二次創作小説(紙ほか)

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※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
日時: 2021/09/10 03:28
名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)

初めまして。カキコ初見のぴろんと申します。

初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります。


コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!



※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。

・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。

・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からない表現や言葉等があった時はコメントで質問をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。

・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂けると幸いです。


2016/12/30 閲覧数100突破!本当に感謝です!

2017/01/14 閲覧数200突破!有難う御座います!

2017/02/09 閲覧数300突破!唯々感謝です!

2017/03/01 閲覧数400突破!感謝感激雨霰です!

2017/03/24 閲覧数500突破!有難う御座います!

2017/04/23 閲覧数600突破!泣くほど感謝です!

2017/05/13 閲覧数700突破!感謝しすぎで死にそうです!

2017/05/28 閲覧数800突破!本当に有難う御座います!

2017/06/21 閲覧数900突破!物凄い感謝です!

2017/07/02 閲覧数1000突破!信じられないです…有難う御座います!!

2017/07/18 閲覧数1100突破!有難う御座います!

2017/08/03 閲覧数1200突破!感謝ですっ!

2017/08/30 閲覧数1300突破!有難う御座います有難う御座います

2017/09/24 閲覧数1400突破!本っ当に有難う御座います!

2017/11/03 閲覧数1500突破!感謝しかないです!

2017/11/29 閲覧数1600突破!本当に感謝します!

2018/01/08 閲覧数1800突破!1700飛ばしてすみません!有難う御座います!

2018/01/13 閲覧数1900突破!年始効果でしょうか…有難う御座います!

2018/01/27 閲覧数2000突破!こ、これは…夢でしょうか…?!本当に、心から感謝致します!!

2018/03/07 閲覧数2100、2200突破!1つ逃してしまいました…ありがとうございます!

2018/03/28 閲覧数2300突破!ありがとうございます…!!!

2018/04/17 閲覧数2400突破!間に合わないのがとても嬉しいです…!

2018/05/13 閲覧数2500突破!いつの間に…?!有難う御座います!!

2018/05/20 閲覧数2600突破!とてもとても!感謝でございます!!

2018/05/23 閲覧数2700突破!ぺ、ペースが早い…!ありがとうこざいます!!

2018/06/02 閲覧数2800突破!間に合わなくてすみません。有難う御座います!

2018/06/29 閲覧数3000突破!え、あの、ごめんなさい!有難う御座います!なんかします!

2021/09/10 閲覧数7000突破!有難う御座います。恐らく更新はありませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。



何時の間にか返信数も100突破です。有難う御座います!


2017/06/30 本編完結。今後とも宜しくお願い致します。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.122 )
日時: 2017/08/16 10:37
名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)

