二次創作小説(紙ほか)
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- ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
- 日時: 2021/09/10 03:28
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
初めまして。カキコ初見のぴろんと申します。
初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります。
コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!
※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。
・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。
・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からない表現や言葉等があった時はコメントで質問をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。
・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂けると幸いです。
2016/12/30 閲覧数100突破!本当に感謝です!
2017/01/14 閲覧数200突破!有難う御座います!
2017/02/09 閲覧数300突破!唯々感謝です!
2017/03/01 閲覧数400突破!感謝感激雨霰です!
2017/03/24 閲覧数500突破!有難う御座います!
2017/04/23 閲覧数600突破!泣くほど感謝です!
2017/05/13 閲覧数700突破!感謝しすぎで死にそうです!
2017/05/28 閲覧数800突破!本当に有難う御座います!
2017/06/21 閲覧数900突破!物凄い感謝です!
2017/07/02 閲覧数1000突破!信じられないです…有難う御座います!!
2017/07/18 閲覧数1100突破!有難う御座います!
2017/08/03 閲覧数1200突破!感謝ですっ!
2017/08/30 閲覧数1300突破!有難う御座います有難う御座います
2017/09/24 閲覧数1400突破!本っ当に有難う御座います!
2017/11/03 閲覧数1500突破!感謝しかないです!
2017/11/29 閲覧数1600突破!本当に感謝します!
2018/01/08 閲覧数1800突破!1700飛ばしてすみません!有難う御座います!
2018/01/13 閲覧数1900突破!年始効果でしょうか…有難う御座います!
2018/01/27 閲覧数2000突破!こ、これは…夢でしょうか…?!本当に、心から感謝致します!!
2018/03/07 閲覧数2100、2200突破!1つ逃してしまいました…ありがとうございます!
2018/03/28 閲覧数2300突破!ありがとうございます…!!!
2018/04/17 閲覧数2400突破!間に合わないのがとても嬉しいです…!
2018/05/13 閲覧数2500突破!いつの間に…?!有難う御座います!!
2018/05/20 閲覧数2600突破!とてもとても!感謝でございます!!
2018/05/23 閲覧数2700突破!ぺ、ペースが早い…!ありがとうこざいます!!
2018/06/02 閲覧数2800突破!間に合わなくてすみません。有難う御座います!
2018/06/29 閲覧数3000突破!え、あの、ごめんなさい!有難う御座います!なんかします!
2021/09/10 閲覧数7000突破!有難う御座います。恐らく更新はありませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。
何時の間にか返信数も100突破です。有難う御座います!
2017/06/30 本編完結。今後とも宜しくお願い致します。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.66 )
- 日時: 2017/03/27 16:40
- 名前: ぴろん (ID: HBvApUx3)
39間目
太宰は式部を防音仕様の個室に呼び、大き目の椅子に腰掛ける。
「さてと。取り敢えず式部ちゃん、路地裏に戻ってくれる?」
「無理」
その返答に太宰はふぅんとだけ言って立ち上がる。
「じゃあしょうがないね。私も仕事なのだよ」
そう言いながら扉の鍵を閉めた。
〜30分後〜
安吾が扉をノックする。
暫く待つが、返答は無い。
「太宰君、まだですか?」
