二次創作小説(紙ほか)
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- ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
- 日時: 2021/09/10 03:28
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
初めまして。カキコ初見のぴろんと申します。
初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります。
コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!
※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。
・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。
・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からない表現や言葉等があった時はコメントで質問をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。
・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂けると幸いです。
2016/12/30 閲覧数100突破!本当に感謝です!
2017/01/14 閲覧数200突破!有難う御座います!
2017/02/09 閲覧数300突破!唯々感謝です!
2017/03/01 閲覧数400突破!感謝感激雨霰です!
2017/03/24 閲覧数500突破!有難う御座います!
2017/04/23 閲覧数600突破!泣くほど感謝です!
2017/05/13 閲覧数700突破!感謝しすぎで死にそうです!
2017/05/28 閲覧数800突破!本当に有難う御座います!
2017/06/21 閲覧数900突破!物凄い感謝です!
2017/07/02 閲覧数1000突破!信じられないです…有難う御座います!!
2017/07/18 閲覧数1100突破!有難う御座います!
2017/08/03 閲覧数1200突破!感謝ですっ!
2017/08/30 閲覧数1300突破!有難う御座います有難う御座います
2017/09/24 閲覧数1400突破!本っ当に有難う御座います!
2017/11/03 閲覧数1500突破!感謝しかないです!
2017/11/29 閲覧数1600突破!本当に感謝します!
2018/01/08 閲覧数1800突破!1700飛ばしてすみません!有難う御座います!
2018/01/13 閲覧数1900突破!年始効果でしょうか…有難う御座います!
2018/01/27 閲覧数2000突破!こ、これは…夢でしょうか…?!本当に、心から感謝致します!!
2018/03/07 閲覧数2100、2200突破!1つ逃してしまいました…ありがとうございます!
2018/03/28 閲覧数2300突破!ありがとうございます…!!!
2018/04/17 閲覧数2400突破!間に合わないのがとても嬉しいです…!
2018/05/13 閲覧数2500突破!いつの間に…?!有難う御座います!!
2018/05/20 閲覧数2600突破!とてもとても!感謝でございます!!
2018/05/23 閲覧数2700突破!ぺ、ペースが早い…!ありがとうこざいます!!
2018/06/02 閲覧数2800突破!間に合わなくてすみません。有難う御座います!
2018/06/29 閲覧数3000突破!え、あの、ごめんなさい!有難う御座います!なんかします!
2021/09/10 閲覧数7000突破!有難う御座います。恐らく更新はありませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。
何時の間にか返信数も100突破です。有難う御座います!
2017/06/30 本編完結。今後とも宜しくお願い致します。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.101 )
- 日時: 2017/06/18 11:35
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
66間目
トスッ
軽い衣擦れのような音が鳴る。男がニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
左胸に金属が突き立っていた。
男の手には、小さなリモコンが握られている。
「ふふ、ふはははは!油断したな!遠隔操作のナイフ投げ機だ。遊びで買ったが、役に立つとは!」
勝ち誇った笑い声を上げる。
「式部さん!」
敦が駆け寄ろうとするが、太宰が制する。
「何でですか!式部さんが…人が刺されてるんですよ!」
