二次創作小説(紙ほか)
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- ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
- 日時: 2021/09/10 03:28
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
初めまして。カキコ初見のぴろんと申します。
初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります。
コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!
※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。
・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。
・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からない表現や言葉等があった時はコメントで質問をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。
・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂けると幸いです。
2016/12/30 閲覧数100突破!本当に感謝です!
2017/01/14 閲覧数200突破!有難う御座います!
2017/02/09 閲覧数300突破!唯々感謝です!
2017/03/01 閲覧数400突破!感謝感激雨霰です!
2017/03/24 閲覧数500突破!有難う御座います!
2017/04/23 閲覧数600突破!泣くほど感謝です!
2017/05/13 閲覧数700突破!感謝しすぎで死にそうです!
2017/05/28 閲覧数800突破!本当に有難う御座います!
2017/06/21 閲覧数900突破!物凄い感謝です!
2017/07/02 閲覧数1000突破!信じられないです…有難う御座います!!
2017/07/18 閲覧数1100突破!有難う御座います!
2017/08/03 閲覧数1200突破!感謝ですっ!
2017/08/30 閲覧数1300突破!有難う御座います有難う御座います
2017/09/24 閲覧数1400突破!本っ当に有難う御座います!
2017/11/03 閲覧数1500突破!感謝しかないです!
2017/11/29 閲覧数1600突破!本当に感謝します!
2018/01/08 閲覧数1800突破!1700飛ばしてすみません!有難う御座います!
2018/01/13 閲覧数1900突破!年始効果でしょうか…有難う御座います!
2018/01/27 閲覧数2000突破!こ、これは…夢でしょうか…?!本当に、心から感謝致します!!
2018/03/07 閲覧数2100、2200突破!1つ逃してしまいました…ありがとうございます!
2018/03/28 閲覧数2300突破!ありがとうございます…!!!
2018/04/17 閲覧数2400突破!間に合わないのがとても嬉しいです…!
2018/05/13 閲覧数2500突破!いつの間に…?!有難う御座います!!
2018/05/20 閲覧数2600突破!とてもとても!感謝でございます!!
2018/05/23 閲覧数2700突破!ぺ、ペースが早い…!ありがとうこざいます!!
2018/06/02 閲覧数2800突破!間に合わなくてすみません。有難う御座います!
2018/06/29 閲覧数3000突破!え、あの、ごめんなさい!有難う御座います!なんかします!
2021/09/10 閲覧数7000突破!有難う御座います。恐らく更新はありませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。
何時の間にか返信数も100突破です。有難う御座います!
2017/06/30 本編完結。今後とも宜しくお願い致します。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.117 )
- 日時: 2017/07/29 09:47
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
4頁目
店内は子供の好きそうな甘いものから酒のつまみまでいろんなお菓子が並んでいる。
「おばーさん!こんぺいとうってある?」
茜は興奮気味に奥に座っていた年老いた女に言う。
「こんぺいとう?」
「うん!外国の砂糖菓子!」
「こんぺいとう…うーん…うちは外国のは扱わないからねぇ」
「そっか…」
がっくりと肩を落とす。
「あぁでも、あそこの兄さんなら知ってるかもねぇ」
「どこどこ?!」
再度目を輝かせて問う。
「何処じゃったかのぅ…確か斜向かいの方の寂れた倉庫を曲がって…」
「うんうん」
「良くわからない看板を右に行くとあった気が…」
「ありがとう!ほら行くよ!」
日頃の訓練で身に付けた脚力で風邪のように走り去って行く。
「あ、これ買います」
黒は申し訳無さそうに揚げ菓子を手に取って言う。
「まいどぉ」
ニコニコ笑って手を振る。
その笑顔と仕草に、なんとなく違和感を覚えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
駄菓子屋の店主に言われた通り、斜向かいを曲がると〈Foreign-made goods〉と書かれた看板を見つけた。これが良くわからない看板なのだろう。直訳して〈外国製の商品〉
俺が言えたことでは無いが、ここにいる者は余程語彙力が無いようだ。
「あ!やっと来たー!」
看板を右に曲がると茜がピョンピョンと飛び跳ねて待っていた。
「急に走って行くなよな!」
「あはは、ごめんごめん」
山吹に注意されるが笑って流す。
「それよりさ!ここじゃない?なんか見るからに怪しいよ!」
茜の後ろにある建物は、少し古い感じの西洋風な建物だった。
錆びた鉄や古い木の匂いに混じって火薬の匂いもする。奥から何かの腐敗臭も…
「なぁ!扉開かないんだけど!」
ふと見ると山吹が扉を横にガチャガチャと引っ張っている。
「引き戸じゃねぇよ。そこの出っ張り回して押せ」
「これ?」
山吹は首を傾げながらドアノブをガチャッと回して押してみる。
「おぉっ?おおおっ!」
そう言えばこの形の扉も最近になって見られるものだな…となると、西洋の建物なのは間違いないのか。
「紫!開いたぞ!ほら!」
扉を開けただけで大はしゃぎする山吹の横をすり抜けるように建物に入る。
「おぉ〜!」
後ろから入って来た茜が大きな声を出す。
「…んん、客人かい?」
部屋の奥から欠伸混じりの眠たそうな声が聞こえる。
「なんだよ家族連れか…ここは餓鬼が来る場所じゃねぇぞ」
「あの、こんぺいとう置いてますか?」
茜が丁寧な口調で問う。
「こんぺいとう?あぁ、あるよ。そこの樽に一杯な」
「本当ですか⁈」
目を輝かせ、前のめりになる。
「升一杯で200文だ。買ってくかい?」
「に、200文ですか…?」
「不満なら他所を当たりな。貧相な身なりしやがって…冷やかしはさっさと帰れ」
そう言ってしっしっと追い払う動作をする。
「見た目で判断するのは悪い事だと思わないのか?」
黒が少しムッとした顔で言う。
「あぁ?知らねぇよ。中身見てもらいてぇなら外見飾ってこい。餓鬼」
餓鬼なのは確かだが、こう何度も繰り返し言われて嬉しいものではない。
「なら外見を飾ればいいんだな」
「まぁそうなるな。見た所貧乏そうだしそんな餓鬼に売るものは…」
ザッ!
