複雑・ファジー小説
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- スピリットワールド【合作】
- 日時: 2017/11/03 17:10
- 名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)
この作品は合作です!
こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします! 雅
どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
凜太郎
こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音
遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!
弓道子
〜目次〜
登場人物
空編 >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
>>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
>>060>>062>>064>>066>>068>>070>>072>>074>>076>>078>>080>>082
>>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
>>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編 >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
>>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
>>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
>>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
>>111>>113>>116>>118
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.64 )
- 日時: 2016/01/28 21:06
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
僕が自分の頭に撃ったはずの銃弾は、大きく逸れて遠くの木に当たる。
そして拳銃を持った左手は見覚えのある色白で細い腕に握られていた。
「伝斗・・・?」
「馬鹿野郎」
彼は僕の手から拳銃を奪い取り、草むらに投げ捨てる。
だんだん、僕の頭は冷静になっていく。
「お前何やってるんだよ。自殺でもする気か?」
「・・・ごめん」
とりあえず謝るしか思いつかなかった。
まぁ、たしかにどうかしてたとしか思えなかったし。
「おい、小僧ッ・・・」
その時、どこからか巨人が走ってきた。
その姿を見た瞬間、僕の脳内の・・・奥深くから声が聴こえた。
壊セ、と。
「な、おい、ソイツは・・・」
「ケント、待ってくれ。コイツは俺の・・・」
伝斗がその言葉を最後まで言い切ることはなかった。
僕が横に突き飛ばしたからだ。
ダメージは最小限で済むようにしたし、怪我はないだろう。
僕はすぐに刀を拾い、巨人と向き直る。
そういえば、グレンさんが最後に相手してたのも巨人だっけなぁ・・・。
でも、僕が殺したんだっけ・・・。
「小僧ッ!クソチビ野郎がッ!」
「うるせぇよ・・・」
自分でも驚くような、冷酷な声が出た。
気付けば、僕は彼に斬りかかっていた。
彼は横跳びでかわす。
デカいのに、機敏なやつだな。
「ケント!」
「小僧ッ!お前はこっちに来るなッ!やっぱりコイツは普通じゃねえぞッ!」
うるさいんだよ。
お前は黙って、死んでろよ。
僕は彼の懐に潜り込み、足払いをかける。
体が大きいからか、大きな音を立てて倒れる。
僕は刀を握り直し一気に急接近した。
さっきまでとどかなかった喉を、ぶった斬る。
大量の鮮血が吹き出した。
そのせいで、僕の体は返り血塗れになってしまった。
うわ、最悪口に入った。
鉄の味が広がる。
「そ・・・ら・・・?」
声がした方を見ると、伝斗が目を見開いてこちらを見ていた。
あぁ・・・やってしまった・・・。
「お・・・まえ・・・なんで・・・」
いつもなら、心配して近づいてきたりとかするものだけど、今日は来ない。
やっぱり、怖いのかな。
殺されるかもしれないから。
僕は何か言い訳をしようとしたけど、何も言葉が出てこない。
だって、自覚できてしまうから。
自分が異常なだけだって。
「伝斗・・・」
なら、せめて・・・。
「・・・僕から・・・逃げて・・・」
僕の手で、友人を殺したくない。
「は?お前、何言って・・・」
「ごめん・・・でも、逃げて・・・お願いだから・・・」
僕は、言い切った。
これ以上一緒にいたら、また僕は誰かを傷付けてしまう。
「理由がないのに逃げるなんて・・・」
そこまで言った時、伝斗の頭上を銃弾が横切った。
