二次創作小説(紙ほか)

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※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
日時: 2021/09/10 03:28
名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)

初めまして。カキコ初見のぴろんと申します。

初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります。


コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!



※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。

・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。

・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からない表現や言葉等があった時はコメントで質問をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。

・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂けると幸いです。


2016/12/30 閲覧数100突破!本当に感謝です!

2017/01/14 閲覧数200突破!有難う御座います!

2017/02/09 閲覧数300突破!唯々感謝です!

2017/03/01 閲覧数400突破!感謝感激雨霰です!

2017/03/24 閲覧数500突破!有難う御座います!

2017/04/23 閲覧数600突破!泣くほど感謝です!

2017/05/13 閲覧数700突破!感謝しすぎで死にそうです!

2017/05/28 閲覧数800突破!本当に有難う御座います!

2017/06/21 閲覧数900突破!物凄い感謝です!

2017/07/02 閲覧数1000突破!信じられないです…有難う御座います!!

2017/07/18 閲覧数1100突破!有難う御座います!

2017/08/03 閲覧数1200突破!感謝ですっ!

2017/08/30 閲覧数1300突破!有難う御座います有難う御座います

2017/09/24 閲覧数1400突破!本っ当に有難う御座います!

2017/11/03 閲覧数1500突破!感謝しかないです!

2017/11/29 閲覧数1600突破!本当に感謝します!

2018/01/08 閲覧数1800突破!1700飛ばしてすみません!有難う御座います!

2018/01/13 閲覧数1900突破!年始効果でしょうか…有難う御座います!

2018/01/27 閲覧数2000突破!こ、これは…夢でしょうか…?!本当に、心から感謝致します!!

2018/03/07 閲覧数2100、2200突破!1つ逃してしまいました…ありがとうございます!

2018/03/28 閲覧数2300突破!ありがとうございます…!!!

2018/04/17 閲覧数2400突破!間に合わないのがとても嬉しいです…!

2018/05/13 閲覧数2500突破!いつの間に…?!有難う御座います!!

2018/05/20 閲覧数2600突破!とてもとても!感謝でございます!!

2018/05/23 閲覧数2700突破!ぺ、ペースが早い…!ありがとうこざいます!!

2018/06/02 閲覧数2800突破!間に合わなくてすみません。有難う御座います!

2018/06/29 閲覧数3000突破!え、あの、ごめんなさい!有難う御座います!なんかします!

2021/09/10 閲覧数7000突破!有難う御座います。恐らく更新はありませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。



何時の間にか返信数も100突破です。有難う御座います!


2017/06/30 本編完結。今後とも宜しくお願い致します。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.132 )
日時: 2017/10/05 07:34
名前: ぴろん (ID: xDap4eTO)

17頁目



丘の上の土地は簡単に手に入った。

というのも、あの岡野とかいう商人が丁度そこの持ち主だった為に交渉が難なく進んだというだけの偶然だが…

結局納言は館の中で子を産み、その後新しく出来た家に移った。

何事もない年月が過ぎ、俺の副業もそろそろ足を洗おうというところで悲劇は起きた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「買い物に行きたいんです。1人で」

もう歳も30の後半になる納言が突然言い出す。

「洋服屋とか行ってみたいんです。1人で」

大袈裟に語尾を強調する。

「ですがお嬢様、貴方は身分が…」

「身分も格式も関係ない世の中になっているでしょう?祥子も10歳になりました。手のかからない年頃です」

「1人は危険です。私も着いて行きます」

「嫌です。私は1人で行きます」

今までにも何度か同じような会話をしていたが、今回は本当に本気のようだ。身支度も荷物も準備出来ている。

「お嬢様、私と行くのが嫌なのでしたら他の者を数人お付けになって下さい。今は忍様もご出張中ですので、何かあっても…」

「1人で行くのです。私はもうお嬢様なんて歳ではありませんし、買う物は決まってます。お店の方にも連絡済みです」

そう言いながら便箋を見せる。

店の名前も覚えがある。俺がよく行く手芸屋だ。

「先週からやり取りをしていたんです。商品も発行されています。あとはお金を払って受け取りに行くだけです」

今までよりも用意周到な様だ。如何するべきか…

「命令です。1人で行ってきますので、使いの者なんて寄越さないで下さい」

澄ました顔でそう言って出て行く。

1人では危険だ。かと言って着いて行くことも出来ない。

となると、方法は唯1つ。あの姿になるしか無いのである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お買い物〜♪お一人様〜♪」

