複雑・ファジー小説
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- スピリットワールド【合作】
- 日時: 2017/11/03 17:10
- 名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)
この作品は合作です!
こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします! 雅
どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
凜太郎
こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音
遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!
弓道子
〜目次〜
登場人物
空編 >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
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>>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
>>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編 >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
>>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
>>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
>>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
>>111>>113>>116>>118
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.114 )
- 日時: 2016/06/29 22:03
- 名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)
「なんでまたここに来ないとダメなんですか、僕は」
「仕方ないだろう。物資の補充はここでやっているのだから」
フードを被ったままの僕の頭を、ロブさんはポフポフと撫でた。
現在、僕とロブさんは城下町に来ている。
そう、つい先日まで僕が住んでいた町だ。
元々、あの村は僕がいなくとも人手に困ったこともないし、前のように若者いじりでこき使われることはあるが、最近は雪なども積もったせいで割と真面目に農作業をしなければいけない状況なのだ。
知識も技術も力もない僕は手伝えることもなく、とはいえただ見ているだけというのは悪いと思い、何かできないか聞いた結果、城下町に買い出しに行くことになった。
流石にもう僕を探し回っていることはないだろうが、見つかれば即逮捕。からの拷問などの罰が下されるかもしれない。それがなくとも、まぁ、また人殺しをしまくる兵士時代に逆戻りさせられるかもしれない。
そんな理由から、町脱出の際に着たフードを着て、護衛にロブさんも引き連れて町へと舞い戻って来た。
力仕事が得意であろうロブさんを連れてきても良かったのかと思ったが、ロブさん曰く、「村の農作業より子供の身の安全の方が大事だ」らしい。何この人良い人すぎる。
「それで、何を買うんでしたっけ」
僕はロブさんに聞きつつ、町の様子を見る。
相変わらず、活気に溢れた町だ。
それを見ていると、もしかしたら、国王も本当は良い人で、あれは夢だったんじゃないかと思えてしまう。
しかし、仮にそうだったとしても、僕は今の村での生活の方が好きだ。戻る気はない。
「えっと、たしか肥料と、農具も古くなっていたから、新しいものを買うくらいかな」
「わぁ・・・・・・重そうなものばかり・・・・・・」
「お前一人だったとしても、持てなかっただろうな」
「今日はお世話になります」
「どうした。急にかしこまって」
そんな会話をしていると、ロブさんは誰かにぶつかった。
視線を向けた僕は、息を呑む。それは、国王軍の兵士だった。
兵士は怯えた表情を浮かべ、すぐに逃げ出そうとしたが何かを思い出したらしく、すぐにこちらに戻って来た。
「あの、聞きたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか」
「良いが、速やかにしてくれよ?」
「はい。えっとまず、こちらの書物を知りませんか?」
自分のことかと思った僕は、多分自意識過剰なのだろう。
兵士が差し出したのは写真で、そこには辞書とかよりも数倍分厚い本が写っていた。
「これは何だ?」
「最近、城の書庫から消えた本でして」
「ほ、本が消えるなんてことは・・・・・・よくあることなんじゃないですか?」
僕はできるだけ喉に力を込め声を変え、ばれないようにして聞いてみた。
兵士は僕の言葉を聞くと、笑顔を浮かべてそれに応えてくれた。
「この本には禁断魔法という、とても危険なものが載っていて、持ち出しどころか、書庫に入ること自体も僕達兵士にしか許されていなかったんだ」
僕許されてなかったけど?
「まぁ、とある中将だけは許されてなかったけどね。彼はまだ、子供だったから」
「へぇー・・・・・・」
舐めやがってこの野郎ッ!
