複雑・ファジー小説

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スピリットワールド【合作】
日時: 2017/11/03 17:10
名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)

この作品は合作です!

こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします!                               雅

どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
                           凜太郎

こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音

遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!

弓道子


〜目次〜

登場人物

空編  >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
    >>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
    >>060>>062>>064>>066>>068>>070>>072>>074>>076>>078>>080>>082
    >>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
    >>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編  >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
    >>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
    >>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
    >>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
    >>111>>113>>116>>118

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.84 )
日時: 2016/03/11 17:04
名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)

 一生懸命素振りをしている兵士を見ていると、剣道部主将時代を思い出す。
 まぁ、人を引っ張るのは大変だし、部長をすると休憩時間が潰れることが増えてきたので、一ヶ月程度でやめたんだけどさ。
 つまり、何が言いたいかというと、僕の命令で素振りをしている大人達を見るという行為はとても愉快だということだ。
 ビバ、中将。

「ゼェ・・・ハァ・・・・・・疲れたぁ・・・・・・」
「もう今日の訓練は終わりですよ。ゆっくり休んでください」

 僕が言うと、皆フラフラと兵士寮に戻っていく。
 とりあえず、剣道部でやっていた練習を30倍ハードにしてやらせてみたけど、やっぱり疲れるよね。
 次からは20倍程度で済ませてあげよう。
 僕はそんなことを考えながら城を出た。
 今日はこれから暇だし、たまにはこの城下町の外を散歩でもしてみようか。
 どうせ、死なないし。自惚れとか言われそうだけど、事実なんだから別にいいじゃん?
 なんて、考えていた時だった。

「あッれ?もしかして、空君?」

 ゾクッと寒気がした。
 今、一体誰が、僕に声をかけたんだ?まさか、彼じゃないよな・・・・・・?
 だって、ここは異世界だよ?日本にいるはずの彼がいるわけ・・・・・・。
 僕は後ろを振り返る。そこには、茶髪で長身の少年が立っていた。

「髪白くして軍服着たって、俺に分からないわけないじゃん。なぁ?ゴミクズ空君」

 ゴミクズ空君。僕をそう呼ぶのは、『彼』しかいない。
 意地悪で腹黒で下衆で陰湿で卑劣で・・・・・・———完璧で。
 そんな、最悪で最高の少年。昔の僕を知る、数少ない人間。
 昔も整っていた顔が、歳をとることでさらに磨きがかかっていた。
 声変わりしてもなお、その声はよく透き通り、まるで自身の心臓を撫でられるかのような嫌な感触がする。

「りくと・・・くん・・・・・・?」
「あは♪覚えててくれたんだ〜。すっごく・・・・・・嬉しいよ」

 自分の呼吸が過呼吸になっていることに気付く。
 彼の声を聴いた瞬間、自信満々で自意識過剰な『中将ソラ』という鎧が剥がれ落ちていく。
 いや、それだけじゃない。
 一緒に、完璧でクールで真面目で優しい『晴太空』というメッキも剥がれていく。
 まるで殻が割れるかのように。
 まるで皮が剥けるように。
 そして、残ったのは・・・弱くて貧弱で口下手で鈍間で無邪気な、『空』だけだった。

「やめて・・・来ないで・・・・・・」

 僕は後ずさる。来るな、来るな来るな来るな来るな来るなァッ!
 なんで、なんでお前がここにいるんだよッ!

「そんなに怯えなくてもいいじゃん?楽しもうよ。7年ぶりの再会をさぁ」

 そう言って僕の肩に手を置く。
 触るなよッ!その手で僕に触るなよぉッ!
 僕は咄嗟にその手を振りほどく。

「ははッ・・・冗談だってば。相変わらず冗談が通じないな〜」

 ニコニコと、優しい笑顔を浮かべながら僕に近づいてくる。
 呼吸が荒くなる、涙が溢れだす。
 嫌だ・・・嫌だ嫌だ嫌だぁ・・・・・・。

「なんだ、泣いちゃうんだ。泣き虫だなぁ。涙腺は昔より弱くなったんじゃないのかい?ふはッ」
『ホラ、さっさと泣いてみろって』

 フラッシュバックする、昔の彼の顔。
 僕は恐怖に足が竦み、動けなくなる。

「やめてぇ・・・来ないでぇ・・・・・・」
「なんだ。もうgive up?俺的にはもう少し遊んでやっても良かったんだけどな〜」

 彼はそう言いながら僕に背を向ける。
 背中には、長刀が掛けられていた。

「聞いたよ。君、国王軍入ったんだって?そんなに弱いのに。国王軍とやらは人員に困ってるようだね〜。俺も軍入ろうと思ってたんだけどさ、空君がいるなら国王軍やめて革命軍?に入るよ。だから、また会った時はお互い敵同士ってことで」

