複雑・ファジー小説
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- スピリットワールド【合作】
- 日時: 2017/11/03 17:10
- 名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)
この作品は合作です!
こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします! 雅
どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
凜太郎
こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音
遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!
弓道子
〜目次〜
登場人物
空編 >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
>>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
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>>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
>>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編 >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
>>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
>>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
>>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
>>111>>113>>116>>118
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.74 )
- 日時: 2016/02/16 16:48
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
昨日までは、城に来るのにも緊張したものだが、今日は不思議と何も感じなかった。
なんでかは分からないけど、多分、昨日と今では僕の精神状況が違いすぎるからだろう。
「やぁ、よく来たね」
「あなたに呼ばれて来たんですけど・・・」
そうだったね、と言って笑う国王。僕は笑わない。
昨日までの僕なら、愛想笑いくらいはしたかもしれないけれど、なんていうか、越えてはいけない一線を越えてしまった僕には、この国王ですらただの登場人物にしか見えなくなってしまった。
この世界は僕中心の物語か?いや、この考えはくだらないな。
「それで、用事はなんですか?」
「連れないなぁ。今日は中将の君に話があったんだ」
なら早く言え。
口にしかけたがグッと堪える。流石にこんなこと言ったら殺される。
「実はね、最近、回収した死体が妙なんだ。体の一部が取り除かれてたり、皆、胸を抉られて死んでたり」
「もしかして、グレンさんの死体も?」
「革命軍に回収されたみたいだけど、可能性はあるね」
それを聞いた瞬間、自分の鼓動が耳にへばりつく。
なん、だ・・・この、感覚、は・・・。
「一体何なんだろうね。この現象」
僕は、返事をしない。
なん、だろう・・・血が、燃えるよう、に、熱い・・・。
「革命軍の中に・・・死体コレクターでも、いるんじゃないですかね・・・?」
「あはは。面白い考えだ。まぁ、昔少し有名になった「死神」とかいう少年の噂もある。迷信だと思うし、気にする必要はないだろうが、一応知っておいてくれ」
「分かり、ました・・・。じゃあ、もう行きますね・・・」
「あぁ。またな」
僕はフラフラと、城からでる。
グレンさんが、そんな少年に殺されるわけない。
頭を撃たれたからだ。万全の状態ならまだしも、あの状態で奇跡的に生きていたとしても、かなりの重症。勝てるわけがない。
じゃあ、グレンさんを、殺したのは、結局はグレンさんを撃った人間だという事になる。
人間、そう、人間だ。
燃えたぎる血の中で、僕の脳はそう決めつける。
グレンさんを撃ったのは伝斗だ。杜来 伝斗だッ!
殺さないと、アイツを、殺さないと。じゃないと、僕は生きている意味がない。
彼女は笑ってくれない。僕がアイツを殺さなくちゃ。
殺して、壊して、崩して、砕いて、上げて、落として、潰さないと。
僕に革命軍の友達なんかいらない。
友達なんて、どうせすぐ作れるじゃないか。
伝斗だけじゃない。革命軍は、皆、敵だッ!
家の扉を開ける。ラキはいなかった。
おそらく買い物だろう。そんなことに構ってはいられなかった。
僕は自分の部屋に戻り、クローゼットを開ける。そこには、軍服が掛かっていた。
これは、少し前に貰ったものだが、今まで着なかった。
理由は簡単、これを着たら、伝斗の敵になってしまうような気がしたから。
でも、今はもうどうでもいい。あいつは、敵だ。
僕は静かにそれを手に取る。
そして、軍服の上着を、羽織った。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.75 )
- 日時: 2016/02/18 02:09
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
あまりに早い展開で、何がなんだかわからなかった。
ただ、グレンさんが眼を開いたまま動かなくなって、たぶん、その女の子が殺したんだろう。
長い黒髪、青い瞳、白い肌。
間違いなく美少女なんだけど、纏うオーラは禍々しい。
彼女は少しグレンさんを物色してから、その顔に手を伸ばした。
「ッ……!」
悲鳴を上げたいぐらいだが、下手に騒ぎになって自分が殺されるのもごめんだ。
やっとのことで理性をつなぎとめる。
その間にも少女は慣れた手つきでグレンさんの目玉を丁寧に抉り抜いていった。
何をする気だ……?