いや、納得はいくんだ。どんなに戦えても僕だってまだ子供。
そりゃ、そんな危険なものを齢15歳。しかもこんな低身長で下手したら小学生にも見えかねない子供に渡せないだろうさ。それはいいよ。置いておこう。でもなんかね、悔しい。
なにが「僕の隣まで上がって来い」だクソが。そもそも他の兵士より待遇が違うじゃないか。
「そういえば君・・・・・・その中将に似ているような気が・・・・・・」
僕の顔を見下ろしながら、兵士は言う。
ロブさんが何を感じたのか、前に出ようとしたが、僕は彼の服の裾を掴んで止めた。
「世の中にはそっくりな人は三人いると言いますからね」
「確かにそうだね。ごめんね。変なこと言って」
はにかみながら言う兵士を見て、ロブさんも安心した様子になる。
「そういえば、その中将ってどんな人なんですか?子供で中将って・・・・・・」
ちょっとした好奇心で、聞いてみた。
墓穴を掘ることになるかもしれなかったが、なんとなく、聞いてみたかった。
彼は優しい笑みを浮かべた。
「子供なのに、どこか大人で。小さい体なのに、頼もしくて。少なくとも僕にとっては、最高の中将です」
・・・・・・聞くんじゃなかった。
こんなに僕を慕ってくれる人を、僕は裏切ったんだ・・・・・・。自分の身を守るためだけに。
「・・・・・・そうですか」
「はい。では、僕はもう行きます。ありがとうございました」
会釈して去って行く兵士の後ろ姿を見つめながら、僕は俯いた。
後悔と、罪悪感と、その他、よくわからない感情がごちゃ混ぜになって、言葉にすら表せない。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「・・・・・・ちょっと、待ってください」
歩き出そうとするロブさんの服の裾を掴み、僕は掠れた声で言う。
できるかぎり、今僕の胸の中にあるぐちゃぐちゃの感情を外に出さないようにして、声を出す。
「なんだ?」
「少しだけ・・・・・・行きたい場所があるんです・・・・・・」
−−−
懐かしい。そんな感想しか、思い浮かばない。
ラキと、住んでいた家。鍵が壊され、中は荒らされた、家。
誰が荒らしたか。誰が鍵を壊したか。そんなことは、どうでも良かった。
「ああああああああああああッ!」
比較的綺麗だった、二階の僕の部屋で。僕はひたすら、暴れた。
棚をぶち倒し。カーテンも引きちぎり。ベッドに置いてあった枕も破り捨て。
しばらくして、僕の部屋は、ボロボロになった。
息が荒い。僕は、横に倒された棚に腰掛けて、自分の顔を手で覆った。
「なんで人を裏切るのは・・・・・・こんなに簡単なんだ」
人を殺したことがありますか?あるよ。何度もある。
じゃあ、大切な人を殺したことは?・・・・・・二回。
一人は、好きな人の、父親。僕の無駄な優しさが殺してしまった。
もう一人は・・・・・・———。僕が裏切ったから、死んだ。
もう、こんなこと嫌だよ。忘れたいよ。
でも、忘れられない。だってそれを・・・・・・『彼』が許してくれないから。
僕は左胸の辺りに手を当て、自分の鼓動を感じる。『彼』は今でも、僕の中で生き続けている。
心の中で、とか、記憶の中で、とかではなく。本当に、僕の心のどこかに寄生して、生き続けているのだ。
ホラ、今でも目を瞑れば、すぐ目の前で笑ってる。歪な笑みで笑ってる。
僕の負の感情を食って、少しずつ、成長してるんだ。
『彼』が僕の精神を蝕むのが先か、僕が『彼』を完全に殺すのが先か。
「早く・・・・・・消えてくれ・・・・・・」
僕は、ここにはいない誰かに、そう願った。
その後僕は、何事もなかったように立ち上がり、ロブさんと一緒に買い物をした。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.115 )
- 日時: 2016/07/20 18:00
