複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

スピリットワールド【合作】
日時: 2017/11/03 17:10
名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)

この作品は合作です!

こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします!                               雅

どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
                           凜太郎

こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音

遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!

弓道子


〜目次〜

登場人物

空編  >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
    >>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
    >>060>>062>>064>>066>>068>>070>>072>>074>>076>>078>>080>>082
    >>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
    >>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編  >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
    >>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
    >>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
    >>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
    >>111>>113>>116>>118

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.49 )
日時: 2015/12/26 23:31
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)

サラマンダーをベッドに運んで、吐き出した血を拭くために布を探しに外に出る。
ああ、寒い。
ぜんぜん気がつかなかった。いつの間にこんなに冷え込んでいたのか。
冬だ。
俺の一番嫌いな季節。

—————

町はクリスマス一色。赤、緑、白、金。
俺だけが真っ黒ななりをして。
ならにぎやかな場所に行かなければいいのに、俺はわざわざ大きなスーパーマーケットで一人。
目の前を通り過ぎる人は皆、一人じゃない。若いカップル、孫を連れた老人。
冷ややかな目で、彼らを見つめる。誰もが俺にはないものをもっている。
一組の親子が前を通った。
小さな女の子。母親。二人は仲良く手をつないで、ドーナツ屋に入っていく。
きっと二人がこれから口にする菓子は、歯の浮くほど甘ったるいのだろうと。
そして、それは自分の口には合わないのだろうと。
そんなことを考えていたら、たまらなく悔しくなって、すぐにその場を離れた。

—————

今思えば、何て幼稚な妬みだろうと思う。
たかが親子が目の前を通っただけで、嫉妬された側もいい迷惑だ。
たかが一緒に過ごす人がいないってだけで、何も悲観的になっているのか。馬鹿馬鹿しい。
でも、と俺は同時に思い出した。
その次の年、4人で食べたドーナツは、頬が落ちるほどおいしかった……。

“ごめん。何も覚えてないんだ”

俺にとってソラがどんな存在であったとしても、ソラにとって俺はその程度に過ぎない。
あの出来事も、この思いでも、ソラの中では忘れてしまうほどのちっぽけな存在だと。
それならいっそ、俺もこの世界で生まれ変われるなら。

遠くに大きな影を見つけた。ノームだ。

「ノーム! ごめん、タオルか何かないかな。サラマンダーが、血を吐いて……」
「ああ……いつものあれですね」

『いつものあれ』?
いつものあれって、え? サラマンダーしょっちゅう血ィはいたりしてるの?

「ああ、リーダーはちょっと気が動転したりするとそうなるんです。
 普通なら血が出ないようなところから出血したり、別人のように表情を変えたり」
「え? それってやばいんじゃねぇの?」
「大丈夫でしょう、今までも特に何もありませんでしたし……
 ほら、彼……混血種ですから」

ノームがそれを言った瞬間、ドキリとした。

“そもそも俺みたいな混血種を受け入れるやつは少ないんだよ”

『混血種』……周りのものはどれだけ容易くその言葉を口にしたのか。
たった一言で、どれだけサラマンダーが追い詰められてきたのか。
顔に、手足に、冷たいものが張り付いて麻痺するような感覚。
脳の奥がすっと冷え切っていく。
騙されるな、伝斗。優しさなんて、装飾に過ぎない。

「こんな布切れで足りそうですか?」
「ん、ありがと。じゃ、またあとで」

俺は布をノームからひったくると、逃げるようにその場を去った。

—————

「サラマンダー、具合どう?」

案の定あいつは寝ている。
顔中を吐血で真っ赤にして、まるで手のかかるわがままな子供だ。
布を濡らしてくるのを忘れたから、ちょっと強引に擦り落とすようにふき取る。
長い前髪を書き上げると、そこには切り傷のような大きな痕があって。
幼い表情に、それがたまらなく不釣合いで、マジでウケる。
額の傷。場所が場所なだけに、どうしても嫌なことを思い出してしまう。
お前にはもうあの時の傷は残ってないだろう、ソラ。
そうやって傷が癒えていくみたいに、思い出なんて全部消す。
どうせ忌まわしいことしか覚えていないのだから……。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.50 )
日時: 2015/12/28 08:43
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

