二次創作小説(紙ほか)
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- ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
- 日時: 2021/09/10 03:28
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
初めまして。カキコ初見のぴろんと申します。
初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります。
コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!
※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。
・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。
・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からない表現や言葉等があった時はコメントで質問をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。
・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂けると幸いです。
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2018/05/23 閲覧数2700突破!ぺ、ペースが早い…!ありがとうこざいます!!
2018/06/02 閲覧数2800突破!間に合わなくてすみません。有難う御座います!
2018/06/29 閲覧数3000突破!え、あの、ごめんなさい!有難う御座います!なんかします!
2021/09/10 閲覧数7000突破!有難う御座います。恐らく更新はありませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。
何時の間にか返信数も100突破です。有難う御座います!
2017/06/30 本編完結。今後とも宜しくお願い致します。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.107 )
- 日時: 2017/06/25 20:52
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
69間目
「お話は終わりましたか?」
太宰が疲れた様子で中に入って来て問う。
どうやらあの双子に大分振り回されたようだ。
「まだあんまり。それにしても折口と言ったか」
「は、はい」
折口は先程のところに立ったままビクビクした様子で此方を見ている。
「何をビクビクしてるんだ。歳上の癖に情けないぞ!」
「そうだけどその、もしもこれがバレたらと思うと…」
「ん?折口君って今幾つだっけ?」
太宰が首を傾げる。
「今年で38歳です。一応おっさんですよ」
「あれー?そんなに歳とってたっけ?マフィアでも古株なのは知ってたけど」
「よく言われます…童顔なのは分かってるんですけど、今まで僕の歳当てられたことないです。というか、江戸川さんよく分かったね」
「見れば分かるよ。僕が全く見当がつかないのはあの2人くらいだ」
部屋の奥でお揃いのマフラーを巻いて焼き菓子の準備をしている2人を指差す。
それに気づいた式部が振り向いて答える。
「納言に歳は無い。最初からこの大きさだからな。俺の歳は自分でも数えるのが面倒だったから知らん。因みにこの姿での歳が10歳っていうのは出鱈目だから真に受けるなよ」
「うわぁ、私信じてたのに」
太宰が大袈裟に言う。
「実際にそうだったらお前は幼女追い剥ぎで裁判沙汰だ」
「脱がしてないよ。ちょっとした脅迫で脱げって言ったら本当に脱ぎ始めたのは式部ちゃんじゃないか。露出狂だよ」
「俺自体は別に裸で暮らしてても何の問題もないからな。何なら年齢いじって20歳の女姿で脱いでやろうか」
「式部。女性の前でそれはセクハラよ」
納言がジトッとした目で睨む。
「そういうものか?」
「そういうものなの。それに元々貴方女じゃないでしょ」
「こっちの姿の方が騙しやすい」