- 名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)
- 参照: http://雅、しばらく来ないってよ
買うべきものは買い、僕たちは村に帰るところだった。
肥料の袋を担いでフラフラと歩き、以前組手をした広場まで差し掛かる。
「あっ・・・・・・」
そこには、なにやら大きな袋を手に持ったラルナが、ちょうど別の方向から歩いてきていた。
木の根がむき出しになって、蔓のようなものがあちこちに生えているような地面なのに、よく裸足で歩けるよな。絶対痛そう。
「よう。ラルナ」
とりあえず軽く挨拶をしてみた。実際肥料の袋が重すぎて腕プルプルなんだけどね。
体感の重さでは、ラルナを抱っこした時より団栗の背比べ程度のレベルではあるが、こちらの方が軽い。
しかし、持っている時間が長いと体力も切れてきて、結構重たくなっていくのだ。
「別になんだっていいじゃない。それより、アンタ等こそどこ行ってたの?」
「ちょっとデートに」
「はぁ!?」
冗談で言ったのになんかすごく、鬼気迫る顔をされた。
もしかして、ホモとかダメ系女子?向こうの世界の腐った皆さま方も見習ってほしいね。
冗談はさておき。
「冗談だよ。ちょっと、村の物資の補充とかしてきたの。大体、デートしてきたように見える?こんな格好で」
肩に担いでいた肥料の袋を見せてやると、ラルナは、なぜかホッとした様子になった。
本当にゲイとかダメなんだろうなぁ。次から気をつけないと。
アイツ、キレたら寝込みを襲ってきそう。性的な意味とかじゃなくて、マジな方で。
「そういえば、ロバートって、アンタ?」
僕に興味を無くした赤髪女は、僕の後ろで明らかに肥料の袋なんかより重そうな農具を軽々と抱え、無言で僕たちのやり取りを見ていたロブさんに話しかける。
「いや、この人はロブさんだy・・・・・・」
「あぁ。そうだが?」
「へ?」
間抜けな声が出た。
「いや、俺の本名はロバートだぞ?皆はロブって呼んでいるが」
「あ、そうなんスか・・・・・・」
滅茶苦茶恥ずかしかった。
穴があるなら入りたい。
「ダッサ。ま、そんなことより。アンタ、ドラゴン狩ったりしてるんだって?」
「あぁ。食料集めでな」
「その仕事、今日からあたしに譲ってよ」
「お前頭大丈夫?」
「昨日のアンタに比べれば大丈夫だね」
「がッ!?」
心臓にでっかい針が突き刺さる幻が見えた。
昨日。ラルナを外で拾って、餌付けした日とでも言えばいいだろうか?
とにかくだ。昨日僕は死にかけのラルナに飯をやって、その後で色々あって襲われた。ナイフ片手に。
そこまではまだいい。焦ったけど、体力も完璧に回復していなかったのか、割と簡単に勝てたから。
しかし、ここでカッコつけるわけでもないが、彼女は、昔の僕と同じ目をしていたのだ。
死ねと言われれば喜んで死にそうな、暗い目。
昔と言っても、陸人君にいじめられてから、完璧を求めるようになる、短い間だけど。
でも、この村に住めば彼女だって変われるだろうと思い、説得してみたのだが、これまたなんともビックリ。安いドラマの主人公みたいになってしまうではないか。
最終的に説得には成功したが、今思い出すだけで恥ずかしい。
正にblack history。黒歴史。
「とにかく、ソラのことはどうでもいいのよ。ロバート。アンタの仕事、あたしがこれからやるから」
「どうでもいいって・・・・・・」
「いや、お前には無理だろ」
ロブさんは困ったような表情をしながら言った。
というか、本当にロブさんの体力どうなってんの?僕すでに腕痛いよ?
「なんでよ!」
「だって、お前ドラゴンに勝てないだろうし・・・・・・というか、俺に勝てるの?」
「勝てるわよ!」
「僕にも勝てないのに?」
「は?」
つい口を滑って言ってしまった。
ラルナは、鬼の形相という言葉をそのまま表情に表したような顔で僕を睨み付ける。
まぁ待て。その顔は年頃の娘がやっていいような表情ではないぞ?