「うん、すっごく綺麗な赤。
ちょうどこの目が欲しかったんだよね〜。
僕血のような赤大好き〜」
雑誌で欲しいものを見つけた女子高生のような言い方。
その目玉を置くと、少女は自分の頬に右手を当てた。
そして、左手で自身の眼球を取り出し始める。
もう、何もいえない。悲鳴とかそういうレベルじゃない。
何だろう。衝撃映像過ぎて感想を言葉で言い表せない。
彼女は自身の眼を投げ捨てると、先ほど取ったグレンさんの目を拾い上げ、埋め込んだ。
まるで、コンタクトレンズでもつけるかのように。
それを、もう片方の目も同様に行う。
「できたー! とってもいい感じ。
ね? そう思わない、人間君」
「……俺?」
「そう、俺」
彼女は俺を見てにっこり笑った。
その瞳が、赤い。
グレンと同じ色……いや、そのままグレンの目をつけたのだ。
美しいその顔が、さらに禍々しさを増す。
「可愛いでしょ? でも僕男なんだよねー」
「男? 嘘だろ」
「本当本当。僕、元男。この体は女だけどね」
……ニューハーフ、ってことだろうか。
違う感じだから黙っておこう。
それより疑問なことがいっぱいあるのに。
「な、何で眼球取れたんだ? 痛くないのか?」
「君はフランケンシュタインって聞いたことある?
死体を寄せ集めてつくった『死者蘇生の失敗作』みたいなもの……だっけ?
あはは、僕が忘れちゃった。
とりあえず、僕の体はすべて死体でできているってこと。
体のパーツによって違う死体だから当然痛くもないし、胸貫通したくらいじゃ死なないよ。
あ、ほら。僕にとって肉体は君たちで言う服みたいなものなんだよ。
眼球も同じ感じかな」
なるほど、言われてみると華奢な体にしては割りとたくましい腕をしているし、
その腕に対して指は短い。
アンバランスって言うか。
……あ。
「じゃあ、その体も顔も全部他人のものだった、ってこと」
「ぴんぽんぴんぽ〜ん。
かわいいでしょ? 僕の顔。僕が選んだだけあるよねぇ」
「選んだ、って。それって、死に際の子から取ったってことか?」
「違うよ」
その答えに、俺は一瞬だけ安心した。
彼女……いや、彼というべきか……は笑ったまま続けた。
「普通に殺したに決まってるじゃん。そのまま生きてるうちに顔に傷がついたら残念だし。
それに死体は死にたてのピチピチで新鮮なヤツがいいもん」
ガツンと頭を殴られたような感覚。
殺した? 自分の顔にしたいがために?
そんなの、だって……。
「信じられないみたいな顔してるよ?」
「当たり前だろ」
「当たり前? 面白いこと言うねぇ。
当たり前って言うのは、誰かが死んでしまうこと。死に方に常識なんてないじゃない。
自分が殺される恐怖に怯えて逃げかくれながら過ごすか、他人を殺して自分の人生を存分に楽しむかなら、
僕は断然後者だね」
楽しむために、殺す。幸せになるために、殺す……。
紙にインクが染み込むように、脳の奥の奥までその言葉は融けていった。
全身が凍り覆われる、あの感覚にのまれる。
そうだ。そうだろ。
世の中の幸せの量は決まっている。自分が幸せになりたいなら、幸せな人から奪い取らなきゃ。
ねえ、母さん。
「……お前は不死身か?」
「不死身? その言い方には語弊があるかな。僕はもう死んでるんだよ」
「とにかく、死んだような状態になることはないと捉えていいのかな」
「首を刎ねても脚がもげてもってこと? なら答えはイエスだね」
軍に縛り付けるようなことはしないほうがよさそうだ。
自由にさせたほうが、存分に動いてくれるかもしれない。
……こいつ、使える。
「……俺、もしかしたらお前に頼みたいことができるかもしれない」
「奇遇だね。僕も似たようなこと考えてた。
僕はライヒェ。君は……伝斗だっけ? 魔物の中でも君とリーダーは有名人だからね」
「ふーん。知らなかった」
ここに来てだいぶたった。そろそろ町を歩くのも苦労するかもしれない。
ライヒェは、限りなく人間に近い容姿をしている上に、体の入れ替えができなくもない。
なおかつ、不死身。
シルフも亡くなった今、偵察役にはもってこいの人材だ。
「さて、僕あんまり長居してると君以外の人に見つかったら厄介なんだよね。
