複雑・ファジー小説

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スピリットワールド【合作】
日時: 2017/11/03 17:10
名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)

この作品は合作です!

こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします!                               雅

どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
                           凜太郎

こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音

遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!

弓道子


〜目次〜

登場人物

空編  >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
    >>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
    >>060>>062>>064>>066>>068>>070>>072>>074>>076>>078>>080>>082
    >>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
    >>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編  >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
    >>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
    >>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
    >>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
    >>111>>113>>116>>118

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.104 )
日時: 2016/04/25 21:26
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

 真っ暗闇。上も下もない世界で、僕は立っていた。
 いや、地面すらないのだから立っていたという表現はおかしいか。とはいえ、地面も床もないくせに足はどこかに着いている感覚があるのだから、不思議だ。
 そして目の前には、陸人君が立っていた。

「お前は完璧になんてなれない」

 もう、完璧なんか目指してない。僕は凡人のままでいい。

「完璧にならないと、裏切られちゃうよ?」

 黙れ黙れ黙れ!僕は彼の顔面を殴ろうとしたが、拳は彼の体をすり抜け、体はまるで霧のように消えてしまった。

「あんな剣じゃ命がけの戦いでは勝てない」

 その時背後から声がした。見ると、伝斗がまるで蔑むような目で僕を見ている。

「たかが剣道できるだけで粋がってんじゃねえよ。才能の無いただの弱者が」

 黙れ、黙れよ!才能のある人間に僕の気持ちなんか分かるわけないだろ!
 僕は彼の首を絞めようと首に手をかけ握りしめたところで、消える。

「僕は・・・・・・死にたくなかったなぁ・・・・・・」

 その時、また背後から声がする。
 振り返ってその顔を見た瞬間、僕は硬直する。
 なんで・・・・・・お前がいるんだよ・・・・・・?

「君が僕を殺したんだろ・・・・・・君がいなければ・・・・・・」

 やめろ、来るな、やめろ!僕は後ずさろうとするが、体が全く動かない。
 彼は一歩ずつ近づいてくる。一歩ずつ、一歩ずつ。そして、僕の胸に手を当て、笑う。

「次は、君の番だ」

 ニッコリと笑った彼は、そのまま・・・・・・———。

−−−

「やめろぉッ!」

 僕は飛び起きた。
 部屋はとにかく寒いのに、体は汗だくで心臓はバクバクいっていた。

「ソラ君、大丈夫・・・・・・?うなされていたみたいだけど・・・・・・」

 その時、ラキが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
 どうやら、心配させてしまったみたいだ。
 朝日が窓から差し込み、この村にのどかな一日が訪れた事を知らせている。

「ごめん・・・・・・ちょっとだけ、悪い夢を見ただけだから・・・・・・」

 僕は無理矢理笑って見せる。
 そんなこんなで、今日も一日が始まります。

−−−

 雪かきという作業は、想像通りかなり疲れた。
 シャベルに乗せた雪の塊を眺めながら、僕は何度目かになる溜め息を吐いた。
 白い息が空気中に溶け込んでいく。
 いっそのことラキの上級水魔法で村全体溶かせばいいのに、と案をだしたところ子供たちが雪遊びをするという理由で却下されたのだ。知るかよ。

「もう疲れたのか?」

 声がしたので見ると、ロブさんが立っていた。
 大きなシャベルでも、彼が持つと小さく見えてしまうから不思議だ。

「いえ、まだ大丈夫ですよ」
「そうか。あまり屋根の下には行かないようにな。雪が落ちてきて埋もれるから」

 彼はそう言うと僕の頭を撫で、少し撫でた後で去っていく。
 彼は僕を子供扱いしすぎだ。僕だって雪の日に屋根の下が危ないことは百も承知だよ!
 と言っても子供だということは否定できないので僕はまた溜め息を吐いてシャベルで雪を取り除く。
 しばらくしていると、向かい側の家の人が掘っていた通路に合流した。