「あの子があんな玩具で死ぬわけ無いじゃないか」
その声が聞こえたのか、男が太宰を向く。
「貴様にも刺してやろうか!」
「お止め下さい、西城家の旦那様」
「?!」
男が驚いて式部を見る。
「また手術用メスか。覚えてやっていたなら…まぁ、心底気持ち悪いな」
胸に刺さったメスを抜く。
「そ、その名は…」
「もう捨てたか?残念だが俺は知っているし覚えている。整形して誤魔化しているようだが中身は唯の老いぼれ爺いだろう」
ナイフについた血を拭き取ってポケットに入れる。
「俺の主とその夫を殺した罪、償って貰う」
「し、知らない!俺は誰も殺してない!」
「ここまで言って知らないなんて無責任なことは言うな。人殺しをするなら仇討ちがあるのは当たり前だ。古いやり方かもしれないが」
鎌の刃がゆっくりと動く。
「俺が殺したのはお前の替え玉。恐らく実の兄弟か誰かだろう。お前は俺達を殺す計画を立てた。立派な犯罪だろう」
刃を男の首にピタリとつけ、呟いた。
「お前の来世は無いと思え」
派手に血を吹き出しながら男の首が胴体と切り離された。
恐怖で目を見開いたままの首がボトリと床に落ちる。
部屋が、否、建物が静寂に包まれる。
「此処で見たことは誰にも言うなよ、太宰。今回はお前等を証拠隠滅に使わせて貰う」
「人殺しというか、仇討ちなら他所でやってよね。もしも国木田君に見られていたら大変だったよ」
その横では太宰以外の者が全員倒れていた。
「何したの?」
「特に何も。数時間もすれば起き上がる。その前に俺は帰るからな」
そう言って鎌をしまい、落ちた首を麻袋に入れる。
少し嫌そうに首を回し、息を吸った。
「異能力【源氏物語】」
空が赤く染まる。
「迷惑をかけた。詫びに今夜は良い夢を見せよう」
「おや、自覚はあるんだね」
太宰の皮肉っぽい言い方も無視して式部は消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
真っ暗だった。目を開けようにも開けられない。腕が痺れる。
「どうした、太宰。酔ったのか?」
突然聞こえた懐かしい声に顔を上げて気づく。
「寝てた…?」
突っ伏して腕を枕にしていたのだろうか。両腕が異様に痺れている。
「疲れているのだろう。休暇をとった方が良い」
「そこまでじゃ無いよ、織田作」
自然と会話する中で違和感を覚える。
「あれ、私こんな服だったっけ?」
薄いベージュのコートを見て言う。
「そうみたいだな」
「織田作のと似ているよ」
「あぁ、似ている」
何時も通りの返事をしながら手元のグラスを持ち上げる。
「ねぇ、聞いてよ織田作」
「何だ?」
「私、もう22歳になるのだよ」
「めでたいな。蟹缶でも頼むか」
「良いよ。もう少し取っておく」
何時も通りの調子で話す。
「人を救ったのだよ。元孤児院の子でね」
「あぁ」
「芥川君と相性が悪いのだけれど、戦闘中は中々息が合ってね」
「そうか」
言葉が自然と出てくる。頬が緩み、自然と笑顔になる。
あぁ、懐かしい。まだ気付かないでいたい。
「それと、懐かしい子にも会ったよ。私の分身だ」
「分身…?」
「覚えてないかい?珍しく織田作が子連れで此処に来た。私が着ていた外套をあげた子だよ」
「あぁ、あの少女か」
「そうそう。男の子みたいな」
私は蒸留酒の入ったグラスを手の中で揺らす。
「あの子に会ってね、散々振り回された挙句探偵社に濡れ衣を着せられた」
「探偵社?」
「武装探偵社さ。私の今の居場所だよ」
そう言うと織田作は安心したようにふっと微笑む。
「そこがお前の居場所か」
「とても楽しい場所でね。毎日退屈しない。少し厳しい同僚がいるけど、弄り甲斐があって中々面白いのだよ」
「そうか」
織田作が私の前に箸と缶を置いた。
「…蟹缶はまだ良いと言ったじゃないか」
「良いだろう?めでたいのだから」
そう言ってグラスを口に運ぶ。
「理不尽だったか」
グラスに浮かぶ氷を見つめる。
「お前に遺した物は」
「何を馬鹿なことを言っているのだい?織田作は理不尽なことなんてした試しがない。しようとしても無理だよ」
蟹缶の蓋をパキリと開ける。
「そうか」
「そうだよ」
会話が途切れる。
居心地の良い沈黙を感じながら蟹を摘まむ。
「太宰、お前は今」
言葉を区切って話しかける。一言ずつ考えているのだろう。
私は何も話さずに次の言葉を待つ。
「生きているか?」
その言葉が私の胸にストンと落ちた。
「…一応、何とか、生きているよ」
織田作、君は優し過ぎだ。
「そうか」
また柔らかい微笑を浮かべ、前を見る。
「聞けて良かった」
サァッと目の前が明るくなる。
「また会えるだろうか」
「きっと会えるさ」
意識が白く塗り潰されていく。
諦めて、目を閉じる寸前に、
チリン
鈴の音が聞こえた気がした。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.102 )
- 日時: 2017/06/21 00:05
- 名前: 真珠を売る星 (ID: 9E/MipmP)
お久しぶりです。リアルがちょっと忙しくてここ最近見にこれなかったのですが、結構進んでいてびっくりしました!