9頁目



目的地に到着したのは昼頃。もう既に日が高く上っていた。

目の前には今の時代には似合わない大きな屋敷。表札には〈霧原〉の文字。裕福な家柄の名だった。

意外に思いつつ玄関のインターフォンを鳴らす。

少し遅れて、中から返事が返ってくる。

「どちら様でしょうか」

「こんにちは。Guilty store と申します」

今となってはこの名前も殆ど禁句。用心深い奴等に英名だからと何度通報されたか分からない程だ。

「あぁ!神代様ですね。少々お待ち下さい」

一般に出回っている俺の名前は“朧”と“神代 御影”の2つ。調べれば直ぐに分かる名前だ。

扉が開き、数人の女性が迎え入れる。

「中へどうぞ」

「お召し物お預かり致しましょうか?」

「いえ、結構です」

女性…恐らく女中のお節介を断りながら奥へと進む。

「神代様、こちらにお座り下さい」

さっと出された座布団に座る。

「お茶をお出ししますね」

「お疲れでしょう。お風呂は如何致しますか?」

「ささ、お荷物を此方へ…」

「あの、私は只の商人ですが」

余りのもてなしに少し不思議に思って言う。

「何を仰るのですか神代様。貴方様は当家のお嬢様の面倒を見る。つまり、育ての親になって頂くのですよ」

「これくらいのもてなしは普通です。この家の主人の様なものですから」

そう言ってせかせかと動き続ける。

「神代様、お茶菓子は如何致します?西洋の物の方が宜しいかしら。それともお饅頭?」

「その前にお茶は緑茶と紅茶何方が…」

「すみませんが」

少し低めの声で言うと、女中達の動きはピタリと止まった。

「私は依頼を受けてきたのです。その依頼にもてなされて欲しい等は入っておりませんでした」

声を戻して丁寧な口調で言う。

「まずは御依頼主の方に合わせて頂けませんか。其方のお部屋にいるのでしょう?」

先程から女中達がチラチラと様子を伺っていた部屋を指す。

「それと、神代様なんて歯痒い呼び方はではなく、呼ぶなら御影でお願いします」

そう言って立ち上がり、軽く頭を下げてから扉を叩く。

「入っても宜しいでしょうか」

「どうぞ」

中から温厚そうな声が返ってくる。

その返事を聞いてから静かに扉を開いて中へ入る。

「いらっしゃい」

大柄で目尻に笑い皺がくっきりと刻まれた老人が座っていた。

「失礼します」

頭を下げてから中へ一歩進む。

「実は先程の女中達の振る舞いは一寸した試験のようなものだ。どうか嫌わないでくれ」

そう言って扉の外の女中に目配せをすると、女中は深く一礼してから去っていく。

「どうぞ座って。ゆるりとして行ってくれ」

「私は依頼を遂行しに来た身です。そんな振る舞いは恐れ多くて出来ません」

堅苦しい言葉で答える。

「では儂の我儘を聞いてくれ。一緒に茶を飲む者が欲しかったのだ」

女中が入って来て2人分の茶と御茶請けを置いていく。

「さ、座っておくれ」

にこにこと笑って促す。

俺は女中に礼を告げてからそこに座った。

「さてと、まずは依頼の内容についてが先ですかな。色々と疑問もお持ちでしょう」

そう言って静かに茶を飲む。

「まずはこの依頼をする経緯は、簡単に言って面倒を見る者がいないのだ。親も親戚も、儂もな」

「…ご病気ですか」

「あぁ、もう永くはない事も分かっている。そこで孫を育てる者を雇おうという事になった」

話が長引きそうだと判断し、冷めないうちに一口茶を飲む。

「次に何故君に依頼したか。勿論専門の者を雇ってもいい。だが、それだと孫が死ぬまでついてくれる可能性は低い」

「私だって死ぬかもしれませんよ」

遮る様に言う。

「いや、君に限ってそれはない」

「何故です?」

「…昔、80年程前に君の店の近くにあった大きな屋敷は知っているか?名は覚えていないが、随分と立派な家だったらしい」

「80年前…?」

心当たりがあった。店を始める直前に滅ぼしたあの家。

大分騒ぎになっていたし、知っていてもおかしくはないか。

「そこの家の当主と儂の母は個人的に交流があった様でな。偶に訪れては愚痴を聞いたり惚気を聞いたりしていたらしい」

「惚気、ですか」

「母が言うには、随分とお気に入りの召使いがおったらしい。自らの側近にする程な」

老人の言わんとすることがなんとなく分かってきた。

「その家が滅びた時、屋敷内では当主から御子息、召使いに至るまで全員の首が切られていたそうだ。勿論、仲の良かった母も葬儀に出て、召使いの顔を確認した。すると、その側近の死体だけが居なかったそうだ」

「買い出しか何かでもしていたのでは?」

「そうだとしたら帰ってきてからそのままそこに居るであろう。だが男は失踪した」

大袈裟に抑揚をつけて話し続ける。

「母は不自然に思い、出来る限りの人脈を使って男を探した。しかし、母の生きて居る間に男は現れなかった」

「では貴方がその跡を継いだのですか?」

「ああ、母が調べていた所をもう一度探し直したよ。死んで居るかもしれない。だが、死んだなら何処かしらに骨が落ちて居る、骨まで探せ、とな」

「それは大変でしたね」

適当な相槌を打ってやる。

「男は生きていた。大変だったが遂に見つけた。男は有名な無法商人になっていた」

そう言って俺の方をチラリと見る。

面倒な話し方をする人だ。さっさと言って仕舞えば良いのに…まぁ、こっちの方が経緯も話せるし丁度良いのか。

「だがその時ふと思った。見つけたは良いが、その後は何をするべきなのか?敵討ちとして殺す?だが儂は被害者達と直接の縁がある訳では無い。更に相手は殺し屋、一筋縄ではいかない」