やけに澄んだ歌声でよくわからない歌を口ずさむ。

納言は人生初の1人で買い物という快挙を成し遂げようとしているのだ。

そう思う程足取りも軽くなっていく。

「お姉さん、落としたよ」

「はい?」

クルリと振り向くと、少年がシルクのハンカチを持って此方に差し出していた。

「あら、私のだわ。有難う御座います」

「いいよ。ところでお姉さん何処行くの?」

「手芸屋さんよ。毛糸を買いに行くの」

ニコニコ顔で答える。

「僕も行くんだ。お母さんに頼まれたの!」

そう言って折り畳まれた紙を開いて見せる。

紙には子供らしい崩れた字で〈けいと→あか、こん、しろ〉と書かれていた。

「でも場所が分かんなくってさ。一緒に行ってくれない?」

「良いわよ。2人でお買い物頑張りましょうね」

うふふっと笑って手を繋ぐ。

少年は少し恥ずかしそうに俯いて握り返す。

2人はくすぐったそうに笑いながら歩いて行った。

街の中心部に着いた頃、少年は話していた口をつぐみ、キョロキョロと辺りを見回し始める。

「どうしたの?」

「えっと、僕、その…」

足を閉じてモジモジとする。

「あら、お手洗いに行きたいの?」

納言の問いにこくんと頷く。

「その場所は覚えてるんだ。着いてきてくれる?」

「良いわよ」

悪びれるような表情もせずに着いて行く。

少年は繋いで手を引くように小走りで路地へ入る。

「にゃあお」

ふと、後ろから猫の鳴き声が聞こえて足を止めた。

振り返ると黒猫が納言を見つめていた。

「ごめんね黒猫ちゃん。急いでいるの」

納言はそう囁いて少年を追いかける。

暫くすると路地は壁に突き当たり、それらしきものは何処にも見当たらない。

「ねぇ、何でこんな所に…」

納言が問おうとした瞬間、背後から誰かに口を塞がれる。

「んー!んー!」

「へへ、悪いな嬢ちゃん。ちょいとばかり寝てもらうぜ」

物陰から男がゾロゾロと出てくる。

「小僧、報酬だ。良くやったな」

「はい」

チャリンと音を立てて何かを握りしめ、走り去って行く。

「にゃあお」

少年とすれ違うように先程の黒猫が来た。

どうやら納言について来ていたようだ。

「なんだこいつ」

「蹴り飛ばしておけ」

「はいはい」

小さな猫は壁に当たって呆気なく目を閉じる。

「んー!」

「何だよ、こんな猫が欲しいのか?」

男達は乱暴に猫を摘まみ上げ、納言の目の前にぶら下げる。

納言は必死にもがいていたが、やがて力を無くしてぐったりと項垂れた。

「さてと、身代金は幾らにするかな」

黒猫を投げ捨てながら言う。

「決めてなかったんスか?」

「単位は決めてあるさ。何千万にすれば良いかって事だよ」

「うへぇ、山分けしても一生遊んで暮らせるぞ」

男達は暫くヒソヒソと話し合った後、気を失っている納言を簀巻きにして麻袋に入れ、何事も無かったかの様に路地を出て行った。

…行ったか。

息を潜めていた俺は周りを確認しながらそっと立ち上がる。

しかし、猫の姿になるのは何十年振りか…面倒なことになったな。

路地を出て辺りを見回す。

建物、人、荷物、全てのものが普段よりも大きく見える。

飲食店の前を避けながら館へ帰る。

新しい館は俺の部屋に行く為にわざわざ中を通らないでも良い構造にしてあり、隠し通路から地下へ入れば辿り着く。

部屋の中で元の姿に戻り、何食わぬ顔で書斎へ向かった。

「あっ!いらっしゃったわ!」

「御影さん!大変です!」

廊下で女中に呼び止められる。

「如何しました?」

「玄関にこんな手紙が…」

かなり急いで来たらしく、肩で息をしながら便箋を渡す。

封は既に開けられていた。

「これが玄関に落ちていたので、新聞を受け取った時に挟まっていたのが落ちていたのかと思いまして…宛名も書いていなかったので私が拝見致しました」

それを聞きながら中身を出して読む。

〈お宅の娘は預かった。返して欲しければ身代金4000万円を用意して指定場所に1人で来い〉

文章の後に手書きの地図が書いてある。

随分下手だが、何とか読み取れた。

「確か軍の武器庫跡地ですね。私が行って来ましょうか」

「だ、大丈夫なんですか?それに4000万円なんて大金…」

「大丈夫です。お金は私の貯金で足りますから、取り敢えずそれを持っていきます。便箋は貰いますね」

そう告げて自分の部屋に戻る。

部屋の奥の壁の中に隠してある金庫を開けると、昔から貯めていた金が溢れ出る。

その中からピッタリ4000万円を取り出して鞄に詰め、一応の身支度を済ませてから館を出た。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.133 )
日時: 2017/11/04 18:57
名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)