式部さんの過去……!!
カッコいい童女だ!と思っていたらまさかそんなことがあったとは!ますますもってかっこいいです……
そして、夢での織田作さん登場!かっこよすぎです。「元孤児院の子」と「生きているか?」の場面が切なすぎて悶えました(←
織田作さん、やっぱりかっこいいですね……。
さっきからかっこいいしか出てきません。
今回も面白いお話ありがとうございました!これからも応援しています。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.103 )
- 日時: 2017/06/21 16:45
- 名前: ぴろん (ID: 6kBwDVDs)
真珠様!!
本当に何時も有難う御座います!
最近は更新ペースを気持ち上げているので展開が雑になってしまってすみません!
実は製作当初から終盤に織田作を出すことは決めていたのですが、書いている自分でも意外な夢の中での登場となりました(´∀` )
最後にシリアスを詰め込んだ形になりましたが、褒めて頂けて嬉しいです。
この物語もいよいよ大詰めで御座います。
最終話の後にちょっとしたものがありますので、最後まで読んでいって下さると嬉しいです!
お忙しい中コメントして下さって有難う御座いました!
今後も全力で書かせて頂きます!
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.104 )
- 日時: 2017/06/21 16:50
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
67間目
鉄の扉が開く。
「やっぱり逃げなかったんですね」
「約束は守る」
そう言って手足に枷をつけたまま立ち上がった式部は、珍しくフードを被っていなかった。首元の傷痕が目立つ。
「何処でやる」
「どうせ屋外が良いんでしょう?」
「あぁ」
足枷だけ外し、安吾について行く。
「…先日、ある異能組織が壊滅しました。探偵社が依頼を受けたものだと聞いています」
「そうか」
「建物を崩壊させなければならない程厄介な相手だったのでしょうか」
「らしいな」
曖昧な声が返ってくる。
「また貴方絡みですか…」
安吾は大きく溜息を吐いた。
その後は特に会話もないまま車で移動する。
殆ど印象の残らない街並みが窓を流れていく。
「着きました」
安吾が車を停めたのは、屋内の駐車場。周りは冷たいコンクリートの壁で囲まれている。
「懐かしい場所だな」
「何故懐かしいんですか」
「昔暇潰しで何度か入ったよ。看守とも顔見知りだ」
「相変わらず規格外ですね」
呆れたように言いながら式部を連れて行く。
駐車場と同じ頑丈なコンクリート壁に囲まれた階段を登る。
「この刑務所に入って、その後は何をしたんです?」
「死刑にされたんだが、死ねなかったから帰った」
「帰ったって…何か研究とかされなかったんですか?」
「されたよ。その合間の時間に帰った」
この大袈裟な程強固な鉄箱も、式部の異能の前には屋外と同じなのだ。何処にいても帰れる。
本当に厄介な異能者だ。あんな装置で本当に死ぬのだろうか。
その不安を掻き消す用に話し始める。
「装置は屋上にあります。貴方専用のサイズに作っていますから今後は赤字が続きますね」
「どのサイズで作っても合わせたけどな」
「小さい方が逃げ難いと判断しました」
扉を開けると、冷たい乾いた風が吹き込む。その空をくり抜くようにそびえ立つ機械が1つ…
「ギロチンってあんなに大きかったか?」
「念のためです」
式部の手枷を外し、刃の下に寝かせる。
「手際が良い」
「早くしたいですから」
感情の無い瞳で式部を見る。
「これで終わりです。もう直ぐ刃が落ちますから」
「待ってるよ」
仰向けになった格好で言う。
「では私はこれで。計算では注文通りの場所に落ちますよ」
安吾は名残惜しそうに微笑んで去って行った。
夜が明けたばかりの空。黒い闇が薄れ、茜色に変わる。
世界が半周し、人間の、生物の活動する時間。化物は消えて無くなる。
上方でカチャンと音が鳴る。茜色と瑠璃色の光を反射しながら降ってくる刃。