見ると、国王軍が迫って来ていた。
彼は少し迷う素振りを見せたが、すぐに走って行った。
その後ろ姿を見送ってから、僕は俯く。
「あーあ・・・」
声が漏れる。
言葉がまとまらないまま、口に出す。
「なんで僕は・・・こんな人生を送っているんだろう・・・」
いつの間にか雨雲はすぐそこにきていたらしく、雨がポツポツと振り始める。
でも、そのしずくとは別の、透明の液体が頬を伝う。
「もう・・・嫌だよ・・・」
僕は刀を持ち直し、自分の胸に突き刺した。
次こそは死ねると、不思議な安堵感があった。
最後に思い出したのは、愛おしい少女の姿だった。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.65 )
- 日時: 2016/01/30 11:33
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
空は、とても怖い目をしていた。
何が起きたか、自分が何をしたか、よくわからなかった。
ただ、突き飛ばされた痛みでなんとなく感覚が正常になったような気がする。
……もしかしたら逆におかしくなったかもしれないけど。
俺を突き飛ばした空は、冷え切った目でこちらを見ていた。
「うるせぇよ……」
俺はこの目を知っていた。
かつての誰かさんも同じ目をしていた。
怖い、怖い。
何もかもが自分だけを置いて壊れていく感覚。
ケントの返り血を浴びた空は——綺麗だと思ったりもした。
ダメだ、やっぱり自分もちょっとずつおかしくなっちゃってる。
「そ……ら……?」
“お母さんはもう帰ってこないんだよ”
大きく息を吸い込む。
空がゆっくりとこちらを見た。
同じ目。言いかえるなら、疲れた目。
「お……まえ……なんで……」
近寄って、手を差し伸べることは容易い。
でも。
“手遅れだったんだよ。気づいたときにはもう救えなかっただけさ”
そうだ、もう何を言っても遅いんだ。
空は、手遅れ。もう救えない。
「伝斗……僕から……逃げて」
捨て犬が惨めにならないためには、捨てられる前に逃げること。
安全地帯は自分で探さなきゃ……自分が死んじゃうよ?
これは、俺が短く長い15年間の人生で築き上げた幸福理論。
なぜか今は……この論を真っ向否定したい。
「は? お前、何言って……」
「ごめん……でも、逃げて……お願いだから……」
逃げるってことは、空を捨てるってこと。
空を捨てるってことは……俺が死ぬってこと? あれ?
なんかいろいろこんがらがってきたぞ。
「理由がないのに逃げるなんて……」
何で俺は『逃げる=死ぬ』なんて考えているんだ? 普通逆だろ。
そこまで考えたとき、向こうから銃声が聞こえた。
頭上を銃弾が掠める。
国王軍か。
彼らなら空を止められるかもしれない……たぶん無理だけど。
彼の目は……母さんと同じ目をしている。
“もう救えなかったんだ。お前のせいでね”
黙れ。お前のせいだろ、父さん。
歩き出したら、タイミングを見計らっていたように雨が降り出した。
そのとき、一つだけ思い当たった。
俺の母さんは『逃げる』ために俺を『捨てて』『死んだ』んだ。
だから、『逃げる=捨てる=死ぬ』とか言うわけのわからない理論が成立するのか。
あの日、俺の母さんは死んだ。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.66 )
- 日時: 2016/01/30 20:15
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
「ねぇねぇ空君、ここ教えてくれない?」
「あぁ、ここ難しいよね。ここはね」
「空君、ここのことなんだけど」
「ちょっと待ってて。それでここを」
「あ、俺も分かんねえやここ。教えてよ」
「いいよ。それじゃあね」
世の中にこれほど忙しい休憩時間があっていいのだろうか。
いや、これはもう休憩ではない。一種の授業、いや苦業だ。
3日前にこのクラスに転校して来たばかりの僕が昨日の抜き打ちテストで学年で唯一満点を取った噂は人を呼び、昨日今日と人が押し寄せてくる。
おかげでトイレにすら行かせてくれない。
小学校なら勉強なんて頑張らなくてもいいだろうに。
まぁ家に帰ってからも復習に予習を重ね、死にもの狂いで勉強をしている僕が言えたことではないけど。
「ありがとう!ホント空君って勉強教えるの上手だよね〜」
「そんなことないよ」
「あるある!優しいし真面目だし頭も良いし、伝斗とは正反対だよな」
「でんと?」
僕が聞きかえすと、周りにいた何人かの生徒が「えッ!知らないの!?」と、とても驚いた様子だった。
だってまだ転校して3日ですし・・・。
「伝斗っていうのは隣のクラスの・・・」
「頼むよ椿ぃ〜ッ!」
男子生徒の言葉を遮ったのは廊下から聴こえた声だった。
僕はそれをたまたま開いていたドアから見る。
「一生のお願いッ!宿題写させて〜!」
「駄目です。この前のテストの成績も悪かったんですから、宿題くらいは自分でやりましょう」
「そこをなんとか〜ッ!」
移動教室なのか、何かの教科書を持った美少女に同じく教科書を持った状態で何か頼み込む男子生徒。
つかなんだあいつ、体細いし色素薄いし、何かの病気か?