僕が君を捜して会いにいくけど、いつがいい?」
「俺が一人で暇してるときなら声かけてオッケーってことで」
洞窟の外に出、ライヒェは木の上を飛ぶように帰っていった。
その背中には、白い翼がついている。
偵察に行くときアレは邪魔だな。取ってもらわなくちゃ。
……でも、その前にやるべきことはたくさんある。
—————
拳が宙を切る音。
ノームの鋭い突きが俺の頬をかすめる。
「おーい、サラマンダーも参加しろってー」
「俺までお前の相手したらさすがに疲れるぞ」
「いいってー。ノームも疲れてきてるしー」
対人戦をしながら、だいぶ周りが見えるようになったと思う。
油断大敵とはいうけれど、数が多いときは周りからの攻撃をよけるほうが大事だと思う。
いつかの空みたいに相手がフェイントしてきたときの逃げ道も確保したいし。
始めて人を殺してから、それほど日はたっていない。
できるだけの時間を確保してもらって、ケントやシュリー、ノームや他にもいろんな人に練習相手になってもらっている。
牛男は正直戦ったことのない相手で怖かった。
俺が戦うのは国王軍なのにあいつと戦った意味はあったのだろうか。うーむ。
何はともあれ、だいぶ実力はついた。
ライヒェは一度あって以来姿を見ていない。
まあ別に今すぐ必要ってわけでもないしね。
噂によると空は生きてるみたいだし。
それも考えるとやっぱり自分の身は自分で守らなきゃなって思う。
空も頑張ってるんだから。
ただし、もし俺の考えてる通りにことがうまく運んだとしたら……。
……死ね、晴太空。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.76 )
- 日時: 2016/02/18 16:40
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
鏡を見れば、知らない少年が立っていた。
別にこれはホラーではない。
鏡にうつっている時点で確定はしているが、もちろんこれは僕だ。
軍服というと、迷彩柄を想像するが、これは少し違って、グレーを基調とした全体的にシンプルな色合いだった。
黒が強めのグレーに赤いラインが入った上着に、白いシャツ、ネクタイ。
下は白が強い灰色のズボンに黒いブーツと、全体的にシンプルな感じだ。
しかし、この国の軍服というのは人に威厳を持たせる能力に長けているらしく、いつもより5割増しほどは威厳があるように見えた。
良い。非常に良いぞ、この服は。
「さて、行くか・・・」
刀を腰に提げ、頭には上着と同じデザインの帽子を被り、僕は家を出る。
僕個人の独断で戦争に行くのは不可能だ。
拠点も見つかっていないし、国王が判断しなければいけない。
「参ったなぁ・・・」
僕は空を仰ぐ。
あぁ、空が青い・・・。青い、空・・・。
−−−
とても晴れた空の下。
僕はただ、そこに立っていた。
『空君。新しい家族だよ』
そう言われて紹介されたのは、見知らぬおじさんとおばさん。
2人供優しい笑顔を浮かべながら僕の頭を撫でたりしてる。
『一緒に帰ろうね』
そう言って僕の手を引く。その手はとても、優しくて・・・僕は・・・。
−−−
・・・。
・・・・・・あぁ。
そうだった・・・・・・。
あの時からだ・・・・・・僕が、壊れ始めたのは・・・・・・。
優しさなんかとは、無縁だったから・・・・・・。
初めて触れた優しさが、嬉しくて、楽しくて・・・悲しくて、寂しくて・・・・・・。
それを、抱えきれなくて・・・僕は、隠したんだ。
笑顔を顔に貼りつけて、皆を誤魔化して。
「はは・・・馬鹿みたいだ・・・・・・」
帽子をギュッと握りしめる。
結局、僕は孤独だったんだ。どんなに友達を増やしても、どんなに親友ができても。
僕が心を開かない限り、僕は独りじゃないか。
皆、僕に笑ってくれた。あれは本心からの笑顔だった。
でも、僕が見せていた笑顔は偽りのもの。
「ひとりぼっち・・・かぁ〜」
今更じゃないか。幼少期に散々思い知らされただろう?
信じたら、人は裏切るんだ。
孤独でも良い。独りでも、一人じゃなければ。
それで、いいだろう?