 よろしくね、と手を振って去っていく陸人君。
 なんで、なんでアイツがいるんだよ・・・・・・よりによって、アイツがッ!
 彼の姿が見えなくなってから、僕はその場に崩れ落ちる。

「もう、嫌だよ・・・・・・」

 町の中にも関わらず、僕は膝を抱えて泣いた。
 通行人が集まってくるけど、知ったことじゃない。
 なんだよもう、さっきから迷子だのなんだのってさぁ。
 これでも立派な中学3年生だしッ!なんて、この体勢で言っても説得力ないだろうけど。

「ソラ君、どうしたの?」

 頭上から聴こえた声に、思わず顔を上げる。
 そこには、ラキがいた。なんで、君が・・・・・・?

「ラキ・・・・・・?」
「ソラ君、行こう」

 彼女は僕の手を取り、走り出す。
 何が起こっているのか理解するよりも前に家に連れて行かれた。
 息切れと嗚咽とが混ざって、また過呼吸になりそうになる。

「ラキ、なんで・・・」
「ここなら、思う存分泣けるでしょ?」

 ラキは、おそらくどこかで買い物でもしていたのであろう。紙袋を机に置きながら微笑む。
 あぁ、相変わらず、彼女は優しい。それに比べて、僕は・・・・・・。

 僕は気付けば、子供のように泣きじゃくっていた。
 声を出して、両手で涙が溢れないようにしながらも、結局次から次へと涙が溢れだす。
 彼女は、泣いている僕の頭を撫でて、「大丈夫、大丈夫だよ」と優しく言う。
 こんな僕じゃ彼女は守れないな、と心のどこかで思った。
 僕は静かに、今までの自分を全て・・・・・・———殺した。

−−−

 どれくらい泣いていただろうか。
 まだ目が腫れたままの僕を、彼女は頭を撫でて慰める。
 さすがに恥ずかしかったので、ひとまずそれを拒絶する。

「それで、なんで泣いてたの?」
「・・・・・・転んだ」
「嘘はつかなくてもいいから」
「・・・・・・昔の知り合いに出会った」

 陸人君の顔を思い出すだけで、また涙が溢れそうになる。
 ダメだよ、さすがに・・・。僕は深呼吸をしてなんとか涙を止めた。

「昔の知り合い?たったそれだけで?」

 ラキは不思議そうに首を傾げる。
 確かに、普通に考えればそれはむしろ良い事のように感じるだろう。
 でも、僕は・・・・・・。

「・・・・・・あのさ」
「うん?」
「僕の、昔の話をしても良い?」

 もう、隠すのは止めだ。
 自惚れでもなければ完璧でもない。ただの空だった時の話を、そろそろするべきだろう。

「もしかして、記憶戻ったの?」
「あぁ。黙ってたのは、謝る」
「じゃあ、なんで家に帰らないの?」

 たしかに、元々は記憶が戻るまでの間だけいる約束だったのだから、そう思うのも無理もないだろう。
 まずは、そこから話さなければいけないな。

「ラキ、今から話すことは嘘でもなければ、冗談でもない」
「・・・・・・うん」

 さぁ、話そうか。
 僕が完璧を目指すきっかけを。
 全てに裏切られた僕の、最悪で最高な物語を。

「・・・・・・ラキ、僕はね・・・この世界の人間じゃないんだ」

 ・・・・・・なんてね。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.85 )
日時: 2016/03/17 15:17
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)


ライヒェと分かれ、サラマンダーの部屋に入る。

「ただいま〜。どうだった?」
「うん、まあ……」

サラマンダーはそっけなく返し、俺にそれを差し出した。
アニメみたいな、ずっしりとした鍵がジャラジャラついている。
「城のざっくりとした構造を把握して、できればなんか盗んでこれば?」
……とか言う俺のふざけた指示にちゃんと従ったってことか。
偉い偉い。