「おや、もう自分の家の前が終わったのか」
「えぇ、まぁ。次はどこをやればいいですか?」
「いや、大丈夫だよ。子供はあそこで雪遊びしてなさい」

 そう言って指差した方では、子供たちが雪合戦や雪だるま作りをしていた。
 残念ながら僕は昨夜ラキと楽しく雪合戦をしたので、今更やる気なんて起きない。
 とはいえ、村人の皆を見ていると僕が手伝うこともなさそうなので、適当に村を歩き回ることにした。
 すでに村の出入り口までは通路ができており、村の外には森が広がっていた。

「おー。すごいな〜」

 雪が積もった森というのは、中々の絶景である。
 と、のんびり感傷に浸っていた時、汚れたフードを被った人間がこちらに近づいてきているのが分かった。
 かなり足取りは危なっかしく、すぐにでも転んでしまいそうだ。
 心配になったので、僕は雪の中、足元の雪を最近覚えた水魔法で溶かしながら強引に進みその人に近づいた。

「あの〜、大丈夫ですか〜?」

 僕が声をかけると、その人はハッと顔を上げた。
 それと同時に、その場に膝を着くので僕は慌てて駆け寄った。
 近づいてみてよく分かったのだが、なんとその人は女だった。しかも結構美少女。
 フードで隠れているが、赤くて短い髪。少し淀んだ桃色の瞳。
 こんなにも雪が積もっているという時に、彼女の足は靴を履いていなかった。
 身長は僕と同じくらいで、体格は、筋肉自体はついているようだが、かなり華奢だった。
 とはいえ、伝斗とかに比べればかなりマシだ。あれはもう病気のレベルだよ。いや、もしかして真面目に病気?
 ハッ、もしかしたら今頃病気で死んでたりして!その時にはぜひ葬式に呼んでほしいな。
 そんな冗談はさて置き。

「えっと、大丈夫?」

 僕がその子の顔を覗きこむと、彼女はうっすらと僕の顔を見た。
 しばらく僕の顔を見つめた後で、か細い声で呟いた。

「・・・・・・神様?」

 そう言ってドサッと倒れてしまったので、とりあえず抱いて村に運ぶ。
 僕が人を抱いて戻ってきたので、村人たちも何かに気付いたらしく雪かきをする手を止めて近づいてきた。

「おや、その子は?」
「さっきそこで倒れてました。足を中心に、全体的に凍傷の恐れがあります」
「分かった。とりあえず家はまだ空いてるのがあるからそこに運びなさい。暖炉の点け方は?」
「分かります」
「そうか。それにしてもその子はガリガリじゃないか。多分何も食べてない可能性も高いな。後で食料を運んでおいてやる」
「分かりました。ありがとうございます」
「それはそうとソラ君・・・・・・その抱き方は・・・・・・プフッ・・・・・・」

 一人の村人の指摘に僕は少女を抱く両手を見た。
 まぁ、ザックリ言えばこの抱き方は世に言う『お姫様抱っこ』である。
 焦っていたから適当に抱いたのが、まさかこの抱き方になっているとは・・・・・・。
 僕は恥ずかしくて俯いた。

「と、とにかく!僕は彼女の看病をしてきますから、皆さんは気にせず雪かきを続けて下さい!」
「ははっ・・・・・・まぁ、君にはラキちゃんがいるからね〜」
「ラキとはそういう関係じゃないです!」

 これ以上必死に弁解しても、彼等が楽しくなるだけだろう。
 僕は抱え続けて少し両腕が疲れ始めてきたので一度抱え直し、彼女の家になる予定の家に運んだ。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.105 )
日時: 2016/04/30 21:56
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)

オンディーヌは戸惑いながらも、何かかんか俺を受け入れてくれた。
助かった。

「悪いな」
「いえ、小生はかまいませんが、しかし……」
「サラマンダーのことなら、気にするなって。
 人間一人行方をくらましたくらいで傾くような組織じゃねえし」

唯一の不安要素は陸人とか言う輩だけだが、たぶんあいつはいいヤツだ。
むしろ、サラマンダーにとって最良の人材ともいえる。
俺の計画の邪魔になるなんて、とうてい想像できない。