「中将ッ!」
先ほど僕の家に来た兵士が、かしこまった様子で僕に挨拶をする。
僕は適当にごくろうさま、とか言いつつ向き直る。
「どうしたの?何か用?」
「はいッ。さきほど帰ってきた諜報部隊が、新しく拠点を見つけたらしく、小隊を是非中将殿に率いてほしいとのこと」
「ふぅ・・・了解。それじゃあ隊の人連れてきて。行くなら速い方がいいだろうし」
「分かりましたッ!」
走って行く兵士の後ろ姿を見送りながら、僕は静かにほくそ笑む。
あぁ、伝斗・・・僕が、壊してあげるよ・・・。
だって、僕を壊したのは・・・・・・君なんだから
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.77 )
- 日時: 2016/02/20 00:09
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
「また国王軍が攻めてきたらしい」
シュリーの言葉に、ケントがため息をついた。
たった今、俺とシュリーとケント、加えてノームも一緒に話をしていた。
もちろん、戦う練習の合間に。
サラマンダーは悪い噂がたっているのを知ってか、休憩中はこちらに来ない。
一緒に話してみてわかることってのもあると思うんだけど。
「よっしゃ。俺の腕の見せ所だな! 北の拠点に向かってきてるらしいぜ」
「シュリー、お前はもっと落ち着いて行動しろ」
「リーダー、行きましょう。あと15分ほどで国王軍が拠点に着くと思います」
「おう、伝斗、行くぞ」
次々と腰を上げ、拠点に向かっていく。
「……ちょっと待って。シュリー、拠点に行こうとしてる人たちをみんな今から言うところに呼んでくれないかな」
「は? 拠点は?」
「みんなで守ってもどうせ潰されるんでしょ。なら全然違うところを攻めればいいじゃん」
全員が黙り込んだ。
ケントは怪訝そうな顔でこちらを見ているし、
シュリーにいたっては俺の言ったことがまったく理解できていないらしい。
「シュリーはみんなに呼びかけてほしい。
『派手に城に攻め込め!』ってね」
ケントとノームはどう攻め込んだら兵士の気が逸らせるか考えて誘導して」
「俺は?」
「偉大なるリーダーは……ちょっと留守番」
「ふざけんなよ、お前」
どうやらサラマンダーだけでなく他の人も不満らしい。
いや、だって説明してる暇はないじゃん。いくら魔物のほうがはるかに足が速いとしても。
「サラマンダーは重要な役割があるんだって」
「何だ」
「まあそれはのちほど。あ、俺は城に行かないから。
シュリー、呼びかけよろしく」
「それは必要ないよ」
上から声がした。
木の上からすたっと降りてきたのは、黒髪の少女だった。
……目は、赤くなかったけど。
「誰だよ、この女。伝斗の知り合いか」
「ライヒェ。俺の……味方」
「僕が呼びかけてもうみんな城に向かってるよ。僕ってば有能だねぇ」
「そういうことだから。みんなガンバ」
巨人3人は腑に落ちない顔をしながらも、すごい速さで去っていった。
さすが、巨人。足速え。
サラマンダーにはやる事を耳打ちした。
「……それはこの前お前が思いついたことに関係があるのか」
「何だっていいだろ。絶対にへますんなよ」
「あと、あの女に聞きたいことが……」
「はいはい、用事済んでからにして」
最後にサラマンダーを見送り……あっと、もう一人いたんだっけ。
「ライヒェ、ずいぶんと久しぶりだな」
「まあね、君とかについていろいろ調べたかったし。
空、だっけ? 知り合いらしいなんて聞いたら当然調べたくなるよ」
「……空に着いてどれくらい知っているんだ」
「知りたい?」
ライヒェの瞳は緑色になっていた。
また誰か殺したんだろうか。
ま、俺には関係ないけどね。
ライヒェはとくにもったいぶることなく話し始めた。
「まず、グレンってヤツのあととって中将になったみたいだよ。
責任ある立場に鳴ったけら下手に独断で動けないよね。残念だね、君に会いにくることはもうないんじゃないの?
あと、グレンの家に住んでるみたいだよ。
グレンの娘って確かどこかの黒髪野郎と因縁のあるお嬢さんだよね」
「家の場所とか知ってたりする?」
「当然。僕は有能だからねぇ」
空は出世。
しかもラキちゃんと住んでいて、彼女はグレンの娘。
さらにサラマンダーと因縁がある相手。
俄然やる気が湧いてきた。
「サンキュー。
もともと情報収集お願いする気でいたけれど、今の報告聞いて安心した」
「じゃあ、僕のお願いも聞いてくれるわけだね?」
お願い? そういえばそんなことも言ってたっけ。
俺ができることなんて限られてくるんだけどなぁ。
どうしよう、聞くだけ聞いてみようかな。
「あははは、そんなにビビらなくていいよ。すごく簡単なことだから」
ライヒェは唇を舐めた。
青白い肌によく映える、紅色の唇。
「君の脳を頂戴?」
「……え?」
ライヒェの声はよく通る。
ただ、いくら聞き取りやすくても今のは聞きかえさらざるを得ない。
何だって?