18頁目



武器庫跡地に着いたのは日も暮れた頃だった。

夕陽で茜色に染まった倉庫内から幾つかの物音が聞こえる。

「失礼します。使いの者ですが」

無遠慮に大き目な声を出して呼びかけると、奥で何かコソコソしていた男達が出てくる。

「使いのぉ?あぁ、身代金か。遅かったな」

「おいおい、随分若いじゃねえか。本当に4000万も持って来たのか?」

「えぇ、勿論。ご確認下さい」

提げていた鞄を置き、中身を見せる。

男が数人群がって勘定しているのを横目に、辺りを見回す。

「それで、お嬢様は?」

「あの女ならどっかの物置に転がしてあるよ。それより金だ」

札束を鷲掴んで並べる。

「4000万だから1人400万だ」

「あ、俺まだ370万」

「430万取ってた。30万やるよ」

笑いながら分け合っているのを見て少し苛ついてくる。

「そのお金と交換条件としてお嬢様を引き取りに来たのですが」

「分かってるっつーの。もう少し待ってろ」

此方と目も合わせずにそう言う。

簀巻きにされて倉庫に放り込まれているなら昔のトラウマが蘇っているはず。そう安定した精神状態では無いだろう。

「私は前払いしたつもりはありません。早くお嬢様を」

「お嬢様お嬢様五月蝿えな!元々引き渡すつもりはねぇんだよ!」

「…どういうことですか」

「その辺で売った。上物だったから今頃良い値で買われたんじゃねぇか?」

俺の中で何かがプチンと切れた。



…気がつくと、辺りは真っ赤に染まっていた。赤い模様はまばらだったから、恐らく夕陽では無いのだろう。

所々に肉片が転がっていたが、何だったのかは良く分からない。

取り敢えず地面に落ちていた紙切れを鞄に詰め、武器庫を後にした。

長年側に居たんだ。場所くらい気配で分かる。

昔愛用していた真っ黒い羽織を着てフードを深く被り、顔を隠す。

思えば怒りに任せて人を斬ったのは初めてだったかもしれない。手に残った微かな感触が遅れて脳に快楽を伝える。

何時の間にか納言の気配が近くなっていた。無意識に異能を使ったのかもしれない。

怪しげな建物の扉を開ける。

「あら、いらっしゃい。見かけない顔ね」

派手な衣装を身に纏った女が出迎える。

「オークション会場だっていうのは分かっているわよね。入場料は2万円よ」

俺は鞄から20万円を取り出して渡し、微笑む。

その瞬間顔色が変わり、横に立っていた男に耳打ちをする。

女は駆けていき、営業用の笑顔を浮かべた女が残って俺の腕に抱きつく。

「お客様、お名前は?」

「Violet」

「まぁ、素敵」

こういう店での身の振る舞い方は分かっていた。入場料を高めに支払って横文字の偽名を告げる。それだけで待遇は良くなる。

数人の男女に連れられて会場へ入る。

既に競りは始まっており、ステージを中心にして扇型に広がる席から立ち上がる人も見えた。

後からの参加なので1番後ろの席に座り、ステージを見下ろす。

「かの有名な絵描きの描いた風景画!さぁ幾らだ!」

「160万!」

「372万!」

「426万!」

3人目で声は無くなり、司会者が確認する。

「さぁ、もういませんか?426万!」

会場は騒めいているが、手を挙げる者はいない。

「確定!426万!」

そう言って先程手を挙げた者に絵を渡す。

「今日は大物が入ったらしいわよ」

「えぇ、つい数十分前に入ったみたいね」

「成人女性でしょ?容姿で値段は決まるわね」

女達の囁きが聞こえる。恐らく納言のことだろう。

暫く掘出し物や骨董品、奴隷や娼婦の競りをして人数も大分減った頃、ステージに布を被せた檻が運ばれる。

「さぁさぁ!本日の目玉商品!つい先程手に入った成人女性!少々歳はいっているが上物だぞ!」

そう言って勢いよく布を剥がす。

中には、目隠しをされて座り込んだ納言が入っていた。傷付けられた様子もなく、服はそのままだ。

客達はどよめき、次々と値段が飛び交う。

「625万!」

「749万!」

「770万!」

「852万!」

その中で如何にも高級そうな衣服を身に纏った男が手を挙げる。

「2000万!」

会場は静まり返った。

「2000万!とんでもない数字が出たぞ!さぁさぁ、超える者はいないのか!」

司会者が大声で呼びかける。

部屋にはまだ数10億は残っている。此処で消費しても支障はないか。正攻法で取り戻すことにしよう。

そんな事を考えながら手を挙げる。