「本当だったらサラマンダーをお前に押しつけて入れ代わりに出ていこうとしてたんだけど、陸人がいるからなぁ」
「あ、いえ。小生は他と関わるのが苦手なので、今のままの方が……すみません」

そこまで言ってオンディーヌは顔を背けた。
確かに、話によるとオンディーヌは長らく引きこもっていた(って言う表現でいいんだっけ)らしいし。
人と話すことが苦手だとしても、何の不思議もないだろう。
現に、これまで俺とオンディーヌは一度も目があってない。

「あ、もしかして俺、すげぇ迷惑?」
「と、とんでもございません! 滅相もない!」
「そう? ならいいけど。
 ところでさ、この棚使っていい? 俺しまっておきたいものがあってさ」

ポケットからナイフを取り出す。
オンディーヌには悪いけど、せっかく戦争を休むチャンスを得たわけだし、これはしばらく手放してもいいと思った。
ぽつんと置かれた引き出しの、一番下の段を開けようとして、躊躇って、その一つ上に手をかけた。

「そこは……っ」

開けた瞬間、むわっと甘い匂いが溢れた。
中に入っているのは葉? のようだが、匂いがエグい。

「そこは触らないでッ!」

彼の白い弱そうな腕が、予想もできない強さで俺を弾き飛ばす。
引き出しが恋われそうなほど、強く叩きつけるように閉めた。
彼の頬を汗が一筋伝う。

「……すみません。
 お願いですから、この段には触らないで。
 一番上の引き出しを使ってください」

まるで猛獣の様だった。
その豹変ぶりに一瞬呆気にとられる。

「……おう、ごめん」

まだあの匂いが鼻の奥にこびりついている。
引き出しの一番上の開けると、そこには見覚えのある鍵束が横たわっているだけだった。

“禁断魔法の本ってある?”
“学者みたいなヤツのところにしかあるわけないだろ”
“お城とかー?”
“早速行こう!
 サラマンダー、こないだの鍵!”
“伝斗みたいなヤツに貸したくない!”

そうだ、あのまま紛失したと思ってたヤツだ。
何でここにあるのかわからないけど、これって絶対偶然なんかじゃない。
空が消えて。
サラマンダーの世話からも逃れて。
なくしたものも見つかって。
そう、これは一種の運命だ。
神はまだ俺に味方してくれているのかもしれない。

「ごめんオンディーヌ。
 俺ちょっと用事ができたから。
 これ借りる!」
「えっ、その鍵ですか?
 かまいませんけど……あの、気をつけてください」

なぎなたと鍵束、それにしまうはずだったナイフをひったくって飛び出す。
ああ、こんなに愉快なことってある?
笑みがこぼれた。
やるなら、今しかない。
不幸が訪れる前に!
雪だとか、もうそんなことどうでもよくなるほど、胸が躍った。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.106 )
日時: 2016/05/11 20:51
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

 足からは、痺れるような冷たさが伝わってくる。
 雪を踏みしめるたびに、足の感覚が麻痺してくるようだ。
 飲まず食わずで、そろそろ一週間経つ今日この頃。
 できるだけ体力を温存しておきたい状況で、この大雪だ。
 膝まで積もった雪は、あたしの体力をガンガン削り取ってゆく。

 結局、あたしの人生はなんだったのだろうか。
 誰にも愛されず、必要とされず、独り孤独に親の仇を探し続けた毎日。
 親の仇を探したのだって、本当は生きる意味が欲しかっただけだった。
 でも、色々な人に殺されかけて、すでに今、死にかけている。
 寒さで死ぬか、飢えて死ぬか、魔物に襲われて死ぬか。どれだって同じ。
 結局は死ぬ。それは変わらない。

「あの〜、大丈夫ですか〜?」

 声が聴こえた。あたしは顔を上げる。
 そこには、背の低い白髪の少年が、力強く走って来ていた。
 この辺りでは見た事のない綺麗な白い髪。真剣な眼差し。
 しかし、逞しい足取りやその鋭い視線には不似合いな柔らかい声。
 それにどこか安心してしまい、あたしの足からは力が抜ける。