声をかけるが、何も返ってこない。
ポケットから合鍵を出し、部屋の鍵を開けて扉を開ける。
太宰が1人掛けソファの背もたれにぐったりと寄りかかっている。
目の前では何時もの黒いコートと紫色のマフラー姿に戻った式部が退屈そうに紅茶を飲んでいた。
「えーと…どうしたんですか?」
躊躇いつつも尋ねる。
「安吾…ごめん、無理だ」
太宰が疲れ切った声で言う。
「真逆私でも言う事を聞かせられないとはね…脅しも口説きも取引も効かないときた。ちょっとした薬を飲ませたりしたのだけれど効果がない。お手上げだよ」
両手を挙げて降参のポーズを取る。
「…取り敢えず部屋の中に血飛沫が無かったのは褒めておきます」
太宰の隣に座りながら言う。
「そういえば式部さんは何故いつもの姿に?」
式部は少し間をあけてからから答える。
「脱がされた」
「は?」
安吾は太宰を見る。
「いや!違うよ!もう手段無くなったから、ちょっとした脅し文句で帰らなきゃココで脱げって言ったら本当に脱ぐんだもの!」
焦りながら言う。
「それで急いで子供の姿に戻したのだよ。流石に女性の裸を見るのは犯罪だからね。私、紳士だから」
最後に付け加えられた言葉を聞き、眉間に皺を寄せて太宰を見る。
太宰はそっと視線を逸らす。
「取り敢えず、路地裏に帰ってもらう説得の依頼は無かった事にしておきますね」
溜息を吐いて言う。
「それが良い。依頼を失敗したら鬼の様に怒る同僚がいるもので」
笑いながら言う。
チリン
鈴の音が鳴り、式部の姿が変わる。
見れば見るほどやはり美人だ。
先程の式部と同じ服装のままだったので、小さいサイズのパジャマに大きめのコートを羽織って長いマフラーを巻いた姿となる。
式部は徐ろにコートを脱いだ。
「いやちょっと待って!」
太宰が叫ぶ。
「待てって何をだ?」
何もない空間からシャツを出し、パジャマの上に手をかける。
太宰と安吾は急いで部屋を出て扉を閉め、安堵、疲労の息を吐いた。
「式部さんはデリカシーに欠けてますね…」
「欠けてるというかアレは無いね。自分が女の子だって自覚あるのかなぁ」
折角美人なのに。と言いながらポケットに手を入れる。
「まぁ確かに美人ですよね」
安吾がボソリと呟く。
「おやおやぁ?もしかして安吾、ああいうのがお好み?」
「人の容姿を褒めただけでなんでそうなるんですか」
「別に隠す必要は無いよ!私もああいう美人さん好きだし」
ニヤニヤと笑いながら言う。
「そういう話はお酒の席だけにして下さい」
不機嫌そうに言ってそっぽを向く。
「お二人共どうかされましたか?」
通りかかった辻村が声をかける。
安吾は冷たい目で辻村を見る。
「辻村君、報告書は出来上がりましたか?」
「はい!今それを届けに…」
ガチャッ
扉が開いて式部が出てくる。
白いワイシャツはボタンが止められておらず、包帯が露わになっている。
安吾はギョッとして目を逸らした。
「式部さん!シャツのボタンは第2までしか開けちゃいけないって言ったじゃ無いですか!」
辻村が急いでボタンを止める。
「面倒臭いしキツい」
「ちゃんとして下さい!折角私のを貸してるのに…それに袖だって丁度ピッタリだからキツイ筈無いですよ!」
ほら!と式部の腕を持つ。
「だから胸元。こんだけサラシ巻いて抑えてんのにキツイって男物なんじゃねぇの?これ」
「んなっ!と、特注品ですよ!動きやすいようにしてるんです!」
顔を真っ赤にして怒る。
「反抗期の娘と母親みたいだねぇ」
「そんなに老けてません!」
キッと太宰を睨む。
「辻村君、一応客人ですよ」
「あ、すいません」
小さく深呼吸をして落ち着く。
「一応って酷いなぁ。それより式部ちゃん着痩せするタイプなの?それなら私すっごく好みなのだけれど」
「うるさい」
「あぁ〜!触れないのが勿体無い!」
太宰は頭を抱える。
「太宰君、凄い変態発言ですよ。それ」
「相手の警戒を和らげるためにやってるんだろうが、お前に惚れてない奴だと逆効果だな」
「あ、じゃあ今まで成功した子達は私に惚れていたのか!いやぁモテるって辛いねぇ」
そう言ってニヤニヤする太宰の頭にバケツが落ちる。
角が当たったようで、あまりの痛みに声も出さずに頭を押さえてうずくまる。
「辻村君、報告書は」
「あ、はい」
鞄から書類を取り出して渡す。
「では僕は書類の整理をしてきます。式部さんは今は仕事をしないで下さい」
「じゃあ少し散歩してくる」
「そのまま出て行ってくれると嬉しいんですけどね」
溜息を吐きながら安吾は隣の部屋に入った。
「私は安吾の仕事ぶりでも観察しようかな」
頭をさすりながら部屋に入る。
辻村は何も言わずに席に着き、パソコンに向かって仕事を始めた。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.67 )
- 日時: 2017/03/27 17:09
- 名前: ぽぺぽぺ (ID: XnbZDj7O)
ぴろん様!