「あぁ、あれが伝斗だよ。杜来 伝斗」
「あれが?」
「あぁ。喧嘩ばかり起こすし成績も悪い。超問題児だよ」
「普通の生徒に見えたけど?」
「普段はな。でも、最近ではちょっとぶつかって謝らなかったってだけで殴られた生徒もいるらしい」
「それもう不良じゃん(笑)」
「まぁな。ま、空君は関わらない方がいいよ」
その時始業のチャイムが鳴った。
僕の周りにいた生徒は「じゃあ、また次の休憩時間な」と言って手を振る。
僕も手を振りながら、さっきの伝斗とかいう生徒について考察してみる。
不良で不真面目で成績悪い、か。
まぁ僕から関わらなければ向こうも僕みたいな優等生には話しかけてこないだろう。
極力関わらないようにしよう、と心に決めた。
−−−
「じゃあまた明日〜」
「うん。また明日」
僕は勉強を教える中で仲良くなった男子生徒に手を振りながら、ランドセルを背負う。
はぁ・・・やっと帰れる。
まぁ帰っても勉強する僕にはあまり変わらないけどさ。
「おい、転校生」
いつのまにか目の前には今関わりたくない人物第1位、杜来 伝斗がいた。
さて、どうやって逃げようか。
「な、なに・・・?」
とにかく刺激するな。
適度相手しつつ、隙があれば逃げろッ!
「いや、大したことじゃねぇんだけどな」
彼はそう言うと、僕の机に両手を置き、額を擦り付けて・・・。
「頼むッ!俺に勉強を教えてくれッ!」
「・・・・・・え?」
多分、今僕はとても馬鹿な表情をしていることだろう。
だって考えてもみてよ?
不良だのなんだのと聞かされていた男子が自分に勉強を教えろと頭を下げて言ってくるんだよ?
逃げれるものなら逃げたい・・・。
「あ、いや、この後はちょっと習い事が・・・」
「じゃあ明日でもいいから!」
嘘吐いてもダメなのかよ。
しかも明日は本当に習い事(剣道)があるんだけど!?
「いや、ホント僕も引っ越してきたばかりで忙しいから・・・」
「頼むよ!次のテストで点数下がってたら怒られるんだよ!」
怒られる、か。親にかな。
まぁ、小学3年生で血の繋がった親がいないなんて、僕以外にはいなくて十分だけど。
不良でも、僕より優れてる点とか、あるもんだな。
「はぁ・・・分かったよ。じゃあ後で図書館に集合ね」
「さんきゅー!ていうか、習い事は?」
「ん?あぁ、あれは嘘。ホントは明日」
「ふざけんな」
結局殴られましたとさ。ちゃんちゃん。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.67 )
- 日時: 2016/02/05 14:02
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
まだ頭がぼーっとしている。
二度三度瞬きをして、ゆっくりと扉を開けた。
「サラマンダー……」
「どうした、伝斗。顔色が悪い」
よろめきながら、サラマンダーの横に腰を下ろす。
サラマンダーが何か言ったような気がするが、聞こえない。
ああ、初めから全部夢だったらいいのに。
「ねえ、サラマンダー。お前って嫌われ者だよな」
「何がいいたい?」
「シルフってさ、何で仲がいいの?」
サラマンダーは不満そうな顔をした。
嫌われ者って言うのがどうも癪に障ったらしい。
何を今更。
「シルフは、もともと托卵された子だった」
「タクラン?」
「カッコウとかがよその鳥の巣に卵を産んで、もとある子と摩り替えられ、そこで育てられること。
ハーピーの中にもそういう種族がいる。シルフは幼い頃、托卵された。
シルフだけ少し容姿に違いがあるから、兄弟虐めにあったらしい」
托卵ねぇ。
人間だったら想像できないな……。いや、そうでもないか?