「じゃあつまり、あれなの?ソラに勝てれば、ロブに挑戦してもいいわけ?」
「いや、そういうわけでは・・・・・・」
僕が続きを言うことは叶わなかった。
ラルナの姿が一気に膨張し、手にはナイフが見える。
「おわぁ!」
咄嗟に肥料を盾にしようとしたが、せっかく買ってきた肥料を無駄にするわけにはいかない。
僕はすぐに袋を掴み、身を捩ってナイフをかわす。
しかし、肩の辺りが切り裂かれ、血が噴き出す。
「ぉおらッ!」
僕はすぐに体を回転させ、袋を思い切りラルナにぶつけた。
元々握力が強いわけではない僕の手はあっさり袋を手放し、奇跡的にラルナの体の上に乗る。
少しの静寂。えっと・・・・・・。
「早くどけた方がいいんじゃないか?」
「はいッ!」
すぐさまラルナの元に駆け寄り、袋をどかす。
正確な重さはよくわからないが、男の僕でも重いと感じるものを、華奢な体の彼女にぶつけてしまったのだ。
下手したら、どこかに怪我をさせてしまっているかもしれない。
「おい、大丈夫か・・・・・・?」
「つつッ・・・・・・」
立ち上がろうとして、顔をしかめるラルナ。
僕はすぐに回復魔法をかけた。痛みが消えたからか、ラルナはキョトンとした表情をした。
「大丈夫か?ごめん。ちょっと、手が滑っちゃって・・・・・・なんて、言い訳しても仕方がないんだけどさ」
「・・・・・・」
「・・・・・・立てるか?」
僕が手を差し出すと、ラルナはその手を握って立ち上がった。
ラルナは顔を赤らめながら、目を逸らした。
「別に・・・・・・平気だし」
「あっそう」
僕としては、彼女は無事ならそれで良かったので、肥料の袋を担ぎ直し、気付けば歩き出していたロブさんについていく形で歩き出した。
その時、後ろから誰かに膝カックンされた。
気持ちの準備ができていなかった僕はその場に膝をつき、袋を落とした。
見ると、ラルナが顔を赤くして、なぜかムッとした表情で僕を睨んでいた。
「えっと・・・・・・?」
「もういい。死ね!」
吐き捨てるように言ったラルナは、そのまま木の枝を器用に使って去って行った。
僕はそれを呆然と眺めていた。
「乙女心って、よく分かりませんね」
僕がなんとなくロブさんに言うと、彼は呆れた様子でため息を吐いた。
ふーむ、男心もよく分からない。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.116 )
- 日時: 2016/09/19 06:08
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)
父上は酷い人でございました。
母上の顔立ちの良さに惹かれて、父は兵役を放ってこちらに来たのでございます。
ええ、ええ、その通りです。父は人間でございます。
そもそも女の人魚と言うものは人間の男と子を作るのです。
基本、男の人魚箱を作らない……作れないんです。
男の人魚の身体には生殖機能と言うものがありませぬから。
その代わりといいますか、体液には強い毒が含まれております。
血、汗、涙——すべてが猛毒でございます。
下手に交尾でもしようものなら、その先にあるのは、死……。
……いえ、話がそれてしまいました。
初めに生まれた姉上は容美しく、大層父上に可愛がられておりました。
姉に文字やら言語やらを教えたのも父上でございます。
しかしながら姉上は、酷く父上を嫌っておりました。
小生も父上を好いてはございません。
齢三つになれどまだ立てぬ、四つになれどまともに口もきけぬ小生に、
「役立たず、役立たず」と何度も何度も繰り返すのでございます。
父上の前では憤怒も、涙も、禁物でありました。
手を上げられてしまうのでございます。痛いのは嫌いです。
最後に父上を見たのは六つの冬でございます。
其の男は虫の居所が悪かったのか、
いつものように朝から酒を飲み、葉巻を吸い、喚き散らしては、
唐突に彼の妻に頭から酒を浴びせたのでございます。
そして……アア、アア、大丈夫。大丈夫でございます。
止めずに、どうか。どうか、続けさせてください。
そして、その男は……その男は、女に火をつけたのでございます!
