二次創作小説(紙ほか)
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- ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
- 日時: 2021/09/10 03:28
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
初めまして。カキコ初見のぴろんと申します。
初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります。
コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!
※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。
・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。
・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からない表現や言葉等があった時はコメントで質問をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。
・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂けると幸いです。
2016/12/30 閲覧数100突破!本当に感謝です!
2017/01/14 閲覧数200突破!有難う御座います!
2017/02/09 閲覧数300突破!唯々感謝です!
2017/03/01 閲覧数400突破!感謝感激雨霰です!
2017/03/24 閲覧数500突破!有難う御座います!
2017/04/23 閲覧数600突破!泣くほど感謝です!
2017/05/13 閲覧数700突破!感謝しすぎで死にそうです!
2017/05/28 閲覧数800突破!本当に有難う御座います!
2017/06/21 閲覧数900突破!物凄い感謝です!
2017/07/02 閲覧数1000突破!信じられないです…有難う御座います!!
2017/07/18 閲覧数1100突破!有難う御座います!
2017/08/03 閲覧数1200突破!感謝ですっ!
2017/08/30 閲覧数1300突破!有難う御座います有難う御座います
2017/09/24 閲覧数1400突破!本っ当に有難う御座います!
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2017/11/29 閲覧数1600突破!本当に感謝します!
2018/01/08 閲覧数1800突破!1700飛ばしてすみません!有難う御座います!
2018/01/13 閲覧数1900突破!年始効果でしょうか…有難う御座います!
2018/01/27 閲覧数2000突破!こ、これは…夢でしょうか…?!本当に、心から感謝致します!!
2018/03/07 閲覧数2100、2200突破!1つ逃してしまいました…ありがとうございます!
2018/03/28 閲覧数2300突破!ありがとうございます…!!!
2018/04/17 閲覧数2400突破!間に合わないのがとても嬉しいです…!
2018/05/13 閲覧数2500突破!いつの間に…?!有難う御座います!!
2018/05/20 閲覧数2600突破!とてもとても!感謝でございます!!
2018/05/23 閲覧数2700突破!ぺ、ペースが早い…!ありがとうこざいます!!
2018/06/02 閲覧数2800突破!間に合わなくてすみません。有難う御座います!
2018/06/29 閲覧数3000突破!え、あの、ごめんなさい!有難う御座います!なんかします!
2021/09/10 閲覧数7000突破!有難う御座います。恐らく更新はありませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。
何時の間にか返信数も100突破です。有難う御座います!
2017/06/30 本編完結。今後とも宜しくお願い致します。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.142 )
- 日時: 2018/01/24 07:32
- 名前: ぴろん (ID: HTIJ/iaZ)
23頁目
「しーきーぶー!起きて!ほら!」
騒がしい声で目を開ける。
「あ、起きた。やっぱり疲れてるの?休む?」
「その疲れてる奴を起こしたのはお前だろ」
「うっ…すみません…」
「謝れとは言ってない。それと寝てない」
立ち上がって軽く伸びる。
「で、何の用?」
「うーんと…来たらわかる!」
そう言って納言は俺の腕をグイッと引っ張って部屋を出る。
「痛い」
「ごめん!」
会話とも言えないような言葉を交わしながら引かれるままに着いて行く。
そのまま廊下を抜け、玄関を抜けて館の裏へ向かう。
「お嬢様、そろそろお手を…」
「神代さーん!」
あの若い女中が前から突進してきた。
納言はパッと手を離す。
体勢を崩し、女中がそのまま俺に体当たりをした。
「神代さん!大丈夫でしたか?!」
「それは何に対して言っているんですか」
腹を押さえながら眉間に皺を寄せて言う。
「神代さんずーっといなかったから私朝一番でしたよ!でも競う人がいないと寝覚め悪かったですし…」
そう言う女中の後ろにはテーブルやら椅子やらが置いてあり、その上には煌びやかな食べ物が乗っていた。
「神代、今日は何の日かわかる?」
納言が落ち着いた声で問う。
「2月29日です」
「あら、知っていたの」
「先程見ておきました」
引っ張られている時に壁にかかっている日めくりカレンダーが偶々目に入った。
「で、なんて言うか知ってる?」
「呼び名ですか?」
「そう。2月29日は何の日か分かるかしら」
「2月29日…」
そういえば去年は28日までだったような…
相変わらず上手く回らない頭を無理矢理稼働させる。
「…閏年ですか?」
「正解っ!と、いうわけで…2月29日を神代の誕生日にしました!」
急に大きな声で言って後ろを指す。
「…あの、私は祝って貰わなくても結構ですし、生年月日も詳しい所は分かっていませんので」
「だから決めました。神代は見た目が全然歳を取らないでしょう?だから4年に一度だけ歳を取るって考えたら丁度いいと思ったの」
…人の誕生日をそんなに簡単に決めていいものなのか。
「今神代は25歳くらいに見えるから、4年に一度ってことは100歳くらいになるわね。あってるでしょう?」
「えぇ、まぁ」
俺は周りを少し見る。
確実に聞かれてる…よな。隠し通すつもりも無かったがこんな簡単にバラしていいのか?