「俺はリーダーだぞ、それくらい楽勝だ」

ふん、と目を逸らすサラマンダー。
……でも、目がすごい自慢げだ。
「褒めて、褒めて!」オーラがハンパない。小学生か。
さすがだな、っていってやったらすごく満足そうな顔してた。
……いまどきそんなヤツ小学生でもいないぞ。

「で、なんか紙に地図みたいなのかいてよ」
「……地図?」
「うん、城の。中入ったなら大体の構造とかわかるだろ」
「……」

サラマンダーはわかりやすくしゅんとした。
叱られた子供……というか、ウサギっぽい?
うん、覚えてないのか。サラマンダーらしい。

「……じゃあ、また思い出したら描いて」

絶対にありえないけど!
ふと窓の外を見ると、バッチリ木の上に潜んでいるライヒェと目があった。
……アイツ。
薙刀を片手に、窓を開ける。

「……おい、ライヒェ。何やってんだよ。そんなに気になるなら中は入れよ」
「ばれちゃったー……」

ばれちゃったと言う割りにいつものニヤニヤは崩れない。

「でも僕アイツ嫌いなんだよねー、リーダーのヤツ」
「だからって家の中覗くな。刺し落としてやる」
「わっ、ごめんてー。お邪魔しまーす」

お邪魔します程度の常識があるのに覗きはするのかよ。
ライヒェにそれを言うと、ペロッと舌を出されて誤魔化された。
……まあ、仕方ないか。コイツそういうヤツだし。

「伝斗、何してんだよ」
「んー、客人。ライヒェが覗きしてた」

ライヒェ、ときいただけでわかりやすくサラマンダーの敵意がむき出しになった。
ライヒェみたいにわかりにくいのもどうかと思うけど、サラマンダーくらいわかりやすいのも考え物だな。

「おい、ライヒェ。家の中まで見るのはやめろ」
「何で? いちゃラブする他所のカップルとか興味ない?」
「ない。やめろ」
「しかたないなぁ」

ライヒェは困ったりする素振りをまったく見せない。
なんかあったら爪でも剥がしてやるか。どうせつけかえれるんだし、あの手。
それでも直らなかったら……どこかで痛い目にでもあうんじゃない?
突然、サラマンダーがライヒェの胸倉に掴みかかった。

「……何?」
「お前……ふざけんなよ……っ!」
「えーと、大胆な挨拶だね……?」

……え? この二人の間に何があったかって? 知らねーよ。
なんかわからないけど、仲が悪いのかな。
首絞められてるのにライヒェのほうが余裕だ。
まあ、そうだろうな。死なないから。
しかしサラマンダーは何を怒ってるんだ?

「……伝斗は気づかないのか?」
「気づいたとしても初対面で突っかかるヤツはいないだろうなぁ。
 サラマンダーってば大胆」
「茶化すな」

サラマンダーはライヒェを床に投げ捨て、背にある白い翼を乱暴に掴んだ。
そこで俺はようやく思い出した。
あの羽……あれの持ち主を俺たちはよく知っていた。

「シルフの……なんでシルフの羽をお前が持ってるんだよ!」
「何でって、僕が殺したから」

……まあ、ライヒェのことだからそうだろうと思ったけど。

「だってあの羽さ、白くてぴょこぴょこして可愛いじゃん?
 ずっと欲しかったんだけど、なかなか殺るチャンスがなくてさぁ。
 一人でいるからラッキーって……っ」

サラマンダーの蹴りが鳩尾にヒットする。
痛そう。
ちなみにライヒェはと言うと
「羽が痛むから優しく扱ってね。君の愛したシルフちゃんの羽だから」
と言う余裕っぷり。

「殺してやる!」
「殺せないよ?」
「首を切る」
「でも死なない」

サラマンダーの暴力の手が止まらない。
無駄だって言ってるのにね。
サラマンダーの頬を銃弾でかすめる。

「……何の真似だ、伝斗」
「いやいや、俺ライヒェと手組んでるし。
 味方が虐められるのは面白くないなぁと」
「ふざけるな、何が味方だ……ッ」

俺の拳がサラマンダーの顔面を捕らえる。
……衝動的に殴っちゃう癖、やっぱり直ってない。
俺の比較的力のないパンチでは流石に吹っ飛ぶようなことはなかったが、
サラマンダーは顔を抑えうずくまった。
指の隙間から、血が溢れる。