 気がつけば、こんな気味の悪い少年が出来上がっていた。
 誰が、ここまで狂えるだろうか?
 ここに来る際に、頭を強く打ったことは覚えている。
 それだけで、大切な友人のことを忘れ、しかも殺そうとするなんて。
 義理の両親の期待に応えるために頑張ってきた剣道で、僕は人を殺した。
 今更許されるわけがない。
 もう、僕に居場所なんて、ない。

「もう・・・冬か・・・」

 息が白い。
 僕たちの世界では夏だったというのに。
 異世界ってある意味すごいな。
 あはは、今思えば当然だよな。
 少なくともこの世界に自分の居場所なんて求める方が悪いんだ。
 僕はこの世界にいるべき存在ですらないのに。
 もちろん、あの世界に戻ってもそれは変わらない。
 伝斗たちを、僕は裏切ったのだから。
 今僕は橋から川を眺めている。
 ここから飛び降りれば、自分の居場所をみつけられるだろうか。
 そんなことを考えながら顔を上げた時、グレンさんが軍隊を引きつれてどこかに行こうとしていた。
 僕はそこn駆け寄る。

「あの、何をしているんですか?」
「あぁ、ソラ君。前に君は革命軍の拠点を見つけただろう?折角君が兵士をかなり倒したんだし、潰しに行こう、と国王がね」

 国王が?
 まぁ、僕は手応えだけでもかなり殺したと思う。
 記憶を取り戻した今では吐きそうになる。
 というか一回吐いた。

「そうなんですか」
「あぁ。そうだ、君も来るかい?」

 まるで飲み会に誘うかのように僕を誘う。
 僕は即座に断ろうとすたが、考える。
 僕が行かなければ、伝斗が死んでしまう。
 僕が守らなくて、誰が守る?
 サラマンダーやノームとやらは、伝斗を守りきることなんてできるわけがない。
 僕は彼に、借りがある。
 まともに返せたことなんて、一度もない。
 じゃあ、やることは一つだ。

「行きます。でも、今は刀がないので、取りに帰っても良いですか?」
「あぁ。分かった。俺達は先に行ってるから」
「はい」

 僕は曖昧に答えを濁してから、ラキの家まで走って戻る。
 地面を蹴って、なんとか辿り着く。
 扉を開けると、ラキがいた。

「ソラ君ッ・・・」
「ラキ、ごめん。今からちょっと、拠点を潰しに行ってくる」
「そう・・・分かった。でも、ちょっと待っててね」

 そう言って奥の部屋に行く。
 その間に刀を腰に提げる。
 少ししてラキは何か紐のような物を持ってきた。

「・・・それは?」
「お守り。魔法石に私の魔力を込めたの。これを縛っている紐を解いたら魔力が解放されるの」

 そう言って僕の首にかける。
 革製だろうか、すべすべした感触だ。
 その縄で、黄緑に青い縦線が入った色をした石が縄でしっかりと縛られている。

「ありがとう。あと、ラキ・・・」
「なに?」
「もう、戦地には来ないでくれ」
「え?」
「君はいつも戦地に来る。正直、僕には守りきれそうにない」
「私は自分で自分の身は守れるから・・・」
「ダメだ!」

 声を荒げてしまう。
 昔から僕は変わらない。
 身勝手で自己中心的で行動も短絡で。
 完璧になんてなれるわけがない。

「ごめん・・・でも、来ないでくれ。僕は君を危険な目に遭わせたくないんだ」
「・・・そっか。ごめん、私も勝手で・・・」
「じゃあ、行ってきます」
「うん。いってらっしゃい」

 僕は家を出た後で、走る。
 友人を守るために。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.51 )
日時: 2015/12/29 18:26
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)


「みてみてっ」

シルフは川の中を走り回って、魚を追いかけては川に顔をつっこんでいる。
どうやら彼女なりの漁の方法らしい。
この前の怪我も、安静を守った結果あっという間に回復したようだ。

「ふぇんほ! ははな! ははなほっはろ!(伝斗! 魚! 魚捕ったよ!)」

くわえた魚が暴れてそのまま逃げられた上に、シルフは転倒した。
まったく、これではすぐにまた怪我をしそうだ。
体をふるって水を飛ばし、彼女はこちらに駆けて来た。

「休憩! ところで今日お兄ちゃんとノームは?」
「ノームは破壊されたアジトの修理と、新しい拠点の準備。
サラマンダーはずっと寝てる。
ま、寝てなくても、怪我した状態であれだけ暴れたら安静にする他ないだろうけど」