「それで、どうしたのです?」

少し意地の悪い聞き方をする。

老人は変わらない口調で答えた。

「調べてみると、男の仕事は評判が高かった。何でも殺し以外の仕事でもこなすと言うのだ。そこで儂は考えた」

今度はしっかりと目を合わせる。

「儂の孫を育てて貰おうと」

俺はにこっと笑顔を浮かべる。

「よく調べましたね。その男、死んでいたかもしれないのですよ?」

「母が写真を持っていてな。それを見せたら何故か目撃情報が入った。だから生きていると思ったのだ」

そう言って懐から1枚の写真を取り出す。

昔の主にせがまれて渋々撮った写真だった。端が擦り切れ、角も丸くなっている。

「これで、儂が君を選んだ理由も分かってくれたか?」

「えぇ、真逆ここまで私を追いかけている人がいるとは。何度か牢屋に入れられかけた事もあるのですよ」

笑顔を崩さずに言う。

「しかし1つだけ、儂には到底理解出来ないことがある」

「へぇ、どんな事です?」

老人は真面目な顔で俺をみる。

「何故歳を取らないのだ?」

思っていた通りの質問に何時も通りの口調で答える。

「呪い、ですよ」

老人の表情が変わる。

「呪いだと?」

「どうやら私は特別な力を持ち過ぎてしまったようで。それのお陰ですよ」

「特別な力…近辺で偶に耳に挟む異質な能力の事だな」

異能力についての理解はあるようだ。

「という事はその能力が不老不死なのか?」

「いえ、その中に含まれるというだけです。死にたければ身体を切り刻めば何とか死ねますから。もう少し生きていたいなぁと思っているだけですよ」

澄ました顔で言ってお茶を飲む。

「今の年齢は?」

「幾つに見えますか?」

「外見なら20歳位だろう」

「ではそれで。それにしても美味しいお茶菓子ですね」

スルリと話を逸らす。

老人は少し怪訝そうな顔をしたが、観念したように頷く。

「では、次の話に入りましょう」

「ん?あぁ、そうだな。取り上えず報酬は給与性で、毎月好きな額を取ってくれ」

「宜しいのですか?随分と曖昧ですが」

「良いのだ。孫を任せるのだからな」

老人も落ち着いて笑顔でお茶を飲む。

「それと、1日の時間割は此方で決めさせてくれ。出来るだけ孫に負担のかからない様にする」

「了解です。因みにお孫さんは何方に?」

「隣の部屋で眠っている。最近やっと一歳になったばかりだから、丁重にな」

「分かりました」

そう言って立ち上がろうとすると、机に一枚の書類を置かれる。

「口約束だけだと心配だからな。契約書だ。名前を書いて欲しい」

「…そう言われましてもねぇ」

座り直してから少し考える。

「問題があるのか?」

「えぇ、私の使っているのは偽名なのです。ですが大切な本名は余り呼ばれたく無いので…」

懐から万年筆…もとい、仕込み刀を取り出す。

「少し失礼致します」

刃を出し、自分の親指を軽く切りつける。

そのまま契約書に指を押しつけた。

「昔ながらの血判、という事で」

「…古風な事をなさる」

老人はそう言って小さく笑う。

「孫の名前は納言。しっかり世話をしてくれ給えよ」

「了解です」

軽く礼をしてから隣の部屋の扉を開ける。

「…じぃじ?」

中から少女の声が聞こえてきた。

「ちがう…だれ…」

大きな部屋の真ん中に動くものを見つけた。

俺は部屋の真ん中にある電気をつける。

カチッ

急に明るく照らされた室内に小さな幼子が座っていた。

「にーに、だれ?」

辿々しい声で尋ねながら近づいてくる。

俺は新しく買った黒い手袋をはめて手を出す。

「貴女の召使いです。宜しくお願い致します、お嬢様」

幼子…納言は首を傾げながら俺の指を握る。

「にーに、て、くろい」

「私はにーにではありませんよ」

「じゃあ、だれ?」

またコテンと首を傾げる。

俺は少し考えてから答える。

「神代…いえ、しろと申します」

そう言うと納言はぱあっと顔を明るくさせる。

「しーにい!」

「えぇ、そうですよ」

そう答えると一層明るい笑顔になり、俺の指を握る力を強めた。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.123 )
日時: 2017/08/18 19:07
名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)