「……おい? また吐血か?」
「違う」
「無理に嘘ついて強がらなくても……」
「違う。鼻血だ……」

鼻血……。
俺は思わず吹きだした。
ライヒェにいたっては大笑いしている。

「何がおかしいんだよ!」
「いやだってこの流れで鼻血出すとは思わないじゃん。マジウケる」

それにしても手のひらから溢れた血が床に垂れ、大きなシミを作っている。
これが鼻血って量? 多くない?
それに答えたのはライヒェだ。

「平気だよ、だって君ドラゴンの子供なんでしょ。
 だったら知ってるよね。『ドラゴンに血液はない』って」
「……そうなのか?」

サラマンダーは何も言わない。(と言うかたぶん鼻押さえるのに必死で何も言えない。)
ライヒェは勝手に続ける。

「でももう片親が人間だから血が流れている。だからドラゴンより人間に近いのは当然。
 ついでに言っとくと巨人の血の色ってぶどう酒みたいな色してんだよ。
 人魚の血は銀色とか、あとシルフちゃんは綺麗な朱色だったりね。
 乾燥すると割りと緋色に近い色になるんだよ、って気づいてた?
 と言うかそもそも魔物って言うのは人間の魔法の失敗作みたいなものなのにさぁ、
 それに呑まれそうになったから迫害するなんて、やっぱり人間は愚かだよねぇ」

緑色の目がらんらんと輝いている。
けらけらと笑うその様は……すごく不気味。

「ねえ、僕ちょっと町のほう覗いてくる」
「人の家は覗くなよ」
「…………はーい」

何、今の間。
ライヒェは軽い身のこなしで木から木へと移っていく。
猿みたい。

「サラマンダー、血、どうなった?」
「うるさい、止まった」
「……じゃあ何でまだ鼻押さえてんの?」
「うるさい、止まったったら止まった」

仕方ない、あとで鼻栓作ってやるか。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.86 )
日時: 2016/03/17 15:22
名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)

 舞台はまず、15年前の駅のコインロッカーから始まる・・・——。

−−−

「おぎゃーッ!おぎゃーッ!」

 泣きわめく赤ん坊を抱いている女。見た目からして、大体高校3年生くらい、だろうか。
 横にいるのは同い年くらいの少年。チャラそうな茶髪にピアスを付けている。
 どちらも、一般的な身長よりも長身である。

「泣くんじゃないよ。全く、これだから赤ん坊は困る」
「さっさと入れちまおうぜ。コイツの泣き声でばれちまったら、俺達一発で殺人者だ」
「そうね。ホラ、黙りなさい」

 女は赤ん坊の顔を殴る。
 痛みでさらに泣く赤ん坊を、また殴る。
 悪循環だということに気付けないようだ。

「おいおい、殴るのもいいけど早くしろって。人が来たらどうすんだよ」
「分かったわよ・・・バイバイ赤ちゃん。二度とアンタの顔なんか見たくない」

 女はそう言って赤ん坊をロッカーに入れる。
 赤ん坊は、殴られた悲しみでさらに泣く。女はその扉に鍵をした。

「あーこれでせいせいしたッ!赤ん坊なんているだけ無駄だもんね〜」
「ホントだよな。産みたくないけど、下ろすのには金もいるし、流産させるほどの衝撃をお前に与えるなんて俺にはできねぇ」
「何それ嬉しい〜。また今日もヤろうよ!ね?」
「全く・・・しょうがねぇな」

