ポケモン不思議のダンジョン昼*夜の探検隊 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M/作

Memory4 光のささやき ~06~
「あっ、あそこにルリリとスリーパーが」
しばらく進んだ後、大きな川が見えてきた。その川は茶色く濁り、枝や葉などを運んでいる。流れは驚くほど急で水かさも多かった。その川の手前にルリリとスリーパーがいる。2人とも向かい合っていた。しかも、ルリリの後ろは川。数歩下がれば川に落ちてしまう。ルリリの前には追い詰めるようにスリーパーが立っている。
何やら2人は話しているようだ。話し声はこちらまで聞こえる。
「スリーパーさん、お兄ちゃんはどこ?」と不安そうにルリリが聞いた。
スリーパーは首を横に振ると、「ごめんな、ここにお兄ちゃんは来ないんだよ。おれは、おまえを騙していたのさ。ほら、あの濁った川の中にキラリと光る物が見えるだろう。あれは、あるポケモンが隠したお宝じゃないかって噂されているんだ。けれど、おれは水タイプじゃないから泳げない。だから、おまえに頼みたいのさ」と、余裕そうな表情で言った。
騙されていたことがわかったルリリは目に涙を溜めて逃げ出そうとするが、スリーパーに尻尾をつかまれて動けない。
「おとなしく協力するんだ。でないと、どうなるかわかっているのか」
スリーパーが脅した。そして、1歩ルリリに近づく。ルリリも1歩後ろへ下がる。川が後ろへ迫る。スリーパーが突き落とせば、ルリリはすぐに川に落ちるだろう。
ルリリは痙攣を起こしたように震え、声を絞り出すように叫んだ。
「や、やめてっ! 助けて!」
同じだ。あの不思議な夢と……。何もかも。
その様子を見ていた私は胸がぎゅっと熱くなった。“助けなきゃ”という思いがみるみるこみ上げてくる。
「ミニリュウ、行こうっ」
ミニリュウも私と同じ思いを抱いていたのか、私が言うと唇をかみ締めて強く頷いた。私たちは決心をすると、スリーパーの前へ出る。私はルリリが川へ落ちないように、川から離れた所まで背に乗せて運んだ。
「おいっ、スリーパー! 私たちは、探検隊だ。あんたがお尋ね者ってことを知っているんだからね! おとなしく観念しなさい!」
私はスリーパーをひるませようと大声で怒鳴り、後ろで震えているルリリを撫でた。スリーパーは一瞬慌てた表情をしたが、すぐにニヤリと不気味に笑う。
「ほおう? それで、おまえたちはおれをどうするんだ? 倒して捕まえるのか?」
「あっ、当たり前じゃないか!」
ミニリュウが言い返した。怖がりのミニリュウがたくましくなったなーっと思って、ミニリュウを見るとかすかに震えている。あれ、やっぱり怖いんだ……。私はミニリュウの目を見た。体は震えているけれど、目には燃えるような強い意志が宿っている。きっと心の中では“助けなきゃ”と思っているのだろう。スリーパーの眼差しにひるんでいるだけだ。
――ミニリュウなら大丈夫。私も大丈夫。きっと勝てるよね。
ミニリュウが震えているのに気づくと、スリーパーはお腹を押さえてクククッと笑い出した。かなり余裕だ。
「怖いのか? そうか、おまえたち、お尋ね者を捕まえるのは初めてなんだな。新米か。フフフッ、そんなおまえたちにおれが倒せるのか?」
*
スリーパーはミニリュウをさらにひるませようと、睨みながら言った。冷たい瞳が不気味に光る。ミニリュウは目を瞑り、悔しそうに下を見た。
「私、弱虫だけど……。でも、おまえを倒す! だって、私たちは新米でも立派な探検隊だもの! みんなに認められたんだっ! いっけえ、<たつまき>!」
瞑っていた目を開くと、ミニリュウはその尾を円を描(えが)くようにグルグル回しだした。だんだん尾を中心に小さな風が起こった。それが小さな竜巻となり、他の風を巻き込んでみるみる大きくなった。心なしか、竜巻は砂を吸い込んで薄く黄土色に見える。その竜巻がスリーパーに向かった。
「フフッ、そんな<たつまき>の技などどうってことない! <サイコキネシス>!」
スリーパーは含み笑いをすると、鋭い目を青く光らせた。すると、竜巻も青く光る。スリーパーが人差し指を空へ向けると、竜巻は天高く飛んでしまった。スリーパーが竜巻の動きを操ったのだ。空に消えた竜巻は戻ってくる気配すらない。
ミニリュウは悔しそうにスリーパーをキッと睨んで、激しく威嚇した。
「<たつまき>がダメなら、これはどうだっ。<まきつく>!」
だっと駆け出したと思いきや、ミニリュウはスリーパーの腕に自分の体をギュッと巻きつけた。失礼だけど、蛇が腕に巻き付いているように見えなくもない。ミニリュウが可愛いから、そう見えないけれど。
そしてミニリュウは、尾だけをスリーパーに巻きつけそのままスリーパーを持ち上げると、地面に叩き付けた。地面の尖った岩の上に背をぶつけたスリーパーは痛そうだ。
「どんなもんだい、<たたきつける>は」
「うぐっ、おのれえ……」
憎悪に満ちた顔でスリーパーがミニリュウを見る。その瞬間、スリーパーの目が赤く不気味に光った。目の光が消えると、なぜかスリーパーは満足そうに笑みを浮かべた。そして、<ずつき>攻撃をするために頭をミニリュウに向けながら走り寄る。
危険を感じたミニリュウはその場から逃げようとするはずだが、なぜか動かない。逃げないと危ないっ。……まさか、逃げないんじゃなくて逃げれないんじゃ。あのスリーパーの赤く光った目。あれは<かなしばり>だ!
「ミーシャ、ミーシャ! 動けないよぅ!」
半べそをかきながらミニリュウは必死に尾を動かすが、動くのは尾だけで逃げれない。ミニリュウはただただ、私に向かって悲鳴を上げる。
ミニリュウに叫ばれて、私ははっとした。そうだ、私はまだ何も技を出してない。ミニリュウが頑張ったんだから、私も。いったん息を吸ってから、ミニリュウに走りながら近寄るスリーパーの目の前に、私はおどり出た。
驚いたスリーパーは足に急ブレーキをかける。砂埃が立った。
「いくよ、<でんきショック>!」
「そうはいかないぞっ」
私が電気を放射すると、スリーパーはそのことを予想していたかのように体をひねってスルリとかわした。そして、驚いてすきが出来た私の後ろにまわりこむ。気づいた時には遅かった。全身に痺れるようなぴりぴりした激痛が走る。
「うっ!」
スリーパーの<ずつき>をまともに受け、私はミニリュウの足元へうつ伏せに倒れた。もっとも、メリープの姿だからうつ伏せか横向きにしか倒れることはできないが。

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