「えっと、大丈夫?」

 少年はそう言って私の顔を覗き込んでくる。
 こうして改めてみると、彼の存在は色々と、異質だ。
 白い髪というだけで異常な上に、こんな雪の中、運よくあたしを見つけ、しかも助けるだなんて。
 もしかしたら、彼は神様の使いなのかもしれない。
 くだらない考えだが、人間だった場合なんて、ご都合主義すぎる。
 せめて、聞いてみよう。もう、あたしには時間なんて、残されていないのだから。

「・・・・・・神様?」

 力を振り絞りそう呟いたところで、あたしの意識は途絶える。

−−−

「ん・・・・・・ぅ・・・・・・」

 目を開けると、そこには見覚えのない木目の天井が広がっていた。
 ここは、どこなのだろうか?あたしは首だけ動かして辺りを見渡す。

「あ、目覚ました」

 そこには、白髪の少年が立っていた。
 あたしは驚きのあまり後ずさりそうになったが、もう片方は壁だったので後頭部がガンガンぶつかるだけだった。

「え、そんなに驚かなくていいじゃん・・・・・・ご飯できてるから、食べる?」

 あたしが距離を取ろうとしたせいか、彼は少し落ち込んだ様子でそう言った。
 見ると、奥にある台所の鍋からは湯気が立っている。
 それと同時に、あたしのお腹は盛大な音を立てた。

「クスッ、すぐに準備してくるから、待っててね」

 彼は微笑みながらそう言うと、台所に行った。
 あたしはフラフラと立ち上がり、なんとか席に着く。
 しばらくすると、目の前には様々な料理が並んでいた。
 あたしは皿が並べられた瞬間、とにかく片っ端から手を出した。
 全て食べ終わる頃には、何年ぶりかくらいに満腹感を味わうことができた。

「はは・・・・・・そんなに美味しかったかい?」

 笑いつつ皿を片付け始める少年。
 そういえば、かなり前に奴隷市場に売られた時に、白い髪の奴隷は普通の人間より高値で売れていた。
 彼をあそこに売れば、10年は遊んで暮らせる。
 あたしは彼の袖を掴み、彼がこちらを見た所で顔面をぶん殴った。
 彼は皿を落とし、何歩か後ずさった。
 よろめく彼の胸を蹴って距離を取らせ、太股に隠しておいたナイフを一本取り出す。
 トドメを刺そうと一気に距離を詰めたところで、頭突きを喰らった。

「がッ・・・・・・」
「いったいなぁ・・・・・・」

 ナイフを持ったあたしの手を掴み、背負われる。
 視界が回転し、気付けば床に背中が叩きつけられていた。
 殺される!そう思ったが、トドメの一撃は中々来ない。
 彼は自分の鼻骨が無事なのを確認すると、風魔法で竜巻を発生させて皿の破片を集め始めた。

「こ、殺さないの・・・・・・?」
「え?殺してほしいの?」

 キョトンとした表情でそう聞いてくる。
 まるで、殺さないことが当たり前といわんばかりの表情。

「そういうわけじゃなくて・・・・・・だって、アンタのこと攻撃して・・・・・・」
「いやぁ、僕そういうの気にしないんだよね」

 彼はそう言って肩を竦め、笑った。
 その笑顔はどこか年相応な感じがして、なんだか親近感が湧いた。

「なんで・・・・・・?」
「いやさ?僕だってちょっと前までは人を殺して、自分の手を血で染めていた。周りはそれを褒めたから、僕は良い気になって天狗になって。でも、当たり前だけど、僕より格上の存在はいた」