 そして二人はキスをする。
 ロッカーの中からは、微かに赤ん坊の泣き声が聴こえてきた。

−−−それから、7年後。

「はぁ・・・」

 僕は何度目かになる溜め息を吐き、空を見上げる。
 外で遊ぶ時間とか言う謎の制度のせいで、僕は今ドーナツの形をした雲を目で追うことに時間を費やしている。
 友達もいないし、作る気もない僕にとって、この時間は退屈以外の何者でもない。
 室内での活動ならば、読書できるから良い。
 最近読んでいる『人間失格』という本が、今良い所なのだ。
 子供らしくないと言われそうだが、この『孤児院』には子供らしい子供なんか存在しない。
 ここにいる子供は皆、親に捨てられた子供だ。
 皆、親に裏切られたから、誰も友達のことなんて信用していない。
 僕の視線の先でボールを追いかけている少年達だってそうだ。
 笑顔を貼りつけているだけ、脳内では打算をして、ここで上手くやっていくために友人関係を築いている。
 むしろ、そんな演技力がないため、こうして庭の隅でぼっち生活を謳歌しているだけの僕の方が子供らしいと思わないか?
 そんなことを考えながらまた溜め息を吐き、空を見上げた。
 広くて大きな空が、僕を見下ろす。まるで、心も背丈も小さい僕を嘲笑うように。

 あぁ、これだから・・・・・・空は嫌いだ。
 しかも、この空が僕の名前でもあるのだから腹立たしい。
 聞いた話では、僕の名前はその時中学生だったここの生徒?が付けたらしい。
 すごく晴れた空の日に来たから空って、安直すぎるだろ・・・・・・。
 その時、足元にボールが転がって来ていた。

「悪い悪い」

 声がしたので顔を上げると、陸人君が笑顔を浮かべながら走って来ていた。
 彼は、多分この孤児院の中で一番上手く友人関係が築けているであろう少年だ。
 優しく、明るく、いつも笑顔で、本性なんて一切見せない。
 僕はボールを拾って彼に渡す。彼はそれを受け取ると、首を傾げた。

「ねぇ、君は皆と一緒に遊ばないの?」

 ・・・・・・コイツは馬鹿か?
 僕はコクンと頷く。遊べないし、遊ぶ気もないよ。

「なんで?一緒に遊ぼうよ!」

 そう言うと僕の腕を引っ張って他の男子達の所に連れていかれる。
 やめろー、腕がもげるー。

「おーい、空君も入れてやってよ」
「ん?いいよ〜」

 皆が笑顔で僕を迎えてくれる。
 これは笑うべき?それとも元気よく挨拶をするべき?
 混乱する僕をよそに、彼等はチーム分けを変え始めてやがる。
 おい、人の意見の尊重する大切さをお母さんに学ばなかったのか君達は。
 捨てられる前に多少の教育くらいは受けたんじゃないのか?
 母親の顔すら覚えてない僕ですら知っている常識だぞ?

「空君は俺達の仲間だよッ!よろしくッ!」

 陸人君は、そう言って手を差し出してくる。
 まぁ、たまにはこういうのもいいかと、僕もその手を握り返す。
 握り返して、しまった。

−−−

 それから男子達、特に陸人君は僕と仲良くしてくれた。
 いつも遊びに誘ってくれたし、一人でいればちょっとした雑談にも誘ってくれた。
 親に捨てられて暗かった僕の人生に、光をくれた。
 彼のおかげで、少しは明るい性格になった気がする。
 でも、やはり人間は・・・信じたら、裏切る生物だったのだ。
 それは、いつものように図書館から本を借りて帰る途中だった。

「ふぅ、今回のは少し重いな・・・・・・」

 僕が両手で抱えているのは、『プラチナデータ』とかいう小説だった。
 かなり分厚くて、両手じゃないと持てないんだよね。ドアを開けるのにも、一回置かないといけない。
 僕は一回本を置いて引き戸を開け・・・———

「なぁ、そろそろ空と仲良くするのやめようぜ」

 ———え?
 僕は引き戸を微かに開けたまま、固まってしまう。
 今、なんて言った?