「おおっ!いたぞ!さぁさぁ2000と何万だ!」

会場がまたどよめく中、俺は値段を言う。

「3900万」

どよめきが一瞬で静まり返る。

司会者も呆然とした顔で俺を見上げていた。

「…さ、3900万!どうだ!超えるか!」

ハッとして金額を繰り返し始めるが、当然ながら手を挙げる者はいない。

「確定!3900万!3900万!」

俺は立ち上がってステージに降り、錠を開けてもらう。

目隠しをしたまま小刻みに震えている納言を抱きかかえ、出口へ向かう。

「バイオレットさん、もうお帰りですか?もう少し遊びましょうよぉ」

先程の女が艶かしい目付きで俺を見上げながら言ってくる。

俺は一旦納言を下ろし、鞄ごと金を渡す。

「私が此処に居たのはご内密に。呉々も他言しないようお願い致します」

「えぇ〜そんなぁ」

どうやら女はこういうことに慣れているようで、縋るように俺に抱き着く。

「それなら私と2人で遊びましょうよ。ね?それなら良いで」

五月蝿い女の口を唇で塞ぐ。

女は目を見開いて硬直していたが、少しすると目はとろんと微睡み、頬は紅潮する。

それを確認してから唇を離し、再び納言を抱きかかえる。

「どうか、ご内密に」

片目を閉じて微笑み、人差し指を立てる。

女はぼうっとした顔のまま俺を見送った。

…気持ち悪い。

出来るだけ振動を与えないように運びながら納言の目隠しを取る。

納言はギュッと目を閉じていたが、暫くして恐る恐る目を開け始める。

「…しき…ぶ…?」

怯えた表情で俺を見上げる。

普通の人間ならここで心配していたとでも言うのか。

それはよく分からないが、この時俺の口から出たのは、余りにも下らない言葉だった。

「…買い物は明日にするか」

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.134 )
日時: 2017/11/17 13:26
名前: ぴろん (ID: SsbgW4eU)

19頁目



この日を境に、納言は外出を控えるようになった。

仕事の会議にも参加せず、只々部屋に篭って本を読んだり絵を描いたり掃除をしたり…部屋から出るのは食事の時くらいだ。

俺は納言の様子が落ち着いてから、例の手芸屋へ商品を受け取りに行った。

約束の時間を守れなかったことを詫びたが、人の良い店主は何も言わずに許してくれた。

商品は特注の毛糸だった。俺も久し振りに編み物をする気になったので、目についた瑠璃色の毛糸を幾つか買っていく。

取り敢えず納言の部屋の戸を叩く。

コンコン

「お嬢様、入っても宜しいですか」

「えぇ、良いわよ」

「失礼します」

何時も通りの会話を交わして中へ入る。

納言はベッドの上に座って本を読んでいた。

「毛糸を受け取って来ました。此処に置いておきますね」

「一寸待って」

パタンと本を閉じる。

「何でしょうか」

「神代、貴方編み物って出来る?」

唐突な質問に一瞬答えが遅れる。

「出来ますよ。嗜む程度ですが」

「そう、そうなのね」

そう呟いてチラチラと様子を伺ってくる。

教えろ、という意味なのだろう。だが、今までに納言が編み物をしているのはよく見ているし、現に誕生日祝いとして忍に膝掛けを渡していたのも知っている。

「あのね、お願いがあるの」

「何でしょうか」

余程難しいものなのだろうか。

「…マフラーの編み方、教えてくれない?」

「マフラー?」

予想と大きく外れた言葉に少し驚く。

「マフラーでしたらとても簡単ですし、お嬢様お一人でも宜しいのでは?」

「ううん、違うの。私が作りたいのは模様無しのマフラーで、どの本にも載ってなくて」

良く見ると納言の持っている本は編み物の本だった。

「模様無しなら編めますが、膝掛け等に少し手を加えてみたら如何ですか?そうすればお一人でも…」

「使うのはその毛糸だから、失敗したくないの」

あぁ、成る程。それで教えろということか。

「分かりました。丁度私も毛糸を買っていましたから、2人で編みましょうか」

「本当?」

「えぇ、その方が教えやすいですし。時間がかかりますから紅茶を淹れてきますね」

自分の毛糸の入った籠を置き、一旦部屋を出る。

調子を取り戻したのは幸いだが、無地のマフラーなんて誰に渡すのか…忍はもう持っているし、祥子に渡すなら模様付きの方が良いだろうし…大体それを作るための毛糸を1人で買いに行った程なのだから、余程の理由があったのか。

