ポケモン不思議のダンジョン昼*夜の探検隊 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M/作

Memory3 キセキの探検隊 ~03~
「ヘイヘイ、おいらがキセキーズといっしょについて行くように親方様に命令されたのによ。キマワリがついて来るなんて……」
歩きながら、ヘイガニが詰まらなそうに文句を言った。キマワリは、自信満々に胸をドーンと張る。
「ヘイガニがきちんと準備をしていかないのがいけないんですわ。それより、今はもめている場合ではないみたいですわよ。ほら、ここが森の一番奥……」
しばらく針葉樹の並木道を歩いていると森の広場のような所へついた。そこだけ木がなく、丸い円状の広場だ。木がない代わりに雑草がボウボウで、中央に苔むした祠がある。祠は、元の色が隠れるほど抹茶色の苔で覆われていた。
空を見ると、木々の隙間から星がチラチラと輝いていた。星は、燃えているオパールで出来ていると思った。
「おっ、雑草だらけじゃねーか。四葉のクローバーあるかな、ヘイヘイ?」
ヘイガニがかがんで雑草をむしりだした。確かに、四葉のクローバーに似た雑草があちこちに生えている。歩くたびに、足元が雑草のためにサクッサクッと気持ちのよい音がした。
私はそんなヘイガニを見、呆れて言葉も出ない。
「あっ! 今度こそオレンの実だ!」
ミニリュウが祠のそばに転がっているオレンの実を拾い上げて、ニッコリ笑った。さきほどのようにオレンの実に別の持ち主がいて、その持ち主が襲ってくるようなことはない。どうやら依頼主の落とした、本当のオレンの実のようだ。
今度こそ、依頼完了だ。ふーっ、疲れた。
「やったね、ミーシャ! 依頼成功だよ!」
「うん。ギルドへ戻ろう」
嬉しそうにオレンの実を掲げるミニリュウを見て、私もつられて微笑んだ。よかった。森の主とやらに会うこともなく、無事にオレンの実を見つけることができて。とにかく、無事が一番! よかったよかった!
そう思って、私たちが帰ろうとしたその時――。
ビ――――――ンビ――――――ン……!!!!
先ほどと同じように、森全体が淡く緑色に輝きだした。祠まで白く燃えているかのように光っている。きっと上空から見れば、山火事に見えるだろう。祠は光の渦の中心らしく、強く何かを訴えるように光っている。どうやら、光の原点はこの広場だったらしい。
私たちは、眩しい光の中で目をギュッと瞑っているしかなかった。しかし、目を開けていなくても瞼に光の衝撃がくる。
「もうっ、だあれ? 私の邪魔をしたのは!」
どこからともなく声が聞こえてきた。透き通ったよく響く声だ。少し機嫌が悪いらしい。
声と共に、光っている針葉樹がザワザワと揺れた。鳥ポケモンたちも集まってくる。もう夜に近いので、ホーホーやヨルノズクの夜行性のポケモンたちが鳴き声をあげた。
澄んだ声は、怒鳴り声に変わる。
「誰だか知らないけど、私の邪魔をした罪は大きいわよ! それっ、<マジカルリーフ>!」
広場の中心近くにいる私たちに、周囲から尖ったカッターのような葉が襲ってきた。
「ちょっと待ってよ! 私たち、何も邪魔なんかしていないよ!」
私が必死に叫んでも、七色の尖った葉は容赦なく飛んでくる。本当に剣のように尖った葉だ。これでは剣風の森ではなくて、剣葉の森になってしまう。おまけに太くて大きい、あのいばらまで地面から突き出てきた。
「キャー! このいばらはさっきのですわー」
キマワリが地面から突き出てくるいばらを見て叫んだ。気に入らないことがあるとすぐに怒るヘイガニが、はさみを構える。
「ヘイヘイヘイへーイ! おまえさんが誰だか知ったこっちゃねえけど、いきなり攻撃はないぜ。そっちがその気ならおいらだって! <バブルこうせん>!」
