騒ぎながら<バブルこうせん>をスピアーたちに連発したので、スピアーたちの攻撃が私まであたった。あまりの痛さに私は全身に力を入れる。

バチバチバチ―――――――ッッ!!

私は体に熱い何かがこみ上げてきて、思わずグッと体を丸めた。すると、私を中心に電気が輪のように放たれて、スピアーたちが次々に逃げていく。

「スピ―――ッ!」

電気が消えた頃には、スピアーたちは一匹もいなくなっていた。
私は、荒い息を吐きながら縮こまっていたミニリュウに駆け寄る。

「ミニリュウ、大丈夫?」

私が声をかけると、ミニリュウは軽く笑いながら立ち上がった。どこにも怪我らしきものはないらしい。よかった。

「大丈夫だよ、ミーシャ。助けてくれてありがとう。ミーシャの<でんきショック>、すごかったね」

<でんきショック>……?あれが、技を出す時のコツなんだって思った。何かを助けたいって思うと、全身に力が入って技が繰り出される。
そういえば、ヘイガニは……?

「へ、ヘイヘーイ!! ミーシャ。おめぇ、技の向きを考えろよ! スピアーだけじゃなくて、おいらにまで電気が飛んできたじゃないか」

ヘイガニは痺れる体をさすりながら、私たちのそばにいた。私は安心して息をはくと、はっとする。

「ミニリュウ! オレンの実は?」

「スピアーに持って行かれちゃった。でも、仕方が無いよ、あのオレンの実はスピアーたちの物だったみたいだもん」

「そっかあ。じゃあ、もっと森の奥にいかないとだね」

少しがっかりしながら私は森の奥を見る。あんまり奥に行くと、ナゾノクサやぺラップが言っていた森の主に会うかもしれないから出来るだけ行きたくなかったが、仕方が無い。

「ヘイヘイ、暗くなってきたぜ。早く行こう」

ヘイガニの声に誘われるようにして、私たちは歩き出した。
確かに、私とミニリュウが会ったのが夕日がきれいな海……つまり夕方だったから、夜はいつ来てもおかしくない。暗くなれば、オレンの実は見つけにくくなる。空は、燃えるような赤が薄くなり紫が濃くなってきている。急がなくては。

ビ―――ンビ―――ン……

森の奥のほうで、淡い緑色の光が外に溢れるように広がった。かすかな音も聞こえる。
その後、森全体がその光に共鳴するように薄く光りだした。雑草も、針葉樹も、地面も。すべてのものが波動を発しているかのように光っている。暗くなりかけていた森は、一瞬で明るくなった。

「森の奥で、何かが起こっているよ! ミーシャ、ヘイガニ、行こう!」

ミニリュウは言うと、足早に森の奥へと進んだ。私はミニリュウを追いかけながら空を見上げる。すでに星が瞬き始めていた。