マフラーを渡す相手が気になったが、取り敢えず言い付けられたのは編み方を教える事。余り詮索しない方が良いだろう。

そう結論付けて紅茶を淹れた。

「神代さん、如何でした?お嬢様の容態は」

通りがかった女中に問われる。

「もう随分回復していましたよ。これから編み物をされるそうです」

「そうですか…良かった…」

その会話を聞いていた女中達もほっと胸を撫で下ろす。

女中達には納言は誘拐された、とだけ話してある。もしも競りで売られかけたと言ったらどんな反応をするのだろうか。

そんな事を考えながら納言の部屋の前に立つ。

最近無駄なことを考える事が多い。昔は特に何も考える事など無かったが、俺も随分周囲に影響を受けているようだ。

コンコン

「お嬢様、入っても宜しいですか」

「えぇ、良いわよ」

これはもう合言葉のようなもので、口調も内容も一切変えない。

扉を開けると、納言は籐椅子を2つ出していた。1つはお気に入りの揺り椅子だ。

「貴方、なんでこの色にしたの?」

椅子の横の机に紅茶を置いていると、突然尋ねてきた。

納言の手には俺の買った毛糸が収まっている。

「何となく目についたからです。それと、お嬢様に似ていたからですね」

何故かは知らないが、霧原の血筋は代々瑠璃色の瞳を持っている。

だからこの毛糸を見た時に納言の瞳が連想された。それだけである。

「お嬢様はどうしてその色に?」

納言が買ったのは紫色の毛糸。その色が好きだというのは知らなかった。いや、好きな色なんて元々聞いたことも無かったか。

納言は少し俯いて呟く。

「綺麗、だったから」

顔は見えないが、何故か耳まで赤くなっている。

そんなに恥ずかしい事では無いと思うが…

「それより!早く作りましょう?作り終わるまでどのくらい時間がかかるの?」

「長さによります。どのくらいにしましょうか」

「え、えーと…じゃあ、貴方が巻くならどれくらいの長さが良い?」

渡す相手の身長は俺と同じくらいなのか。

「200cmくらいが好ましいですね。その長さだと手編みなら大体2日程かかります。睡眠と食事を除きますが」

「除かなかったらどれくらいなの?」

「遅めに見て一週間、早ければ5日です」

「そう、それなら問題無いわね」

ほっとしたようにそう言って毛糸の入った籠を俺に渡す。

「知ってると思うけど、この部屋は防音機能も付いているから普通に話しても平気よ」

「存じております」

編み棒を持って毛糸をかける。

「始めは普通のマフラー編みと変わりませんよ。できるだけ模様がつかないようにするなら目は細かい方が良いですが」

スルスルと棒を動かして毛糸を編む。

納言は始めは苦心していたが、10分も経つと慣れた手つきで編み進めていく。

「…ねぇ式部」

“本名”を呼ばれて一瞬躊躇うが、それに応じた返事をする。

「なに」

「私が拐われた時、私のこと買ってくれたでしょ?」

「あぁ」

その時の金額でも聞かれるのだろうか。

「その帰りのことなんだけど…」

納言は少し言いにくそうに先を続ける。

「あの女の人、どうやって黙らせたの?」

マフラーを編む手が止まる。

真逆そのことを聞かれるとは思っていなかったが、特に隠すことも無いので隠さずに答える。

「適当に金を渡して黙らせた」

「その後。急に声がしなくなった時のこと」

「口を塞いだ」

「…嘘吐いてない?」

しつこく聞いてくるが、嘘も吐いてないし隠していることも見当たらない。

「吐いてない。何かあったのか?」

「ううん、なんとなく変な感じがしたから。ああいう人ってお金だけじゃ帰してくれないでしょ。だから直ぐに帰らせたのはおかしいなって思って」

確かにそうだが、金を渡して口を塞いだくらいしか覚えがない。あぁ、その後にした目配せのことか?いや、それは違うか…

「口を塞いだって、何で塞いだの」

その質問でやっと気づいた。

路地の奴らも売人の奴らも良くやっていた事だったのだが、納言たちにとっては異常な行為。

「…口、だった気がする」

少し遠慮がちに言う。

「く、くちでくち…!」

納言は自分の口を両手で押さえて顔を真っ赤にする。

「変態!破廉恥!助平ぇ!」

あぁ、思った通りの返事がきた。

「そんな事言われても俺の中では常識だ。娼婦に絡まれたらそう言う対処をするしかないんだよ」

「しし、娼婦?!今まで絡まれた事が…!」

ますます顔を赤く染めて自分の事のように恥ずかしがる。

「あのなぁ、路地裏なんかではそういう奴らは珍しく無いんだよ」

「そ、そうなの…?」

「そうだから。分かったら手を動かせ。そんな調子だと終わらないぞ」

無理矢理話を逸らして編み物を続けた。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.135 )
日時: 2017/11/28 16:34
名前: ぴろん (ID: kI5ixjYR)

