ポケモン不思議のダンジョン昼*夜の探検隊 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M/作

Memory4 光のささやき ~01~
「お――――い! 起きろぉぉ! 朝だぞ―――!」
頭がぐわんぐわんするような、馬鹿でかい声が響く。この声はどこかで聞き覚えがある。確か……えーと、誰だっけ……。それにしても、うるさい。もう朝? 起こすならボリュームが「小」の目覚まし時計で起こして欲しいな。まだ眠いのに……。
「おいぃぃぃぃ! 起きろー!」
耳がおかしくなるようなこの声に、うっすらと目を開けるとミニリュウが隣で寝ている。ミニリュウも、この声で目が覚めたようだ。薄目で、ぼんやりと周囲を見ている。
「なんだよぅ、この声は……」
ミニリュウは、まだ寝ぼけ眼でぼけーっと言った。
私も重いまぶたを開き誰の声かを確かめようと体を動かすと、わらがカサッと擦れる音がした。起き上がると、ドゴームがイライラした表情で立っている。あのうるさい声は、ドゴームだったのだ。
「おまえたち! さっさと起きて朝礼に参加しろよ! おまえたちが遅れて、あの親方様の“タアアアア”をくらうなんて、恐ろしくて、ああ……。とにかく! おまえたちが遅れるせいでこっちまでとばっちりくらうのは嫌だからな! さっさと起きろよ!」
ドゴームは言うと、テントの中からするりと出て行った。あのうるさい声が聞こえなくなっても、まだ頭がキーンとしている。鼓膜が破れるかと思った。
私は、ゆっくりと水の入った石の前へ行った。そして、一気に目が覚めてしまうほど冷たい水を顔にかける。目がぱっちりと開いた。
「何であんな風に怒鳴られなくちゃいけないのかな、まったく」
「さあね。……って、私たち、ギルドに入ったんだよ、ミーシャ!」
朝食をかじりながらミニリュウがのっそりと言う。相変わらずグミを食べているが、次の瞬間はっとする。私も、あっと声を上げてりんごを手に取った。ギルドに入ったからドゴームが起こしに来た。ということは……。
「そうだよ! ギルドだ! となると……遅刻だよ、ミニリュウ! 朝食を早く食べないと。でも、残すとチリーンが怒るし……」
私たちは必死に朝食をガツガツと食べ、平らげるとテントから転がるようにして出た。辺りを見ると、プクリンとぺラップのテントの前に、ギルドのメンバー全員がきっちりと整列している。あわてて私たちも整列した。ギルドのみんなが、いっせいにこちらを見る。
「遅いぞ、おまえたち!」
と、ドゴームに怒鳴られた。やはり、うるさい。そのドゴームを、ぺラップが怒鳴る。
「おだまり! おまえの声はただでさえうるさいんだから、怒鳴るんじゃないよ! ……さて、では親方様。朝の一言をお願いします」
ドゴームは怒鳴られて肩をすくめた。そんなことは気にせず、ぺラップは整列したみんなの前に立っているプクリンを見る。プクリンは朝の言葉らしき事を言った。
「……ぐうぐう……ぐうぐう……」
なんと、プクリンは目を開けたまま眠っているらしい。おまけに鼻ちょうちんまで出している。今にもパチンッと割れそうに縮んだり膨らんだりしている。それも当たり前のことらしく、ギルドのみんなは平然としていた。しかし、何もかもが初めてな私たちには、すべてのことが不思議でならなかった。
「ありがたいお言葉ありがとうございましたあ! では、朝の誓いの言葉はじめ!」
ぺラップの声で、みんなが同時に誓いの言葉を言った。みんなが同時に息を吸ったので、スゥッという音が聞こえる。息の音の後、静かな丘に声が響いた。
「ひとーつ、仲間を思いやる! ふたーつ、仕事をしないと夕食抜き! みいーつ、笑顔を忘れずに!」
「今日も仕事、張り切っていこー!」
「お―――!」
天高くみんなは手を振り上げると、いっせいに散らばっていった。私たちは、何をしていいかわからなくて昨日のようにぼけーっとしている。まだ頭が寝ているのか、いまだに誓いの言葉が頭にこだましていた。瞼が重い。