「だからさぁ、仲良くしてないと先生達がうるさいんだって」
「別にいいんじゃね?上辺だけ仲良くしてればさ」
「やっぱ陸人君冴えてるね〜。そうだよ、先生の前でだけ仲良くしとけばいいんだよ」
「じゃあいっそのことボコろうぜ?陸人君とか良い子なんだからさ、言いつけられてもばれやしないさ」
「それもそうだな。アイツ地味だし運動音痴だし、なんかイラつくし。ま、アイツが気付くまでは内緒な」
「おーう」

 僕は固まってしまう。
 彼等ハ、僕ノ事ヲ騙シテイタノカ?
 じゃあ、あの笑顔も、あの優しい言葉も、全て偽物?あんなに優しくしてくれたじゃないか。あんなに楽しく、あんなに・・・・・・。
 ・・・・・・あぁ、そうだった。ここの子供は皆、計算して明るくしているんだった。
 分かっていた事じゃないか。だから、関わらなかったんだろ?
 裏切られないために、人を信用したくならないように。
 僕の親は、僕を捨てた。生まれてすぐの僕を、コインロッカーに入れた。
 産みたくなかったけど、産むしか選択肢がなかったから仕方がなく産んだ。
 前に、僕に関する資料を見た事がある。そこに書いてあっただろう?
僕の親がどんなことを言いながら僕を捨てていったのかとか。
「赤ん坊なんているだけ無駄」「産みたくないけど」って言っていたのを、監視カメラの映像のやつをコッソリ見て知っただろう?
 一人で流したあの涙を、もう忘れたのか?

「あッれ、空君。こんなところで何やってんの?」

 顔を上げると、陸人君がいつもの優しい笑顔を浮かべていた。
 僕は、その笑顔が気持ち悪く見えた。

「陸人、君は・・・・・・」

 僕の口は、言葉を勝手に紡ぎ始める。

「陸人君、はさ・・・・・・僕のことを騙していたの?」

 初めて、彼の本性を見た気がした。
 一瞬、まるで物を見るかのような、蔑むような目に、変わったのだ。
 なんで・・・なんでそんな顔するんだよ。
 彼はすぐに顔に笑顔を貼りつけた。まるで、仮面を被ったかのように。

「あーあ、ばれてるし。おーい、もうばれてるぞ〜」
「マジかよ〜。意外と鋭いな〜」

 部屋の中から、何人もの男子が出てくる。
 僕は無意識に後ずさった。

「ま、そういうことだからぁ〜・・・生きてることへの罰〜ッ!」

 一人が僕の腹を殴る。
 僕は涎を流しながら崩れそうになるが、もう1人に髪を掴まれる。

「お前なんか、さっさと死ねばいいのに」

 顔面を殴られる。鈍い痛みが走る。
 その時、陸人君が目の前に現れる。

「ごめんなさい。許して」
「許す?何を?」
「それは、分からないけど、その・・・・・・」
「ハァ、そうやってウジウジしてるのが気持ち悪いんだよッ!」

 横にいた男子がそう言って僕の顔を拳で殴る。
 よろめいた僕の髪を、陸人君が掴む。

「謝って許されると思ってるのか!全部お前が悪いんじゃないか!」

 そう言って横にいた別の男子が僕の腹を蹴る。
 陸人君に髪を掴まれたままなので、倒れることはない。
 彼は、つまらないものを見るような目で、僕を見た。

「あーあ、お前がもっと完璧な人間だったら良かったのに」

 そう言って、頭を掴んだまま壁に頭をぶつけられた。

「陸人君やるぅ〜」
「だろ?」

 だろ?じゃない。なんだこの痛み、7歳児が体験していいようなものじゃないぞ。
 僕はその場に倒れ込む。

「ありゃ、もうダウンか」
「ま、怪我させすぎたら先生にばれるし今はやめておこうぜ」
「へッ、そうだな。また楽しませてくれよぉ?ゴミクズ空君」
「ゴミクズって、アハハッ!たしかにコイツはゴミクズだなッ!」
「そうだな。産まれた事すら親にも喜ばれず、コインロッカーの中に詰め込まれた立派な社会のゴミクズだ」

 ぼやける視界の中でそんな言葉を聞く。
 最後に見えたのは、陸人君の蔑む目だった。
 そこで、僕の意識は、闇に落ちる・・・・・・。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.87 )
日時: 2016/03/18 09:59
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)


“君ドラゴンの子供なんでしょ。
 だったら知ってるよね。『ドラゴンに血液はない』って”

ライヒェの言葉が頭に焼き付いてはなれない。
知ってる、はず。でも思い出せない。
思い出したくない。

それに『ドラゴンに血液はない』なんて認めてしまったら……自分はどうなる?
当然、腕を切れば血が出る。
そのくせして、一度血が出ると止まらないどころか、大量出血でも死なない。
俺って……何なんだよ。