もう一度納言を見るとニヤニヤと笑っている。
「此処で雇う人達には面接があるのは知っているでしょう?お爺様の時からいる方は貴方の素性を知っているのは当たり前だけど…」
直ぐ横でニコニコしている女中を見る。
「この方も、向こうに立っている方々も皆知っているのよ。面接の時に軽い質問をしているの、覚えてます?」
若い女中はしっかりと頷く。
「はい。“歳を取らない人がいたら、貴女はどう対応しますか?”ですよね!」
「えぇ。此処にいる方達は元々の項目の他にその質問に何と答えたかでも決めているの。それに肯定的な意見を示して、かつ嘘を吐いていないと判断した方は合格となっています」
「私は“きっと博識だと思うので、勉学や歴史などを教えて貰いたいです”と答えました」
なんて面倒な項目を作ったのか…
まぁ、此処は“理想の執事”としての受け答えで充分か。
「私のことを気遣って下さり、本当に有難う御座います。ですが、幾つか質問が」
「何かしら」
「まず、今までこのような催しなど行ったことはありませんでした。4年前も8年前も12年前も。何故今年は行うことにしたのでしょうか」
「思いついたからっていうのもあるけど…1番はこの前の誘拐騒ぎね」
誘拐騒ぎ、という所で少し声が低くなる。
「あの時、神代が直ぐに駆け付けてくれたでしょう。だからそのお礼も兼ねてって感じかしら」
「では、何故外でやる事に?」
「この前忍さんが外でご飯食べたいって言ってたからよ。此処にあるご飯も、私が作るの手伝ったのよ」
成る程…この間確かにそんな事言ってたな。
「では、最後に一つ」
「何かしら」
首を傾げ、ニコッと微笑む。
隠せているつもりなのだろうか。
「その後ろに持っている物は何でしょうか」
「えっ」
納言は周りの者達をちらりと見る。
忍を含め、全員が首を横に振る。
「え、えぇと…バレました?」
「えぇ。私に突進した隙に渡していたのもハッキリと」
そう言うと若い女中はサッと青ざめ、半分涙目で納言を見つめる。
「大丈夫よ。神代にはこういうの通じないって忘れてたわ」
後ろ手で持っていた紙袋を見せる。
「私からの贈り物よ。受け取りなさい」
「はい、有難う御座います」
そう答えると半ば押し付けられるように渡される。
「今拝見しても宜しいですか?」
「良いわよ」
納言は恥ずかしそうに忍の方へ駆け寄り、俺の反応を伺っている。
普通に開けて丁寧に中身を取り出す。
「…お嬢様、間違えていませんか?」
「どういうこと?」
「これは大切な人に渡すものかと。私に渡すものではありませんよね」
紙袋の中身は、紫色の無地のマフラーだった。
「貴方のものよ。私が間違えるわけないでしょう」
「ですが…」
「渡す人に編み方習ってたのが可笑しいのも、時間余っちゃって長く編み過ぎたのも知ってる!」
恥ずかしそうにそう怒鳴ってまた忍の後ろに隠れる。
「…貴方が自分のマフラーとか持っていないのも、知ってるし」
そう呟いてふいっとそっぽを向く。
俺の…?
上質な毛糸で編まれたマフラーは、編み方に慣れていなかった所為か所々ほつれもある。
態々無地のものを選んだのも…
「…有難う御座います」
「どういたしまして」
納言はそう言ってまた笑った。
「では、私からも」
スッと納言に歩み寄り、それを首に巻く。
「へっ?なに?」
「ほんのお礼です、お受け取り下さい。先程完成したばかりですよ」
そう言って、瑠璃色のマフラーの端を持たせる。
「編んでいる途中で気付いたのですが、貴女の瞳と同じ色ですね。とても綺麗な色です」
「何言って…」
納言は顔を赤く染める。
怒っているのだろうか…
「あぁ、すみません。瞳の色だけでなく、納言様も御綺麗ですよ」
こういうことか?