何かが突き刺さる音が聞こえる。
「あんたさっきから餓鬼ってうるさいんだよ。こう見えてこいつはこの中で最年長だ」
山吹が小刀を投擲した音だった。
そう言えば山吹は子供扱いされるのが嫌いだったな…
「な、なんだよ…いきなりこれは無いだろ」
小刀を拾って言う。
「仮にも客人にその言い方は無いでしょ?」
後ろで茜も小刀を構えて威嚇する。
先程習ったばかりだが中々様になっていた。
「ちっ…なんだよ。家族連れの貧乏人かと思ったら殺戮好きの暴力集団かよ」
殺戮好き…?
ヒュンッ
風を切る音が鳴る。
俺は無意識に鎌を突き付けていた。
「殺戮好き?俺とあいつらを同じにするな。そんな奴は1人で充分だ」
今まで何千、何万人の命を奪ってきた鎌。昔は木の色をしていた持ち手の部分は赤黒く染まっている。
「む、紫。落ち着いて?」
白が俺の様子を伺いながら聞いてくるが、その言葉ももう頭に入らない。
「見た目と持ち物と特技だけで殺戮集団?巫山戯るな、俺とこいつらは違う。殺戮なんて誰でも好んでやる訳じゃあ無いんだよ」
鎌の向きを変え、刃の先端部分を喉元に突きつける。
「わ、分かった!取り消す!」
「じゃあ脅しついでにもう1つ。さっきの値段、嘘だろ」
刃を突きつけたまま言う。
「あれは…その…」
「俺達に帰って欲しかったからか?市場の値段なら升一杯でも13文位が妥当だ」
「…あぁ、でたらめだ。そう言えば帰ると思った」
素直に答える。
「だが、流石に13文じゃあ売れないな。こっちも商売なんだ」
「なら升三杯で40文」
「はぁ?!そんなの1文しか…」
男を軽く睨むと、ひぃっとだらしない悲鳴を上げて怖気付く。
「な、なら、これを買ってくれ。それならその値段で売ってやるよ」
男が懐から何かを出そうとしたので刃を少し離す。
パァンッ!
後ろから何か強い衝撃を受ける。
少し遅れて腹の辺りに激しい痛みを感じた。
「紫っ!」
黒が俺に駆け寄るのと同時に、後ろでガタガタと騒がしい音が鳴る。
「捕らえた!さっきの駄菓子屋の婆さん!」
山吹が大声で叫び、俺の前の男には白と茜が小刀を突き付けている。
「ふん、子供には撃ちたく無かったがな。なにせ西洋の鉄砲の特別製の弾だ」
男が不敵に笑うのが見える。
「すまんのう坊や…わしも仕事じゃ」
「仕事…?」
婆さんは山吹に銃を取り上げられている。
「俺らはこの辺で組合作って臓器密売してるのよ。今までは収入も少なかったけどコレが異国人に大好評!売れ残った奴とか傷物は全部まとめて地下に埋めてあるんだが、これも何かに使えるらしくて儲けもんよぉ」
先程の腐敗臭はそれか…いや、それより今はこの傷をどうにかしねぇと…
「御頭」
茜が刃を突きつけたまま静かに言う。
「指示を」
茜の目は殺気立っていた。
黒はそれを見て、俺を支えながら頷く。
「殺せ」
「了解…!」
「は?嘘だろ?や、やめ…」
男の抵抗も虚しく、首から鮮血が吹き出る。
「山吹、口封じだ。殺せ」
「了解」
後方からも血が飛び散る。
「さてと、ついでに適当に物色していくか。山吹は見張り、茜と白は手分けして食料と日用品だな」
「はーい」
「分かった」
黒の指示でそれぞれが別れて行動を始めた。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.118 )
- 日時: 2017/07/31 20:40
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
5頁目
残った黒は持っていた布を細く裂いて俺の腹に巻く。