閲覧させていただいております!
ぽぺぽぺです!!
太宰さんが拷問に失敗……!
式部さん。すごい。(語彙力)
本編では見られないような太宰さんの姿が見る(読む?)ことが出来て幸せです!!
これからの展開に期待ですね…!
あ、最後に。
深月ちゃん。可愛いです。
遠くから生暖かい目で見守っております!
投稿頑張って下さい!!!
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.68 )
- 日時: 2017/03/28 09:46
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
ぽぺぽぺ様!お久し振りです!
コメント有難う御座いますm(_ _)m
本作品ではぽぺぽぺ様の感じられたように、公式では味わえないキャラクターの表情を出せるように意識して書いております。
その辺りを感じ取って頂けてとても嬉しいです!
あ、辻村さんは個人的にド天然真面目で好きなキャラクターなので、出来るだけ生き生きさせて書こうとしております。
えぇ、是非生暖かい目で見守って下さい!欲を言えば遠くとは言わず近くで…
大体32度程の生暖かさが丁度良いです。少し冷たくても大丈夫です。
これからも宜しくお願い致します!
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.69 )
- 日時: 2017/04/10 19:45
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
40間目
暇になった式部は内務省の建物を出て街を歩く。
普段の風景とは少し違う街並みを見ながら歩いていると、声をかけられた。
「お姉ちゃん、俺とお茶しない?」
典型的なナンパである。
この姿での式部の身長だと、相手を見下ろす形になる。
無視するかどうか少し迷ったが、結局声と口調を変えて答える。
「お断りします」
「えぇ〜?良いじゃん。見た所仕事中じゃ無いんでしょぉ?」
微妙に高いイントネーションのついた声にイラッとする。
「育ち良さそうだね〜どっかのお嬢様?」
距離を詰められ、一歩下がる。
「怖がっちゃって。かわい〜」
ニヤニヤとしながらまた距離を詰めてくる。
どうする…投げるか?でも騒動にすると安吾がうるさいだろうし…
式部が考えていると、横から背の高い男が入ってきた。
「やめろ。困っているだろう」
男が少し低めの声で言うと、ナンパ男は小さく悲鳴を上げながら逃げ帰って行った。
金髪で後ろを1つに結んでいる。几帳面なベスト姿。
国木田だった。
当たり前だが目の前にいる女性が式部だという事に気が付いていないらしい。
「大丈夫か。何処か怪我は無いか」
一応頷く。
「なら良かった。次からは気をつけろ」
よし、決めた。
暇潰しでもしよう。
「あの、もしかして国木田 独歩さんですか?」
出来るだけ国木田の理想の女性像に近づけた声で言う。
「何だ?俺を知っているのか」
少し驚いた顔で言う。
「私、内務省の新人の神代と申します。少し変わった所に所属しておりまして…」
一応偽名も使い、特務科は国の機密組織であるため名前を伏せる。
先日安吾から貰った手帳をポケットから出してみせる。