女の叫びが耳を劈くのでございました。
男の笑いがごうごうと響くのでありました。
二人の妻の子たちにできることは何もございませんでした。
子らの片割れ、女子の方はもう一人の肩をひっしと抱いて、声も立てずに泣いておりました。
齢六つの子は、見つめておりました。
ただただ見つめておりました。
男は次に、まだ幼い彼の娘の髪を引き、床に押さえつけたので、
娘は「痛い」と泣き叫ぶのでありました。
頬を蹴れど、腹を殴れど、少女は叫び続けるのでございます。
「痛い、痛い。やめて、助けて」と。
さらにまだ六つの子もまた男の子腰に縋り付いて、泣きわめくのでありました。
怒鳴る声など聞こえてはおりませんでした。
それほどに彼らは感情に捕らわれておったのです。
男はついに娘を突き飛ばすと、腰の男の子の手を掴み、
その細い腕を追ってしまったのでございます。
その先のことは、小生はよく覚えておらンのです。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.117 )
- 日時: 2016/09/19 09:48
- 名前: 凜太郎 (ID: YVCR41Yb)
「それじゃあこれ、どこに置いとけばいいですか?」
「あぁ。適当にそこらへんに置いとけばいいよ。重かったろう?疲れたかい?」
「ははっ・・・・・・まぁ、はい」
茶化すように言うマイケルさんに僕は苦笑しつつ、曖昧に返事を濁しておく。
それにしても、結構色々育ったな、と思う。
見れば、いくつかの畑では、農作物が育っており、そろそろ収穫できてもおかしくない量だ。
その時、僕にとって見逃せない物を見つけた。
僕はすぐにその畑、というよりも、田んぼに近づいた。
そう、それは・・・・・・———米だった。
「お・・・・・・おお!」
僕は興奮して、つい大きな声を漏らしてしまった。
それを見たマイケルさんは、不思議そうな顔をしながら僕に近づいてきた。
「おや?ソラ君は米の稲を見るのは初めてなのかい?」
「うぇ!?えっと、そういうわけでは・・・・・・その・・・・・・」
流石に異世界出身だと言えるわけもなく、僕は両手の指をいじりながら目を逸らしてしまう。
当たり前だが、米の稲を見るのは初めてではない。
小学校の帰り道なんかには、水田とかもいくつかあったし、たしか孤児院の近くにも一つあった(そこに何度か落とされたのは言うまでもない)。
とはいえ、この世界では洋食が主になってしまい、主食もパンばかりだったのだ。
もしかしたらこの世界には米がないのかと思っていたのだが、その時に稲だ。
しかし、日本では秋に収穫が多かったのだが、この世界では冬にとれるものなのか。
まぁ、気候だって違うし、そもそも品種だって違うだろう。
とはいえ、米だ。久しぶりに米にありつける。それだけで、疲れた僕の体に血液が駆け巡るのが分かった。
「この悪ガキ!人の食べ物なんて盗みやがって!」
「いだだだだッ!」
その時、近くの民家の辺りから声が聴こえた。
僕はすぐにその辺りに向かって駆けた。
そこでは、えっとたしか・・・・・・エドワードさんが、ラルナの服の襟の辺りを掴んで猫の首の辺りを掴むような感じで宙に浮かせていた。
僕より背が低いラルナはそれだけで足がわずかに浮き、ジタバタしている。
「あの、何があったんですか?」
すぐに止めさせようかと思ったが、宙ぶらりんになったラルナがあまりにも面白かったので、とりあえず理由を聞いてみることにした。
エドワードさんはジタバタ暴れるラルナを見下ろして恨めしそうに眉を潜めた。
「コイツ、俺に分けられていた野菜が入った袋を持ってどこかに逃げてたみたいでな。さっき袋を戻しに来た」
「え。袋を、戻しに?ラルナ、それはどういうことだ?」
僕が聞くと、ラルナは忌々しそうに舌打ちをした。
「別に意味なんてないわよ!でかい袋なんてあっても邪魔だし!それより、早く離しなさいよ!」
「そもそも、なんでエドワードさんの野菜なんて盗んだんだよ。お前、そんなに食い意地が張った性格だったか?」
「そ、それは・・・・・・」
僕の問いに、ラルナは言いにくそうに眼を逸らす。
あれ?こんな大人しい性格だったかコイツ?