「大丈夫か、紫」
「平気…って言いたい所だが、ちょいと時間はかかるな」
「そうか…あの武器、見た所小型の鉄砲みたいだな」
「今までのと違って回転が速い。お前らが受ければ即死だぞ」
そう言いながら立ち上がって直ぐ側にあった樽に座る。
「すまん、もう少し警戒していれば良かったな」
「良いよ。やられたのが俺で良かったな」
「全くだ」
何時もの調子を取り戻したのか、爽やか笑顔で言う。
こいつらは俺の異能を知っている。だから死なない事も知っていたが、撃たれた分やり返すのは変わらないようだ。
「おぉっ!こんぺいとう発見!」
奥の方から茜の嬉しそうな声が聞こえる。
「ちょっ、俺も見たい!黒代わってー」
「死体漁り中だから嫌だ!」
黒はとても楽しそうに血塗れの死体を漁っている。こうなった黒はテコでも動かないからな…
「じゃあ俺が代わる」
「えー?一応怪我人だろ?」
「もう治った。それよりお前返り血ついてるぞ」
「うわっ、本当だ!」
頬についた血を拭いながら中に入ってくる。
俺は山吹と入れ違いに外に出て見張りをする。
「ところでさー」
「なんだよ」
「ぞーきみつばいって何?」
俺と黒は同時に溜息を吐く。
「そのまんまだよ。人を殺してバラバラにして取った臓器を売る。俺は殺した死体は大抵放置してたけど親族とか葬式あげられない奴はよく売ってたな…」
「へー、どの位売れるの?」
「国内ではそんなに売れねぇよ。唯、海外に出したのは結構高く売れたな。誰かが新しい錬金術でのやり方でも作ったのか」
「れんきんじゅつー?」
こいつは何も知らないのか…
今度は俺の代わりに黒が解説する。
「錬金術って言うのはその名の通り金を作る術の事。正しい手順を踏めばどんな石ころでも黄金に大変身って訳だね」
「すげぇ!儲かるじゃん!」
「詐欺だけど」
「え…」
あからさまに落胆する山吹を見て俺は呟く。
「あれの元は俺がやったんだけどな」
別に誰に言った訳でもない独り言だったが、山吹と茜が大袈裟に反応する。
「金作れるの?!」
「そこの石ころとかで?!」
「…その辺の石ころに含まれる金の元素を取り出せばな。お前らには無理だ」
そう言うと黒が感心して言う。
「へぇ、紫って粒子まで分解出来るんだ」
「経験の差だ。数千年生きてれば大体できる。お前らが飲んでる水もそれで作ってる」
「ってことは空気中の水素と酸素の比率を操ってるの?」
「そんな感じ」
俺と黒の会話を聞いて茜達は首を傾げる。
「兎に角、盗るもの盗ったらさっさと帰るぞ。誰かに見られると面倒だ」
「それ俺が言いたかった…」
引き返そうと出口へ向かう。
トトト、ツーツーツー、トトト…
小さな電子音が鳴る。
「ん?誰かなんかいじった?」
「いや、何も…」
トトト、ツーツーツー、トトト…
何度も繰り返し聞こえてくる電子音。
全員が音源を探して息を潜める。
この電子音には心当たりがあった。
確か船が難破した時に同じ音を聞いた。意味はなんだったか…
「黒っ!奥に誰かいる!」
茜がそう言いながら奥の部屋へ駆けて行く。
「そいつが鳴らしたのか!捕らえろ!」
黒の捕らえろは生死は問わない。茜は飛び掛かって先程と同じように首を掻き切る。
血飛沫が床や天井まで飛び散り、赤い模様を残す。
「確認しろ!」
「了解!」
茜は容赦なく身ぐるみを剥ぎ、持ち物を漁る。
「なんか変な機械見つけた!」
「貸せ」
茜から機械を奪い取る。
確かこれは無線機か…なら、先程の電子音はモールス信号でいう“SOS”の救援要請。となると臓器密売の協力者に信号は伝わる筈…
ガシャアン!!