特務科の一員である証拠だ。
「それで今武装探偵社のやっているお仕事に興味があるのですが、ご一緒させて下さいませんか?見た所お悩みのご様子ですし」
国木田はもう一度驚いた顔になる。
「何故わかる」
「人間観察が得意なんです」
そう言ってチラリと国木田の目を見ると、少し考えてから口を開いた。
「まぁ、今は猫の手も借りたい状況だからな。関係者なら丁度いい。少し相談に乗ってくれ」
「はい。今のお礼もしたいですし、お茶でも飲みながら」
近くにあった古風な茶屋を指して言う。
「そうだな」
国木田が短く答え、2人は茶屋に入っていった。
お茶と和菓子が運ばれる。
従業員が去ったのを確認してから、典型的な問いを投げかける。
「それで、今は何のお仕事を?」
「最近異能者絡みの犯罪が多いだろう。それに関してなのだが…」
持っていた封筒から幾つかの資料を出す。
「どうも関連性がある様でな」
その中から人の写真を取り出し、首辺りを指差す。
そこには波紋の様な形の刺青があった。
他の数名の写真にも腕や背中、脚などに同じ刺青が付いている。
式部はこれに見覚えがあった。
6年前の記憶が蘇る。
そこら中に転がる死体の山。その中に同じ刺青の奴がいた。大量に。
「他にも数名捕らえたのだが、どの事件を起こした者にも同じ物がついている。見覚えはないか?」
式部は少し考えてから話す。
「あります」
「本当か?」
国木田は目を見開く。
「えぇ、6年程前に…確かヨコハマの方だと思います。幼い頃の記憶ですが、確かにこの刺青の入った男を見かけました」
「そいつが今何処にいるかわかるか?」
少し前のめりな姿勢になって問われる。
「…その時には亡くなっていました」
悲しそうな表情を浮かべながらお茶を飲む。
「少し訳ありで、その頃は死体漁りをしていたんです。その時に…」
「見つけたという訳か」
国木田も悔しそうな表情を浮かべながらお茶を飲む。
何故そんな表情を浮かべたのか少し不思議だったが、何も無かったかのように淡々と続ける。
「その辺りに確か廃屋がありました。昔から不埒な輩が出入りする場所のようですし、調査してみると良いかもしれませんね」
そう言いながら鬱陶しい髪を耳にかける。
「やけに詳しいな」
「危険な場所は調べていますから」
国木田は何か考え込みながらまたお茶を飲む。
何処まで情報をやろうか。やり過ぎるとつまらんだろうし、かといって全く分からないってのもつまらないし…難しいところだな。
少し長めの沈黙が続く。
「…その、だな」
国木田が視線を逸らしながら言う。
「今更言うのも何なのだが…同僚に見られたらマズイのではないか?」
勿論国木田は恋愛関係の意味で話しているが、鈍感な式部は気づかない。
同僚…まぁ辻村辺りの事か。確かに勝手に飯食ってるの見られるのはマズイか。
「国木田さんもいますし、大丈夫ですよ」
一応妥当だと思われる返事をする。
「いや、そうではなくて、俺といるのが知られたら、という事なのだが…」
更に視線を逸らす。
「何故です?」
「…俺の同僚がこういった類の噂が好みでな。見られると面倒というか」
こういった類…?
今してる事といえば、俺と国木田が茶を飲んでるだけだが…もしや男が茶菓子を食べるのは恥ずかしい事なのか?