 彼は少し遠くを見るような目で、そう言った。

「でも、今はこの村で、人を殺さなくても、認めてもらえる。こんな僕でも、認めてもらえるから、僕は嬉しい」

 彼はあたしの前に立つと、手を差し出してくる。

「一緒に生きよう、この村で」
「・・・・・・何それ、超クサイ。つか、ダサい」

 あたしは本心を吐露した。
 なんていうか安いドラマの主人公みたいだったから。
 あたしの言葉を聞いて、彼は顔を真っ赤にして膝を抱えた。

「だって君ってなんか人を信用してない雰囲気あったからさぁ!どう接して良いのか分からなかったんだよ・・・・・・」

 そう言って大きく溜め息をつく。
 なんだか、変な少年だな。平気でクサイセリフは吐くし、安っぽい言葉を平然と並べられるし、明らかに演じているような雰囲気もある。
 でも・・・・・・温かい。
 まるで、晴れた空のように。私の心のどこかを、温めてくれる。

「・・・・・・面白いね、アンタ」

 あたしは、いつしか笑っていた。
 自分が笑われて恥ずかしかったのか、彼は不満そうな顔をしている。
 あたしはしばらく笑って満足して、彼の目を見る。

「あたしは、ラルナ。今日からよろしく」
「あ、えっと、ソラです。今日からよろしくって・・・・・・マジ?」

 彼はぎこちなく、あたしが差し出した手を握り返す。
 その仕草が面白くて、あたしはまた笑った。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.107 )
日時: 2016/05/13 22:32
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)

暗がりに目を凝らし、指の腹で金属質の扉をなぞる。
ここにたどり着くまでは容易かった。異常なほどに。
城内は今までの印象に比べて、人がえらく少ない。
通りすがりの兵士の噂では、何かを探しに出払ってるらしいけれど……まあ、好都合だ。
書庫があるかどうかも半信半疑で侵入したのに偶然兵士が本の話題をしていたおかげで、あっという間にたどり着いた。
マジで幸運すぎて逆に不安になるくらい。
明かりをつけるのはもう少し我慢だ。中に入ればこの分厚い扉がいくらでも隠してくれる。
ようやく見つけた鍵穴にそっと、順番に鍵をさしていく。

「これでもない。次も違う……」

そんなこんなで全ての鍵を試したけど、全部はずれ。
ここまできて引き下がるのも癪だ。
でも、見つかったらそれはそれで大問題。いや、The End。
そんな恐ろしいこと、考えたくもない。
落ち着け、もう一度順々に……。

「ん? 今フォークの音がしなかったか?」

背筋が凍る。
正確にはフォークの音じゃない。鍵の音だ。でもそんなことはどうだっていい。
早くこの重い扉を開かなければ。
ここで終わりなんて、やっぱり神は残酷だ—−。
もうパニックだったのか、近くに落ちていた針金を鍵穴につっこんだ。
上、下、手探りで一つずつ窪みをずらす。
芸は身を助けるって、本当かもしれない。
あのときの悪事が、こんなところで生きてくるなんて。誉められたことではないけども。
重い扉の隙間から中に転がり込んだ。

「っはあ、マジ死ぬかと思った……」

ぼふっと舞い上がる綿埃を払う。
数回瞬きし、扉が閉まっていることを確認した。
そっと、小さなランプに灯りをともす。
目の高さまでそれを掲げたとき、俺は思わず息をのんだ。
廃墟のようにそびえる本棚が、暗闇から不気味に浮かび上がる。
そこに並ぶ、幾千もの書物。
俺にとって、それは未知の世界だった。
この中になら……!

ーーーーー

だいぶ時間がたった気がする。
目を皿のようにして文字という文字を漁り、見つけた本はたった一冊。
タイトルも埃に埋まってしまっているうえに、ひたすら厚くて重い。
まあでも、これが見つかっただけマシかな。
この中には砂粒のような字でびっしりと、『一般的な回復魔法を除く、人間にかかる魔法』についてかかれている。

“そもそも魔物って言うのは人間の魔法の失敗作みたいなものなのにさぁ、
 それに呑まれそうになったから迫害するなんて、やっぱり人間は愚かだよねぇ”