10頁目



「しー兄!早く行こ!」

「お弁当も出来てないのに何をおっしゃるんですか」

「行くの!」

駄々をこねる姿に半ば呆れつつもボタンを留める。

「今日はご学友の方とお食事会ですよ。もう少し落ち着いて下さい」

「むー!私もう6歳だよ?戦争も終わったんだし、我儘言っていいじゃん!」

納言はそう言いながら丁寧に脱いだ服を畳んで置く。

「戦争が終わってまだ間もないからこそ、落ち着きを持っているのが大人の女性ですよ」

そう言うとピシッと姿勢を正して椅子に腰掛ける。

「…もう少し待ってあげます。お弁当にはサンドウィッチを入れて下さい」

少し気取った声で敬語を使う。

「えぇ、了解しました。ですがその前に清嗣様にお薬を渡してきますね」

「じゃあ私も行く!…じゃなくて、行きます!」

「では身嗜みを整えましょうか」

白のシャツに水色のふんわりとしたスカートを履き、紺色のリボンを留める。

「はい、出来ましたよ」

「ありがとうございます。えぇと…しーお兄様?」

「私は貴女の兄ではありません」

「でもしー兄はしー兄だもん。なんか良い呼び方考えないと…」

真面目顔で頭を捻る。

そんな様子を横目にサンドウィッチを詰めてから水と薬を盆に乗せる。

「お嬢様、行きますよ」

「はーい。あ、私が持つね!」

「いえ、危ないですから私が…」

「お嬢様からの御命令!」

そう言われると何も出来ない。

「…仰せのままに」

「やったぁ!」

嬉しそうに盆を持って歩く。

「清嗣様は御老体ですので、御身体に障るようね事は控えて下さい」

「いつも聞いてるから分かってる!お爺ちゃんには長生きして欲しいもの」

そう呟いて表情が暗くなる。

納言は自身の両親がもう戻って来ないことも、死んでいることも知っている。

普段は忘れている様に明るく振舞っているが、時々こんな表情を浮かべている。

暫く俯いて黙っていた後、顔を上げて俺と目を合わせる。

「しー兄はいなくならないよね?死んじゃったりしないよね?」

悲しそうな、辛そうな表情で俺を見つめる。

俺は周りに人が居ないのを確認してから目を逸らして小さな声で言う。

「死ぬわけないだろ」

納言はパァッと明るい表情になって俺を見る。

「死ぬわけないね!確かに!」

「五月蝿いですよ。静かに」

「むぅ…」

少し不機嫌そうに前を向く。

「普段からさっきの言い方で良いのに」

「貴女に悪い影響を与えます」

「与えないよ!こんなに元気だし!」

盆を持っている所為で大きな動作は出来ていないが、水が溢れない程度に動いてみせる。

「健康面ではなく社会面です」

「変なの。別に路地裏の言葉だから駄目って決まりは無い…」

そこまで言って納言はハッとして口を噤む。

「…お嬢様、それは言わない約束です」

「ご、ごめんなさい…」

小動物の様にプルプルと怯えた目を伏せる。

「貴女と2人だけの秘密ですから。清嗣様にも申していないのですよ」

「はい、気を付けます」

先程よりも明らかに畏まった口調で言う。

時間が経っても大分落ち込んでいる様子で下を向いて歩いている。

面倒臭いが主の為だ。

「顔を上げて下さい。清嗣様の部屋の前ですよ」

出来るだけ優しい声で言って戸を叩く。

「神代です。お薬をお届けに参りました」

「うむ」

中からくぐもった声が聞こえる。

「失礼します」

出来るだけ静かに戸を開き、納言を先に入れる。

「おはようお爺ちゃん!」

「おはよう。態々すまないな」

「良いの。私がやりたいって言ったんだから」

布団の横に盆を置いて言う。

「御影君、何時もご苦労」

「いえ、清嗣様に労って頂ける程の事はしておりません。お身体の方は大丈夫ですか?」

何時も通り、枕を新しいものに替える。

「あぁ、君の薬のお陰で大分楽だよ」

「では今日も心配ありませんね」

薬を飲ませ、片付ける。

「おいで」

清嗣が手を広げると、納言が抱きつく。

「何かありましたら直ぐに私をお呼び下さい」

「分かった。今日はお茶会だろう?」

「うん!ちょっと面倒だけど…」

そう言うと清嗣は笑いながら納言の頭を撫でる。

「こらこら、ちゃんとしておくれ。お茶会ならお菓子が食べられるだろう」

「しー兄のが美味しいんだもの」

頬を膨らませて言う。

「ははは、確かにそうだ。まぁ頑張って来なさい」

「はい!」

元気よく答えて立ち上がる。

「では私達はこれで。呉々も無理をなさらない様お願い致します」

「分かっている。2人も気をつけてな」

「有難う御座います」

「行ってきます!」

清嗣に見送られて部屋を出る。

「しー兄、荷物持った?」

「持ちました」

「忘れ物無いね?」

「えぇ」

そう答えると納言はスッと背筋を伸ばし、帽子を被る。

「行きますよ、神代」

「了解しました」

納言はしずしずと歩き始める。

家の外に出ると、馬車が停まっていた。

「菫ヶ丘までお願い致します」

「承知しました」

行き先を伝えてから馬車に乗り込む。

「只今の時刻は、午前8時32分。お茶会は8時50分からの予定です」

「菫ヶ丘までは余裕で間に合うわね。今日も頼んだわよ」

「えぇ、勿論です」

今迄とは別人の様に落ち着いた雰囲気になった納言に、恭しく答えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