「別に良いと思いますよ。滅多にある事ではないのですし、楽しみましょう」
「たのっ…?!だ、だがそちらに迷惑が…」
少し顔を赤くする。
「でも何時もは味わえないですし、私もお礼がしたいので丁度良いのでは?それとも、もう少し人気の少ない所の方が良いですか?」
見られたくないならそっちの方が良いか。
次の言葉を考えながらお茶菓子を食べる。
国木田は小さく深呼吸をして、落ち着きを取り戻してから言う。
「…いや、それなら良い。それで、廃屋の場所は分かるか」
茶の事はもう良いのか…よく分からない奴だな。
そんな事を思いながら答える。
「住所までは分かりません。案内ならできますが」
「なら頼む。丁度車で来ているから移動も速いだろう」
そう言いながらお茶を飲み干し、会計の紙を持って立ち上がる。
「あ、会計は私がします。お礼も兼ねてでしたから」
「女性に払わせる訳にはいかんだろう。俺の理想に反する」
そう言ってさっさと会計を済ませてしまう。
「理想…ですか」
「あぁ、理想だ。何か悪いか」
少し不機嫌そうに言う。
こういう時は何て言えば良いんだ?2年前の女は確か…
「いえ、素敵だと思います」
昔聞いた言葉をそのまま言うと、国木田はそうか。とだけ言って先を歩く。
時折4年後やら特定の女性やら逢い引きやらと呟いては首を振ったりしていたが、何の事だかよく分からなかったから聞かなかった事にした。
黒い車の助手席に座り、シートベルトをつける。
「取り敢えずヨコハマ方面に向かう。近くになってから道案内を頼む」
そう言って車を走らせる。
「国木田さんは武装探偵社のお方なんですよね」
「そうだが」
「どんな異能を持っているのですか?」
式部は何処まで自分を信頼しているかを試すため、取り敢えず少し攻めた質問をする。
「手帳に書いたものを具現化する。それだけだ」
意外とあっさりと答える。
「それなら俺からも同じ質問をする。どんな異能だ?」
目線は前を向いたまま言う。
「人の特徴が良く見えるって感じですね。情報収集に最適です」
ネタバラシはまだ早い。
「制御できなかった頃は視界に居る人全ての情報が頭に入ってくるので大変でした」
「今はどうなんだ」
「大分良くなりました」
嘘は得意だ。人を騙すのに何度も使ってきた。今更良心など痛まない。
「そうか。良かったな」
どうやら随分心を許しているらしい。俺が特務科だと知ったからか?それとも…
暫く走り、窓の外が見慣れた何時もの街並みで埋まる。
「この辺りからなら案内できます」
「なら頼む」
大通りから外れた道を行き、車で通るのが困難な路地に出る。
「歩くか…すまないが、車を停めてくるから待っていてくれるか?直ぐに戻る」
「はい、分かりました」
走っていく車を見送り、路地を覗く。
この辺りは式部の管理下の端の方。無法地帯に成り易い場所なので時折足を運んでいる。
それでも馬鹿な奴らは出てくるもので。
「おい」
後ろから声を掛けられると同時に腕を掴まれ、羽交い締めにされる。
男の身長は2メートルより大きい。この姿でも見上げる高さである。
直ぐに周りを囲まれる。
「なぁねーちゃん、俺らと良い事しねぇか?」
歯並びの悪い男が言う。
式部の頭ではこの男達を殺さずに処分し、かつ国木田が戻ってくるまでに隠す策が練られ始めていた。
「返事くらいしろよぉ」
ニタニタと笑いながら男達が近寄って来る。
式部はふと思いつく。
別に隠さなくても良いのでは?特務科のエージェントだし、これ位は出来るだろう。
心の中で勝手に納得し、大男の腕を掴む。
デカさと馬鹿力が取り柄の奴らしいが、式部には関係ない。軽く引いて腕を外す。
「っ?!」
驚いている大男の足を払い、腕を逆向きに捻りながら軽く叩いてやる。
大男は宙を舞った。
死なないように加減をしながら地面に叩きつける。
コンクリートの地面にヒビが入った。
「な、なんだこの女!」
男達はざわつき、警戒する。
その中の1人が俺の手首を掴んだ。
そのまま先程と同じように地面に叩きつける。
後ろから殴りかかってきた男は、身体を半回転させてみぞおちを蹴る。
それに巻き込まれて3人程が壁に叩きつけられた。
「こ、こいつ…!」