「脳を頂戴、って言ったの。
君って変なこと考えつくし、行動は理解に苦しい。
そんな君の頭の中身に興味があるって言ってんの」
てっきり体の一部を求められると思っていた——ルックスには割りと自信あるし——だから、めちゃくちゃ驚いた。
驚いたけど……。
「わかった。全部俺の思い通りになったら、脳みそくらいあげるよ。
そのかわり、全部うまく言ったらだからな?」
「あはは、じゃあ僕頑張っちゃうー……なんて言うと思ったの?」
「じゃあ道中で気に入ったものがあったら言ってよ。
その協力も込みでって言うなら、どう?」
「……そのときによるかな。まあ納得いかなかったら君を殺せばいいんだよね」
「まあ、そういうことだな」
内心、うまくいく確率はかなり低いと思ってる。
ライヒェのお気に入りがいるかどうか、さらにちゃんと協力できるかどうか、そこまで考えていたらきりがない。
とりあえず、行動に移すのが大前提。
「いいよ、ライヒェは自由に動いてて」
「軍に所属しないって言うのも条件の一つ?」
「え? ああ、もちろん」
「そっか。じゃあ僕あんまり欲張れないね。思ったより自由に動ける条件にされちゃったし」
ライヒェは、身軽に木の上へ、そして木から木へと移っていく。
やっぱりあの白い翼は眼を引く。
でも人間たちと見分けるにはちょうどいいかもしれない。
「もしもライヒェが欲張ったらどうなる?」
「今すぐ君を殺すね」
「あー、それはアウトだ」
「でしょ?」
そのままライヒェは森の中へ姿を消した。
方角的にはもう少し行くと町のほうだ。
おそらく、城の様子とか見に行ってくれるんだろう。
「さて、俺も早く行こうかな」
しまった、ライヒェに大事なこと聞きそこねた。
まあ、いいか。
いくらうろ覚えでも、一度用事があっていったことのある場所だしね。
あの時は町の人にいろいろ尋ねながら行ったんだよな。
俺は少し足を速める。
—————
「何考えてるんでしょうね」
ケントとか言う男が呆れたように言う。
もうすぐそこまで魔物たちは来ている。
俺が合図を出したら、一斉に城に攻め込む。そういわれていた。
あの少年、伝斗に。
「そろそろですね、リーダー。準備をしてください」
ノームが小さな声で言う。
緊張してきた。唾を飲む。
こんな攻め込み方、俺にとって初めてだった。
城を見あげてみる。俺が行くべきなのは……あの場所、なんだよな。
「ノーム、俺と動いてくれ。
ケントに退散の合図は任せる」
「え? お前がリーダーだろ。俺に任せていいのかよ」
「俺とノームを見失ってから、適当な時間に引いてくれればいい。
お前は頭が切れる。だから大丈夫だと伝斗が言っていた」
以前に俺以外が指揮をとるならって話をしたとき、伝斗が真っ先に名前を挙げたヤツだ。
俺は不安だっていったんだけど、「お前のカンは外れるんだよ!」って言われた。
「行くぞ、準備しろ」
こんな合図でいいのか不安だが……俺は銃を構え真っ直ぐ宙に向ける。
伝斗、お前の言うこと全部信じてるんだからな。
本当にお前の世界はこんなふうに始まりの合図をしてたんだよな?