すると、ぺラップが私たちを呼んだ。
「おまえたち! こっちだ♪」
その声ではっと目が覚めた。ついて行くと、ギルドの地下2階だった。そして、2つあるうちの掲示板のうち、今度はポケモンの絵が張ってあるほうの掲示板の前に来る。かっこいい顔のポケモン、勇ましい顔のポケモン……色んな顔がある。
「ねえ、昨日はもうひとつの字が多い張り紙が張ってある掲示板じゃなかったっけ?」
私が質問をすると、ぺラップは「そうだ♪」と答えた。羽をバタつかせて説明する。
「昨日の掲示板は、落し物とかポケモンの救助の依頼の掲示板さ。こっちはお尋ね者の掲示板」
「わあー。いろんなポケモンの絵が張ってある! みんなかっこいいなー。これって、一流の探検隊のポケモン?」
ぺラップの話を聞いていないミニリュウが、感心して言った。完全に掲示板の絵に夢中になっている。
そんなミニリュウを見て、ちょっとイライラしながらぺラップが言った。
「かっこいいなんて、そんな事言っている場合じゃないよ! このポケモンたちは、みんな悪いことをしたお尋ね者なんだ。だから、捕まえれば賞金がもらえたりするんだけど、凶悪なポケモンが多くてね。みんな、手をやいているんだ」
「えー! お尋ね者!?」
ミニリュウが震え上がった。私もびっくりして、体中の毛が恐怖で逆立った。フワフワした体が、ハリネズミのようになってしまった気がする。深呼吸をすると、私はぺラップに恐る恐る聞いた。
「そ、そのポケモンたちを私たちに捕まえろと……? む、無理無理!! 絶対無理!」
「ハハハハ♪ お尋ね者って言っても、凶悪なやつもいれば、ちょっとしたやつもいる。凶悪なやつを捕まえてくるなんて、新米のおまえたちに言うわけないじゃないか♪ フフフッ♪ さあ、この中からポケモンを選んで捕まえてくれ♪」
「そ、そんなあ。でも、悪いポケモンは悪いポケモンなんでしょう?」
ぺラップの話を聞いて、私はうなだれる。探検隊って、探検するだけではなかったらしい。お尋ね者なんて、警察に任せておけばいいのに。
ミニリュウもブルブル震えながら言った。
「怖いよう」
「しょうがないねえ。ま、選ぶ前に戦う準備でもしておきな♪ ビッパに施設を案内させるからね♪ お――い、ビッパー?」
「はいー! お呼びでゲスかー?」
呼ばれたビッパ、すぐにやってきた。ビッパは、茶色いタワシのような体に、はっきり言ってまぬけそうな目をしている。出っ歯も目立っていた。
ぺラップは、そんなドンくさそうなビッパに命令する。
「いいかい。新米のキセキーズたちに、トレジャータウンを案内するんだよ♪」
「はいー! わかりましたでゲスー!」
トレジャータウン? どこかで聞いたことのある名前だと思った。そういえば、このギルドの丘に来る前に分かれ道があったような気がする。確か、初めてミニリュウに会った日だ。海岸から道を進んだとき……。
―――「この交差点をまっすぐ行けば、ギルドがある丘に行けるよ。右に行けば、冒険に行けるけど、それは後で説明するね。で、左に行けば“トレジャータウン”」
トレジャータウンは、いろいろなお店があってポケモンたちの広場のような場所だと、ミニリュウが行っていたような気がする。そこにこれから行くのだとすると、お尋ね者のことなど忘れて気分が楽しくなってきた。
「さ、トレジャータウンで冒険の準備をしに行くでゲスよー!」
ビッパは聞くところによると、私たちが入るまではこのギルドで一番下の弟子だったらしい。確かに見かけから、とろい後輩というイメージがしていた。失礼だが。だから、私たちが入ってきたから、後輩が出来て嬉しいようだ。
そんな先輩のビッパに連れられ、私たちはトレジャータウンへ行くことになった。

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