納言は更に顔を紅潮させ、忍の後ろに隠れる。
「し、忍さんっ!」
「はい、よしよし。それにしても顔真っ赤だねぇ。林檎みたいだよ?」
まだ怒っているのか?でも特に心当たりは…
「さてと、ご飯食べましょうか。折角作って下さったのに冷めてしまいますよ」
忍は納言の頭を撫でながらそう言って場を収める。
「ところで、祥子様は?」
「祥子なら部屋よ。貴方がいなくなって2番目に心配していたのはあの子なの」
そう言って少し得意げに胸を張る。
1番は自分だと言いたいのだろう。
「生存報告を兼ねてお迎えに行っても宜しいでしょうか」
「そうしなさい」
「では、失礼致します」
少し深めに頭を下げて館の中へ入る。
廊下の少し奥まった所に並んだ3つの部屋。
そのうちの1つの扉を叩く。
「祥子様、いらっしゃいますか?」
「御影?!」
ガチャッと勢いよく扉が開き、飛びついてくる。
「御影!本当に御影なのね!」
「えぇ。御心配お掛けしたようで、本当に申し訳御座いませんでした」
片膝をつき、深々と頭を下げる。
「じゃあもしかして外が騒がしいのは、貴方の誕生日パーティーをやっているの?」
「はい。そのようです」
「主役がいなくなっちゃ駄目じゃない!あ、でも少し待ってて」
そう言い放って忙しなく部屋へ入っていき、何かを取って戻ってきた。
「お母様みたいにものは作れなかったから、これにしたの。誕生日おめでとう」
そう言って少し重みのある箱を渡す。
「開けてみて」
言われるままにリボンを解いて蓋を開ける。
「ティーカップ、ですか」
「えぇ、御影は休息が足りていないでしょ?それならこれを渡して嫌でも休んで貰おうって魂胆よ」
そう言って得意げに胸を張る。
親子そっくりだな…
ティーカップを手にとって見ていると、その下に敷いてある布に気づいた。
端の方に紫色の糸で小さな桔梗の刺繍が施されている。
「これは…」
「他のは後で見て!今から外でご飯食べるんだから!」
「分かりました」
中身を戻して蓋を閉じ、玄関へと向かう祥子に着いて行く。
「…貴方がいなくなった日、気づいてたの」
突然小さな声で話し出す。
「貴方の体調があまり良くないなって。お母様も同じことを思っていたみたいで、だから元気をつけてあげようって話もして…」
どうやら、少し泣いているらしかった。
「だけどその日に貴方はいなくなって、3週間も見つからなくて、お母様が凄く泣いて心配していて」
玄関の前で立ち止まり、振り返る。
「だから私が貴方にお仕置きするの。お母様を悲しませた罰よ」
そう言って祥子は、少し膨らみをもったポケットに手を入れる。
取り出したのは…
「本当はこれじゃあ足りないんだから」
拳銃だった。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.143 )
- 日時: 2018/01/27 20:24
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
24頁目
俺は真っ直ぐに眉間に向けられた銃口を見据える。
「いけません、祥子様」
「何がよ」
「この銃は…」
祥子は引き金に指をかける。
「弾が入っておりません」
そう言いながら拳銃を取った。
「先程私から盗ったものでしょう。貴女も弾が入っていないのを知っていながら向けるなんて。私を傷つけるならしっかりと弾を込めて向けて下さい」
「…なんで」
祥子は俯いて肩を震わせている。
「なんで怒らないの!」
「何故と問われましても…初めから殺す気もありませんし、そもそもの立場で見れば銃口を向けられても叱れるような立場ではありません」
「でも!勝手に盗ったし…」
「そのような技術を磨かれるのはいけないことです。が、子供の悪戯程度のものですから笑って許すのが保護者でしょう?」
そう言って小さく微笑む。
「ですが、一言申し上げても宜しいですか」
「…えぇ、良いわよ」
不機嫌そうにそっぽを向く。
言うべきことは言わなければ。
少し屈んで目線を合わせ、ハッキリとした口調で言う。
「私の私物には、触らないで下さいね」
祥子がピクリと肩を揺らし、恐る恐るといった様子でこちらを見る。
俺はニコッと笑って立ち上がる。
「行きましょうか。お料理が冷めてしまいます」
「え、えぇ…」
戸惑う祥子の手を取って外へ連れ出し、会場の方へ向かう。
「遅かったわね。何してたの?」
「少しお話しをしておりました。それより」
チラリと茂みの方を見る。
「この豪華な食事はとても有難いのですが、中で頂きませんか?」
「あら、外で食べようと提案したのは忍さんよ。文句ならそちらへ」
「えぇ?酷いなぁ。というか、神代さんが言いたいのはそういうことでは無いでしょう」
矢張り忍は物分かりがいい。
「はい。まぁ此処では、少々都合が悪いと言うか」
「そうなの…それなら中へ移しましょう。お外での食事はまた今度ね」
「え?!ですが準備を…」
1人の男が小さく反対する。
「駄目です。食事は中で頂きましょう」
納言はきっぱりと言い放ち、料理の乗った机を運ぶ準備をしだす。
「ですが忍様の…」
「お嬢様の言いつけです。守りませんか」
俺は男の肩に手を置いて言う。
「私も外で頂くのが宜しいのですが、生憎邪魔が入りまして」
「邪魔、ですか?」
男は一瞬、茂みの方に目をやる。
「えぇ、今確信が持てました」
男の肩に置いた手に力を入れる。
「私、貴方の顔見たこと無いのですよねぇ」
笑顔を浮かべたままミシミシと力を入れ続ける。
「うがっ…ぁ…!」
忍に目だけで避難させるように指示し、男の肩の骨を外す。
「殺しはしませんが、事情聴取だけお願い致します。それとお仲間には下がってもらうように…」
茂みの方に目をやると、鉄製の銃口が突き出ていた。向いている先は…
直線距離だと狙撃者よりも標的の方が近い。
咄嗟に走り出し、射線上に入る。
引き金は引かれていた。
「っ…!」
腹部に熱いものが捻じ込まれる。
「御影!」
標的は祥子だった。
「御影!大丈夫?!」
駆け寄ってくる祥子を片手で制する。
「平気です。お怪我は御座いませんか?」
「私は平気よ。でも血が…」
「祥子様はすぐお戻りになって下さい。私は…」
茂みの方を見る。
「催しの、片付けをしなければなりません」
茂みがガサリと動いた。
内ポケットから先程の拳銃を取り出し、弾を1つこめる。
「祥子様、私が普段何故これに弾を入れていないか分かりますか?」
「手入れが大変だから、かしら」
在り来たりな答えが返ってくる。
「違います。実はですね…」
銃口を茂みに向け、引き金を引く。
パァンッ!