ある意味、少し前の俺も托卵みたいなものだったし。
「家出してきて倒れているところを、俺が拾った」
「そういえばお前さ、まえ混血とか何とかって言ってたけどさ、詳しいところどうなのよ」
今度は不満を越えて明らかに嫌そうな顔をした。
「お前は遠慮というものを知らないのか」
「うん、よく言われる」
「俺は父親がドラゴン、母親が人間! 俺自体はれっきとしたドラゴン!」
「嘘つけ! お前見た目人間じゃねぇか」
「でも父親はドラゴンだ! ついこの前お前が刀を突っ込んだあの袋の中の骨を見ただろう!」
あ、あれドラゴンの頭蓋骨なんだ。納得。
しかしあれを大事にとってあるってことは……。
「……サラマンダー、趣味悪いな」
「失礼な、俺の宝物だ」
「気持悪い。新手の宗教かよ」
「宗教とは何だ。あれが俺の心の支えなのに」
「そういうところが宗教なんだよ」
閑話休題。
「でも確かに、お前ってリーダーの割りに慕ってくるやつ少ないもんなー!
この世界に飛んできていきなり革命軍はいって、なぜ突然リーダーの右腕扱いなんだとか思ったけど、
いやぁ、納得納得」
「そうだな、お前も始めてここに来たときに殺そうと思ってたんだよ、最初はな」
俺の額に冷や汗が流れる。
何、こいつ、爆弾発言。
何で俺を殺そうとしたとか言っちゃってんの。
「だって人間だって言ったから当然国王軍のヤツかと。寝たのを見計らって殺そうと思ってた」
「マジかよ」
「でもまあ、そのあと急に攻め込まれたから、あ、あと寝言で言ってたことも気になるし、
別に一緒に戦ってもいいかなと」
「軽いね! てか俺 寝言いわねーし!」
「言った、呻くような声で
『生きて後悔するくらいなら、死んだほうがましなんだよ!』……と」
……重い。とても重い。
サラマンダーが怖いくらい真顔になっている。
よし、これ以上このはなしを掘り下げるのはやめよう。
“黙れ! 生きて後悔するくらいなら、死んだほうがよっぽどましだ!
母さんのところに行くんだよ! 邪魔すんな!”
少年はカッターを手首にあて……
「わーっ!」
「どうした、伝斗。驚かせるな」
「ご、ごめん。いや、驚いてないだろ」
夢だ、悪夢だ。あれは全部過去の出来事!
今にも破裂しそうな心臓を押さえつけ、大きく息をつく。
落ち着け、落ち着け。少し気が動転してるだけ。
ああ、少しずつ自分が狂ってきてる。否、狂っていたときに戻ってきている。
ここは、ダメだ。もとの、空たちがいた頃に戻らないと。自分が壊れる!
脳内に一筋の光が差し込んだ。
「サラマンダー、……できるか?」
「お前はアホか」
「ですよね」
サラマンダーはあきれたように吐き捨てた。
まだ、俺はこの異様な日常に溶け込もうとしている。
—————
「へえ……あの人間、なかなか面白いこと考えるじゃん」
少女の姿をしたそれは、ニッと口元を歪めた。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.68 )
- 日時: 2016/02/05 16:29
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
なんで、今更伝斗と出会った日のことを思い出したのか。
僕には分からない。いや、本当は分かっているんだ。
あの頃は僕は色々な人に必要とされていた。
生きる意味が、そこら中に転がっていた。
でも、この世界に来てからは、それが通用しなくなっていく。
生きる意味が、他人の血で汚れていく。
それに耐えられなくなって・・・。
だから、まだ僕が汚れていなかった頃の夢を見たかったんだ。
そうしないと、壊れてしまいそうだったから。
それに、もう一つ、あの頃にあって、今にないものがある。
伝斗への、信頼。
あの頃は、正確にはあの頃より少し後くらい、伝斗たちと仲良くするようになってから、僕は彼等を信頼していた。
親友だと思っていた。でも、少なくとも伝斗は違った。
彼は突発的に、僕を殴った。理由もなく殴ったのだ。
彼にとって、僕はただの勉強を教えてくれる知り合いの一人でしかなかったんだと思えば、それも当然だった。
こちらの世界に来てから謝ってくれたけど、今でも許していない。
それに、伝斗が僕を嫌う理由を探せば、色々見つけられる。
でも、一番はあれかな。
僕と、比較対象にさせられる現実。
皆、毎日の様に僕に言うのだ。
「どうして伝斗君と仲良くするの?」「空君って伝斗君とは大違いだよね」って。
僕はまだ良いさ。褒められる立場だもの。
でも、伝斗はどうだろうか。友達と比べられるんだよ?