馬車から降りると、沢山の女子達が集まって来る。

「お早う御座います。霧原様」

「お早う、白菊様」

柔らかい微笑を浮かべて挨拶を返すと、歓喜の悲鳴が聞こえる。

俺の仕えているこの家…霧原家は、この付近の被害の復興の為に多大な資金と食料などを寄付した事で、国からも認められた有名な家柄である。

簡単に言えば尊敬されているその反面、ある意味での注目の的ともなる。

「何時もギリギリに来るわね、霧原家のお嬢様。名前通り霧の深い荒野から来ているのかしら?」

キンキンと響く高い声が聞こえる。

「お早う御座います、西城様。本日も良い天気ですね」

納言がニコリと微笑んで挨拶をすると、彼女…西城は意地悪い笑みを浮かべる。

「今日は両親も集まる会なのだけれど…あら、すみません。貴女にはいらっしゃらなかったわね」

嫌味っぽく言われた言葉にも笑顔のまま答える。

「えぇ、ですからその代わりの者を連れてきたのです。神代、ご挨拶を」

命ぜられるままに帽子を取り、頭を下げる。

「お久し振りです」

そう言うと西城はいかにも不機嫌そうに片眉を上げる。

「貴方は何時も霧原さんに纏わり付いてる奴じゃない。こんな若くて未熟な小間使いを連れて来るなんて、馬鹿みたいね」

「まぁまぁ、そこまではっきり言うんじゃない。可哀想だろう」

横に立っていた白髪混じりの太った男性が言う。西城の父だ。

「やぁ、神代君と言ったかな。余り気を落とさないでくれ給え。この子は昔から物事をハッキリと言ってしまう子でね。まぁ言っていることは本当だが」

そう言って親子そっくりの意地悪い笑みを浮かべる。

「立ち話もなんだしそこに座ってお茶でも飲むかね。折角のお茶会だ。優雅にしようじゃないか」

「駄目よ、お父様。偽善者気取りの泥鼠には優雅な仕草なんて出来ないでしょう」

「おや、失敬。はははは」

そう言われても納言は顔色一つ変えずにまた柔らかい微笑を浮かべる。

「ではお茶にしましょうか。今日は神代にサンドウィッチを作らせたのです」

「泥でも付いているんじゃないの?ねぇお父様」

「はっはっは!全くだ!」

そんな嫌味を言われつつも納言は席に座り、俺はバスケットからサンドウィッチを取り出して皿に並べる。

「こんな泥鼠と同じテーブルに座るなんて汚らわしいわ。そうだ、お父様。お父様は鼠なんてお殺せなさいますの?」

実に気味の悪い可笑しな敬語で話し続ける。

「そうだ、今日は私達特製の茶葉を持ってきたのですの。お淹れ致しましょうね」

ニヤニヤと笑いながら紅茶を淹れる。

手付きは悪いし淹れ方も雑。いかにも不味そうな紅茶が出来上がった。

「お砂糖はおいくつ?」

「2つ、お願いします」

「あらまぁ、お子ちゃまね」

ケラケラ笑いながら角砂糖をポチャポチャと投げ入れる。

その時、砂糖の他にも白い粉が入っていた。

「どうぞ」

カチャンと音を立てて差し出す。

納言がそれに手を出そうとするのを静かに止める。

「如何しました?」

「いえ、少し毒味を」

「…良いわよ」

「失礼致します」

西城達の面倒な視線を感じつつも一口飲む。

飲み込んだ後にほんのりとアーモンドの香りが香った。

俺は躊躇いなく紅茶を飲み干す。

「何をしているの。はしたないわよ」

納言は何かを察したようで静かに言う。

「すみません。ですがお嬢様の何時も飲まれる紅茶よりも少し苦味が強かったので、処分するのも失礼だと思いまして」

「あら、そうなの」

そう言って特に気にする風でもなくサンドウィッチを口に入れる。

「な、何よ。私達の出した物に不満でもあったの?」

狼狽えた様子で言う。

「…正直に申し上げますと、ありました」

「なっ…!」

西城の父の顔がみるみる赤くなっていく。

「無礼じゃ!今すぐ立ち去れ!」

「お言葉を返すようですが、其方こそ無礼ではありませんか?」

「何を言う!たかが小間使いの分際で!」

「そうよ!身をわきまえなさい!」

そう言って憤慨している西城達の横に立つ。

「では、此れは何でしょう」

角砂糖の横に置いてある小さな袋を取る。

「見た所白い粉が入っているようですが、砂糖ではありませんね」

「そ、それは…」

「先程の紅茶にも同じものが入っておりました。青酸カリウム…毒物ですね」

そう言って笑顔のまま袋を懐にしまう。

「この様なものを持ち込み、あまつさえ私の主に盛るなど、貴方の方が無礼ではありませんか?」

「き、貴様!デマカセを言うな!」

「貴方様こそ恥ずかしくないんですか?」

その言葉で何かが切れたのか、取り出した短刀を振り下ろす。

ザクッ!

肩にある痛覚神経が悲鳴をあげ、熱が集まっていく。

「キャーッ!」

「刺したぞ!西城様がご乱心だ!」

あちこちから悲鳴が聞こえてくる。

俺は肩に深々と刺さった短刀を笑顔のまま引き抜く。

「いけません。お洋服が私の様な者の血で汚れてしまいますよ」

引き抜いた短刀をナプキンで丁寧に拭いて渡す。

「何故…」

「次は此処を狙うのをお勧め致します」

そう言って自分の首をトントンと叩く。

「な、何を言う!そんな事…」

「出来ませんか?」

狼狽える男の前に立つ。

「西城様。私の事なんて、お殺せなさいますの?」

ニコリと笑い、ほんの少し殺気を放つ。

西城達はへなへなとその場に座り込み、動かなくなった。

この位で腰が抜けるとは、だらし無いな。

「神代」

納言に呼ばれて向き直る。

「はい、お嬢様」

「紅茶をお淹れなさい。サンドウィッチだけだと物足りないわ」

「承知致しました」

懐からナプキンを取り出し、肩を縛って軽い止血をする。

あらかじめ用意しておいたティーセットを出し、何事も無かったかの様に紅茶を淹れる。

他の者はどよめいていたが、暫くするとまた元の様に他愛のない会話をし始めた。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.124 )
日時: 2017/08/24 12:12
名前: ぴろん (ID: SEvijNFF)