少し大き目の音と共に弾が打ち出され、ほぼ同時に茂みから呻き声が上がった。
「この拳銃は私が改造した物です。なので通常よりも威力が強く、安全装置も付いていない。一言で言えば危険なのですよ」
煙を軽く吹き消して内ポケットにしまう。
「私の私物にはこのようなものが多々あります故、お手を触れないようお気をつけ下さい」
そう言って深々と頭を下げ、茂みの方へ向かった。
他の者達が居なくなったのを確認してから茂みの中に手を突っ込む。
中にいた者の頭を掴んで引き上げ、死体を確認する。
肩を押さえてうずくまる男の方へそれを投げて見せ、笑顔のまま言う。
「お仲間ですね。事情を説明して下さい」
「い、依頼を受けたんだ。この家にいる主要人物を殺せって」
「ほぅ、それで彼女を撃つ様に仕向けたのですか」
死体の服や落ちていた鞄から色々と物色する。
「この銃は海外の物ですか。この印は…」
「この家が回してたブツだよ。今は禁止されてるから、探すのに苦労したぜ」
「成る程。それで、依頼主は」
「知らない。ボスが受けたんだ」
上がいるのか…そこらの小さい組合では無いらしいな。
「では、拠点まで案内して貰いましょう。出来れば上の方とお話をしたいですね」
「はぁ?!お、お前正気か?!さっきも何の躊躇いも無く殺して…真逆お前…」
ある程度物色し終わり、死体と男を担いで立ち上がる。
男の顔を見てもう一度微笑む。
「世の中には知らない方が良いこともあるんですよ。行きましょうか」
「…此処へは車で来たんだ。道なんか覚えてねぇよ」
「では住所だけでも」
「そういうのは覚えねぇんだ。自白も出来ないだろ」
賢いな。それなら少し不本意だが聞き込みでもするしかないか。だがこれを担いだままだとな…
取り敢えず茂みに入って荷物を降ろす。
「周りの景色も覚えていませんか?」
「景色は…木が生えてた位だな」
「海は?」
「見えなかった」
男に嘘を吐いている様子はない。
となると此処からまぁまぁ離れたところか…時間が掛かるな。遅くなるのは良くない。
「では、今回は見逃しましょう」
「は?」
突然の提案に男は驚いて顔を上げる。
「見逃す?俺は死ぬ覚悟で来たんだ。そんな甘ったれた考えに縋る気はねぇ」
「良いですね。そういう心がけは嫌いではありません。別に今この場で自害しても構いませんが、どうせ生きるのでしたら此れをお届け下さい」
一枚の名刺を取り出して渡す。
「何か用がありましたら此処に連絡を。副業ですから留守の場合も御座いますが、大体はいるでしょう」
「……?」
「あぁ、読めませんか。“Guilty store”です。覚えておいて下さい」
死体を渡して持っていた鞄に銃などを入れて立ち上がる。
「きちんと届けて下さいね。それと、今後お嬢様達を狙うような事があったら…流石に分かりますか。それではまた」
それだけ言い残し、鞄を持ってその場を去っていった。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.144 )
- 日時: 2018/02/07 07:37
- 名前: ぴろん (ID: Z/MkaSMy)
25頁目
「只今戻りました」
「大丈夫…じゃないわね」
「いえ、特に異常はありませんでした」
「貴方にあるのよ。誰か救急箱持って来てくれるかしら」
側にいた女中の1人がせかせかと奥へ走っていく。
救急箱…?あぁ、そういえば撃たれてたんだっけか。
下腹部が思い出したように痛みを響かせる。
「これくらいは平気ですよ。上手く中で止まりましたから祥子様には傷一つ付いておりません」
「逆に駄目!骨に異常は無い?」
「動けているので問題はありません。それより中断してしまって申し訳ありません。催しの続きを致しましょう」
「ちょっと…!」
止める納言を無視して食材を運ぶのを手伝う。
「今日は貴方の為のパーティーよ。手伝わないで」
「ですが何もしないというのも…」
「良いから座って!待ってなさい。お嬢様命令よ」
適当な椅子に座らされ、命令によって動けなくなる。
「…どうなるんでしょうか」
「どうなるんでしょうね」
意識的に呟いた独り言に忍が答える。
「でもまぁ、皆楽しそうですよ。実際僕も楽しいです」
そう言って人の良さそうな笑顔を浮かべる。
本当にこいつの笑い方は真似出来ない。口角を上げる…というよりは何か違う筋肉が動いているのか?いや、寧ろ筋肉以外のものでこの顔をつくっているのか…