————

「サラマンダー、血は止まったか?」
「うるさい、さっきから止まったって言っているだろ」
「だって止まってなかったじゃん」
「うるさい」

サラマンダーは機嫌が悪い。
鼻栓もさせてくれないくらい悪い。
それもそうか、ライヒェを問い詰められなかった上に、俺までアイツの肩を持ったから。
っていうか、嫌いなやつの肩を持たれると拗ねるって、子供かよ。

「あ、殴ったのは悪かった。アレは……その……癖? 見たいなヤツで。
 悪気はなかったんだけどさ……」
「……伝斗」

サラマンダーはようやく顔を上げた(でも鼻血は止まってなかった)。
今にも泣き出しそうな怯えた目は、一転に定まっていない。

「あー、まだ全然止まってないじゃん。やっぱり鼻栓しろよ、大人しくさ」
「……俺って、何だ?」
「は? 何だって、何?」
「俺は、自分を人間じゃないと思っている。でも、ドラゴンでもない。
 じゃあ、俺って何だ? 何のために俺は存在するんだ?……」

……何のために存在する?
今更何言ってんの、コイツ。

「存在意義なんて考えたらみんな死ななきゃいけなくなるじゃん。
 そんなこと考えるのは『死ぬ』ってことを理解できない子供か、相当の馬鹿だけだろ」

まあぶっちゃけ、俺も考えたことあるけど。
結論? 『不要物』って答えしか出ないよ。
当たり前じゃん。俺なんか必要とする人間なんていないんだから。
俺一人消えたって、世界は少しも変わらない。
むしろ俺一人分誰かが幸せになる。それだけ。
サラマンダーは俺の皮肉が聞こえていないのか、そもそも聞く気がないのか、再び顔を埋める。

「伝斗、お前は何のために生きてる?」
「はー? そんな道徳みたいなこと聞くなよ。そんなもんねえよ」
「俺は……父さんと母さんのために生きてる。
 母さんを殺した輩が憎いから、殺してやりたいから、生きてる。
 父さんが生きてた証を消さないために、戦争を続けてる。
 戦争を終えたら、きっと、父さんが忘れられてしまうから……」

……。
人が死ぬと、残されたものはその人を神聖化する。
サラマンダーの場合、それが重症すぎる。
イタい。非常にイタい。

「俺は自分が幸せになるために生きてる! それでいいだろ。
 あ、ついでに鼻栓させろ。いつまで経っても止まらないし」

ティッシュなんてものはなかったので手ごろな布を細く切って鼻に詰め込む。
あ、どうしよう。割と似合う。
口に出したら殺されかねないから言わないけど。

「はーい、出血してる場合は安静にしろ。寝ろ」
「鼻血は怪我じゃないし、俺まだ眠くない」
「いい子は寝ろ!」

雑に毛布被せてほっといたら、意外とすぐに寝た。
しかも爆睡じゃん。
俺はすっかり忘れていた紙を取り出す。
あの名簿みたいな紙ね。調べようと思って忘れてたなー。
これがあるってことは、あの白い箱のような研究所からこちらの世界に来た人間がいてもおかしくないと思う。
俺は薙刀を担ぎ、静かに部屋を出る。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.88 )
日時: 2016/03/19 12:04
名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)

 それから、僕はとにかくいじめを受けた。
 毎日の暴行はもちろんのこと、布団に大きな石を大量に詰め込まれたこともあった。
 図書館で借りた本を燃やされて、僕のせいにされたこともあった。
 靴に牛乳を入れられて、太陽の下で発酵させられて臭くなったこともあった。
 雪が積もった日には、裸で雪の中に埋められ風邪を引いたこともあった。
 冬には、長袖の服も布団も全部奪われ、半袖で寒い夜を過ごしたこともあった。
 他にも色々あったけど、これ以上言うと自分の精神が持たないので、割愛する。
 とにかく、文字通り年中無休365日、毎日なんらかのいじめを受けた。
 しかも、陸人君はとても賢かったので、先生から見れば皆が仲良く毎日楽しく暮らしているように見えただろう。
 僕が先生に言えば、綺麗ごとを抜かして誤魔化し、後でコッソリ嬲られる。
 そんな痛みと蔑む眼差しの毎日の中で、僕の脳内を反芻する言葉があった。