しかも音がすれば玉が入ってなくてもいいって……。
引き金を思い切り引いた。
軽い、弾けるような音がし、一斉に魔物たちが城へ駆け出した。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.78 )
- 日時: 2016/02/20 20:30
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
さて、ここで大きな問題が起こった。
なんと、ここの拠点には主力がいないのだ。
革命軍の兵士の一人を脅して話を聞いたところによると、城に行ったという。
「どうしますか?今から城に戻りますか?」
「あぁ。もちろんだよ。ここも潰したしね。多分城が潰されることはないと思う。あの国には僕なんかより強い人がたくさんいるし。とにかく行こう」
「はいッ!」
兵士は先に帰して、僕は辺りを見渡した。
これが、僕が殺した人達か。
「伝斗もいたら、もっといいのに・・・なんてね」
そんなことを考えながら、僕も国に戻ろうと踵を返した時だった。
「わぁ、白い髪なんて初めて見た!珍しい〜」
ゾワッと、寒気がした。
僕は咄嗟に上を見た。
そこには、枝の上で笑顔を浮かべ、こちらを見下ろしている黒髪の幼女がいた。
ここで興奮でもすれば立派なロリコンになれるだろう。
「いやぁ、昨日に続いて今日も、僕はラッキーだな〜」
そんなことを言いながら枝から下りて、僕と対面する。
ちゃんと彼女の姿を見た瞬間、悪寒がした。
なんだ、コイツは。それが僕が抱いた感想だった。
綺麗な黒髪に整った顔立ち。
でも、コイツ、目がヤバい。
少女の顔に大人の男性の目玉を貼りつけてしまったような、異常性。
さらによくよくみれば、体も異常だ。
男のようにたくましい腕に小人のように細く小さな指。
女性のような細くて長い美脚に、巨人のような大きな足。
それに白い羽まで付けている。
なんだコイツはなんだコイツはなんだコイツはッ!
異常。異端。狂気。
そんな言葉が僕の脳内をぐるぐる廻る。
まるで違うピースを無理矢理はめ込んで、これで完成ですと言われたような違和感。
コイツを見てこの異常性に気付けない輩は、天性の阿呆としか言いようがないほどのレベルだ。
「ねぇねぇ、話聞いてるの〜?」
僕の目の前で手を振り始めたところで、ようやく我に返る。
多分、コイツは殺せない。確実に、コイツは強い。
とにかく油断しないように、適度に距離を取って逃げなければ。
「あぁ・・・あはは、ごめんごめん。えっと、君は誰かな?」
とりあえず、フレンドリーに接してみた。
コイツの年齢が見た目相応だとしたら、多分かなり幼い、ハズだ。
「僕?僕はライヒェ。君は?」
ライヒェ・・・か。ひとまず覚えておこう。
しかし、名前か。ここで下手に本名を教えていいものなのだろうか?
とりあえず、偽名を使ってみよう。とりあえず僕の中で危害があって一番平気なのは・・・。
「伝斗。杜来伝斗だよ」
「残念ながらその名前はすでに知ってるよ。彼、あれでも革命軍の中では有名人だからね」
「あんなに弱くて馬鹿な奴でも有名になんてなれるものなのか」
おっと、思わず本音が・・・。
「あははッ!毒舌だね〜。君達友達なんでしょ?」
「まぁ、一応はね・・・」
「そっかそっか〜。それで、君の名前は?」
「空、だよ」
「空君、か〜。念のため聞いておいたけど、やっぱり君が伝斗の・・・」
そこまで言ってクスッと笑う。
正直、これ以上はあまり関わりたくないんだけどな〜。
彼女は僕の目を見て、少し陰鬱な笑みを浮かべた。
「ねぇ・・・僕のモノになって?」
咄嗟に、僕はブリッジの要領で思い切り仰け反った。
数瞬後、背後にあった木が抉れる。
それを目視すると同時に視線を前に戻す。
見ると、彼女はどこに隠しもっていたのか、大きな鎌を振り上げていた。
僕は体を捩って横に飛ぶ。
地面に鎌が刺さる。
「うおおッ!」
今まで出したこと無いような大声と共に、鎌を蹴って近くの草むらに飛ばす。
そしてライヒェを押し倒し、刀を抜き、喉元に突きつける。
「・・・・・・何が目的だ」
「君の髪が欲しい」
「残念ながら、ハゲになるつもりはないから」
「いいよ。殺して奪うから」
「クソがッ・・・」
僕は喉を半分掻っ切ってやった。
血が吹き出すかと、嗚咽を零すものだと、思っていた。
しかし、幼女はただ僕の目を見たまま、笑顔すら崩さなかった。
「へぇ、君、中々面白いじゃん」
そこまで言うと、幼女とは思えない力で僕を突き飛ばした。
僕は尻餅をつく。
「殺すには惜しいね、君は。今日は一旦引くよ。次会う時は、もっと楽しませてね♪」
そう言った時、まるで合わせたかのように強い風が吹き砂埃が巻き上がる。
僕は咄嗟に腕で目を覆った。
砂埃が完全に消えた時、そこには幼女の姿はなかった。
「次会った時、か」
僕は立ち上がり、服に付いた埃を落とした。
とにかく、城に戻ろう。
あの隊の人達はもう城についた頃だろう。
僕は刀を鞘に戻し、走って城に向かった。
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