「えーと…僕の顔に何かついてる?」
「いえ。笑顔が素敵だな、と思っていただけです」
「え?!そ、そうかなぁ」
顔を赤く染めて照れ臭そうに笑う。
「僕から見れば神代さんの笑った顔も…す、素敵だと思いますよ」
そう言って更に顔を赤くする。
「忍様の笑顔は感情がこもっている笑顔ですよ。私はただ口角を上げているだけですから」
「でも神代さんは顔の造作が綺麗ですからどんな表情でも綺麗です」
「あぁ、この顔ですか…」
この嫌な顔の所為で何度面倒な目にあったことか…
「自分ではあまり気に入っていないんですよ。一層の事身体ごと子供の姿に作り変えたいのですが、それだとお嬢様をお守り出来ませんから」
「作り変える?そんなこと…」
「2人で楽しそうね」
声のした方を見ると、少し不貞腐れた顔で料理を持った納言が立っていた。
「私はお邪魔かしら」
「そんなことないよ!ほら、納言さんも座って」
料理を近くの机に置き、忍が勧めた席に座る。
俺が忍と納言に挟まれている状態だ。
「これ食べてみて!祥子と2人で作ったの」
「あ、これは僕が作ったんだよ。一寸女中さんに手伝って貰ったけど…」
「このスープは全部1人で作ったの!」
「た、卵焼きは僕が焼いたよ!」
両側からグイグイと料理を勧められる。
「…お二人の心遣いは大変嬉しいのですが、同時に迫られては頂けません」
「あ、そ、そうよね」
困ったように料理を下げる。
2人は顔を見合わせ、目だけで何方が先に渡すか会話しているようだ。
仲が良いな…
ふと頭の中をよぎった考えを馬鹿らしいと消し去り、懐中時計を出す。
「……」
「あっ!」
俺は少し顔を歪ませ、納言が大袈裟に反応する。
「血ついてるじゃない!大丈夫なの?動く?動いてる?」
あわあわと無意味に両手を動かしている。
「大丈夫です。ついたのは表面だけみたいですから動きます」
そう言って立ち上がる。
「すみません、良くないものを見せてしまいました。拭いてきますね」
「あ、でも手当を…」
「ついでに自分でしてきます。ご心配なさらず」
軽く微笑んでその場を去る。
…あぁ、また作り物の笑顔だ。どうすれば上手く笑えるのだろうか。
廊下を歩きながら思考を巡らせる。下腹部の鈍痛はもう気にならなくなってきた。
楽しいことがあれば笑えるのか。いや、俺にも楽しいことくらいはある。現に先程の2人のやり取りを見ていて微笑ましいと思っていた。となると他に何か…
そこまで考えて一瞬思考を止まらせ、自然な動作で振り返る。
「あ、バレちゃった」
「どうしたのですか?祥子様。催しはまだ終わっていないでしょう」
「ちょっと貴方を驚かそうと思ったの。でもバレちゃったなぁ。どうして分かるの?」
父親そっくりの笑みを浮かべる。
「音や気配ですかね。あとは勘と経験です」
「経験って、今までに何回も驚かされそうになったの?」
「昔お嬢様にも同じことをされましたから。それにこれくらいは普通です」
適当な空き部屋に入り、懐からハンカチと医療器具を取り出す。
「何時も持ち歩いているの?」
「こういうことは良くありますので」
血に塗れた懐中時計をハンカチで丁寧に拭う。
「どうしても狙われますからね」
「…今までに何度もあるの?」
「えぇ」
汚れは幸い凹凸面には入り込んでおらず、表面を撫でるだけですぐに拭き取れた。
一応細部まで確認してから机に置く。
「祥子様、会場へお戻りなさった方が宜しいかと」
「貴方がまた倒れないか見張ってるの」
「でしたらお部屋から出て頂けると…」
「窓から逃げるかもしれないでしょ」
頑なに外へ出ようとしない。
「今から治療をするんです」
「それは学ばせてくれないの?」
「祥子様が医療関係のお仕事に就くのなら考えますが」
早く出て行ってくれ。
「じゃあ私、医者になる。これで見せてくれる?」
「将来はそう簡単に決めてはいけません」
「でも貴方と居たいもの」
…最近の子供は頑固で困る。
小さく溜息を吐き、何も言わずにピンセットを手に取る。
「トラウマになっても知りませんよ」
「え?」
首を傾げる祥子を横目に、傷口にピンセットを差し込む。
思ったより奥に入ってるな…内臓に当たらなければ良いが。
筋繊維を傷つけないように慎重に捻じ込んでいくと、カツンと硬いものに当たる。
大きめの銃弾をピンセットで掴み、ズルリと引き出す。
祥子が小さな悲鳴をあげた。
「な、何これ…こんなの入って…」