11頁目



家に戻ると何故か正座をさせられ、目の前に納言が仁王立ちしていた。

「…何でしょうか、お嬢様」

「何でしょうかじゃない!人前で何してるの!」

「お嬢様をお守り致しました」

「その守り方の事!」

頬を膨らませて怒鳴る。

「毒入り紅茶なのは分かっていたけど、何で飲み干しちゃうの!」

「心配ありません。大抵の毒は耐性がありますから」

「それが問題なの!普通の人じゃないって分かるじゃない!」

「訓練していると言えば良いでしょう」

態と適当に反論する。

「…もういい、次!」

大きく溜息を吐いて睨む。

「あの小刀!あれくらい貴方なら止められるでしょう!」

「面倒だったので受けた方が早いかと」

「痛いでしょ!」

「痛いです」

正直に言うと、思ったより痛かった。肩にある太い神経に丁度当たったようだ。

「…次に、何あの言い方!“お殺せなさいますの”なんて…よくそんな気持ち悪い言い方出来るわね!」

「西城様が仰っておりましたので、嫌味として言いました」

「駄目でしょ!」

「以後気をつけます」

雑に返事を返す。

「…最後に、何あの殺気」

何時になく真剣な顔で言う。

「昔からしー兄が怒る時に出てるのは知ってたけど、あんなに堂々と人前で出したら駄目!色々とバレちゃうでしょ!」

「私が殺し屋だということが?」

「態々言うな!」

今日1番の大声で怒鳴った。

「1番の秘密でしょ!何でそんなに軽々と…」

「殺し屋としての活動は休止中ですが辞めておりませんし、真逆此処で召使いの真似事をしているなんて思わないでしょう」

周囲に人が居ないのは既に確認済みだし。

「そうだけど!でももしもバレちゃったら、私もお爺ちゃんもお手伝いさんもみーんな死んじゃうかもしれないんだよ!」

「私は数えられてないんですね」

「当たり前よ!しー兄は死なないんだから」

「よくご存知で」

俺は態と澄ました顔でふいと横を向く。

「またそうやって目を合わせない!これはお仕置きが必要だね」

そう言ってニヤッと笑う。

「お仕置きですか」

「うん、お仕置き」

「…異論は」

「認めません」

そう言って勝ち誇った様な笑みを浮かべる。

「と、言うことで!」

パンっと手を叩く。

「明日は学校休みだし、私の好物たーっくさん作ってね!」

やっぱり…

「返事は?」

「はい、お嬢様の仰せのままに」

正座の状態から片膝を立て、頭を下げる。

腕を膝の上に置いた時、肩の傷がズキンと鈍く痛んだ。

「どうしたの?」

「…いえ、何でもありません」

再び開いた傷口を気付かれない様に立ち上がる。

「昼食の準備をして参ります」

「そうだ!今日は私も手伝うよ」

「危ないですからご遠慮下さい」

左手で軽く制して部屋を出る。

「でもしー兄今右肩痛いでしょ?大丈夫なの?」

トコトコとついてくる納言に笑顔を向ける。

「えぇ、あまり切れる刀では無かったので」

「ふーん…ちょっと屈んでみて」

「はい」

言われるままに屈むと、いきなり右肩に飛び乗ってきた。

「っ……!」

「ほら、痛いんでしょ」

「いえ、そこまででは…」

何とか痛みに耐えながら出した言葉を納言が遮る。

「とぅっ!!」

声と共に納言は右肩の傷口に正拳を落とした。

「ーーーっ!!」

あまりの痛みに声にならない悲鳴をあげる。

「やっぱり痛いんじゃん。無理は駄目だよ」

突き立てた正拳でグリグリと圧迫しながら言う。

この主は鬼か。

猛烈な痛みで声を出せずにいると、パッと拳を離された。

「ってことで、手伝うね〜」

肩を押さえたまま蹲る俺を尻目にさっさと歩いていく。

「…加減を知らない子供には“オシオキ”が必要だな」