20頁目



「路地裏では普通…」

納言は手を動かしつつも少し寂しそうに呟く。

「…誤解してるようだから言っておくが、俺はそういう奴らと関係を持ったことは一度も無い。元々好きじゃないし金取られるだけだから」

「そ、そっか!そうだよね!」

恥ずかしいのを隠すように大きな声で言う。

「うんうん、式部だもん…なんか想像つかないし…」

失礼な事を言われた気がする。

「式部って付き合ったりしなさそうだよね。何と言うか、1人にしてくれーって言う雰囲気が漂いまくりだし」

「まぁ人付き合いは嫌いだな」

「えっ」

驚いたように肩をビクッと震わせる。

「もしかして、今まで無理させてた?」

「今までっていうかずっとだろ。態々演技までしてるんだし、あれで疲れないわけはない。そういえばここに来てから寝る頻度が大分増えたな…」

「ごめんなさ…ん?」

納言はまた毛糸を編む手を止める。

「今なんて言った?」

「演技をしてる」

「その後」

「疲れる」

「もっと」

「寝る頻度が増えた」

それを聞いて納言はまた問う。

「前に寝たのって何時?」

「前にって…」

ん?何時だったか…まず昨日は寝てなかったはず。となると一昨日、も寝てない。その前も寝てないし…

「5、6日前?」

「…何処でどれくらい寝たの?」

「確か買い物の帰り道で寄った公園のベンチ。時間は20分、いや、途中で食料盗ろうとした奴がいたから15分か」

あぁ、確かだ。あの日は日当たりの良いベンチが空いてたからそこに座って寝た。

「式部、それは世間一般では睡眠じゃないの。お昼寝、もしくは休憩だよ」

「そうなのか」

呆れた顔の納言と目を合わせないようにして編み続ける。

「5日も寝てないって大丈夫なの?しかも、これで昔より頻度が増えたってどういうこと?」

「お前に会う前は2、3ヶ月に1回の睡眠だった」

「よく生きてられるね」

「化け物だからな」

納言はやっと編み物を再開する。

「そんなんだと体調崩すんじゃないの?式部って偶に熱出してるし」

「その位は普通にあるだろ」

「そうじゃなくって、いつか倒れちゃうかもっていうこと」

「そんな高熱は100年に一度くらいしか…」

…100年?