「だから言ったでしょう。こういったものは見ない方が良いんです」
血塗れの弾丸をハンカチの上に落とし、傷口にガーゼを当てて包帯を巻く。
弾はサンプルとして取って置くか。
医療器具と懐中時計を片付けて立ち上がる。
「私のやり方は荒療治ですので真似はオススメしません。どうしてもやりたいなら池の魚あたりでお試し下さい」
そう言ってさっさと部屋を出て行った。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.145 )
- 日時: 2018/02/18 13:29
- 名前: ぴろん (ID: sjVsaouH)
26頁目
その次の日から館に嫌な異変が起き始めた。
1日目は郵便受けにハエの死骸が1匹入っていた。少し変に感じたが取り敢えず適当に捨てて置いた。
ただ、それが数日間続いたのだった。
流石におかしいと思い始めた頃、今度は郵便受けの中に蓋の開いたインク瓶が転がっていた。当然他の郵便物も汚れてしまい、結構な迷惑だった。
翌日、インクは二度もされては困る為、その日1日中郵便受けの横に立っていたが、そうすると今度は館内に石が投げ込まれた。硝子も割れてしまい、何人かが怪我をした。
「近頃の悪質な悪戯はなんなのかしらね」
刺繍の手を止めて納言がぼやく。
「近辺への警戒は怠っていないのですが、1度に全方位からザッと見て30人程来ています。数人は武器を所持しているので、他の使用人達に見張らせるのは危ないかと」
「そうなのよねぇ」
顎に指を当ててむぅと唸る。
この仕草は特に何も考えていない時にする仕草だ。
「経済とか商いのことならどんと来いなんだけど、武装した者達から館を守るなんて専門外なのよ。忍さんも武器には詳しいけど実際にそれを活用するのは苦手だし…」
俺頼み、という訳か。
溜息を吐きたくなるのをグッと堪えて笑顔を作る。
「私に担当させて下さい。防衛や武装の知識は多少なりともあると思います」
「やりたくないって顔に出てるわよ。まぁ反対されても押し付けるつもりだけれど」
少し困ったように笑いながら首を傾げる。
「申し訳無いけど此処の使用人は一旦休業。副業の方でこの問題を片付けてくれるかしら」
「そうすると私への報酬が発生してしまいますが」
「払いたいのよ。それに、何となく今回のは面倒な気がするから」
納言の勘は意外と当たる。本人はクジ運が良いだけだと言っているが、運の良さも生まれ持った才能だ。
その納言が俺がやる仕事で面倒だと言っている。それを前に聞いたのは納言をきちんとした大人にさせることを了承した時と、仕事をきちんと両立させると言った時。
何方も未だに出来ていないのは言うまでもない。
「…休暇を頂けるのは何十年程後でしょうか」
「私と忍さんの安全が保証されるまで。取り敢えず犯人特定から頑張って頂戴ね」
納言は軽い口調でそう言って手を振った。
その犯人特定も数年かかった。
まず周りにいた者を1人捉えて聞いてみたが、尋問だけでは問いただすことが出来ずに拷問へ移行。爪を剥がそうとしたところで奥歯に仕込まれていた毒で自殺された。
同じように何度か繰り返していたが全員が途中で自害するため名前すら聞き出せない。
拷問の方法を変えたり捉えた時に持ち物を全て奪ったり色々と試行錯誤を繰り返しているうちにやっと名前を聞き出せた。だが、それも偽名だと分かりまた始めからやり直す。
そんなこんなで首謀者の名前を聞き出すのに10年程かかったのだが、その頃には流石に拷問のコツも分かってきていた。
首謀者の名前は聞き覚えがあったのでその者が前に住んでいた場所辺りで聞き込みをするが、その中にもダミーが何人か入り込んでおりこれにも数年。やっと知った住所でももう引っ越していた為同じように聞き込みを続ける。
そんなこんなで特定まで20年と少しかかってしまった。
俺にとっての20年やそこらは長いとは感じなかったのだが、ここまで時間がかかったのはその間に祥子が結婚したり子供が出来たり育児に追われたりで仕事が上手く進まなかったのが原因だろう。
調べている間にもあの悪質な悪戯は続いており、それへの対処もしながらだったので寧ろ褒められるくらいの働きぶりだった。
納言も大分歳をとっていた。
部屋に入って何時もの報告をする。
「本日は悪戯の首謀者の潜窟を特定しました。先程下見もしたので間違いは無いかと」
「そう、お疲れ様」
50も半ばを過ぎた納言がふっと笑う。
「途中で投げ出すかと思っていたのに」