ようやく状況が分かってきたらしく、鉄パイプやナイフを持ち始めた。
「やれっ!」
人が自分よりも強い者を見た時に取る行動は1つ。尻尾を巻いてさっさと逃げる事だ。
だが自分側に人数がいた場合には勝算があると勘違いしてしまう。
だから集団は嫌いなんだ。
「グハッ!」
みぞおちを殴って気絶した奴を放り投げる。
その隙にナイフを持った奴が襲いかかってきた。素人のナイフは当たらない。
躱しながらナイフを奪い取ってやった。
ついでに首筋に手刀を入れると、そのまま力なく倒れていった。
「ひぃっ!」
数人が逃げ出し始めた。
少しだけ殺気を放つと、殆どの奴の動きが止まる。足がすくんで動けないのだ。
落ちていた鉄パイプを拾って襲ってくる奴をまとめて薙ぎ払う。
「うわあああ!」
動けなくなっていた男達はそこで退散する。
まだ数人が残っている。
「く、くそっ!」
そいつらは最後の手段で俺に拳銃を向けてデタラメに撃ち始めた。
だが、銃口が見えていれば弾の向きが。引き金が見えていれば撃つタイミングが分かる。未来が見えているようなものだ。
こんな奴等が拳銃を持っているのか。世も末だな。政府は何をしている。
そんなことを考えながら避けようとすると、先程の大男が両足首を掴んでいた。
振りほどくのは無理だと判断し、目の前の床に両手をついて勢いで大男ごと両足を上げる。
そのまま回転し、男達に大男をぶつけてやった。
「グハッ…!」
男達は大男の下敷きになって倒れた。
意識のあった男が俺に銃を向ける。
と、後ろから足音が聞こえた。
国木田だ。
男が向けていた銃は俺を向いているが、俺が避ければ位置的に国木田に当たる。
男は引き金を引き、銃弾が放たれた。
俺に当たるまで時間は無い。避けるのは簡単だが国木田に当たる…か。
ほんの一瞬の間に考える。
ポケットの中に硬い感触があった。男から奪ったナイフだ。
ギリギリでそれを銃弾に当て、軌道をずらす。
ギィンッ!
弾かれたナイフは式部の腕を少し削ってから床に突き刺さる。
銃弾は壁に1つの跡を残して静止した。
「待たせてすまな…」
急いで帰ってきた国木田が口を開けたまま固まる。
「これは…?」
式部は小さく息を吸い、声と口調を変えてから答える。
「唯の喧嘩なら得意なんです」
そう言って頬についた汚れを指で拭った。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.70 )
- 日時: 2017/04/10 20:06
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
41間目
「ねぇ安吾〜」
「何ですか」
「ひーまー」
「仕事手伝って下さい」
「やだー」
「なら黙ってて下さい」
「ぶー…」
ふてくされながらも太宰は黙る。
このやり取りを2分おきに続けているが、一向に他の会話は出てこない。
「ねぇ安吾〜」
18回目のその声で安吾の痺れが切れる。
「うるさいです!何回同じ事を言わせるんですか!」
「思ってたよりも長かったねぇ」
笑いながら言う。
「長かったって…僕が怒るまでの時間でも測定していたんですか?」
「うん。暇潰しに」
サラリと答える太宰に安吾は怒鳴る。
「僕は仕事をしているんです!余計なストレスを与えないで下さい!」
「はいはい、じゃあ私もこっちに集中しようかなぁ」
片耳だけ付けていたイヤホンのもう片方を手に取る。
「盗聴器ですか?」
「まぁね。今面白い事になっているんだよ」
ニヤニヤしながらもう片方のイヤホンを耳につけた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この人数をか…?」
唖然として言う。
「単純な人程動きを読みやすい。昔からの教えです」
服についた埃を払いながら言う。
何時もの服より動き難いがこの身体ならリーチがあるな。それに筋力も少し高い。これなら活用して…
そんな事を考えていると、国木田が声をかける。
「おい」
「何ですか?」
「ちょっと見せてみろ」
グイッと腕を掴んで引き寄せる。
「やっぱり…」
右腕には先程のナイフが当たった時の傷によって、血が滲んでいた。