「そんなことやってるなら私の身長も伸ばしなさいよ。この姿だと台所に立つのも大変」
「その姿で子供のフリするの楽しんでたけどな」
「それはそれ!今は違うから!」
納言は普段と全く違う喋り方で式部と話す。敬語はよそ行き用らしい。
式部はそれを適当に答えながら切り分けた焼き菓子を机に並べる。
「椅子は人数分足りるから適当に座れ。客人は遠慮するなよ」
それを聞いて、乱歩は真っ先に一番大きい焼き菓子をとって一番大きい椅子に座る。
「いただきまーす。あ、飲み物はあのフワフワしたやつがいいから作って」
「あれか。少し時間かかるぞ」
「別に良いよ、先食べてるし。模様は任せるね」
「了解。他の奴らは?」
式部がついでという感じで付け足す。
「フワフワしたのって何?」
「綿菓子?」
双子の2人が食いつく。
「カフェラテって飲み物。珈琲は飲めるか」
「ミルクと砂糖たっぷりなら!」
「じゃあ作ってやる。太宰は」
「私はブラックで良いよ」
軽く頷いて了承し、台所の前に立つ。
と、上の階から鞠が駆け下りてきた。
「式部さん!お目覚めですか?!」
「ん、今起きた。衣替えついでに点検するか?」
「是非お願い致します!」
異様に高いテンションのまま両腕を上げて大きく跳ねる。
「稼働します!脚も異常なしです!」
「そうか。じゃあ脱げ」
「はいっ!」
「鞠ちゃんダメ!お客さん来てるし折口さんいるよ!」
着物の帯に手をかけた鞠を納言が止める。
というか、人形でも一応女の子の鞠に脱げと言うところで色々とおかしいが…
「あ、折口さんいたんですか。じゃあ後にします」
「何時も通り冷たいね…」
溜息を吐いて項垂れる折口の前に珈琲が置かれる。
「式部ちゃんありがと」
「あれ、折口さん苦いの苦手なのに珈琲はブラックなの?」
鞠がこてんと首を傾げる。
「ブラックじゃないよ。牛乳アレルギーだからミルク無しの砂糖たっぷりなの」
そう言って一口飲む。
太宰の前にも珈琲が置かれ、小さく礼を言ってから飲む。
「本当に美味しいよねぇ。納言ちゃんと2人で喫茶店でも開いたら儲かるんじゃない?」
「公務員は副業禁止だろ」
「公務員?教師か何かやってるっけ」
「特務課」
「えっ」
折口が声を出す。
「あぁ、極秘事項だったな。聞かなかったことにしてくれ。因みに森はもう知ってる」
そう言いながら機械を取り出してガーッと大きな音を鳴らす。
少ししてから式部が盆にカップを4つ乗せて各々の席の前にカップを置く。
「江戸川がこれで、悠人と未来はこれで良いな」
カップの中にはフワフワとしたホイップのようなものが浮かんでいて、それぞれ違った模様が施されている。
「君って意外と可愛いとこあるよね」
乱歩は猫のシルエットの模様を眺めながら言う。
「すごーい!ほら見て!はーと!」
「俺は星!すっげー!」
2人はお互いに見せ合ってはしゃいでいる。
最後の一つのカップを納言の前に置いてから盆を片付ける。
「私のはお花だ!凄い綺麗!」
「あ、納言だけ色違い。あとで僕にも作ってよね」
「そっか。納言ちゃん珈琲苦手なんだっけ」
「あれだけは無理。味が好きじゃない」
少し顔をしかめて抹茶ラテを飲み、美味しいっと目を輝かせる。
「別に良いけど、ラテって飲み物だけど結構腹膨れるからな。夕飯食えなくて怒られても責任はとらないから」
「うぇ、それは嫌だなぁ。じゃあまた今度飲ませてね」
「此処に住むつもりは無い。今度別の入り口繋げておくからそれで来い」
背中を向けて洗い物をしながら言う。
それまで黙ってラテを飲んでいた子供達が顔を上げた。
「リーダーいなくなるの?」
「路地裏どうなっちゃうの?」
「リーダーはそこのヤブ医者に戻す。この土地はマフィアに譲ることにした」
「あぁ、森さんそんなこと言ってたね」
頬杖をついてカップの底に溜まった珈琲を揺らす。
「じゃあこの前紛れ込んでたちびっ子はその偵察ってことか」
太宰が心底嫌そうに顔を歪める。
「色々と話し合って決めてある。路地裏の住人達が追い出されることも無いし、その逆も無い。万が一いざこざが起きた時の責任は全て俺だからその辺りも心配するな」
後半は折口に向けられた言葉だろう。
部屋にいる者たち全員が口を閉ざした。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.108 )
- 日時: 2017/06/27 20:56
- 名前: ぴろん (ID: XL8ucf75)
70間目
ガンガンガンガン!!