思考を遮るように大きな破砕音が響く。
それと同時に火薬の爆発する音と鉄の匂い、そして…
視界が真っ赤に染まる。
「むら…さ…」
目の前で茜が崩れ落ちる。
茜は俺の肩に寄りかかる様に倒れ、石の床に赤い液体を広げる。
徐々に失われていく体温と血液。それを見て瞬時に理解する。
茜は死んだ。
目の前に並んでいる男達が持っている物は、恐らく先程の銃と同じような物…
考えている間にも男達は部屋にある扉から入って来る。
俺は茜に麻布をかけ、異能で銃弾を防ぎつつもう一つの出口…黒達のいる部屋へと駆けていく。
男達は俺に銃弾が当たらなかった事に驚いて動きが止まる。
部屋の中は赤く染まっていた。
壁や床に血飛沫が飛び散り、部屋の隅には白と山吹が…いや、そうだったモノが転がっていた。
出口にはまたしても男達が銃を持って立っている。
「紫…」
俺の直ぐ横の壁にもたれかかる様に黒が座っていた。黒も他の二人同様に血塗れになっている。
「死ぬな…よ…」
そう言って手を伸ばす。
俺はその手を受け取り、握り返す。
「了解、御頭」
そう答えると、黒は小さく笑って目を閉じた。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.119 )
- 日時: 2017/08/03 19:42
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
6頁目
力を無くした手が俺の手から離れる。
俺は目を閉じ、息を吸う。
全方位から聞こえる破砕音と怒声。金属が擦れ合う音。
目を開けると、絶命した仲間4人の血飛沫。
俺の…俺と言う殺人鬼の、たった5年の休暇は、余りにも呆気なく終わりを告げた。
俺は考える間も無く1人の男の背後に回り込み、首に鎌を入れる。
筋肉の繊維がブチブチと切れ、刃は骨に当たる。
そのまま骨を外すように押し切り、またブチブチと繊維が切れ、最後に首の皮がブツリと切れた。
久し振りの感触。
無表情を貼り付けたままの首が斜めにずり落ち、遅れて動脈から血が吹き出る。
ゾクッ…
手に伝わった感触、目の前で起きる光景が、妙な快感を引き起こす。
「いっ、何時の間に…!」
焦って振り返った首を同じ様に斬る。
今度は怯えた表情を貼り付けた首が出来上がった。
ゾクゾクッ…
背筋から首筋にかけて、痺れる様な快感が駆け登る。
それを味わいながら見上げると、色々な顔が俺を見下ろしていた。
驚き焦った表情、怒りの表情、怯えて絶望した表情…
俺に向けられた様々な感情を命ごと、魂ごと掻き斬っていく。
ザシュッ!
乱暴に鎌を振って首を飛ばす。
「うわあああっ!!」
男達が散り散りになって逃げていく。
逃げられる前に出口を異能で塞ぎ、退路を断つ。
「なんだ?!出れないぞ!」
そう叫んだ男の首も同様に掻き切る。
自分から抜け落ちた何かを探して。
つい先程まであった何かを…
ふと、この快楽がそうでは無いかと気付く。人を斬った時のこの快感がその何かではないかと。
それなら簡単だ。
「全員…斬り殺す」
血飛沫は日が沈むまで続いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この時から俺は、昔と同じ快楽殺人鬼となった。それからの出来事は…まぁ、一応綴っておこう。自分の半生を書くのだ。此処からが俺の人生の殆どを描いている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「御影!来い!」
夜遅く、気取った女の声が聞こえる。
「はい、お呼びでしょうか」
直ぐに側に寄って膝をつく。
「食事じゃ。直ぐに持て」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げてから目を合わせる。
「主の仰せのままに」
小さく微笑んでから部屋を去る。
あの時から十数年経ち、今では街一番の豪邸に住んでいる。
…と言っても、自分が主人では無く主の側近としてだ。執事のようなものである。
「お持ちしました」
「うむ。早く食わせろ」
今では主もすっかり気を許し、全ての行動を俺と共にするようになった。
「御影、お前は私が死んでしまったらこの跡を継いでくれるか?」
「いえ、貴女には御子息がいらっしゃるでしょう。私等がそう易々と受け継ぐなどあってはなりません」
この堅苦しい言葉遣いももう慣れたものだ。
「嫌だ!お前でなければ…!お前が継いでくれるならば、この一族は皆殺しにしても良い。私も夫も息子も召使いも!全員殺しても構わない!だから、だから…!」
「いけません主。そのような大声を出してはお身体に触ります」
興奮する主を優しくなだめる。
「では私は此れで」
「待ってくれ!お願いだ…私の跡はお前でなければ…!」
「皆殺し、ですか?」
振り返らずに問う。
「あぁ、そうだ。だからお前が…」
「それでは、了解致しました」
笑顔で振り向き、近づく。
「つきましては、その“皆殺し”の件。私が責任を持って遂行致します」
「な、何を…」
ザシュッ
驚きの表情のまま、首がずり落ちる。
白い布団にジワリと赤色が滲み、噴き出る鮮血が更に赤く染めていく。
「その言葉を待っておりました」
鎌を担いで部屋を出る。
「ひっ」
外に立っていた召使いが小さく悲鳴をあげる。
「お静かに」
悲鳴が響く前に喉ごと掻き切って声を止める。
この屋敷には10年以上勤めている。此処から1人も外に出さずに“皆殺し”すれば自分の正体も暴かれる事はない。
目についた者から確実に斬り裂いていく。
それが人であれ犬であれ鳥であれ関係は無い。目についた生き物は全て斬る。
「誰か!鎌を持った男が皆様を…!」
逃げていく召使いが助けを求めて叫ぶ。
「主の側近の名も覚えていないのか」
召使いの首に鎌を突きつける。
「あ、貴方は…?!」
「冥土の土産に教えてやろう。俺の名は紫。ただの殺人鬼だ」
ザシュッ!