「大丈夫です。これ位は何時もの事なので」
腕を引こうとするが、国木田がそれを止める。
「駄目だ」
ポケットからハンカチを取り出し、傷のあるところに結ぶ。
「今は何も持っていないからこれ位しか出来ん。戻ってからきちんと医者に診てもらえ」
そう言って腕を離す。
深緑色のハンカチに血が滲んでいく。
「あの、ハンカチが汚れて…」
「返却は不要だ。捨てても構わん」
そう言って振り返る。
この姿だと表情筋がよく動く。何時もは出ない言葉が出る。
少し、便利だな。
「有難う御座います」
微笑みながらそう言う。
「…別に礼を言われるような事はしていない。それより案内を頼む」
何故か少し顔を赤くしながら言う。
「はい、分かりました」
その辺に転がる奴らを跨ぐ。
少し歩くと人気の全くない暗い路地になる。
時間的にはまだ夕方だがこの路地ではより一層暗く感じる。
慣れた足取りで進んでいると、国木田が問う。
「怪我をした時このような事はよくある事だと言っていたが、その…手や首の包帯がそれなのか?」
言い方から少し躊躇っているのが分かる。
「半分、正解です」
言葉を選びながら話す。
「その怪我の為のものもありますが、大半は昔の古傷を隠す為…あまり見ていて気分の良いものではありませんから」
「そうか…すまなかったな。無遠慮過ぎた」
目線を下に向けて言う。
「大丈夫です。よく聞かれますから」
実際に太宰に聞かれたし。
なんか似てるな、この2人。
「それにしても国木田さんは背が高いですね」
「他の奴らに目印として活用されているだけでそこまで便利では無い。そう言う貴方も身長はある方だろう」
「えぇ、便利ですよ。この身長」
リーチがあって戦いやすいし。という言葉を飲み込んで言う。
「俺は周りにこき使われるだけだからな…無いよりはマシなのか?」
自分の身長を確かめるように頭に手を乗せる。
「きっとそうですよ」
他愛の無い話をしながら歩いていると、何時の間にか暗い路地裏を抜けていた。
茜色の夕日が瞳に刺さる。
あの廃屋にはこの辺りを見回る時にたまに寄る。何度も歩いた事のある道を歩いて行く。
「着きました」
廃れ、潰れ、廃屋というより瓦礫の山となった館が建っていた。
中に入ると、壁面にはかつての襲撃の際についた血が今も生々しく残っている。
死体は無かった。誰かが見つけて葬儀屋に頼んだのか、証拠隠滅の為に生き残った者が片付けたのか。詳しい事は分からない。
「中も大分荒れているな…人は住んでいないか」
茜色に染まっていた廊下が段々と黒い影に飲み込まれていく。
「中の構造は分かるか?」
「いえ、そこまでは分かりません」
あまり言うと正体がバレかねない。
「そうか。取り敢えず俺は手掛かりがないか探してくるが、どうする?」
「一緒に回ります。2人で見た方が効率も良いでしょう」
「分かった。一応、逸れるなよ」
そう言って国木田は階段をのぼる。
初めて此処に来た時に通った道。その次に通ったのは此処から逃げ出した後。
昔のことを思い出しながら着いて行く。
最上階に着くと、もう陽は沈んで辺りは暗くなっていた。
「…暗いな」
「使いますか?」
鞄の中から懐中電灯を取り出す。
実際は入っていたのではなく異能で空間を繋げて出したように見せているだけだが…
国木田は少し迷ってから懐中電灯を受け取り、スイッチを入れる。
「有難く使わせて貰おう。人は居ないみたいだからな」
最上階には一本の廊下しかない。突き当たりを照らすと、大きな木製の扉が見えた。
足元に散らばる硝子の破片に注意しながら廊下を進み扉の前に立つ。
「開けるぞ」
ドアノブを回し軽く押すと、その扉は大きさに似合わず容易に開き、部屋の様子を見せた。
何もない部屋の少し奥に薄い布が掛かっており、その後ろに大きな椅子の影が見える。
壁にある銃痕がかつての悲劇を伝えている。
国木田は薄い布を躊躇なく開く。
奥の椅子にも弾痕が刻まれていたが、血はついていない。その代わりに肘掛の辺りに墨汁を垂らしたような黒い染みが付いていた。
「何かあるのは間違いないな。今度太宰を連れて来てみるか…」
「太宰?」
「あぁ、俺の同僚の名だ」
こんなに簡単に個人情報を教えて良いのか?