「どうしたの?」

「いや、前に倒れたのって100年前だなと思って」

「100年前?式部って他の人より長生きなのは知ってたけど、100年前って結構お爺さんなのね」

「そうじゃない。100年経ったってことはそろそろ倒れるんだよ。その辺の周期は間違いない」

前に倒れた時は確か10日は寝たきりだったような気もする。

「まぁ、そろそろ倒れるかも知れないな。その時は出来るだけ部屋で倒れられるよう努力する」

「努力の方向性違うって!それなら編み物一旦やめて良いから寝て!ベッド貸すから!」

ボフボフと寝台を叩く。

「お嬢様、埃が舞いますよ」

「お嬢様じゃない!古くからの友人としての忠告!ほら早く寝て!」

編み棒と毛糸を引ったくられ、無理矢理ベッドに寝かされる。

「起き上がっちゃ駄目だからね!横で監視してるから!」

「いや、横になるのはあまり好きでは…」

「良いから寝なさい!」

その迫力に気圧されて固まる。

「横で編み物してるから。何かあったら言ってね」

「座って寝て良いか」

「…寝るならよし」

起き上がって壁にもたれ、目を閉じる。

寝ろって言われても意識的に寝たことは無いし、取り敢えず眠く無い。仕事も残ってるし隙をついて逃げ出すか…

暗闇を見つめながらそんなことを思っていると、ふと物音が聞こえた。

「あ、忍さん!お帰りなさい。怪我とかしてない?」

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

忍が帰って来たらしい。荷解きを手伝って紅茶を淹れなければ。

「今神代を寝かせたの。最近寝てないっていうから」

「そうなのかい?じゃあ起きないように見張っておこうか」

「良いの?じゃあ私御手洗行ってくるわ」

パタパタと廊下を走る音が遠ざかって行く。

「…で、式部くん。どうしてこんな事に?」

矢張り気づかれていたか。

俺は目を閉じたまま答える。

「編み物を教えながら話してたら寝ろと言われた」

「うん、物凄く省略されたみたいだけど分かりやすいね。それで素直に寝たフリをしてたのか」

「こんなことでも主の命だ。取り敢えずは受けるしかない」

「ふふっ、真面目だねぇ」

忍は先程まで俺が座っていた籐椅子に腰かけたようで、少し椅子を軋ませながら話す。

「僕がいない間に何かあったみたいだけど」

「納言が誘拐された」

「…いや、納言はここにいるでしょう?」

「誘拐されたから連れて帰った」

少し説明を補って目を開ける。

「正確には買い戻したって感じだが」

「まさか…」

忍は眉間に皺をよせる。

元々が柔和な顔なので、少し滑稽な表情である。

「オークションに出てたよ。3900万でお買い上げだ」

「それってうちのお金から?」

「心配するな。俺の自費だ」

「そっちの方が心配だけど…まぁ、有難う御座います」

ヘラっと笑って頭を下げる。

「実際俺の管理不足なんだがな。付いてくるなと命令されると難しい」

「確かに。その件も考えものだねぇ」

「全くだ」

そう相槌をうった所で、納言の気配を感じて目を閉じる。

「ただいま!起きてないよね?」

「そんなに大声出したら起きちゃうよ」

「あ、そっか」

小声でそう言って揺り椅子に腰掛ける。

「忍さんは何か欲しいものある?」

俺を起こさないようにか、小声で囁くように言う。

「ん?急にどうしたの」

「皆に贈り物をしたいの。使用人さんはお給金を少し増やして、祥子には服とか鞄とかをあげるつもりなんだけど、忍さんは何が欲しいのかなって」

忍は少し間を空けてから答える。

「僕は納言さんが選んでくれるなら何でも良いけど…あ、外でお弁当とか食べたいかな。家族皆で遠足みたいな」

「ふふふ、じゃあその時は私がお弁当作るわね。これでも料理の腕には自信があるの」

「知ってるよ。卵焼きもお味噌汁も絶品だったなぁ」

「あの夜は式部がいなくて…あ、この家を探しに行ってくれていた時か」

そういえばあの夜は帰ってきたら夕飯は済んでいた。納言が作ったのか。

2人の会話を聞いていると、5日ぶりの眠気がやってきた。

「感謝しなくちゃねぇ。式部くんにはどんな贈り物をするの?」

「…絶対に内緒よ」

そう前置きをして小声で何かを言っていたが、その言葉は睡魔と急激に膨らんだ闇に掻き消されてしまった。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.136 )
日時: 2017/12/15 16:56
名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)