一人一人狩っていては拉致があかないが、1人も逃すわけにはいかないな。上手く一箇所に集められれば良いのだが…
また新たに首を斬りながら考える。
…そうか、助けを求めれば良いのか。
息を吸い、先程殺した女中の声を真似て叫ぶ。
「誰か!助けて!!」
その声は遠くまで響き、やがて騒めきとなって返ってくる。
「今の声はなんだ?」
「助けを求めていたわ!」
「直ぐ行こう!」
奥から男女10数名の声が聞こえる。
「おーい!大丈夫かー?」
「あっ!御影さん!此方の方から…」
全員がビクッと立ち止まる。
「そ、その血と鎌は何ですか…?」
「何って、見れば分かるでしょう」
刃先から滴る血を振り落とす。
「大人しくしていて下さいね」
ニコリと笑い、先頭にいた男の首を斬る。
「キャアアアアッ!!」
「誰か!誰か助けて!」
「うわあああああっ!!」
断末魔を響かせてから順に首を斬っていく。
「おい!誰かが叫んでるぞ!」
「行きましょう!不審者かもしれません!」
断末魔に呼び寄せられるように続々と人が寄って来る。
「み、御影さん?!」
「真逆…そんな!」
驚愕する者達を片端から斬り殺していく。
暫くして、悲鳴と断末魔が鳴り止む。
此れで粗方片付いた。残りは子供と乳母達だ。
障子の前に立ち、返り血と鎌を隠す。
「失礼します」
「御影さん?何でしょうか」
中から女の声が聞こえる。
「襲撃です。皆さん急いでお逃げになって下さい」
「まぁ…!皆さん聞きました?!急いで逃げましょう!」
「で、ですが何処へ…?!」
部屋の中は直ぐに騒がしくなっていく。
「落ち着いて下さい。私が誘導致しますので1人ずつ此方へ。抜け道があります」
「あぁ、有難う御座います。何時も御影さんには助けて貰ってばかりで…」
「急いで下さい。直ぐに此方にも来てしまいます」
そう言うと部屋から1人ずつ出てくる。
「此方の倉庫の中なら安全です。ですが扉の鍵は持って来れなかったので、此方の小窓から中へ入って下さい」
「えぇ、分かりました」
梯子を使って1人ずつ中へ入って行く。
「坊っちゃまはどう致しましょう?」
「私が抱えて入ります。お先にどうぞ」
「分かりました」
子供を預けて中に入って行く。
「全員入りましたか?」
「はい、全員無事に…」
「ではまた来世で」
ザンッ!!
高さを揃えて倉庫ごと全員の首を切り裂く。
一瞬で首が落ち、叫ぶ間も無く絶命した。
「坊、お前も後を追え」
「あぅ、うぁあ」
まだ言葉もままならない小さな子供の首を斬る。
その感触は今までのものとは程遠く、いとも容易く皮は途切れた。
「これで全員か…」
鎌をしまってコキリと手首を鳴らす。
次は何処に行くべきか…流石にこの人数は疲れる。もっと人の少ない所か?それだと殺しがいも無いし…
考えながら黒い大きな着物を頭から被り、血を隠す。
取り敢えず見つかるまでの拠点を決めるか。
人のいなくなった館を後にし、静かに外へ出て行った。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.120 )
- 日時: 2017/08/06 17:04
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
7頁目
フラフラと歩き回りながら思考を巡らせる。
今回やってみたのは内部に侵入して気を許し、その後大量に虐殺する方法。だがこの方法では時間がかかり過ぎるし自分への負担も多い…
矢張り前のように通り魔として殺すか?いや、あれは目撃者全てを殺すのに骨が折れた。もう少し効率的に殺せる方法は無いものか…
死人のように項垂れて歩いているうちに、いつの間にか昔の路地裏に着いていた。
「懐かしいな、あれから10年か…」
路地裏から大通りに向かって歩く。
最後の日は此処から歩いて…
月明かりに照らされた道を歩く。
魚屋、八百屋、この後が駄菓子屋で…
駄菓子屋の前に立って顔を上げる。
かつての駄菓子屋は既に潰れ、空き家になっていた。
「おう兄ちゃん。良い身なりしてんなぁ」
空き家の中から汚れた男が出てくる。
「…此処は前、駄菓子屋じゃなかったか?」
「駄菓子屋?あぁ、それなら10年位前に此処の婆さんがくたばってよ。そっからは無法者共の溜まり場よ。俺はその見張りって訳」
よく見ると空き家には大勢の男達がたむろしていた。
「なら、斜向かいの倉庫を曲がって看板を右に曲がった所にある店は?」
「ん?もしや兄ちゃん、あの店を知ってるのか?」