頭に響くような激しいノックで起こされる。
枕元の時計を確認すると午前2時8分32秒。態々開いて確認せずとも、手帳の予定と狂っていることは明確だ。
新手のセールスマンか、もしくは奇襲か…
眼鏡をかけて寝巻きに一枚羽織り、扉越しに返事をする。
「何方様ですか」
「夜分遅くにすみません!ヨコハマ経済新聞の者です!」
溌剌とした若者の声が響く。
「御宅の新聞なら取っているが」
「それがですね、先月のお支払いが幾らか足りないので…」
「なに?」
反射的に扉に手をかける。
支払いが足りない?毎月の料金は全て手帳に書いてある。真逆料金が変わったのか?いやそれも支払い前に確認したではないか。毎回手渡しで払っているし誤りがある筈は…
脳内を物凄い勢いで焦りと困惑が駆け巡ったが、一度深呼吸をしてから扉を開ける。
「今月の支払いに不足はな…」
扉の外の人物を確認して言葉が途切れる。
「やぁ!おはよう国木田君!」
目の前に映っていたのは、ボイスレコーダーを持った間抜け面の同僚だった。
瞬間的に額に青筋が浮かび、両腕が的確に喉を捉える。
「貴様!何しに来た!」
近所の者達を気遣って小声で怒鳴る。
「何って君がだーいすきな仕事だよ。シ、ゴ、ト。意味分かる?寝起きの国木田君」
首を絞められたままニヤニヤと笑う。
「仕事だと?俺の予定には書いてないぞ」
「それがついさっき入ったのだよ。任意で特務課に来いだってさ」
携帯を取り出してメール文書を見せる。
「任意?特務課にしては曖昧な指示だな」
「だから別に誘わなくても良かったのだけれど、言わないと国木田君怒るでしょ?事後報告っていうのもあれだから、一応伝えに来たのだよ」
「貴様にしては妥当な判断だな」
「でしょう?」
首を掴んでいる手を離し、目の前の得意げな顔をしている男を睨む。
「それで、何を企んでいる」
「心外だなぁ。私はきちんと仕事をしているだけだよ?行けば朝食が一食分浮くのも一寸は魅力的だけれども」
「後者が本音か…まぁ良い。お前を1人にすると後々仕事が増える。俺も付いていくからそこで5分程待っていろ」
「はーい」
扉を閉め、奴が視界からいなくなったことにほっと息を吐く。
朝食以外の身支度を済ませ、常備薬の胃薬を飲んでから扉を開ける。
「おー!流石国木田君。5分ぴったりだよ」
「いや、18秒遅れた。無駄口を叩いていないでさっさと行くぞ。後の業務に支障がでる」
へらへらと笑っている男を出来るだけ視界に入れないように先を歩く。
「何時頃に来いと言われた」
「んー、2時50分くらいだったかな」
「50分?!間に合わんではないか!もう良い、車で行くぞ」
「乗せてくれるの?ラッキ〜」
こいつ…最初からこれが目的で俺の家まで来たのか。呆れて物も言えん。
太宰を助手席に乗せ、運転席に乗り込む。
「あれれ〜おかしいなあ?」
「今度はなんだ」
太宰は助手席の背もたれから何かを摘まみ上げる。
「こんなところに女性の髪の毛が!国木田君もしかして…これ?」
長い黒髪を摘まみ上げながら小指を立てる。
取り敢えず頭を殴ってからエンジンをかける。
「身に覚えがない」
「でも此処にあったのは本当だよ。知らない間に国木田君のファンとかが入ったのかも」
「知らん!」
それは少し気になるが。
「大方お前に付いていたのが落ちたのだろう。俺は女性を連れ込んだりしない」
「ヘタレだからねえ。でも私もそんなに過剰なスキンシップはしないよ?ましてや服につくなんてありえない」
一言一言全てがストレス源となって国木田の胃にダメージを与える。
これ以上の負傷が出ないようにするにはこいつと話さないのが得策か。
幸い太宰も話しかけてこなかったので、暫くの間無言で車を走らせる。
「ところで国木田君。幾つか質問をしたいのだけれど、まず昨日は何してた?」
いきなりの質問に答えようとするが、昨日の出来事が中々出てこない。昨日の業務も起床時間も、何処で何が特売だったかも忘れてしまっている。