しばらく色々考えたラルナは、やがて顔を真っ赤にして叫んだ。
「せ、成長期だから!たくさん食べれば、背も胸も大きくなるかなって・・・・・・」
「と言っても、野菜だけ食えば背伸びるわけじゃないだろ。大体、胸って・・・・・・お前はいつから思春期の恋する乙女になったんだ。お前が胸大きくなっても意味なんて・・・・・・」
「あぁもういい!死ね!」
少女の素足が、僕の目の前を舞った。
殺気を感じて咄嗟に身をのけ反らせたおかげで第一撃は避けたのだが、その際に体勢を崩してしまい、完全に倒れきるまで第2撃は避けきれない。
見ると、ラルナはエドワードさんの胸を蹴り、腕を離させ、今、僕にとどめを刺さんと、足の指で枝を掴み、殺人級のかかと落としを食らわせようとしていた。
「クソッ・・・・・・」
僕はなんとか強引に地面を蹴り、後ろに跳んだ。
しばらくして、サクッと何かが刺さる音と、何かがズザザザッと転がる音が聴こえた。
ちなみに後者は僕と地面の間から聴こえたものだった。
顔を上げると、すでにラルナが追撃を食らわせんばかりにこちらに迫ってくるところだった。
僕はすぐにバックステップの要領で距離を取る。その時、足が空を切った。
「・・・・・・えッ?」
振り返ると、そこは水田だった。このままでは、貴重な稲が折れてしまう。
僕は咄嗟に自分の体の下で風魔法を行い、わずかにだが体を浮かせた。
しかし、顔を上げればラルナがすでに足の指で枝を挟んだまま、飛び蹴りの体勢になっていた。
「本気で殺す気かよ!?」
僕はさらに風魔法を使って体を空中で回転させ、ラルナと向き直る。
そしてそのまま右手を突き出し、少女の体に炎魔法での小爆発をヒットさせる。
軽く距離を取るための攻撃だったのだが、ラルナの華奢な体は吹っ飛び、地面を転がる。
僕はそれを見送りつつ、すぐに自分の体を風魔法で後押しし、なんとか地面に足を着ける。
念のため右手に魔力を溜めつつ、ラルナに近づく。
「お、おい・・・・・・ラルナ・・・・・・?」
「・・・・・・」
「おい!」
よく考えれば、僕はまだ魔法に完全に慣れたわけではないのだ。
ましてや、あの時は空中に身を投げ出した状態で、精神的にも焦りがあった。
もしかしたら肋骨を折ったかもしれない。火傷を負ってしまったかもしれない。一生残る傷をつけてしまったかもしれない。
———・・・・・・『また』、親しい人を殺してしまったかもしれない。
「ラル・・・・・・ッ!」
「残念でした!」
突然振り返ってきたラルナは、振り返り様に木の枝を握った手を僕に突き出してきた。
咄嗟に急所である首は避けることはできたが、右肩に深々と木の枝が刺さるのが分かった。
なんとかそれを視認しつつ、ラルナの肩を掴み地面に背中を打ち付けさせる。
「ぐ・・・・・・ッ!」
「良かった。怪我も、あまりないみたいで・・・・・・」
僕が安堵した表情を浮かべて見せると、ラルナは顔を真っ赤にし、僕の胸を思い切り突き飛ばした。
予想外の行動に僕は驚き、地面に尻餅をついた。
ラルナはトマトのように赤くなった顔で、何かを言おうとしているが、なぜか口をパクパクさせるだけで何も言わない。
「なに・・・・・・安心してるのよ・・・・・・?だって、私は、あんたのこと、殺そうとして・・・・・・」
「そんな、2,3回殺されそうになったからって、君への考えとかが急変するわけじゃないよ」
僕の言葉に、ラルナは首を傾げた。僕は続ける。
「人間は良いところも悪いところもある。それくらい当たり前のことだからね。悪いところだって、その人の一部分。本当にその人のことを大事に思いたいなら、そこも分かってあげないといけないと思うよ」
そこで、またもや僕のblackhistoryが一つ更新されたことに気付く。