21頁目



薄闇の中で目が覚めた。

どうやら本当に座ったまま寝てしまったらしい。頭の上から布団が被せられていた。

取り敢えず布団を取ろうと体を動かした所で頭に鈍痛が走る。

「っ…」

こめかみを押さえつつ布団を取る。

横では無防備にも納言がスヤスヤと寝息をついていた。

寝相で剥がれていた布団をかけ直してやり、ベッドから降りる。

足元がふらつくが何とか歩ける。

壁掛け時計を見ると、もう時刻は午前3時を回っていた。

音を立てないように部屋を出て台所へ向かう。

熱っぽさと頭痛は治らないが、視界は一応はっきりとしていた。

洋服のままだと首元やらが苦しかったので、空いている部屋で黒い着物に着替える。

「はぁ…」

喉も少し痛むが、それ程ではない。

頭痛を紛らわそうとこめかみを小突くが、余り意味は無さそうだ。

着物を着ているからという訳でもないが、何となく和食を作る。

「お早う御座います!」

大声と共に勢いよく扉が開く。

「お早う御座います」

「あー、また神代さんに勝てませんでした…何時に起きているんですか?」

若々しい張りのある声。何時もならば特に何も感じないが、この声は異様に頭痛に響く。

「今日は遅れましたけど、3時くらいですね」

「早過ぎですよ。ちゃんと寝てるんですか?ってあれ、和服なんですね。珍しい」

「少し調子が良くなくて。味見してもらえませんか?」

「では遠慮なく」

そう言いながら味噌汁を一口飲む。

「あら、美味しいですね。それより体調は大丈夫なんですか?少し休んだ方が…」

「偶にある事ですから。それに私が朝から休むと皆さん大変でしょう」

「まぁそうですけど…兎に角、出来るだけこまめに座って休憩取りましょう!椅子取ってきますね」

パタパタと外へ出たのと入れ違いに女中達が入ってくる。

この順番は何時も通りだ。あの若いのは俺より早く起きようと頑張っているらしいが、他の女中は普通に起きる。

「お早う御座います。和服、珍しいですね」

「偶に着ますよ。これの方が楽ですから」

後から来た者には説明を省いて答える。

「もう朝食作って下さったんですか?」

「おかずと汁物の準備だけですよ。お米はまだです」

「それなら張り切って炊きますね」

そう言ってニコッと笑う。

一層の事全ての仕事を任せたいくらいなのだが、まぁ少しの辛抱だ。

「椅子持って来ましたー!」

店先の娘のような大声で言う。

正直、物凄く頭が痛い。この娘の声は本当に響く。

「神代さん、どうぞ」

「有難う御座います。後で使いますね」

「後じゃないですよ!今も結構辛いんですよね?なら休まなきゃです!」

その声が響いて辛いんだが…

少し溜息を吐いて微笑む。

「では、遠慮なく」

そう言って椅子に腰掛け、懐から手帳を出す。

この感じだと何時もより仕事は大分遅くなるな。となると、この時間に買う場所を少し変えて短縮して…

そんな事を考えながら修正を加えていく。

「御影さん、体調悪いんですか?」

手の空いた女中が話しかけてくる。

「えぇ、少し。そこまで酷いわけでは無いので大丈夫ですよ」

「そうですか…無理しないで下さいね。倒れたりしたら大変ですから」

誰がどう大変になるのかは分からないが、まぁそれなりに迷惑はかかるだろうな。

「ご心配には及びませんよ。取り敢えず朝の仕事を済ませてしまいましょう」

手帳を懐に入れて立ち上がる。

多少の立ち眩みはあったが、それを悟られないように部屋を出る。

また適当に空いている部屋で着替えを済ませながら予定を確認する。

まずは今朝届いた荷物の搬送か。特に問題は無いな。

荷物を持って玄関と倉庫を何度か往復する。

今までも貧血からくる立ち眩みはよくあったので、支障無く業務をこなせた。

倉庫側の窓は忍の部屋のものだが、人の気配は無いので恐らくもう起きたのだろう。

容体は日光に当たってより悪化したような気がするが、働けない訳ではない。

足早に館内に戻り、紅茶の準備をしてから納言の部屋へ向かう。

コンコン

「お嬢様、入っても宜しいですか」

「えぇ、良いわよ」

はっきりとした声が帰って来た。俺の所為で夜更かしをしたということも無さそうだ。

「失礼します」

納言はもう身支度を済ませており、揺り椅子に腰掛けて編み物をしていた。

「昨夜は失礼致しました。何か調子の悪いところは御座いませんか?」

「平気よ。貴方も座ったままだったけれど大丈夫なの」

「えぇ、慣れていますから」

寧ろ慣れていないのはいやに寝付きが良かったことだ。今日の体調からして疲れが溜まっていたのだろう。

「朝食は如何致しますか?」

「広間で食べるわ。うん、今日も美味しいわね」

淹れたての紅茶を一口飲んで言う。

「忍さんはもう起きているかしら」

「お部屋にはいらっしゃいませんでした。そろそろ朝食の準備も整っている頃ですから、広間にいらっしゃるかと」

「そう、じゃあ行くわ」

空になったカップを置いて立ち上がる。

俺はそれを取って部屋の扉を開ける。

「私は祥子様を起こして来ますので」

「あぁ、そうだったわね。じゃあここで」

曲がり角で納言と別れ、祥子の部屋へ向かう。

コンコン

「お早う御座います、祥子様。朝食の準備が出来ましたよ」

「はーい」

寝惚けた声に半ば呆れつつも扉が開く。

「失礼致します」

「お早う御影。それよりこれってリボン結べてるかしら?」

そう言って制服の胸元を指す。

「結び直しましょうか?」

「あぁ、やっぱり曲がってるのね。直してくれる?」

赤いリボンをシュルリと解く。

「今日の朝食は洋食?」

「和食で御座います。お気に召しませんでしたら直ぐ新しいものを…」

「出されたものは大体食べるの。お気に召さないのは苦瓜と辛い物ですー」

「存じております」

小さい頃の納言にそっくりだ。違うのは呼び方くらいだな。

そんな事を考えながらリボンを結び終える。

「はい、どうぞ」

「ありがとう。また練習するわ」

そう言って立ち上がり、伸びをする。

俺は先に扉を開いて外へ出る。

「ねぇ御影」

「何でしょうか」

「今日、貴方変よね」

体調がバレたのかと一瞬固まるが、平静を保って答える。

「そうでしょうか?すみません。以後気を付けます」

そう言って頭を下げ、部屋を出るよう促す。

「うーん…なんか変よね…」

祥子は暫く考え込んでいたが、直ぐにどうでもよくなったのかニコニコ顔で広間へ向かう。

「御影はこの後も仕事?」

「備品の整理をしてからお食事の片付けに参ります。何か用がありましたら何時でもお申し付け下さい」

そう言ってまた頭を下げて祥子とは逆方向へ向かう。

そろそろ不味いな…目が霞んできた。取り敢えず倒れる準備だけでも…

朝から治らない頭痛にこめかみを押さえながら、フラフラとした足取りで自室に入る。

階段を降りるのが中々のじゅうろうどうだつたが、なんとか下りきって鍵のかかっていない鉄格子の扉を開ける。

鉄格子の中にある本棚に凭れ掛かるようにして座り、内側から南京錠をかけた。

「やっとゆっくり寝られる…」

今後一週間分の予定が頭の中を回っていたが、少しすると眠気でそれも薄れていく。

今なら女中も多いし忍もいるし、最悪納言も家事くらいは出来る。俺がいなくても特に問題はないだろうな…

そんな無駄な思考を最後に、俺の意識は途絶えた。


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