「待って!」
短気なヘイガニが技を繰り出そうとした時、ミニリュウが大声で止めた。ヘイガニは、はっと構えていたはさみをおろす。ミニリュウは勇気を振り絞って聞く。
「教えてよ。私たちが何の邪魔をしたの?」
「したじゃないの! 私の“ときわたり”の邪魔を!」
「ときわたり……? でも、違うよ。私たちは邪魔をしに来たんじゃなくて、オレンの実を捜しに来たの。もし、邪魔をしちゃったんだったら謝るから、お願い。攻撃をやめて」
ミニリュウが言った後、攻撃が止まった。そして、沈黙が続く。聞こえるのは、風の音と木がザワザワと揺れる音、鳥ポケモンの声だけ。月は私たちを静かに青白く照らしている。
「わかったわ」
ようやく沈黙が破られた。どうやら、相手は納得してくれたみたい。すると、祠の前に光が突如現れた。最初米粒ほどだった光は徐々に大きくなり、ポケモンの形を作っていく。ゆっくりと光はポケモンの形を作っていき光が粉のようになって散っていくと、可愛らしい妖精のようなポケモンがいた。
薄い緑色の体に、青い透き通った瞳と羽。その羽はゆっくりと上下に動き、そのポケモンを宙に浮かばせている。
「私はセレビィ。まっ、この森の主って言われているのは私の事みたいね」
セレビィは言うと、緑色の小さな手であちこちに生えたいばらに触れた。いばらは静かに光りながら溶けるように消えていく。
「あんたたち、何なのよ。私のときわたりを邪魔したりして。私が優しいから攻撃をやめてあげたけど、本当に怖いポケモンならただではすまなかったわよ」
「だから、邪魔をしに来たんじゃないってば。ところで、ときわたりって何なの?」
私はむうっとして言いながら、ときわたりという謎の言葉の意味を聞いてみた。セレビィは飛びながら足を組む。
「ま、言ってみれば時を越えることね。過去に行ったり未来に行ったりする事をときわたりって言うの。さっき、森が光っていたでしょ? あれは、私が5分後にときわたりをしようとしてたのよ。あんたたちがスピアーと大騒ぎして森を荒らすから、失敗しちゃったけどね」
「未来!? 未来へ行けるの? じゃあさ、一年後に私を連れて行ってよ。私たちがどのくらいすごい探検隊になっているか見たい!」
好奇心旺盛なミニリュウが首を突っ込んできた。やれやれ、とセレビィは祠を見る。
「無理よ。私だけの力では、一年後とか大きく時を越えることはできない。せいぜい、15分後が限界ね。時の回廊に入っていけば、一年後やずっと先の未来へ行けるわ」
「時の回廊?」
「そうよ。この祠が時の回廊。2回目に森が光っていた時は、この祠が光っていたでしょ。私が今度は時の回廊を通って未来へ行こうとしていたの。未来がどうなっているか、見に行くためにね……」
セレビィは言うと目を瞑り、祠に触れた。祠が強く光り、森もさきほどと同じように輝く。鳥ポケモンたちの声が大きくなった。
「セレビィ、何をするの?」
眩しくて目を覆いながらミニリュウが聞く。セレビィはゆっくりと目を開くと、答えた。
「この祠……時の回廊を使って未来へ行くの。未来には、ピンク色の私のお姉ちゃんもいるし。それに、未来がどうなっているかを見に行くために……」
祠の真上の空をセレビィは飛ぶ。やがて、セレビィも祠といっしょに輝きだした。光が花火のように、飛び散っては消える。
ビ――――ンビ――――ン……
「じゃあね、私は未来へ行くわ。未来で私に会ったらよろしくね」
最後にそう言うと、セレビィは光の中に消える。激しく輝く光の渦を前に、私たちは何も出来ない。その後、光をすべて祠が丸ごと飲み込み、跡形もなくなってしまった。

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