「ただ、此処が事件に関係のある場所だというのは分かった」
国木田は鞄からカメラを取り出し、写真を撮る。
フラッシュで照らされた絨毯には波紋のようなマークが付いていた。
「コレだけあれば充分だ。一応他の階の部屋も見るが直ぐに帰れるな」
そう言いながら部屋を出る。
その後幾つかの部屋を回る。
図書室、仮眠室、風呂、食堂、おそらく個人の寝泊まりしていた部屋も回ったが特に有益な情報は残されていなかった。
一階の探索に移った時、式部は足を止めた。
「ん?どうした」
前を歩いていた国木田が振り返る。
「…いえ、少し虫に驚いただけです」
「そうか、気をつけろ」
そう言ってまた歩を進める。
今目の前に見えている扉。8年前から毎日通っていた扉。
国木田がそれを開ける。
拷問室だった。
真ん中に金属質の台があり、拘束具が周りに置いてある。壁には拷問用の器具や武器が大量にかけられていた。
「…酷いな」
国木田がポツリと言う。
真ん中の台には大量の血の跡。それは周りにも飛び散っていた。
「拷問もやっていたのか…大きさからして子供だな」
台を見ながら言う。
と、気がついたように振り向いて声をかける。
「外で待って待っていても良いが」
「大丈夫です」
式部はかつての自分の居場所である部屋を見回す。
6年前と全く同じ部屋の構造。
台の上でもがき苦しんでいる自分の姿が目に浮かぶ。
無様だな…
暫くして何も叫ばず、もがかなくなり死体のように寝転がる自分の姿が目に浮かぶ。
それを見て式部は憐れみの目を向ける。
かつての自分が憎い。
何故その選択肢しか見出せなかった。脱出なら出来ただろう。
何故あいつらに従った。歯向かうことならいくらでも出来るだろう。
何故此処を居場所にした。他にも行くべきところはあっただろう。
何故、何故生きている。死ぬ事は何よりも容易な筈だろう。
考えれば考える程、結論は自分の死しか見出せない自分が憎い。いっそ死ねば良いのだろうがそれも出来ないなんて、俺は一体何故…
「おい、大丈夫か」
国木田の声でハッと我に帰る。
「顔色が悪いが矢張り外で待っていた方が良かったか?」
心配そうに言う。
「平気です、少し考え事をしていただけですので」
「…無理そうだったら早めに言え」
それだけ言って国木田は部屋を調べる。
式部はバレないように溜息を吐く。
…この自虐癖は治した方が良いな。
そう思いながら台に触れる。
冷たく温度の無い金属。かつての自分の居場所に懐かしさすら感じる。
「あまり触らないほうが良い。清潔ではないからな」
「分かりました」
自分の血を指で撫でてから手を離す。
勿体無いな…この時血が出ない方法にして貰えば良かったか。
目の前が少しぼやける。
そろそろ血が足りないし早めに引き返すか。
「特に何もありませんね」
「そうだな。部屋ももう無いし帰るか」
部屋を出て出口へ向かう。
と、壁に隙間があるのに気がついた。
よく見ると取っ手も付いている。
「国木田さん」
ほぼ無意識に袖を引っ張る。
「何だ?」
「そこの壁…」
袖を持っていない方の手で壁を指差す。
「ん?扉か。暗くて気がづかなかったが…助かった、最後に此処だけ調べるか」
扉を開くと、地下へと続く階段があった。
そこから漂う悪臭に国木田は思わず顔をしかめる。だが、式部には嗅ぎ慣れた臭いに感じた。
2人はゆっくりと階段を降りていった。
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