「あぁ、随分前に訪れた」
そう言うと男は驚いたように目を見開く。
「へぇ〜!そんな身なりして彼処行ったことあるのか!となるとこの駄菓子屋を訪れるのも頷けるわ」
そう言ってうんうんと頷いてみせる。
「どう言うことだ」
「此処の婆さんは裏で臓器密売の奴らと組んでてな。よくそこの店に連れ込んで臓器を取ってたんだよ。此処を訪れた餓鬼とかを狙ってな」
10年前の出来事を思い浮かべる。
確かにこの駄菓子屋は近辺ではこの店しかない筈なのに来客数が少ない。殆ど殺していたのか。となるとあの店は…
「それで、なんか用かい?わざわざ此処に来たって事はあの店に用があるんだろう」
「特に無い。それより店は今誰も住んで無いんだな」
「10年前からだあれも使ってねぇよ。なんだ、そこに越すつもりだったのか」
「今決めた。この布情報の礼にやるよ」
来ていた羽織を脱いで渡す。
「お、儲け…って何だ?赤い染みが…」
顔を上げた男は小さく悲鳴を漏らす。
「お、お前!その血は…」
「不本意だがお仲間だ。またな」
血に濡れた袖を捲り、軽く手を振りながら背を向けた。
倉庫を曲がって暫く歩くと看板が見えてくる。
〈Foreign-made goods〉
いつ見ても可笑しな名前だ。
偶々近くに転がっていた墨をかけて文字を消し、鎌の刃から滴る血で文字を書いた。
〈Guilty store〉
「余り変わらないか…」
鎌をしまい、建物の中へと入って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コン、コン
遠慮がちに扉が叩かれる。
「どうぞ」
「し、失礼致します…」
入って来たのは臆病そうな女性。周りを警戒してキョロキョロとしていて落ち着かない様子だ。
肌は白く、痩せている。目の下にも薄いクマが出来ていた。
「そちらにお掛け下さい」
「は、はい」
オドオドしたまま籐椅子に座る。
「ようこそ、Guilty store へ。それで、ご用件は?」
ニコリと微笑みながら問う。
「そ、その…えぇと…」
女はまごついたまま中々話さない。
「…Guilty store の意味を知っていますか?」
「へ?い、いえ。存じ上げません」
「“有罪の店”ですよ。その前にどんな事をしていたとしても、貴方がこの店に入った時その瞬間から誰でも等しく有罪です。つまり私も有罪仲間。何でも気兼ね無くお話しして下さいね」
そう言うと女の顔は幾らかほぐれ、微かに笑みを浮かべる。
「実は、先日主人が殺されまして…その犯人を、その…」
「探して欲しい、と?」
女は小さく頷く。
「とても優しい主人だったのです。余り裕福では無かったのですが、月に1度は必ず2人で何処かへ出掛けたのです。思い出作りだと言って遠出したり近辺を散歩したり…」
話しているうちに女の目から涙が零れ落ちる。
「その犯人は分かっているのですか?」
長話になる前に話題を断ち切る。
「いえ、分かりません。近所の方によると恐らく男の方だったと」
「そうですか…1度、お宅を訪ねてもよろしいでしょうか?何か手掛かりが見つかるかもしれません」
「ひ、引き受けて下さるのですか?」
「勿論です、そういう商売ですから。それを知ってて貴女も来たのでしょう?」
軽く身なりを整える。
「ご案内頂けますか?」
そう言うと、女は急いで立ち上がって案内した。
路地を抜けて幾つかの通りを横切って行くと、小さめの平屋が見えてきた。
「この家です」
平屋の前に立って言う。
「ほぅ、立派な家ですね」
「もう半分廃屋のようなものですよ」
「それを言われたら私の店は灰になってしまいます」
「まぁ」
軽い冗談を言いながら中に入る。
「では、失礼します」
中に入ってすぐ感じたのは鉄の…いや、血の匂い。時間は経っているがそこまで古くもない感じだ。
「ご主人の遺体は?」
「それが…」
女は奥の障子にチラリと目をやる。
「拝見してもよろしいですか?」
「えぇ、是非お願い致します。ですが、その、率直に申し上げて、私はもう見たく無いのです。ですから…」
言葉を探るようにして言う。
「無理に同行して欲しいとは言いませんよ。それなら外でお待ちになっていて下さい」
「助かります…」
深く頭を下げて言う。
俺は容赦なくその障子を開けた。
部屋の中には仰向けに倒れた男の死体。腹部に出刃庖丁が深く突き刺さっている。
まず気づいたのは血の色。死体の周りに広がっているが、そこまで黒ずんでいないない。
死後9時間程度…もう少し短いか?