俺はというと、シルフのお守り。
ノームは他の魔物とかと一緒にやるって言ったから、俺なんかじゃたぶん力になれないし、
サラマンダーは看病なんかしなくてもずっと寝てるし。相当疲れたのか。

「シルフはもう怪我のほうは?」
「僕? ぜんぜん元気! 元気すぎて思わず魚が逃げちゃうくらい元気だよ!」

それはいいのか、悪いのか。
でもシルフはカラカラ笑ってるしすごく元気いっぱいだから、まあいいのかな?
平和だ。とにもかくにも平和だ。

「暇すぎて死んじゃう! なんかお手伝いでもしにいこうよ〜!」

シルフも同じことを考えていたらしい。
まあ、そうだ。この前までの目まぐるしさを考えたら、今は退屈の極みだ。
だからといって、ノームの仕事を手伝えるとも思えないし。

「そういえば、俺前リタイアしたけど、したい処理の仕事を少し手伝ったんだよな」
「あ! それやろう! 僕も手伝う! お兄ちゃん一人でやってる仕事だから、たぶん溜まりに溜まってるはずだよ!」
「って、お前、速っ!」

まるで手を引かれるかのように、駆け出したシルフを追いかける。
ああ、いつかもこうしてみんなの後を追いかけた。いや、自分が前に来ることのほうが多かったか。
しみじみとした気持を振り払う。このままじゃ俺はいつまでも俺のままだ。
忘れろ。全部。
頭の奥がすっと冷え込む。

「伝斗! はやく、はやくっ! 二人でがんばって、お兄ちゃんビックリさせよ!」
「あ、うん」

それはほんの一瞬で、すぐ意識がふっと戻る。
今の感覚……なんだ?
俺の返事に違和感を覚えたシルフが、不思議そうにこちらを見ている。

「どうかした?」
「いや、何でも。ただ……ほら、前俺ここに来て倒れたなって」
「知ってる! お兄ちゃんが言ってた!」

あいつペラペラしゃべりやがって!
あとで寝ていたらサラマンダーの顔にひげを書いてやろうと心に決める。

「はーやーく! 伝斗いないと仕事にならないじゃん! 僕字が読めないんだから!」
「来た来た、今ついた! よし、サラマンダービックリ作戦だ!」
「おーっ!」

二人でこぶしを突き上げた。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.52 )
日時: 2015/12/29 21:31
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

「ハッ・・・油断しているじゃないか」

 誰かがそう呟いたのを僕は聴き逃さなかった。
 たしかにそうだ。
 革命軍の拠点、戦時中だということを除けば、楽しく平和な生活を送っているのだから。
 僕たちは今、各々で木の上や草むらの中などから様子を伺っているのだが、なんていうか・・・本当に今は戦争中なのか疑いたくなるような状況だった。
 ノリノリで死体処理をする少年(伝斗)と少女シルフ
 伝斗って前から周りの空気が読めないと思う部分はあったが、死体ってあんな風にノリノリでやるものじゃないだろ。
 僕は多少の憤りを感じながらも、隣の木の上で様子を見ているグレンさんに視線を送る。
 グレンさんはこくりと頷く。
 やはり、革命軍はクズだな、改めて思う。
 今この状況で記憶が無い状態だったら、すぐに伝斗を斬り殺していることだろう。
 そう考えると、あの時記憶を取り戻していてよかった。

「よし、行くぞッ」

 グレンさんの合図に、僕たちは一気に攻め込んだ。

−−−

 剣がぶつかる音が響き渡る。
 周りはとっくに戦場と化した中、僕は適当な建物の屋根に登って友人の姿を探した。
 どこにいる?
 彼は、どこにいるんだろうか?
 とにかく辺りを見渡す。
 ダメだ、人が多すぎる。
 しかし、不幸か幸いか、国王軍の方が圧倒的に人数は多いので、革命軍の存在はそこそこ目立っていた。
 ほら、今も国王軍の兵士が革命軍の少年を斬ろうとしてるし・・・あれ?