「後で手帳を見て確認する」
「覚えていないんだね」
感に触る言い方だが、その通りだった。
普段ならこの後になんらかのおちょくりやらからかいが入る筈だが、太宰は何かを考え込んで黙っている。
「んー、他には何日の予定を覚えてない?」
「他に?何日と言われても…」
脳をフル回転させて考える。昨日はあまり覚えていない。いや、一昨日もその前も、1週間前も…
遡っていくと、やっと二ヶ月前前後の記憶がはっきりと思い出せた。
「…此処1ヶ月半程の記憶が曖昧だな」
「成る程ね。じゃあ関わった日の記憶は全部無くなってるのか」
太宰が何を確認しようとしているのか、おおよそ分かった気がした。
「真逆敵の異能者に記憶を消す異能所持者がいたのか?そうだとすると他の者も…」
「半分正解だけど一寸違うかなぁ。そもそも敵じゃ無いし私の知り合いだよ」
こいつの知り合い?だとしたらロクな者ではないだろう。
「今日はその人に挨拶がてら事後報告をしに行くのだよ。まぁ調べようと思えば幾らでも出来るから任意だったのだけれど」
「特務課の者なのか?それなら何故記憶を消される必要がある」
「それがとんでもなく複雑な事情があってね…私はその仲介役だよ。ほら、見えてきた」
視線の先には、何時見ても立派な政府の建物がそびえ立っている。
入り口で社と自分の名前を伝えると、屋内の駐車場の使用の許可を貰えた。
指定の場所に車を停め、太宰を追い出してから自分も降りる。
「お出迎えが来ているよ」
そう言われて顔を上げると、1人の若い女性が立っていた。
「太宰様、国木田様ですね」
「久し振りだね、辻村さん」
「今回は急な呼び出し失礼致しました。案内致します」
壁にあった蓋を開け、番号を打ち込む。
暫くの機械音の後に壁に切れ目が入り、水平にスライドして開いた。
「こちらです」
前を行く辻村に無言で付いて行く。
長い螺旋階段を降り、広い通路に出た。突き当たりに扉がある。
通路の両端には黒服の者が等間隔に並んでおり、ここの警備の厳重さを物語っている。
扉を開け、声をかけた。
「坂口先輩、連れて来ました」
「お疲れ様です。何か異変等はありませんでしたか?」
「はい、異常無しです。通路の者達も特に」
「あ!来て下さったんですか!」
2人の義務的な連絡を掻き消すような元気な声が響く。
「太宰さんお久し振りです!隣の方が国木田様ですね?」
「あ、あぁ」
勢いに気圧されるように答える。
肩まである紅茶色の髪を片耳の上で留め、首にキチッとマフラーを巻いている。
「成る程、了解致しました。あ、五月蝿かったですよね。すみません」
ペコッと頭を下げる。
この時期に室内でスーツの上にマフラーというのは少し違和感があったが、中々礼儀正しい性格のようだ。
「つい先日特務課に配属されることになりました、新人エージェントの清少 納言と申します。お酒は飲めませんが、なんとか頑張って先輩方のお手伝いをしております!」
ビシッと敬礼をして笑う。人懐っこい、愛嬌のある笑顔を浮かべる。
「彼女は私の手伝いをしている部下です。ミスも無いので助かっています」
辻村が部下、というところを少し強調して説明する。後輩が出来た事が余程嬉しいのだろう。
「私がここに来る少し前に姉が入っていまして、気心の知れた者がいる方が働きやすいとのことで辻村先輩の部下となりました!よくお話を聞かされていましたよ」
先輩という語を強調して言っている。此方も先輩が出来た事が嬉しいのだろうか。
「早速だけど、私達を呼んだ人は誰なのだい?大方あの子だと思うけど」
「御察しの通りです。給仕室にいる筈なので呼んできましょうか?」
「いいよ、私が行こう。国木田君もついてきて」
「分かった」
素直に従ってついていく。
狭い場所だが、太宰は一度も間違えずに給湯室へ着く。こいつのことだから何度か訪ねに来たことがあるのだろう。
コンコン
「入って良いかい?」
返事がない。が、太宰は気にせずに扉に手をかける。
「おい太宰、良いのか?」