「…確かに、綺麗だな」
そう呟いて、化物は静かに口元を緩めた。
派手な音と共に刃が落ちる。
式部の事前の指定通り、両手足の根元、そして首を切断された。
硝子越しにその様子を見ていた安吾は、式部が確実に動かないのを確認してから屋上に出る。
「これで、終わりですね」
物悲しそうな表情で呟き、五つに分かれた物体の方を見る。
赤く広がった液体が滴り落ちる装置の上に、何時もより心なしか穏やかな表情を浮かべた首と、切り落とされた四肢。そして…
「駄目だよ、こんなのじゃ」
装置の上に立つ影を見つけて声を上げる。
「誰ですか。此処は立ち入り禁止です」
「誰って、家族の死に目にも会わせてもらえないの?」
白いコートに瑠璃色のマフラー。深く被っていたフードが風で取れ、紅茶色の髪が溢れる。
「貴女は確か…」
「式部の妹。今はね」
持っていたリュックを開き、小さな箱を取り出す。
「特務課さんなら情報はあるでしょう?名前分かるかしら」
「…清少 納言だと聞いています。6歳程の童子で、式部さんと路地裏に暮らしている」
「せーかい!あーあ、もう少しダラダラしてたかったのになぁ。式部ったらさっさと終わらせちゃうんだもの」
汚れていない場所に箱を置いて針と糸を取り出す。
安吾は警戒しながら問いかける。
「何をしに来たんですか?」
「何をって、見て分からないの?」
器用に糸を通し、バラバラになったソレに近づく。
「これでも私、裁縫は得意なんだから」
無邪気な笑顔のまま針を肉塊に刺す。
「何をしているんです。その子は死んだんですよ」
焦りと恐れを隠し、平静を装った風に言う。
それを聞いた納言は呆れた顔で笑う。
血は繋がっていないのは知っているが、兄妹でここまで表情筋が違うのか。
ふと浮かんだ馬鹿みたいな思考を消し去り、もう一度納言を見る。
「何を言っているの。式部は死なないわよ?彼は世界に惹きつけられているのだから」
言葉の端々に嫌な引っ掛かりを覚える。
何から問うべきが考えていると、納言がまた小さく笑う。
「式部の異能、まだ教えて貰って無かったのね。たった数年だし当たり前か」
そう言いながら針を進める。
「折角だし教えてあげましょう。式部の本当の異能はね、空間を操るなんて簡単なものじゃ無いのよ」
「では今まで私達に嘘を吐いていたと」
「そうなるわね」
安吾は手元の鞄から紙束を取り出す。
つい最近になってやっと聞くことができた式部の異能力。その全てが嘘だったのか?
もしも嘘だったとすると、式部は相当頭がキレる。今まで起きている現象とこの資料の内容に齟齬は無い。
「式部の本当の異能力はね」
チラリと安吾を見て笑う。
「“惹きつける”異能力なの」
「ひきつける…?」
音で聞くだけでは物理的な意味か、感情的な意味かが分からない。
「惹きつけるっていくつか種類はあるけど、その全てと思ってくれれば良いわ。人を惹きつけ、物を惹きつけ、光、粒子、重力、時間、物の密度までも惹きつける」
「物体以外も含まれるんですか」
「当たり前よ。物体でも何でもないあやふやな人の心も惹きつけるじゃない」
言われてみればそうだが、幾つか納得がいかないものがある。
「では、時折見せたあの異空間はどうしたんです」
「空間も惹きつけてるのよ」
「では断裂は?」
「何でもかんでも惹きつけるだけじゃないの。惹きつけられるってことは、それを引き離すってことも出来る。異空間はその応用で、今存在しているこの空間から引き離して作るらしいわ」
右腕の縫合が終わり、すぐに右足の方へ移る。
「でもそれにも条件があって、自分が理解したものしか意識的に惹きつけたりすることは出来ないんだって。だから電子とかを操れるようになったのは最近のことらしいわ」
脳が話についていけない。突飛すぎる。
もしかすると私はこの国にとって、世界にとって重要な人物を殺してしまったのではないだろうか。だとすると私は…
「駄目だよ、変に考えちゃ」
安吾の考えを読んだかのように言ってくる。
「聞かなかったの?式部は死ねないんだってば。脈が止まって呼吸をしなくなっても死んでることにはならないの。その証拠にほら、もう腕の修復が始まってる」
