ポケモン不思議のダンジョン昼*夜の探検隊 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M/作

Memory4 光のささやき ~03~
「ここがトレジャータウンでゲスよ」
ビッパに案内されて、私たちはトレジャータウンの入り口までやってきた。
トレジャータウンは、私の予想を超えるほどの場所だった。商売をしているポケモンたちが招き声をあげている。散歩や買い物にしに来たポケモンたちは、周囲の仲間としゃべったり、楽しく商品を見ていた。ポケモンたちの賑やかな雰囲気とは裏腹に、風や雲はゆっくりと動いている。広葉樹の木がサワサワと、トレジャータウンのBGMのように音を立てていた。
私は驚きと興奮が隠せない。ビッパとミニリュウはトレジャータウンをスタスタと進んでいくが、私はお店を見ているので2匹から遅れてしまいそうだ。
ポケモンたちは、ギルドの丘と同じく自分の絵が描いてあるテントを屋台にしていた。しかし、そのテントはギルドの物より質がよさそうだ。しかも、売れている店と売れていない店とでテントの高級さが違う。あちこちから「いらっしゃーい」などと声が聞こえてきたり、ポケモンたちが楽しそうに話している声が聞こえてきた。
「ささっ、どのお店から案内するでゲスかねー。……やっぱり、冒険前なら“カクレオンの商店・専門店”からでゲスよねー」
ビッパが2匹のカクレオンの絵の描いてあるテントの前で立ち止まった。
私とミニリュウは、商売をしている2匹のカクレオンをじっと見る。カクレオンは、トカゲのような姿をしていて体中にギザギザの模様が入っていた。その口から出る舌は、いかにも長そう。1匹のカクレオンは緑色、もう1匹のカクレオンは紫色だ。2人並ぶと、葡萄に見えなくもない。愛想良く笑いながら声をかけてくる。
「いらっしゃーい! 冒険前に、ここで食料やスカーフ、技マシンなどをいかがですかー?」
緑と紫の2匹のカクレオンが同時にニッコリ笑った。容姿は色が違うだけで後はそっくりだ。声や話し方も似ている。
そういえば、剣風の森の時にキマワリがスカーフやバンダナを持っていた。あれは、この店で買ったのかもしれない。キマワリが買う店なら、きっといい店だ。
そんな事を考えていると、緑のカクレオンの方が私とミニリュウをじーっと見つめた。
「あなたたちは……新米の探検隊ですかい?」
「あっ、はい。キセキーズと言います。」
私は新米と見抜いたことを不思議に思いながら、ペコリと頭を下げた。ミニリュウも慌てて頭を下げると緊張気味に言う。
「冒険前に買い物がしたいんですけど……」
カクレオンたちもいったん後ろを向き、小さくガッツポーズすると頭を下げた。そして、また同時に言った。
「どうぞどうぞー」
「……もう大丈夫でゲスよね。じゃあ、あっしはギルドの地下1階にいるでゲス。準備が終わったら報告にしにきてくださいー」
私たちの様子を見ると、ビッパは安心したのかギルドに戻っていった。私たちはビッパの後姿を見送ると、カクレオンに向きなおる。
「カクレオンさーん!」
幼い声がした。見ると、幼い2匹のポケモンがハアハアと息を切らして走ってくる。1匹は、丸く青い体に半円の耳を持つマリルだ。もう一匹は、同じように丸く青い体のルリリ。尻尾が体と同じ大きさで、その尻尾に体を乗せ、バネのように飛びながらこっちに向かってきている。
「グミを二つくださいー」
マリルが荒い息を吐きながらカクレオンに注文した。そして、小さな手でお金を差し出す。
カクレオンたちは、にっこり笑ってお金を受け取ると、グミを差し出した。
「まいどありー」
「ありがとうございました」
マリルとルリリは可愛らしくお辞儀をすると、グミを受け取って走り去って言った。走り去る後姿は、まるで2つの青いビー玉が転がっていっているようだ。
その様子を見ていた私たちに、カクレオンがマリルたちの背を眺めながら言う。
「あの子達は兄弟なんだよ。マリルちゃんがお兄さんで、ルリリちゃんが弟さん。お母さんが病気がちでね、いつもああやってグミを買いにくるんだよ。まだ幼いのに、偉いよねー」
「カクレオンさーん!」
帰ったと思ったマリルたちが、また息を切らして戻ってきた。グミを抱えたルリリが慌てて言う。まだ声がが幼い。
「カクレオンさん! グミの他にりんごが入っています!」
「いいんだよー。2人で仲良くお食べ」
「わあ! ありがとうございます!」
カクレオンたちの言葉に、ルリリとマリルはきゃっきゃと嬉しそうだ。そして、スキップしながら帰っていく。
……とそのとき。グミとりんごを小さな手では持てなかったのか、ポロリとルリリがりんごを落とした。真っ赤なりんごはコロコロと転がり、私の足元でとまった。
私はりんごを拾い、ルリリに返す。よく熟したりんごだった。
――その時だった。
私は大きなめまいを感じた。まるで頭の中で波が押し寄せて来ているかのようだ。頭がぐらぐら揺れている。空を見ると、雲が動きを止めているように見えた。風の音もしない。何も聞こえない、感じない。見えている空が不意に暗くなった……いや、私の視界が徐々に暗くなり、頭の中で光が弾けた。
『や、やめてっ! 助けて!』

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