何度か彼が怒られている現場に出くわしたことがある。
僕は聴こえていないフリをして通り過ぎるのだが、毎回のように先生は彼に言うのだ。
「なんで君は空君のようになれないんだ」「もっと空君を見習いなさい」
やめろよ。やめてくれ。
僕だけじゃない。椿だって、優等生だ。
椿が対象にされたことだってあっただろう。
それに、時雨が対象になったことだってあったかもしれない。
時雨だって、伝斗に比べれば根は素直だし、元気で、意外と彼女を好いている者も少なくはない。
じゃあ、そんな僕たちと仲良くしているひねくれ者で不良の伝斗はどうなるか。
言うまでもないだろう?
だから、彼が僕のことを友達と思っているわけがない。
彼にとって、僕は足手まといでしかないんだから。
いつも比べられて、良い気がするわけない。
でも、今気にするべきはそこではない。
−−−
「生きて・・・る・・・?」
いつの間にか強くなっていた雨が僕の頬を打つ。
雫が頬に当たる感覚が、僕が生きているという事実を認識させる。
なんだよ、なんなんだよこれは。
胸を突き刺して、普通生きているものなのかよ。
「いやいや、普通は死んでいるはずだよ」
聞き覚えがある声に、僕は声がした方に振り返る。
そこには、僕の刀を持った福田さんの姿があった。
「貴方は・・・」
「おはよう。自殺志願者の少年君」
余計なお世話だよ、全く。
僕は少し考えてから言葉を吐き出す。
「もしかして、貴方が僕を生かしたんですか?」
「まさか。僕は医者じゃないし」
そう言うと腰かけていた岩から立ち上がり、僕の胸を指差す。
そこは、なぜか淡い緑色の光を帯びていた。
僕は身に覚えがあり、少女が僕にくれたネックレスを取り出す。
案の定、光っていたのはそれだった。
「魔法石の一種だね。魔力を詰め込んで、紐が切れた時にその魔力を解放するって言う」
多分、僕が自分の胸を刺した時、何かの拍子で紐が切れたんだろう。
彼女は回復魔法が得意だって言ってたからね。
それを込めたんだろう。でも・・・。
「くそう・・・」
僕は首の部分から紐を引きちぎり、草むらに向かって投げ捨てた。
「自分の命を助けてくれた物に、乱暴すぎるんじゃないかい?」
「うるさいッ!僕はもう死にたいんだよッ!死なないと・・・いけないんだよッ・・・」
声を荒げてしまう。
僕の気持ちも知らないくせに、偉そうに語るなよ。
「あはは、怖い怖い。でもさ、そんなものを作ったっていうことは作った人は君に生きてほしいんじゃないかな?」
その言葉を聞いて、僕は耳を疑った。
僕に、生きてほしいだって?
「そうさ。それに、君のお友達だって、君が自分の頭撃とうとしたら止めただろう?君に生きてほしい人はたくさんいると思うよ」
「でも・・・僕は・・・」
『生まれても誰にも喜ばれなかったゴミが、人間に逆らうんじゃねぇよ』
幼少期の記憶がフラッシュバックする。
そうだ、僕なんか、生まれてこなかったほうが・・・・・・。
「君は、自分の存在を過小評価しすぎだと思うよ」
そう言うと、僕に刀を渡してくる。
「しばらく考えてみたらどうかな。自分の存在価値を」
そう言って、立ち去って行く。
残されたのは、刀を持ったまま立ち尽くす少年だけだった。
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