『死者蘇生』は一見すると回復魔法のようだが、ラキちゃんの回復魔法の書物には掲載されていなかった。
つまり、あれは『一般的な回復魔法を除く、人間にかかる魔法』ってことで間違いないだろう。
さらにライヒェの言い分が正しいとしたら、ほかの魔物についても同様と考えて間違いない。
「俺はドラゴンだ!」って言い張るどこかの誰かさんにもそろそろ現実を見てほしいし。
……使えたら、なおよし。
さっそく左脇に抱えていそいそと部屋を出ようとした。

「これって……」

視界に入ったのは、一つの挿し絵。
葉っぱの絵だ。
しかも、先ほどオンディーヌが隠していた(というと人聞きが悪いが)
あの葉にそっくりだった。

「……一冊が二冊になるだけだし」

急いでそれも手にとって、逃げるように城から出た。
いや、まあ実際逃げてるけど。
鍵束はポケットに滑り込ませる。
当分返す気はないんだよね。

なんとか第一段階を終え、一人で安堵のため息をついた。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.108 )
日時: 2016/05/15 20:25
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

「はぁッ!」

 僕が思い切り振った右手の木刀はロブさんの持つ木刀に弾かれ、宙を舞う。
 僕は即座に左手の木刀を振ったが、すぐに木刀を持ちなおし、そちらも弾かれて手を離してしまう。
 すぐに僕の首には木刀が突きつけられた。

 現在、僕とロブさんは訓練という名目で組手をしている。
 今のところ僕の34戦0勝34敗だけどね。
 村の雪かきも終わり、ロブさんが暇していた様子だったので、なんとか頼み訓練してもらうことにした。
 村を出て少し歩くと、森の中でちょっとした広場になったような場所があり、そこの雪を溶かして木を切って簡素な木刀を作り、戦える場所は作った。
 そして、ひとまずロブさんも専用の武器は剣ではないので、戦ってみて、僕の悪い部分を指摘してもらうことにしたのだ。

「お前は、剣の才能は無いな」

 いきなりそう言われた。
 あ、ヤバい、何かがグサッと刺さった感覚がある。
 ちょ、待って、それはマジ辛いから。
 そりゃ分かっていたよ?僕に剣の才能がないことも、そもそも運動面に関しての才能は皆無だという事も。

「あと、なんか動きも固いし、クセもあるな。剣筋は悪くないが、これ以上強くなるのは難しいな」

 ぐはぁっ・・・・・・。
 もう僕のSP(精神ポイント)は0だよロブさん。そろそろやめません?
 僕の願いが届いたのか否か、彼は指摘を止めてしばらく考え込み、言った。

「お前、魔法は使えるんだよな?」
「え?あ、はい。まぁ・・・・・・」

 突然どうしたのだろうか。たしかに、最近暇な時間は魔法の特訓に費やしているから、全属性の中級までは使えるようにはなったけど。
 中級まで使えると、割と戦いのバリエーションは増えるんだよね。
 混合魔法とかも、考えれば結構色々あるし。

「じゃあ、これからは魔法で戦え。お前の戦い方は魔導師に向いている」

 そう端的に言った。
 いや、急にそんなことを言われても、僕はあくまで魔法はサポートで、基本剣の方が馴れてるんだが。

「お前は剣を振る時に考えすぎている部分がある。普通の戦いでは、剣を振る時は何も考えず、速さを追求する必要がある」

 な、なるほど・・・・・・。

「まぁ、今すぐに、っていうのは無理だろうが、強くなりたいならそうした方がいいと俺は思う。まぁ、ちょっと休憩にしようか」

 彼はそう言うと森の中に入っていく。
 斧を持って行ったので、恐らく木を切るか、ドラゴンでも狩りに行くのだろう。
 僕は火照った体を冷やすために、雪の中にダイブした。
 相変わらず、冷たいな。でも、気持ち良い。
 にしても、魔導師か・・・・・・。
 魔導師ってことは、杖とか持って魔法ぶっ放すのかな。
 この世界で魔導師なんて見ないから、よく分からないけど。