そう呟くと納言の肩がビクッと震える。

「う、嘘だよね…?」

恐る恐る振り返る。

「さぁ、近いうちにする予定だけど」

納言の顔がさーっと青ざめる。

「ご、ごめんなさい!もうしません!」

「どうするか…」

半ベソをかいてしがみつく納言と目を合わせない様にしながら立ち上がる。

「取り敢えず、今日のご飯も私が作りますね」

ニコッと笑って歩く。

「許して下さい…オシオキは本当に…オシオキだけは…」

納言は何かに取り憑かれた様にボソボソと繰り返していた。

痛む肩を押さえながら台所に立ち、しがみついて来る納言を無視して作業する。

「オシオキ怖い…オシオキ…やめて下さい…」

先程から繰り返している“オシオキ”は、納言が幼い頃に作った心傷、所謂トラウマだ。

幼子の頃からやんちゃばかりだった納言を止める為の軽い躾をしたつもりだったが、どうやら少し刺激が強すぎた様で今でも恐怖が脳にこびり付いているらしい。

内容は特に変わった事はしていなかったのだが…

「ね、ねぇしー兄。私良い子にするよ?言うこと聞くし、ちゃんとお勉強もするよ?」

単語を聞いただけでこの有様である。

全く…最近の子供は簀巻きにして重石を乗せて明かりのない物置に丸一日閉じ込めただけでトラウマになるのか。

納言の言動に半ば呆れつつも昼食を作り終える。

「お嬢様、昼食を運ぶので少し離れて下さい」

そう言うと納言はバッと離れ、距離を置く。

「今日の昼食は朝食が少し遅めでしたので、根菜のスープとバゲット、デザートにストロベリーワッフルをご用意しております」

部屋に入って納言を座らせ、目の前に料理を並べる。

「いただきます」

手を合わせてからスプーンを取ってスープを口に入れる。

「しー兄のご飯は何時も格別ね」

「有難う御座います」

紅茶を淹れながら言う。

「そういえば、ずっと疑問に思っていた事があるのだけど」

先程の事など無かったかのように澄ました顔で話題を変える。

「何でしょうか」

砂糖を2つ入れた紅茶を差し出す。

「しー兄の下の名前、何て言うの?」

「はい?」

思わず素の声が出かける。

「御存知なかったのですか?」

「うん、そういえば知らなかったなーって思って」

「…寧ろ今まで質問してこなかったことに驚いているのですが」

納言と過ごしてきて10年弱。偽名の方は既に清嗣様から聞いてるのかと思っていた…

「ねぇ、何て言うの?私ももうあと数年で嫁げる歳になるのよ。何時までもしー兄なんて呼べないでしょう」

じぃっと見つめて問われる。

俺はニコリと笑って返す。

「神代 御影と申します」

「それは知っているわ。誰が嘘を吐けと言ったの」

見つめている目が鋭く光る。

俺は尚も笑顔のまま繰り返す。

「神代 御影と申します。それ以外には…」

「しー兄の嘘を吐く時の癖。嘘の言葉と一緒に顔と心に仮面を被る。しー兄は無表情が素顔でしょ?」

ズバズバと本心を暴かれる。

「ですが…」

「言い訳は要らないから。お嬢様からの命令、貴方の名前を教えなさい」

俺は答えられずに口をつぐむ。

嘘がバレるのは何となく分かっていた。納言は昔から不思議なくらい鋭い。

だが、俺を示す名は“紫”の一文字のみ。そんな出来損ないの単語では名乗ろうにも名乗れない。

「何を黙っているの。教えなさい」

納言は少し怒った顔で言う。

「…お嬢様」

「なに」

俺は覚悟を決めて納言を見据える。

「俺には姓か名かも分からない一文字しかない。だから、名乗ることすら出来ない」

今まで隠してきた事を伝え、続ける。

「納言。お前が俺の全てを知り、それでも逃げずにいられる覚悟があるならば、俺に名前を付けてくれ」

「な、名前を…?」

困惑する納言を無視して背を向ける。