『お前がもっと完璧な人間だったら良かったのに』

 たしかにそうだと思う。だって、陸人君の人生は、完璧じゃないか。
 ここに来た理由も、親が事故で死んだのが原因ってだけだし。
 つまり、陸人君みたいになれば、僕だって良い人生が送れる。
 いや、むしろ僕なら、陸人君よりも完璧になれる。
 だって、彼は僕にこんなにも恨まれているんだもの。
 完璧な人間っていうのは、誰にも恨まれない人間のことだろう?
 僕なら、なれる。僕ならもっと、上手な人生を送れる。
 それが分かってからは、盲目的に、貪欲に、完璧を求めるようになった。
 勉強は元々できたから、さらに努力して中学生のテストで満点取れるくらいまで頑張った。
 苦手な運動は、いじめっ子が寝静まった後くらいに一人でこっそり筋トレをしたり、図書館で運動の本を読んだりした。
 芸術や、音楽面も同様だった。
完璧になることに夢中になることで、自殺しようとも思わなかった。
 それがイラついたのだろうか。それらを学ぶための本がトイレで黄色の液体でビショビショになっていたこともある。
 昼ごはんの時に床に落ちた物を食べさせられたこともある。
時には、食事を3食全部奪われた日もあったっけな。
 口の中で床を拭いた雑巾を絞られた事もあるけど、でも、全てがどうでもよかった。
 僕は陸人君のようになりたかった。彼のように完璧になりたかった。
 幸せな人生を送りたいから。もう、裏切られたくないから。

 8歳になって、僕は人を信用することをやめた。
 信じなければ、裏切られないから。友達だと僕が思わなければ、人は裏切らない。
 だって、信じるの反対は裏切るだから。つまり、信じないの反対は裏切られない、だ。
 夏には笑顔の貼り方を覚えた。簡単だった。

 僕はただ、裏切られることに怯えて過ごした。
 完璧にならないと、裏切られるから。信用したら、裏切られるから。
 僕にとって、陸人君と僕の両親は恐怖の対象だった。
 彼らは僕を裏切った。また裏切られる。僕は、裏切られることが怖くなった。
 誰も信用したくない。裏切られたくない。
 そんな恐怖が、僕をさらに完璧な人間へと導いた。

 そして、9歳。
 僕は、すでにほとんど完璧と言っても過言ではない状態だった。
 背だけはチビのままだけど、顔自体はイケメンな方だと思うし、基本なんでもできる。
 そして、そんな僕を気に入った晴太家に貰われた。
 優しい両親、暖かい家庭、僕を慕ってくれる友人。完璧なら、なんでも手に入った。
 父親が道場をやっており、そこで剣道や柔道などを習った。というか習わされた。
 筋トレの影響で元々良い体つきをしていたので、鍛えたら有名になって道場の宣伝になるって。
 そんな親の期待に応えるために、僕は頑張った。
 柔道とか空手より、剣道の方が僕には合っていたので、主に剣道を鍛えた。
 そんな中で出会った友達。彼等なら、信じてもいいんじゃないかと思えた。
 信じた結果は最悪。僕を裏切って、理由も無く殴ってきた。
 殴られたことはいくらでもあるからいいよ。骨が折れるまで殴られた事だってあるから。
 でも、やっぱり信じるんじゃなかったよ。お前なんか信じなければ良かったよ。
 やっぱり人間は、信じたら裏切るんだよな。すっかり忘れてた僕が馬鹿だったんだよな。
 僕は、彼等の前でも仮面を被った。僕は多分、一生人を信用できない。できるわけがない。
 親、友達、親友。全てに裏切られた僕は、静かに壊れていった。
 誰も信用するな。自分だけ信じろ。そんな言葉が頭の中で何度も響く。

 ・・・・・・でも、信用しても、いいのかもしれない。
 あと、一回だけ。最後のチャンスだ。
 目の前にいる少女を、僕は守りたい。彼女と一緒に、生きたい。
 だから・・・・・・———

−−−

「———・・・・・・だから、君のことだけは・・・・・・信じたい」

 そして僕は、全てを語り終えた。


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