距離的に細部まで見ることはできないが、確かに少し戻ってきているような気がする。
「…貴女は一体、何者なんですか」
「式部のことは分からないけど、私のことなら話せるわよ」
「充分重要なことです」
「じゃあ話そ」
右足も終わり、装置のもう片側に移動する。
「私は式部の前世に一緒に居たの。主従関係としてね」
話しながら左足を縫い始める。
主従関係?となると式部が主なのだろうか。いや、この目の前の少女がもしかすると…
「小さい頃からずっと一緒で、お互いに惹きつけられていたわ。でもそれは友情とか愛情とかじゃなくて、もっと違う何か。私には夫がいたし、式部には深く関われる人がいなかったから。断言できる」
懐かしそうな表情を浮かべながら話すのを、安吾は黙って聞き続ける。
納言は段々手際が良くなり、左足を終えて左腕に移る。
「家族みたいなものだったのね。私は式部がいないなんて考えられないし、式部も私が死んだ時に悲しんでいた。そんな感じ」
親友というのには少し足りない。かと言って恋愛感情でもない微妙な距離感の異性。
「そんな仲の私達の片方が死んだ。そしたらなんと…」
プツンと糸を切る。
「魂だけ惹きつけられて残っちゃいました」
「…それも式部さんの異能の一つ」
「そういうこと。実際本人もよく分かってなくて、絶賛研究中らしいわ」
安吾は少し前の式部との会話を思い出す。
魂の空間…良く分かっていないというのはあながち間違いでは無かったようだ。
「今日は式部、マフラー巻いてないでしょ?あのマフラー私があげたの」
そう言われてやっと気付く。首元の傷が目立っていたのはその所為か。
「傷つくの嫌だったのかなぁ。だとしたら嬉しいけど」
「此処での業務中にもつけていなかったのは何故でしょうか」
「身バレするのが嫌だったんじゃないかな。悪戯してたし」
「あぁ、あの外出の時の…」
彼女の話を聞いていると辻褄が合っているのが分かる。
「この作業やるのは初めてじゃないんだけどね、やっぱり首は慣れないなぁ」
何度かやり直しながら首の向きを固定する。
「初めてではないということは、今までに身体がバラバラになるようなことがあったんですか?」
「あったわよ、それはもう悲惨なやつが。傷口グッチャグチャで繋げなかったの。首だけは綺麗に斬ってたから繋いだけど」
首だけが綺麗に?十数年前にそんな事件があったような…
「結局私が出来たのは首だけで、あとは闇医者さんに頼んだわ。ああいうのはプロに任せるのが一番ね」
首を繋げ終わり、糸を切る。
「その闇医者さんとはまだ交流が続いてるからまた頼もうかな。私じゃ首の仮止めで精一杯よ、紫」
そう呼びかけると、首についている二つの瞳が開いた。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.106 )
- 日時: 2017/06/26 16:47
- 名前: ぴろん (ID: XGjQjN8n)
68間目
安吾は何も出来ずに唯呆然と立ち尽くす。
注文通りに首と両手足を切り、死亡も確認した。前回もこれで死に、新しい身体に入ったとも聞いた。
何故目を開けたんだ?
現実を受け止められずに目を見開いていると、死体だったものが上半身を起こして安吾を見る。
一度口を開いてからまた閉じ、少し首を傾げてからもう一度口をパクパクと動かす。
「あ、おにーちゃん声出ないの?潰れちゃったかなぁ…」
納言が呼び方を変えて式部に話しかける。
式部はそれに答えるように口を動かしながらジェスチャーで何かを伝えていた。
「ふむふむ、成る程。安吾さん」
「なんですか」
「『これから世話になる。宜しくな』って言ってる!あと、『納言の分の履歴書と身分証明書は作ってあるから特務課に入れろ』だってさ!」
「…両方とも意味が分かりません。大体今起き上がっていることも飲み込めていないのに何故それを了承しなければならないんですか」
キッパリとした正論で跳ね返す。
式部がまた納言に何か伝えると、頷きながら笑顔で安吾の方を向く。
「『いい加減状況を理解しろ。俺は闇医者のところへ行ってくる』っていうのと、『居場所がないから特務課に居座る。納言の年齢は操作出来るから心配するな』だって」