「返事は無くても良い。何十年後かに気が向いたなら、俺の部屋に入れ」

足早に部屋を出て扉を閉める。

主の命に刃向かった、のか。俺も随分生意気になったものだな。

少し罪悪感を感じつつも、使用人に気づかれないようにそっと館を出ていった。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.125 )
日時: 2017/08/26 22:23
名前: 真珠を売る星 (ID: 9E/MipmP)

お久しぶりです!
ちょくちょく読みに来ていてはいたのですが、なかなか感想を書けていませんでした、すみません……。

紫さん(神代さん)改めしー兄(笑)。かっこいいです。相変わらず、というか前よりさらにかっこよくなっている気がします。
何でだろう、おっきいからかな……?
Guilty store、カッコイイです。もう、何から何までかっこいいです(語彙力の低下)。
納言ちゃん専属のボディーガードだと思うと、ちょっとにやけてしまいました。(そろそろ気持ち悪いですね、止めます)

そして、納言ちゃん!!相変わらず、可愛い!
「にーに、だれ?」の時点でもうノックアウトされました。
そんでもって、納言ちゃんに対するしー兄さんのお仕置きは、ちょっとどころじゃなく恐怖です。怖いです。ですが、紫さんの、子供に対する手加減の間違いだと思うと、ちょっとかわいく思えてしまいました。もう末期ですね。

Guilty store関連で一つお聞きしたいのですが、文豪ストレイドッグス原作者の、朝霧カフカさんが書かれている「ギルドレ」という小説はご存知でしょうか。たぶん、もうご存知であるとは思われますが、念のため紹介させていただきたく思いまして。
もしご存知なら、リア友にあまり知っている人がいないので嬉しいです。ご存知でないようなら、ぜひとも手に取ってみてください。

三分の一くらい、紹介になってしまいました、すみません…。長文失礼いたしました。これからも応援しています。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.126 )
日時: 2017/08/31 16:18
名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)

真珠様!!
お久し振りで御座います。

自己満足小説に切り替わってしまってからも読んで下さっていたなんて本当に嬉しいです…!

はい、本編では書けなかった格好良さを前面に押し出して、黒髪ならばついでに着物まで着せてしまおうという自らの密かな欲望も叶えております。

少々一線を超えてしまっているような微妙な距離感のボディガードのような主従関係なども出来るだけハッキリ分かるようにしております。
どんどんニヤけて下さいませ。
正直言ってこのような文章でニヤけて下さるなんて思ってもいませんでした。

ギルドレ読んでいますよ!!
《Guilty》の単語はそこで知り、とても格好良いなぁと思ったのでついつい盛り込んでしまいました。
…主人公の名前と式部さんの偽名が被っているのは全くの偶然で御座います。
いやはや、頁をめくってその単語が目に飛び込んできた時の衝撃と言ったら…
はっ、あまり語っていると既に長いのに文字数が足りなくなってしまいそうです。


さて、最後になってしまいましたが、此度もお読み頂き本当に有難う御座いました。
真珠様のコメントで本当に元気とやる気とその他諸々が溢れ出ております!
今後ともこの拙い文章と勝手に動き回る個性豊かな登場人物達を宜しくお願い致します。


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