「ご主人は何時お亡くなりに?」
「夜遅くに私が帰ってきた時に見つけたので…」
口元を押さえながら言う。
「何時頃か詳しい時間は分かりますか?」
「確か、日付は跨いでいると思います。残って仕事をしていましたから」
「成る程」
懐から懐中時計を取り出す。
今は午前8時47分。犯行から見つけるまであまり時間は経っていない。
軽く部屋を見回すが、特に暴れた形跡もなく外から侵入した様な痕跡もない。
身内、若しくは知人の犯行か。
「男性という目撃証言をくれたのは何方ですか?」
「え?隣の奥様ですけど…」
「その方と普段からのお付き合いは?」
「仲は良かったです。偶にうちにお呼びしてお茶を飲んだりしていました。主人同士も将棋を打ったりしていましたから」
気心の知れた知人。何故か真夜中に犯人を目撃。
死体の横に屈み込み、出刃庖丁の柄に軽く粉をつける。
指紋がついていれば判別は可能。他の何処かに依頼するならもう少し証拠が必要だが…
庖丁の柄に模様が浮かび上がった。
俺はその模様を細部まで記憶してから立ち上がる。
「お隣の家に向かいましょうか。貴女は少し待っていて下さい」
「え?」
戸惑う女を後ろ目にスタスタと出て行く。
隣の家の前に立ち、大きめの声で尋ねる。
「何方かいらっしゃいますか?」
「はーい」
中からタタタッと走ってくる音が聞こえる。
「何方様でしょうか?」
ガラッと戸が開き、女が現れた。
「唯のしがない商人です。会って早々失礼なのは分かっておりますが、少しお尋ねしたい事がありまして…」
そう言うと女は不思議そうに首を傾げる。
「何かありましたの?」
「あったといえばあったのですが…まぁ細かい事は構いません。一寸した聞き込みです」
そう言って女の手を取る。
「な、何ですか?」
女は嫌がるでもなく顔を赤らめる。
「いえ、お美しいですね」
「褒めても何も出ませんわよ」
そう言いながらも嬉しそうに顔を赤らめている。
指紋は一致しないか…
「失礼ですが、ご亭主は?」
「奥で寝ております。もしかして主人に何か用でしたか?」
少し動揺したような声色で言う。
成る程…
「用といえば…えぇ、そうですね。呼んで頂けますか?」
「はい、少しお待ち下さいね」
尚も嬉しそうに笑ったまま奥へ引き返して行く。
少し待つと、何とも平凡な男性が出て来た。
「何か用ですか?」
男は少し不機嫌そうに言う。
仕方ない、ここは奥の手か。
「えぇ、少し手を見せてもらってもよろしいでしょうか?」
声を高めに変えて言う。
相手は俺を女だと勘違いし、頬を赤らめながら気持ち悪い手つきで手を出した。
指紋は一致した。
「…有難う御座いました。それでは」
軽い会釈をしてから去っていく。
指紋は一致した。俺の中での証拠は充分だな。
「ただいま戻りました。異常はありませんでしたか?」
「早かったですね。もっと長くなるかと…」
「犯人はお隣の主人でしたよ。奥様も恐らく手伝ったのでしょう」
サラリと言う。
「私の中では証拠は充分です。それで、犯人は見つけましたが、如何するのですか?」
そう問うと女はビクリと固まった。
「真逆見つけてそのまま放置、なんて事は無いでしょうし、私の所へ依頼しに来たのならこの後のことも決まっているのでしょう?」
やんわりと促すが何も話さずに固まったままだ。
俺は女の震えている両手を取り、目を合わせる。
「大丈夫ですよ。始めに言いましたよね?貴女も私も共に“有罪”だと。何も恐れる必要なんてありません」
まるで諭すような口調で言う。
女の震えは止まり、決心したような目でキッと見つめてくる。
「あの夫婦を…殺して下さい」
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.121 )
- 日時: 2017/08/12 21:04
- 名前: ぴろん (ID: 0RpeXsSX)
8頁目
「よく言えました」
そう言ってポンポンと頭を撫でてやる。
女は力が抜けたのか、その場にぺたんと座り込んだ。
「それでは行って参ります。物音、悲鳴などはたてませんのでご安心を」
そう告げて家を出ていく。
「2人か…少し面倒だな…」
コキリと手首を鳴らす。
「失礼致します。先程の者なのですが…」
「どうぞお入り下さい」
言い終わらないうちに女性の声が聞こえ、戸が開く。
「主人は今奥で寝ておりますから…」
そそくさと部屋へ入れてくる。
「良いのですか?他人を簡単に家にあげて」
「良いのです。だって貴方…」
そこまで言って艶かしく目配せをしてくる。
どうやらこの女は娼婦なのか…もしくは、俺をその類の者だと勘違いしているようだ。
俺をさっと部屋に誘い込み、戸を閉める。
部屋には1組の布団。当たりのようだ。
女が布団を整えているうちに鎌を出し、背後から首を斬る。
ザンッ
悲鳴も上げられずに胴体が布団の上に倒れ、首だけが安らかな表情のまま転がっていた。
「悲鳴も聞きたかったが…まぁ、周りに気付かれないようにするにはこれが一番か」
用意しておいた麻袋に首を入れる。
ガラッ
「帰ったぞ」
玄関の方から亭主の声が聞こえてきた。
部屋の戸が開く。
「っ?!」
声を上げられる前に首に鎌をかけ、引く。
ザシュッ!
