ポケモン不思議のダンジョン昼*夜の探検隊 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M/作

Memory4 光のささやき ~04~
「おかえりでゲスー。遅かったでゲスねえー」
ギルドの地下1階につくと、お尋ね者の掲示板の前でビッパが待っていてくれた。ビッパの背景にはお尋ね者の掲示板に張られた凶悪な顔のポケモンがいて、にこやかなビッパが恐ろしくも思えてくる。ほら、絵の中のお尋ね者がこっちを睨んでいる。
「遅くてごめんね。ちょっと色々あったから……」
私はうんざりした。まったく、トレジャータウンで買い物するだけなのに何であんなに疲れなくちゃいけないんだろう。やっぱり、あの声と夢が原因としか思えない。今でも頭がキーンとしている。
「じゃあ、この中からお尋ね者を選ぶでゲスよ」
無神経なビッパだ。お尋ね者を選べって言っても、そう簡単に選べるわけが無い。相手は、悪いポケモンなんだから。こっちは、バトルが得意でもないし。捕まえろって言っても、相手ポケモンに負けたら終わりだ。
私たちが困った顔で掲示板を眺めていると、ビッパはかっこつけて咳をする。
「ウォッホン。じゃあ、こういうときはあっしがアドバイスするでゲス。えっとおー」
ウ――ウ――ウ――!!!
サイレンがギルド中に響いた。私は驚きすぎて、尻尾がピクンと立った。危ない、もう少しで電気を放射するところだった。尻尾の先に付いた透明な珠は電気技を出す時に光るが、今も電球のように光りかけている。
「掲示板の更新をします! 掲示板の更新をします!」
突如地面がもっこりと盛り上がり、ダグドリオが掲示板の前にひょこっと出た。ダグドリオの周囲の土が跳ね上がる。あまりに突然に現れたので、私はビックリしてしりもちをついてしまった。きっと寿命が縮んだだろう。それくらいびっくりした。
ダグドリオは、掲示板に張られているお尋ね者の紙を取ると、新しいものに張り替えていった。凶悪な顔が、さらに凶悪な顔に張り替えられていく。
「あっ、お尋ね者が更新されたでゲスよー。少しは選びやすくなったでゲスかねえー」
「でも、やっぱり悪いポケモンでしょ? 怖いなあ」
ミニリュウがうんざりと言った。確かに、張り替えられて、より恐ろしいポケモンが増えたような気がする。顔に傷のあるマニューラ、目つきの悪いストライク、牙の大きいヘルガー、右上の黄色いポケモンは……誰だろう。ぼやけてよく見えない。
「更新終了! 更新終了!」
ダグドリオはすべてを張り替えると、またにゅっと地面にもぐって消えてしまった。掲示板の更新など1分もかからなかったが、私にはすごく長く感じた。私はふっと息を吐くと、立ち上がる。そして、尻尾をうまく使って体に付いたホコリを掃った。
「さ、早く選ぶでゲスよ。……ミニリュウ、どうしたんでゲスか?」
ビッパはミニリュウを見た。ミニリュウは、掲示板の方を見て震えている。もしかして、更新されて怖い顔のポケモンがいっぱいになったのかな? ミニリュウったら、怖がりだ。こんなんで、これからお尋ね者と戦えるのだろうか。私も人の事を言えないのだが。
「ミ、ミーシャ……。掲示板……見てよ……」
「え?」
「ほ、ほら……右上のところ……」
ミニリュウが見ているもの。そして、掲示板に張ってあるお尋ね者のポケモン。私がさきほどぼやけて見えなかったポケモンだ。凶悪な顔、冷たい目つき、黄色い体……。
――私は見て言葉を失った。
そこに張られていたのは、確かにさきほど会ったスリーパーの顔ではないか!!!
「スリーパーだよ! あいつ、お尋ね者だったんだ! ミーシャの夢は本当だったんだ! ルリリが危ない!」
ミニリュウと私は叫んだ。そしてビッパをおいて、ギルドの丘からすぐさま出る。丘を出る時に、レンゲの花を1輪踏んでしまったが気にしている場合ではない。花を踏んだため、後ろからキマワリの声が聞こえたがこちらも気にしている場合ではない。
「あっ、ミニリュウさんたち!」
トレジャータウンと海岸、ギルドの丘、冒険への道へ続く交差点。そこで、マリルが落ち着かない様子でウロウロしていた。青く目立つのですぐにわかる。食べかけのりんごを手にしていた。私たちが来たのがわかると、不安そうな顔で言う。
「さっき、スリーパーさんがルリリをつれてどこかへ行っちゃったんです! 呼んでも戻ってこないし、僕、どうしたら……」
「落ち着いて。それで、スリーパーといっしょにいたスリープは?」
私はマリルを落ち着かせようとゆっくり言った。そして、じっとマリルの目を見つめる。マリルは深く息を吸うと話し始めた。目が恐怖の色をしている。
「スリープさんはわかりません。ただ、スリーパーさんがルリリを……」
「わかったわかった。それで、ルリリたちはどこへ?」
「こっちです!」
マリルはルリリたちが消えた所へ案内してくれた。
そこはダンジョンだった。しかも、私が夢で見た岩場……。地面のあちこちから尖った大きな岩が突き出している。岩の隙間からは、生命力溢れる小さな雑草がひょっこり顔を出していた。見たこともないどす黒い紫の花まで咲いている。小さな石も地面に転がっていて、足場が悪い。
「ルリリたちはここでいなくなったんだね?」
ミニリュウが厳しい顔で言うと、マリルは頷いた。
私とミニリュウは顔を見合わせる。これはもう、助けるしかない。これが私たちの初めてのお尋ね者の逮捕だ。
「行こう、ミーシャ!」
「もちろん!」
私たちは互いに言うと、ダンジョンへ足を踏み入れた。後ろを振り向くと、マリルが心配そうな顔で小さく手を振っている。安心させるために、私たちは笑って手を振った。
コロコロ……カラカラ……
風に吹かれて小石が地面を転がる音が聞こえた。

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