「いーのいーの。返事しないのは何時もの事だから。大方読書中だろうね」
無遠慮に扉を開けると、予想通り籐椅子に座って読書をしている者がいた。
此方に気づいて顔を上げる。
一見男にも見えるような整った顔立ちに紫色の瞳。腰まであるような長い髪は後頭部の辺りに紫色の紐で纏められている。
先程の新人の者と同じデザインの紫色のマフラーを緩く巻き、胸元が見える程ボタンを開けていた。
「…3分26秒遅い」
女性にしては低めな、よく通る声で言った。
「それくらい見逃してよ。ほら、国木田君も見惚れてないで自己紹介!」
「み、見惚れてなどいない!…あぁ、いや、気を悪くしたならすまなかった。太宰の同僚の国木田だ」
少し早口になって言う。
相手は軽く首を傾げてから立ち上がって目を合わせる。
「紫 式部。それにしてもそれにしても本当に何でも書いてあるな。盗られないように注意しろよ」
女性らしくない言葉遣いで言って俺の手に呼んでいた本を収める。
表紙に大きく〈理想〉と書かれたそれは、紛れもなく国木田の手帳だった。
「なっ、いつの間に…」
「通路で盗った。これもな」
そう言って財布を渡される。
「本当にガード緩いよねぇ。そんなのだから私みたいな優秀な者に盗られるのだよ」
「俺は人の財布から金だけ抜き取るような奴を優秀とは認めん」
財布の中身を確かめ、変化がないことを確認してポケットへ収める。
それにしても…
国木田は目の前に立っている式部を見る。
言葉遣いさえ良ければそれなりに人気も出そうだが…
「それより式部ちゃん、私達ご飯食べてないのだけど」
「知ってる。今準備してたとこだ」
足元にある冷蔵庫を開けると、表面を炙られた魚の切り身らしきものが冷やされていた。
「好物だろ。米も炊いてるからちょっと待ってろ」
無駄に大きなガスコンロに乗った2つの鍋に火をかける。中身はどうやら汁物と煮物らしい。
「暇だろうが、取り敢えず隣の部屋で待ってろ。もう大体作ってある」
「お、今日は和食?国木田君の好物ばかりじゃないか」
「客人はもてなせって昔の主人に散々言われたからな」
昔の主人?この年齢で何処か屋敷にでも務めていたのだろうか。
見た目と性格と話す内容に色々とギャップのある相手の内は読み難い。
太宰が軽く返事をして部屋を出て行ったのでそれについて行く。
「さてと、暇だねぇ」
隣の部屋に入り、パイプ椅子に腰を下ろしてから大袈裟に伸びをして言った。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.109 )
- 日時: 2017/06/30 18:26
- 名前: ぴろん (ID: BEaTCLec)
71間目
「ゲームでもする?」
「賭けが無いならやるが」
半分睨むような気持ちで太宰を見る。
「詰まらないなぁ。あ、じゃあ一個問題出してあげよう」
ピッと人差し指を立てる。
「式部ちゃんは幾つくらいでしょうか!因みに私も詳しくは知らないよ」
「女性の年齢を当人のいないところで探ろうと言うのか」
「というか、式部ちゃんのこと何も知らないでしょ?私が知っている情報は…えーと」
ポケットからメモ帳とペンを取り出して書き始める。
「まずは性別が女性でしょ?あと身長は私と同じかちょっと低いくらい。年齢は私よりも上だとは聞いたことあるけど…」
「待て、歳上なのか?」
「みたいだよ。あとは出身は路地裏だったかな。家族関係は特に知らないし…」
「妹がいただろう」
「あれ義理の姉妹だよ。20くらい歳離れてるんだっけ」
何度か質問しながらザックリとした情報をまとめ、確認する。
「うーん、あとはここで働いてるって事くらいかな。料理も洗濯も掃除も得意だったし、運動も勉強もできる」
「完璧過ぎないか」
「そうなのだよ。だから苦手なこととか無いのかなぁ。虫も平気そうだし食べ物も好き嫌い無いし…」
何となく気になって考える。
嫌いなものが無いならもう少し現象的なものが苦手なのか?