首が落ちる所を同じ麻袋で受け止め、固く口を縛った。
羽織を着て返り血を隠し、外に出る。
玄関から女が酷く怯えた顔で此方の様子を伺っていた。
「終わりましたよ。ところで、近くに川でもありませんか?着物を洗いたいんです」
そう言うと女は小さく手招きをして家の裏へ向かう。
「ほ、本当に死んだのですか…?」
「不安なら見に行きますか?」
川の横で羽織を脱ぎながら言う。
「いえ、結構です…」
「そうですか」
洗うために着物を脱いでいると、女は物陰に隠れてしまった。
特に気にすることでも無いので話を続ける。
「それで、私は依頼を遂行したわけですが…」
「お金、でしょう?」
俺の言葉を遮るように言う。
「えぇ、一応の報酬を受け取りたいのです」
着物を固く絞って着直す。
「い、幾らですか?」
「貴方なら幾ら払います?」
聞き返すと、女はまごつく。
「報酬はお好きな額で構いません。勿論タダでも。まぁ大抵の場合は口止め料で余分に払われますけどね」
羽織を着て立ち上がる。
「えぇと、では…」
「払いたければ後日お出で下さい。それではまた機会があれば」
そう告げてから、異能で店へと繋げて去っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こんな調子で商売と娯楽を両立していた。
電話が普及してからは直接会いに来る者は少なくなったが、電話での応対の時には声を変えている。
ある時は少女の、ある時は初老の男性の、またある時は貴婦人のような気取った声を出す事もある。
そんな事を繰り返しているうちに可笑しな仇名で呼ばれるようになった。
年齢、性別、容姿…全てがはっきりせず不確かな所から“朧”と呼ばれるようになっていた。
酷い時には更に尾ひれが付き、死体の様子から“首斬りの朧”なんていう安直な呼び方もされた。
そんな面倒な暮らしを始めて数十年経ち、戦争も日本が不利になり始めた頃に、一本の電話がかかってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジリリリリリリリ…
騒々しく鳴り始めた電話を取る。
「はい、Guilty store です。ご用件は何でしょうか」
まだ日も出切らない早朝にかけられ、声を変えるのも面倒になって地声で応える。
『初めまして、清嗣と申します。此処はどんな依頼でもお受けして下さるとは本当でしょうか?』
電話の向こうの男は律儀に自己紹介を交えてから確認する。
「えぇ、何でも致しましょう。遠慮無くお話しして下さい」
声は出来るだけ柔らかくしているが、実際は無表情での受け答え。
『本当に本当ですか』
「本当ですよ。お疑いですか?」
『えぇ、疑っております。儂の依頼を引き受けて下さる方が今までいなかったのですから』
少し落ち込んだ声色で言う。
「大丈夫です。当店は今の所一度も依頼を断った事がありませんから」
『そうですか…では、依頼を致します』
一呼吸置いてから依頼を告げる。
『儂の孫を、育てて下さい。あの子が死ぬまで』
俺の思考は止まった。
この長い人生の中でも、恐らく自分の異能力に気付いた時以来の驚くという感情が生まれていた。
「…それは貴方のお孫さんですか?」
『えぇ、依頼内容は今告げた通りです』
「成る程…」
俺は少しの間考える。
この商売は娯楽の為にやっている。確かに今までもこの店を何でも屋と勘違いした者が荷運びやら潜入間諜やらを頼んできたが、基本的には殺しが本業だ。
そんな店に真逆実の娘の子守を頼んでくるとは…
『矢張り無理ですか…』
受話器の向こうから落胆の声が聞こえる。
その声に俺は咄嗟に答えてしまっていた。
「受けましょう」
そう言うと男は嬉しそうに答える。
『有り難う御座います。あぁ、住所をお伝えするので来て頂けますか?今日からお願いしたいのです』
「えぇ、了解致しました」
少し後悔しながらも相手の告げた住所を紙に書き控える。
『それでは待っております。報酬の方はその時お話致しますので』
「はい。それでは後程」
ガチャン
電話を切ってから数秒、深い溜息を吐く。
今の男性は恐らく70代前後。となるとその孫はまだ幼子。そいつが死ぬ迄仕えるなら…
そこ迄考えて店の事が頭に浮かぶ。
何十年も居座ってきた店を離れるのは流石に名残惜しい。だが先程聞いた住所は此処から余りにも離れすぎている。
「店は一旦閉めるか…」
軽い身支度と荷物の整理をしながら、更に思考を巡らせる。
普通いきなり見知らぬ人間に大事な孫娘の子守を任せるか?子守なら両親か親戚か、それもいなければ専門の者を雇えば良い筈だ。いや、こっちが何でも依頼を引き受けているのがそもそもの原因だろうか。だが普通なら…
ぐるぐると思考を巡らせているうちに荷物の準備も終わり、やる事が無くなった。
服やら一応の商売道具やらを詰め込んだ鞄を持って立つ。
万年筆型のの仕込み刀を懐に忍ばせ、外に出た。
「休業…いや、出張か」
〈出張中。詳細は後日〉と走り書いた紙を扉に貼る。
やっと出てきた朝日から隠れるように路地裏を歩いていった。
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