しかし、顔を上げると、ラルナは顔を赤くして、どこかボーッとしていた。
「・・・・・・ラルナ?」
「・・・・・・」
「おーい」
「ハッ!」
目の前で手を振ってやると、彼女は我を取り戻したらしく、すぐに僕の手を叩いた。
「いっつもいっつも変なこと言って気持ち悪いんだよ!馬鹿!」
ラルナはそう捨て台詞を吐くと、踵を返し自分の家の方向に歩いていく。
僕はため息をつき、その場に座った。
「やっぱり乙女心って、よく分からないや」
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.118 )
- 日時: 2016/10/20 19:14
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: 0ymtCtKT)
オンディーヌはしばらく黙っていた。
「……不快でございましょう。
申し訳ない」
「いや」
「姉上も、この話をするたびに顔をしかめておりました。
過去を引きずる男は醜いと」
俺は、不快どころか、むしろ親近感と高揚感が沸き上がって、
自分でもなんとも表現しがたい感情に襲われていた。
父親に対する嫌悪感も混じっているのか。
気まずそうにするオンディーヌの背骨をなぞる。
「俺も同じだ」
「同情はいらんのです」
「同情っていうか……俺も、父さんに母さんが殺された」
彼は顔を上げた。
目に浮かんでいるのは、驚き、憐み……好奇心。
今、オンディーヌもきっと俺と同じ気持ちに違いない。
「俺の母さんの場合は自殺だったんだけど。クローゼットで首を吊ったんだ」
「首を……」
「だいぶ前から父さんは帰ってこなくって、母さんは電話をかけるたびにヒステリー起こして、
八つ当たりが酷くてさ、まあ殴られるはうるさい輪で散々だったよ」
当たられるこっちの気持ちにもなってほしいよね、何て笑って見せる。
本心を言うなら、こんなことあんまり口に出したくないし思い出したくない。
でもさ、俺はきっと心のどこかでこう思ってたりもするんだ。
もっと同情してくれよ、ってな。
なんて可哀想なんだって言って、抱きしめてほしいだけなんだ。
でもそれはそれでみじめな気もして、なんだかよくわからない。
そんな俺を、学校の大人たちは嫌った。
「わかります」
ぽつりとオンディーヌがつぶやいた。
その気持ちがわかるだなんて散々言われてきたけれど、こんなに重い言葉は初めてだ。
しばらく二人とも黙っていた。
「でもさ、お前はいいな。いい姉ちゃんじゃん」
それにお前だっていいヤツだよ。
だって、誰も俺を陥れようなんてしないし、誰も俺の存在をかき消さないから。
そういう意味では、ここは天国だ。
俺は絶対にこの世界からは帰らない。何があっても。
オンディーヌの薄い唇から、姉上、と言葉が零れ、うずくまった。
「姉上はその時から小生を養ってくださりました……。
ああ……姉上……」
嗚咽で震える肩に、そっと手を添える。
薄っぺらい身体だ。
骨格がむき出しになったような背中は、頼りない。
華奢な脚では、いまにも立てなくなってしまいそうだ。
「姉上にもう一度会いとうございます。
自分はなんて弱いのでございましょう」
頼りないもの、それは、美しい。
何かに縋りつく姿は、愛おしい。
そういう輩は、誰かがいないと生きていけない……母さんもそうだった。
儚げな人間は、いまにも壊してしまいそうで、すぐにでも壊してしまいたくなる。
衝動的に、この手で。
「大丈夫。俺も、一緒だから」
口から出た優しい言葉とは裏腹にどす黒い欲望が渦巻き、ずしりと腹にのしかかった。
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