「伝斗ッ!」

 僕は咄嗟に屋根から飛び降り、ちょうど着地する場所にいた革命軍の兵士の頭を踏み台にしてさらに遠くまで飛ぶ。
 上手く地面に着地して、伝斗に振り下ろされそうになっていた剣を刀で弾く。

「なッ・・・俺は味方だぞッ!」
「すいません。でも、彼は友人なので」
「はぁ?」

 呆ける彼の顎を蹴りぬき気を失わせる。

「・・・そら?」

 伝斗が目を見開いてこちらを見ている。
 僕は何か言おうとしたが、言葉が出てこない。
 忘れててごめんって?あの時のこと謝ってくれてありがとうって?
 今更何を言えばいいんだ?
 僕は、僕は・・・。

「ソラッ!」

 直後、背後から声がする。
 振り返ると、グレンさんが大剣を振りかぶってこちらに走ってきていた。
 そうだ、伝斗は革命軍なんだ。
 僕は咄嗟に間に入る。

「邪魔だッ!どけッ!」
「嫌ですッ!」
「空。お前何を・・・」

 僕は伝斗の手を引いて逃げた。
 僕がグレンさんに勝てるわけない。
 とにかく逃げないと。
 そう思っていた時、手を振り払われた。
 振り返ると、伝斗がよく分からないといった表情で立っていた。

「空。急になんなんだよ。どうせ、俺や時雨たちとの思い出なんて全部覚えてないくせに・・・」
「ごめん・・・忘れてて」

 咄嗟に謝る。
 別に僕だって忘れたくて忘れたわけではないが、それは言い訳でしかない。

「・・・・・・じゃあ、俺が一学期の期末テストの数学で取った点数は?」
「67点。中間より下がったって言ってたよね。もっと勉強しなよ」
「うるせぇ」

 茶化すように言って僕の肩を軽く殴る。
 僕はどう反応すればいいのか分からなかったのでとりあえず話を濁すことにした。

「でも、ホントごめん。みんなのこと忘れるなんて、どうかしてた」
「さすがの俺でもかなりへこんだんだぞ?あっちの世界帰ったら何か奢れ」
「いつもそれじゃん」

 僕たちは笑い合った。
 よかった、意外とあっさり仲直りできて。
 そう思った時、草むらの陰から長い刀が飛び出してきた。
 慌ててかわす。
 見ると、サラマンダーだ。

「お前ッ・・・」
「殺すッ!」

 僕はすぐに刀を抜いてバックステップで距離を取る。
 すぐにサラマンダーが距離を詰めてくる。
 刀をぶつける。
 やはり、強いッ・・・。
 その時、後ろに下げた足が空を切る。

「え・・・?」

 見ると、そこは崖だった。
 そういえば、グレンさんが注意してたな。
 崖があるから、気を付けろって。
 僕は咄嗟にサラマンダーの腕を掴む。
 道連れとか、助かりたいとかそういう気持ちではない。
 ただ、反射的に・・・・・・。
 そのまま僕たちは、重力に身を任せた。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.53 )
日時: 2016/01/07 13:05
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)


戦いの始まりというのは、嫌に唐突に訪れるもので。
死体処理をしていた俺とシルフは、突然の襲撃に対処も取れず、とにかく必死に逃げ惑うばかりだ。

「伝斗! 武器はっ!?」
「んなもん持ってるわけねぇだろ!?」

敵をうまくかわし逃げるシルフの後を追っていたら、足元に気づかず迂闊にも躓いた。
いや、躓かされた。国王軍がわざと脚を引っ掛けたのだ。
こんなのにも引っかかるなんて、情けない。
自分の無力さに呆れる間もなく、そいつは剣を真っ直ぐ振り下ろした。

「うわっ」

がぎん!
金属の音が響いた。頭に衝撃はない。
誰かが防いだ?
ギュッと瞑った目を恐る恐る開けると、白髪の少年が目の前に立っていた。

「……そら?」

まず、驚いた。
空が俺を守っている、これは夢?
いや、この前助けた借りを返しただけだろう、空のことだから。
それとも……これは期待していいのかな?
わずかな希望に胸を震わせたとき、一瞬、チクッと頬に刺激が走った。
笑いかけたいのに、だんだん筋肉が強張っていく。
頬から、額、そしてそれは頭の奥の奥へ……。
凍りつく脳。麻痺していく感覚。
俺は————例え空が記憶を取り戻したとして————喜んでいいのか?
本当なら抱くはずがない感情に、俺は動揺した。

「ソラッ!」

赤髪の厳つい男が刀を振りかぶって駆けてくるのが見えた。
逃げなければならない状況なのだろう、しかし俺の足は動かない。
逃げるべきなのか? きっと俺は今そんなことを考えているはず。
逃げるべきに決まっているだろう。そう思い込もうとすればするほど、別の考えが頭を埋め尽くす。
何故逃げなければならない? 逃げる必要はないだろう?
……死にたいのか、俺は。
自分がないを考えているのかわからない。
混乱して、もうどうしようにもできない。エラーだ。
一人考え込む俺を、突き動かしたのは、ソラだった。
急に手を引かれた。