「…天気や季節にも好き嫌いはあるだろう」
「確かに!流石国木田君!じゃあ今度聞いてみよう。あとは…」
太宰が暫く首を捻って考えていると、部屋の扉が開いた。
「持ってきた」
「お、ありがと〜」
「すまん、何か手伝った方が良かったか」
「別に平気」
食事を机に並べていく。見ただけでも美味しいのが分かる。
「あ、そうだ。式部ちゃん」
「なに」
「式部ちゃん嫌いなものとか苦手なこととか無いの?天気とか季節とかでも」
突然の質問に式部は首を傾げる。
太宰ならやると思っていたが、直球過ぎないか?相手も当惑しているようだし…
国木田の心配も他所に式部は盆を置いてから指折り数え始めた。
「夏と晴れの日と傘と死ぬこと、あとは自分と死体と…あぁ、アレも嫌いだ。蝸牛」
「蝸牛?意外だねぇ」
「昔食って酷い目にあった。味は普通だったんだが殺菌しきれなくて…」
眉間に皺を寄せて長めの溜息を吐く。
「まぁアレの話はいい。冷めないうちに食っておけ」
元々悪い顔色を更に青くして部屋を出ていく。余程のトラウマだったようだ。
「蝸牛か…」
「確かに寄生虫凄いって聞くね。最悪の場合死に至るとか」
「なら式部は運が良かったのか」
「うふふ、そうかもね」
妙な笑みを浮かべてから椅子に座って手を合わせる。
「いただきまーす」
「頂きます」
旅館の食事のような料理に箸をつける。
「うん、やっぱり美味しいね」
口に入れた煮物は信じられないくらい美味だった。芯まで火が通ってるだけでなく味も染み込んでいて、それも濃すぎない。
鰹のタタキも炙り加減が丁度良く、芳ばしい香りがたっていた。
「美味いな」
「でしょ?定食屋でも開けば良かったのに」
漬物をパリパリと食べながら言う。
「珈琲とか緑茶も淹れるの上手いし、お茶菓子もクッキーもお饅頭も作れるしさぁ」
「本当に何でも出来るのか」
「出来ると言うかやるんだろうね。掃除とか洗濯も自分しかいないからやる。それなりの歳だから路地裏でもリーダー格だったし」
「そういえば出身が路地裏と言っていたな」
汁物を一口飲む。これも出汁がきいていて、その辺の和食専門店や高級ホテルより遥かに美味い。
「路地裏で危険な異能力者としてマークされてたよ。義妹の納言ちゃんも異能持ちだったからついでに保護したんだっけ」
「保護とは少し違いますが」
突然神経質な声が聞こえ、その方向を向く。
「安吾。聞いてたの?」
「今来ましたよ。隣失礼します」
紙束と小さめの盆を置いて座る。
盆の上には太宰達よりも少し少なめの量の食事が乗っている。
「多分直ぐに他の方達も来ますよ。式部君が来てからはここで食事を摂る人が増えたんです」
小さく頂きますと言って箸を持つ。
「国木田さん、一応これが彼等の資料です。生年月日等が抜け落ちているのは複雑な事情がある所為です」
何口か食べてから持っていた紙束を丁寧に渡す。
「特に複雑なのは納言君ですが、気にしないでくれて構いません」
そう言ってからまた箸を進める。
暫くしてから3人が殆ど同時に食べ終わり、安吾は盆を置いて立ち上がる。
「食器は此処に置いておいて下さい」
「片付けなくて良いのですか」
「…給仕室には出来るだけ入らない方が良いかと」
苦い顔でそう言って部屋を出ていく。
「そう言われると行きたくなるのが人の性だけど、国木田君は?反対だったら行かないよ」
「まだ食事の礼を言っていない。一応行くが扉越しに返事が無かったら書き置きでいいだろう」
「じゃ、決まりだね。行かない方が良い理由は何となく察しがついているけど…」
太宰はニヤニヤしながら部屋を出ていく。
国木田もその理由を考えるが、全くわからない。勝手に入ると怒られるからだろうか。
給仕室の扉を叩いて呼びかける。
「式部ちゃーん、入っていい?」
「あぁ」
ボンヤリとした答えが帰ってくる。
「お邪魔しまーす」
勢いよく扉を開ける。
その中の光景を見て国木田は固まり、その横で太宰はやっぱりというような呆れ顔を浮かべている。
「何の用だ」
中にいた式部は、サラシと下着だけの姿で先程と同じように座っていた。露出した肌に生々しい傷痕が目立っている。
国木田が驚いて固まっている横で、太宰は呆れたように溜息を吐く。
「いやもうね、正直私は見慣れたのだけれど」
「なら結構。この程度で顔を赤くする純情少年よりはマシだ」
「こ、この程度…?」