「前者は分かりましたが、後者の意味が分かりません。路地裏に戻れば良いでしょう」
「でも私、此処に来る前に全部伝えちゃいましたよ?“私とおにーちゃんはもう帰れないです”って。元々ポートマフィアが欲しがっていた土地でしたので、お譲り致します!」
ビシッと姿勢を正して敬礼の真似をする。
「と、いう訳で私達は闇医者さんのところへ行って来ます!後始末は全部やっておいておくので今日はゆっくりお休み下さい」
そう言った納言の笑顔を最後に、2人は消えてしまった。
「…今度の報告書は何日かかるんでしょうか」
残された安吾は今日何度目か分からない大きな溜息を吐き、心なしか柔らかい表情を浮かべていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ヨコハマにある廃屋が1つ、破壊されたという報道があった。
どうやら最近多発していた犯罪集団の潜窟だったようで、あまり詳しい事は分からないようだった。
「この前の依頼された所だよね、此処」
「太宰さん依頼なんて受けてたんですか?」
敦が依頼書を纏めながら首を傾げる。
「殆ど全員で行ったじゃないか」
「馬鹿なことを言っていないで仕事をしろ。最後に全員で駆り出したのは組合の時だろう」
「国木田君まで惚けるの?つい昨日行ったばかりじゃないか。依頼者は式」
「太宰」
太宰の言葉を遮るように乱歩が呼ぶ。
「なんですか?」
「駄菓子買いに行くから付き合え。どうせ暇だろ?」
「分かりました」
先程までのダラけた態度は嘘だったかのようにササッと荷物を纏めて立ち上がる。
液晶は既に話題のスイーツが映っており、新人アナウンサーの拙い紹介が始まっていた。
探偵社を出てから暫く歩くいていると、乱歩は突然路地を曲がった。
「乱歩さん、そっちは駄菓子屋じゃないですよ」
一応声をかけるが、乱歩は無視して更に奥へ入って行く。
仕方なくそれについて行っていると、何の前触れもなく乱歩が口を開いた。
「あそこに行った人は、お前以外アイツ等のこと忘れてるよ」
「矢張りご存知でしたね」
依然として歩みを止めることなく話す。
「何時頃から知りましたか?」
「納言の菓子折りに入ってた。異能も計画も事情も書かれてた紙がね。社長にも全部話してあるよ」
「ではあの入社試験はフェイクですか」
「あれはちょっと迷ったけど一応自由に動けるから。今日は結果報告」
結果報告で乱歩が態々足を運ぶ。そんな異常な行動も次の質問で納得する。
「報酬は?」
「手作り焼菓子と駄菓子」
つまり、結果報告は建前で菓子を食べに行くというだけだ。
幾つ目かの角を右に曲がろうとすると、目の前に小さな子供が立っていた。
「あ!太宰さん!遊びに来てくれたの?」
「隣にいる人は?もしかして太宰さんの先輩さん?」
双子の兄妹が笑顔で言う。
「遊びに来たけど、少し待っててね。式部ちゃんいるかな」
「リーダーなら中で治療中!」
「看護師さんが駄菓子持って待機中!あとちょっとで焼菓子が完成するよ!」
「それより隣の人は?先輩?太宰さんより歳上だよね!」
2人は無邪気に尋ねる。
乱歩は少し屈んで2人と目を合わせ、いつもの調子で話す。
「やぁ君達。僕の名前を知らないのかい?この稀代の名探偵の名を!」
「名探偵?名探偵さん?さっき聞いたよ!」
「名探偵さんだったら中に入れなきゃダメって言われたよね!」
ポケットをゴソゴソ探ってメモを取り出し、声を揃えて読み上げる。
「えどがわらんぽさん!」
「正解!見張り番はこれくらい出来なきゃね。そんな君達に御褒美だ!」
ポケットから飴玉を2つ取り出して渡す。
2人は目を輝かせてそれを受け取り、ペコッと頭を下げる。
「ありがとうございます!」
その場でパクッと口に入れる。
「どう?お兄ちゃん」
「この味だよ。あってる」
「私もそうだと思う」
2人でゴニョゴニョ相談してから此方に向き直る。
「どうぞお入り下さい」
「中でリーダーが待っています」
畏まった口調で言って道を開ける。
「優秀だな」
「あの子達ですか?」
「まぁそっちもだけど。飴を鍵にするなんて中々面白いことをするじゃないか」
楽しそうに言いながら目の前の扉を開けた。