「俺、この戦いが終わったら、魔導師になるんだ」

 適当にそう呟いて寝返りを打った時だった。

「死亡フラグ、お疲れ様」

 目の前には黒髪の青年、福田 龍之介が立っていた。

「どうしたんですかこんな場所で」
「それはこっちの話だよ。行方不明になったって聞いていた人間が、目の前で雪に埋もれて死亡フラグ立てているんだからさ」

 あぁ、そっか。僕って一応行方不明扱いなんだっけ。
 なるほど、確かに僕も逆の立場なら混乱するかもしれない。

「別になんだっていいじゃないですか。それで、何か用ですか」
「いやぁ、元々用は特に無くて、ただ歩いていただけなんだけどさ。今、用できた」

 そう言うと、彼は持っていた鞄から2冊の本を取り出した。

「それは?」
「まず、こっちの本は魔法に関する注意事項とかが書いてある本」

 そこまで言うと、目つきが一瞬変わったような気がした。
 今までヘラヘラしていたのが、急に真面目になったような、そんな感じ。

「魔法については僕も色々と調べたから、知っている。これは、君が思っているほど簡単なものではない」
「はぁ・・・・・・」
「この本を読めば分かると思うが、念のために言っておく。この世界では、魔力量に応じて髪色は変わっていて、異世界から来た僕達にも、それは適応されている。君の髪が白くなったのは、そのせいだ」

 僕は無意識に自分の髪を指で触った。
 魔力量に応じて、変わる?じゃあ、僕の髪が白くなったのは、僕の魔力量によるものだということか?

「君が魔導師になることを止めるわけじゃないし、魔法を使うこと自体は悪いことじゃない。でも、気を付けてほしい。力は時に、己の身を滅ぼすということを」

 普段の彼とは違う、真面目な雰囲気。
 何が言いたい?そもそも、僕の白髪の理由がなんとなく分かっただけで、僕の魔力量は分かっていないからピンとこない。
 でも、話の流れから察するに、かなり多いのかもしれない。気を付けよう。

「分かりました・・・・・・気を付けます」
「そっか・・・・・・。それならいいんだ。じゃあ、もう一冊だね。こっちは上級以上の魔法が載っていて、結構色々すごいのが載っている本だよ」
「いきなりすごいの出したな!?」
「冗談だよ」
「・・・・・・」
「これはね、禁断魔術が載っているんだ」

 禁断魔術。
 死者蘇生とか、世界を滅ぼしかねない魔法とか?

「大当たり」

 じゃあ、それはいらないな。

「え、なんで?例えば君の大事な大事なラキちゃんが死んじゃった時に、死者蘇生を使えば生き返らせられるんだよ?」

 どうせそういうのは、命と引き換えとか、確実に魔法を使った後で何かを請求されるものだ。
 いや、命と引き換えならまだいい。例えば呪いに掛かった状態で不老不死とか、そういう意地が悪いものが憑く可能性もある。
 それでも、ラキを生き返らせるなら、もしかしたら手を出すこともあるかもしれない。
 しかし、もしかしたら、生き返らせても記憶喪失だとか、廃人になるとか、確実にそういうものは付いてくるだろう。それでは、ラキが苦しむだけだと思う。だから、いらない。
 そういうのは自暴自棄になっている馬鹿にでも渡しておけばいい。少なくとも、僕は今の状態で満足している。禁断魔術に手を出すほど、落ちぶれてはいない。

「・・・・・・まぁ、君ならそう言うと思ったよ。この本は君を試しただけ。気を付けるとか言いながら受け取ったらどうしようかと思っていたよ」

 そう言うと、仰向けに寝ている僕の腹の上に本を置いた。
 恐らく、魔法に関する注意事項とかの本だろう。
 福田さんは禁断魔術の本を鞄にしまう。

「ソラ?誰かそこにいるのか?」

 その時、後ろから声がしたので振り返ると、ロブさんがこちらに歩いてきていた。
 福田さんを紹介しようと振り向いたところで、僕は溜め息をついた。
 そこには、誰もいなかった。

「話し声が聴こえたんだが?」
「・・・・・・いえ、独り言です」

 僕は話を濁し、本を片手に立ち上がった。


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