「この前はこれも付けてなかったからな」
そう言ってサラシを軽く引っ張る。
「辻村に見つかって説教された。流石に下は脱いだことは無いが…脱ぐか?」
「世間では君みたいなのを露出狂って言うんだよ」
「服を着る概念が無かったから慣れてない」
何時の間にか開いていた床下からシャツを取り出す。
「で、何の用だ」
「ご飯のお礼を言いに来たのだよ。ね、国木田君」
「あ、あぁ」
眼鏡をかけ直して姿勢を正す。
「先程の食事、有難う御座います」
「なんだ、太宰に年齢聞いたのか。詰まらないな」
「はい?」
下げていた頭を上げると、式部が少し不機嫌そうな顔をしていた。いや、正直に言うと何時も不機嫌そうだが。
「敬語使われるのあまり好きじゃ無いんだってさ」
「そうか。すまなかった」
「謝られるのも好きじゃない。まぁ俺の機嫌が悪いのは何時ものことだが」
一人称が俺なところといい、本当に男みたいなやつだな。
「式部ちゃんって何すれば機嫌良くなるの?」
太宰の唐突な質問にも表情を変えずに答える。
「予定通りに物事が進んだ時。だから今も機嫌は良い」
無表情のまま言われても説得力が無いが、珍しく機嫌が良いらしい。
分かる。予定通りに物事が進んだ時は本当に気分が良い。
国木田は心の中で何度も深く頷く。
「本当に機嫌が良い時は普通に笑う」
「笑ったところ見たことないのだけれど。表情筋もう死滅してるでしょ」
「営業スマイルくらいは出来る」
「やってみてよ。引き攣るんじゃない?」
太宰が半ば煽るような口調で言う。余程見てみたいのだろう。
式部は少し嫌そうな顔をしたが、諦めたように小さく溜息を吐いた。
「自然な笑顔とやらは期待するなよ」
「口角が上がるのを見るだけで充分だよ!」
好奇心と期待のこもった目で式部を見つめる。
式部は少し首を捻って考え込んでから、自然に微笑んだ。
口元は綺麗な弧を描き、目尻もそれに合わせて少しだけ上がる。元々の顔立ちに合わせてこの笑顔は、後光が差しそうな程の美しさだった。
「…いや、ね。分かってたけども…美人だよね」
太宰が勿体無いとでも言いたげに呟く。
確かに先程の無表情も人形のような美しさがあったが、矢張り笑顔の破壊力は尋常では無い。
「…付け足しておく。世辞も嫌いだ」
無表情に戻って頬をグニグニと押す。
「お世辞じゃないのに。というか、やっぱりほっぺ攣ってるんでしょ」
「攣ってない、慣れてないから痛いだけだ。それより国木田はどうした。惚れたか?」
「ほ、惚れてなどいない!からかうな!」
顔を真っ赤にして横を向く。
「その歳で随分ウブだな。こんなので釣れるのは、ませた子供か余程女慣れしてない奴くらいだ」
国木田は後者に当て嵌まる。
無表情のままそう言っているが、恐らく楽しんでいるようだ。
「駄目だよ国木田くーん。理想の女性に会うまではお付き合いできないんでしょ?」
太宰も一緒になってからかっていると、突然部屋の扉が開いた。
「おねーちゃん!もうお仕事するでしょ!というかご飯食べて!」
納言が母親のような台詞を言う。
「飯は食わない。仕事はするから待ってろ。客人をもてなしてるところだ」
「どう見ても楽しんでるし、ご飯食べなさい!また倒れるよ?」
「5分くらい平気だろ」
「仕事じゃなくて私が無理!怖い!」
姉妹のやり取りというよりは心配性の母親と自立した子供のようだ。
納言は頬を膨らませて持っていた小さなお握りを無理矢理持たせる。
「ちゃんと食べてよね!あと、お客様はきちんともてなしなさい」
「分かってる」
「全くもう…うちのおねーちゃんがすみません」
太宰達に向かって深く頭を下げる。
「大丈夫だよ。楽しんでたし」
「太宰さんはそうでしょうけど、国木田様が大丈夫ではないでしょう?」
気遣うような目で国木田を見る。
矢張りこの娘は常識人なのか。
国木田の中でそんな格付けがされそうになっていたが、次の台詞で全てが崩れた。
「おねーちゃんは、器量が良くて美人で声も綺麗で料理も上手で裁縫も得意で洗濯も掃除も手を抜かないし人の名前直ぐに覚えられるし一人ずつ好みとかも覚えるから気が効いてるし頭が良くて色々詳しくて字も凄く綺麗で読みやすいし仕事も速くて他の人のを手伝ったりもできるし寝る前に子守唄歌ってくれたり歌も上手いし楽器も上手いし本も書いててその内容も凄く面白いしすっっごく優しいんですけど」
呪文のように一息で褒めまくる。