「やぁ諸君!約束通り来てやったぞ!」
「江戸川様!」
間髪入れずに納言が駆けてくる。
「態々ご足労頂き、有難う御座いました。本当ならば此方から訪ねたかったのですが…」
「相変わらず堅苦しいな君は!僕は構わないけど表にいた子供達だと回りくどすぎて解読が難しいんじゃないか?此処はもう探偵社じゃないんだから普通に話していいよ。というか駄菓子は何処だ!さっさと僕に献上して焼き菓子も食べさせろ!追加で何か飲み物も欲しいな。此処まで来るのにとっっても喉が乾いたんだ!」
「敬語にするとどうしてもこうなっちゃうんです。砕けた敬語口調はどうもしっくりこなくて」
2人が噛み合わない挨拶をしていると、奥の扉が開いた。
中から出て来た折口は、太宰の顔を見るなり口を押さえる。
「うっ、やっぱり太宰さんも来ますよね…」
「人の顔を見て口を押さえるなんて失礼だなぁ。それより式部ちゃんはどうなったの?」
「大分前に闇医者の所から帰って来て、今は僕の薬で安静にさせてます。さっき確認したけどちゃんと治ってたからすぐ起きてくると思います」
「知ってる。報告があるから入るよ」
いつの間にか納言との会話を終わらせていた乱歩が折口を退ける。
「…出来るだけ起こさないで下さい」
「無理」
バンッと勢いよく扉を開け、式部が目を閉じて座っている椅子の前に立つ。
「やぁよく寝たか式部君!約束通り態々来てやったぞ!」
態と怒鳴るような大声で言う。
全身に巻かれた包帯に寝巻きらしい和服を身に纏った式部が嫌そうに目を開ける。
「…江戸川か、また偉く暇そうだな」
「ヤな言い方するね。僕は此処最近仕事が多くて暇だよ!」
「だろうな」
式部は自分の身体の具合を確かめるように肩を回したり脚を上げたりしながら扉の方を見る。
折口と目が合い、納得したように頷く。
「あぁ、この動き難さは薬か。慣れるまで時間がかかる」
「そうでもしないと勝手にどっか行っちゃうでしょ」
「適当な海に歩いて行ってた。治りかけの傷は事故死になりやすい」
ベッドから降りて太宰を見る。
「外の奴らと遊んでやれ。それと、今回の詳しい事情は特務課に行けば分かる」
「成る程ね。じゃあ外に行ってくるよ」
ヒラヒラと手を振って外へ出て行く。
暫くしてから乱歩が壁を見て言う。
「探偵社の資料も置いてあるんだ。勉強熱心だね」
「これでも情報屋だ。全て買うなら吐かないでやる」
「別に良いよ。どうせ話す気ないでしょ?」
低めの机に置いてあるファイルを手に取って捲る。
「こんな古い事件まで纏めてあるんだから自分の記事も幾つかあるでしょ。ほら」
ファイルに挟まれた写真を見せる。
身体中に切り傷がつけられ、両手足と首が切り離されている死体の写真。
「この“死体消失事件”も3年くらい迷宮入りしてたのを僕が解いたんだよ。探偵社設立直後だったから国木田達も知らないけど」
写真を取り出して裏を見ると、当時の記録が記載されていた。
〈西暦2000年1月下旬とある廃屋で見つかった死体の調査中、担当者が目を離していた約10分の間に死体が消失。
調査の結果、途中で道を尋ねて来た6、7歳の少女が死体を運び去ったと推理された。
しかし、その推理の証拠は少女のものと思われる一本の頭髪しか見つかっておらず、DNA鑑定も思わしい結果が出なかった〉
記録はそこで終わっており、他に記載はない。
「あの劇場に来てたのを見たから死んでいないって分かったけど、あの時君達を見てなかったら長丁場だったかもね」
「見てたんだから別に良いだろ。あの時の推理は中々面白かった」
話についていけず、写真も見れない折口が扉の陰から質問する。
「あの、焼き菓子食べますか…?」
「食べる!待ってたよ!」
ファイルと写真をポイっと投げ置いて部屋を出る。
「今日のお菓子は何?ていうか、太宰も一応呼んで来なきゃね」
そう言いながら玄関の扉を開けると、目の前に太宰は子供2人にしがみつかれて玄関の近くで立っていた。
「焼き菓子食べるよ!」
「おかし?」
「食べるの?」
乱歩が呼びかけると双子の2人が先に反応し、早足に中へ入って来た。
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