「拷問が捌け口になりました」
「嫌な趣味が出来たわね」
クスクスと楽しそうに笑って言う。
俺は趣味ではないと訂正するか迷ったが、別に肯定している訳でも無いので黙ったままでいる。
「そうそう、犯人と言えば少し前に多発していた暗殺事件。何時の間にか収まっていたけど結局どうなったのかしら?」
「あぁ、“銀狼”ですか」
官僚や海外軍閥長の者が次々と殺されていたあの事件。裏の方でも結構な話題になっている。
「あれ貴方じゃないの?」
「私がですか」
「偶々悪戯の関係者で、拷問中に誤って…とか」
成る程。確かに拷問中に自殺をした者もいたし、加減を知らないうちは幾人か殺している。それに解放した後も恐らくほぼ全員が死んでいるだろう。
他の者から見れば可能性は無くはないことだ。しかし…
「私が拷問した中に政府などの関係者は含まれておりませんし、死体も綺麗に始末しております。もし見つかったとしてもあの記事のように〈胸部を刺され即死〉のように綺麗に纏まりませんよ」
「あら、そうなの」
「取り敢えず指を切ったり耳を削いだりは確実にしますから。それに、亡くなった者はきちんと刈り取ってますよ」
「刈り取るって?」
納言が態とらしく首を傾げる。一応俺ではないという決定的な証拠が欲しいのだろう。
俺は首に手をトントンと当てる。
「私が一番美味しいところを逃すとお思いですか?」
「…そうね。貴方の趣味はそれだったわ」
悲しげに笑って俯く。
これ以上話題が長引かないよう、直ぐに話題を元に戻す。
「それで、明日には悪戯の首謀者の所行って話し合いをしたいのですが…」
「それなら私と忍さんも行くわ。依頼はしたけど自分の館の問題だもの。時間は?」
「午前10時程を予定しております」
「それなら特に予定は無いわ。明日は1日中暇だから何時でも良いけど」
年が明けて新調した手帳に書き込む。
「では今日は早めに寝ましょう。貴方も此処最近寝ていないでしょう?何かあってからでは遅いのよ」
「了解致しました。就寝前のお飲み物は?」
「明日に取っておくからいらないわ。お休みなさい」
「お休みなさいませ、お嬢様」
態とそう呼ぶと納言は擽ったそうに笑う。
「嫌ね、そんな歳じゃないわよ」
「私が受けた命は“お嬢様”をお守りすることですので」
「そうだったわね。じゃあお休み…式部」
最後の三文字を確かめるように小さく呟く。
俺もそれに答えて少し小さな声で言った。
「お休み」
パタンと扉を閉じて背を向ける。
二人共来るのか。それなら武力行使はやめておくべきだな。
丁寧に研ぎ直しておいた万年筆型の仕込み刀を内ポケットから取り出す。
…一応、持って行くか。
もう一度内ポケットにしまい直して部屋へ向かった。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.146 )
- 日時: 2018/03/07 18:15
- 名前: ぴろん (ID: VXkkD50w)
27頁目
大袈裟な程大きな門の前に立つ。
「着いたけど…大丈夫かなぁ」
「悪戯に文句を言いに行くだけよ。ご近所との色々でもあるじゃない」
「それで済めば良いけどね」
悲観的な忍が恐る恐ると言った様子でブザーを鳴らす。
ビーーッ
旧式の音を響かせた後、スピーカーから応答の声が聞こえる。
『何方様ですか?』
「急な来訪、申し訳御座いません。霧原と申します。西城様とお話をしたいことがあって参りました」
『霧原様…はい、少々お待ち下さい』
スピーカーの接続が切れて暫くすると門の鍵がガチャンと開く。
「入って良いのかな」
「良いから開けたんでしょ。行くわよ」
無遠慮にスタスタと中へ入って行く納言に忍がおずおずと続き、後ろに俺がついて行く。
服装は一応訪ねに来ているので小綺麗な格好をしているが、俺は黒い和服を着ていた。
「いらっしゃいませ、霧原様。お荷物お持ち致しましょうか?」
恐らく60歳程であろう男性が問う。
「いえ、使用人を連れて来ましたので」
「左様ですか。それではご案内致します」
スッと頭を下げて歩き出す。
「素敵なお屋敷ですね」
納言が辺りを見回しながら言う。
「このお屋敷はご夫人様が設計されまして、部屋の家具から窓硝子まで全て特注品です」
「あらまぁ、確か奥様は元デザイナーでしたわね。今は夫婦で政治活動までやっていらっしゃるとか。素敵ですね」
少々大袈裟な口調で褒める。