つまり、重度のシスコンである。
「でもつい人をからかっちゃう癖があるんです。完璧人間のちょっとした愛嬌だと思って見逃してあげて下さい。あ、それと今のおねーちゃん凄く可愛いです」
付け足された最後の言葉に反射的に式部を見る。
式部は巻いていたマフラーで顔を隠していた。よく見ると隠れていない耳が赤くなっている。
「他の何言っても何しても照れないのに褒め言葉だけは弱いよねー。ほら、お客様の前で顔を隠すなんて失礼よ」
「うるさい…」
マフラーの下からくぐもった声が聞こえる。
式部は少しマフラーを下げて目だけを出して納言を見るが、余程恥ずかしかったのかその目は少し潤んでいた。
「褒められたからってお説教は無しね。悪いことしてないもん」
悪戯っぽく笑ってからぺこりと礼をして扉を開ける。
「太宰さん国木田様、早めに退散した方がお身体のためですよ。女性の八つ当たりの所為で病院送りなんて嫌でしょう?」
そう囁いてから瑠璃色のマフラーをなびかせ、部屋を去っていった。
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.110 )
- 日時: 2017/06/30 18:28
- 名前: ぴろん (ID: BEaTCLec)
〜あとがき〜
文豪ストレイドッグス二次創作~紫眼に惹かれて現世を~ を最後までお読み下さり、誠に有難う御座いました。
僭越ながらこの場をお借りして創作裏話及びちょっとしたお知らせをさせて頂きます。
まずこのお話を創作するに至ったきっかけですが、本作品の原作に登場する《異能力》という概念に目をつけまして「もしもこの中にチートみたいな異能力を持った人を放り込んだらどうなるだろう…」となりまして。
気が付いたら異能力の設定を作っていました(‾▽‾)
“紫 式部”や“清少納言”の名前はその時何となく読み返していたので後付けです。
初めは誰か絵の上手い友人に頼んで漫画にしようと考えていましたが、物語を書いていくうちに小説として形が出来ていき、友人に見せたところこのサイトを紹介してもらい、今に至ります(・ω・)
因みに私(察している方もいらっしゃるかとは思いますが)短く纏めるのが苦手です(・ω・`)
このあとがきも文章がみっちりと埋まりそうなので早々に顔文字で誤魔化しております。
その結果長編連載小説となり、物語の初めと終わりで口調が変わったり設定が変わったり矛盾が生じたりと欠陥だらけになりましたが、まぁそれも御愛嬌ということに…m(_ _)m
さて、お知らせです(`・ω・´)
自分でも本作品のキャラクターは気に入っておりまして、正直この程度では書き足りないと指が泣いております。
ということで、物語の後半に出てきました《黒い分厚い本》の中身を書こうと思います。
試しに触りだけ書いてみたところ、本編に負けず劣らず中々の長編になりそうな予感が致しますので、どうか生温かい目で睨みつけながらお読み下さい。
また、本作品に対しての質問及び疑問点等御座いましたらお気軽にコメントしていって下さい。
最後になりましたが、本作を投稿するきっかけを作ってくださり、更に誤字脱字等を指摘して下さった友人F様。
また、不定期更新でダラダラと引き摺るように続いていた本作をお読み下さった方々。
心より感謝を申し上げます。
作者:ぴろん
- Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.111 )
- 日時: 2017/07/01 01:18
- 名前: 真珠を売る星 (ID: 9E/MipmP)
お久しぶりです。
完結、おめでとうございます!
最後まで楽しく読ませていただきました。
チートでかっこかわいい主人公たちのストーリーも面白く、「そういう伏線だったのか!」と、楽しませていただきました。アクションシーンやギャグシーンも読みやすくて面白かったです。ごちそうさまでした。
スピンオフ!とても気になります。
ぜひともそちらの作品も読ませていただこうと思っています。
お話が更新されるのはもちろん楽しみなのですが、無理をなさらぬよう、お気を付けください。
改めて、完結おめでとうございました。
とても面白かったです。
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