「空、お前何を……っ」

お前は俺を忘れたんじゃないのか?
そう言おうとしたが、先に頭の中が先ほどの続きでいっぱいになった。
空はいいヤツだ。
もしかして俺は……空を信用できなかった? そんな筈は……。
気がつくと人の少ない場所へつれて来られていた。
思わずその手を振り払う。
……いや、振り払おうなんて思ってなかった。手が、勝手に。
空は真っ直ぐ俺を見つめていた。

「空。急になんなんだよ。どうせ、俺や時雨たちとの思い出なんて全部覚えてないくせに……」
「ごめん、忘れてて」

“ごめん”。
いつも仲直りはソラのこの言葉だった。俺から謝ったことなんて、ない。
ああ、空だ。俺の知っている空だ。

「……じゃあ、俺が一学期の期末テストで取った点数は?」
「67点.中間より下がったって言ってたよね。もっと勉強しなよ」
「うるせぇ」

茶化すように、空の肩を軽く小突く。
空は困ったように笑った。

「でも、ホントごめん。みんなのこと忘れるなんて、どうかしてた」
「さすがの俺でもちょっとへこんだんだぞ? あっちの世界帰ったら何か奢れ」
「いつもそれじゃん」

ソラが笑った。俺も笑った。
懐かしい、でも、何かが違う。
なんと言うか……雨雲が広がるような、そんな不安。
俺は何を考えているんだ……?
次の瞬間、切っ先が茂みから飛び出してきた。
サラマンダー!

「殺すっ!」

空は手際よく刀を抜き、バックステップで距離を取る。
後ろには、崖。

「ソラ……ッ」
「お兄ちゃんっ!?」

シルフの声がしたかと思ったら、空がふっと姿を消した。
崖から落ちたのだ。サラマンダーと一緒に。

「そ……」
「伝斗! 危ない!」

シルフの声がして、俺の姿は影に覆われた。
見上げると、空と話していた男が、今、そこで刀を振り上げていたのだった。
体を捻って地面に尻餅をつく。

「こっちに逃げて! 伝斗!」
「そんなのわかって……い……ッ!」

脇腹に、鋭い痛み。
地面につっこむように、転がって距離をとる。
何なんだよ、このおっさん。俺は大人が大嫌いだというのに。
意地だけで立ち上がろうと手を突く。
脇腹から血が滴った。
俺、の……血?

「うりゃぁーッ!」

シルフが男に体当たりするが、むなしく、シルフのほうが吹っ飛ぶ。
バカか、体格からして無茶だろ。

「シルフだけでも逃げろ、助けを呼べ……」

大声を出したつもりなのに、口から零れたのは喘ぐような声。
……ちょっときついかも。

「でも、伝斗……」

シルフが俺を見た。
哀れみの目。俺が一番嫌いな表情だ。
はらわたからこみ上げてくる嫌悪感が口からあふれ出る。

「早く行けよ! お前なんかに何ができるって言うんだよ!! チビの癖に!!」

シルフは何かを言いかけて、唇を震わせて、泣きそうな表情をして……何も言わず、走っていった。
言い過ぎなのはわかってる。
俺は空みたいに小さい子に優しくとか、そういうのできないから。
……ごめん。
近くの枝を手に取り、震える足で立ち上がった。

「俺を殺せよ……はやく……」

苦しい。苦しい。痛い痛い、痛い。
苦しさの裏で、何故だか、満足感に近いものを感じた。
ああ、これで死ねる。俺は……ようやく死ねる。これが喜ばずにいられるだろうか。
そう思うと、すごくポジティブになって、何でもできるような気さえした。
真っ直ぐ棒先を男に向ける。視界が揺らいだ。
男の姿が、『あの男』と重なる。

「さあ、殺せよ。
一緒に地獄に突き落としてやるよ…………父さん」

大きく振るった枝は彼に届く前に地面をとらえ、膝から崩れ落ちる。
おかしいな、死ぬってこんな簡単なことだっけ?
だったらなんで、なんで俺はあの時死ななかったんだっ……け。
いよいよ立てなくなり、かすんだ視界にカラスのような黒が舞い降りた。
悪魔? やっと俺を迎えに来たのかな……。
重たいまぶたをゆっくりと閉じると、頬を暖かいものがつたった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。