「霧原様はお嬢様の御学友でいらっしゃいましたね」
「えぇ、是非お会いしたいですわ。お医者様になったと聞きましたけれど、連絡はもう随分とっていませんの」
「それでは旦那様にお会いになった後、お部屋までご案内致します」
「本当ですか?忙しい時間を割いて下さるなんて…本当に有難う御座います」
会いたくない。納言も同じ心情だろう。
正直悪戯の首謀者を見つけた時は呆れた。何十年も前にからかったのをまだ根に持っていたのか、と。
此方は毒殺未遂をされた挙句肩まで刺されたというのに。金持ちの思考は下らない。それに…
「此方です」
その声でくだらない思考を遮られる。
老人が突き当たりの扉をノックし、扉の奥の人物に声をかける。
「旦那様、霧原様がいらっしゃっいました」
「入れ」
低く嗄れた声で迎え入れられる。
扉の向こうに踏ん反り返って座っていた男は、俺を見て驚いた顔をする。
「君は…昔の召使いの息子かね?随分顔の造作が似ているようだが」
「そんなところです。霧原様、態々時間を割いて下さって有難う御座います」
納言が代わりに答えて頭を下げる。
「そこまで切羽詰まってなかったからのう。さ、そこに座りなさい」
「失礼致します」
頭を下げて椅子に腰掛ける。
男は紅茶を使用人に持って来させ、それぞれの席の前に置く。
「どうぞ、遠慮されずに。毒味されても結構ですよ」
眼尻の皺を更に深くして笑う。
「あら、そんなこともありましたね」
「あの時は大変失礼致しました。まぁ貴方がたにも謝ってもらう必要がありますが」
笑顔のまま濁った目で俺を見る。
何に謝れば良いのかあまりわからないが取り敢えずニコリと笑っておいた。
「さてと、私に何の用でしょうか」
「言い難いことなのですが、現在私の所有となっている館に悪戯をされている様なのです。ここ数十年程」
「そんなに長い期間放っておいたのですか?相変わらず動きの遅い方ですね」
横に座っていた忍の肩がピクリと動く。
少し躊躇った後、忍は肩を強張らせながら口を開いた。
「いえ、それが悪戯の犯人が相当腕の立つ殺し屋だったのです。非合法な拳銃や刃物を携帯していました」
「ほう。では誰からも恨まれているのですね。そんなに沢山の殺し屋に囲まれているのですから」
「私はまだ“沢山の”殺し屋とは言っておりません」
男は困った様に笑いながら言葉を返す。
「貴方の話し方から想像したのですよ。間違っていたならすみません」
「合っているから謝罪を求めているんです」
机の下に隠した拳が固く握られる。忍が怒っている時の癖だった。
それでもまだ声は柔らかく、普段とあまり変わらないまま続ける。
「流石におかしいと思って私達も調べてあります。それで行き着いたのがここの家…というか、貴方だったんです。どの殺し屋も口を揃えて依頼人の貴方の名を出しましたよ」
「…記憶違いではありませんか?」
「そんなことありません。何せ雇われている殺し屋達はザッと見て数百人はいたのですから。まぁその中の5分の1程度の人数からしか情報は得られませんでしたが」
事前に確認しておいた言葉を並べ始める。
「それに貴方は数年おきに住居を移動している。点々と、それこそ逃げるように。政治活動をしているのなら1つの地域に定住した方が良いと思いますが」
段々と挑発的な態度になっていく。
男の顔も段々と赤くなっていくが、忍は言葉を並べ続ける。
「貴方は昔、この家の使用人に侮辱されたことがあるそうですね。その時のことは謝ります。ですが、そんな私的な理由で何十年も悪戯をし続けるというのは、それこそ赤子のような考えなのではないでしょうか」
そう言って忍は優しく微笑んだ。今ならまだ許してやる、と薄く細められた目が伝えている。
男は側の銀のナイフを手に取った。
「巫山戯るな!私がそんなことをしたと言いたいのか!」
いきなり怒鳴って立ち上がり、ナイフを机に突き立てる。
「えぇ、何せうちで一番信用している何でも屋に頼んだのですから」
納言も忍と同じような柔らかい笑顔を浮かべている。
「御不満なら其の者に連絡を。携帯電話は持っていらっしゃいますよね」
「…番号は」
「此方です」
番号を書いた紙を渡す。
男は苛々とした手付きで番号を打ち込み、電話をかける。
ピリリリリ
ほぼ同時に直ぐ近くで無機質なアラーム音が鳴る。
音源を手に取って開き、牡丹を押した。
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