複雑・ファジー小説
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- スピリットワールド【合作】
- 日時: 2017/11/03 17:10
- 名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)
この作品は合作です!
こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします! 雅
どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
凜太郎
こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音
遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!
弓道子
〜目次〜
登場人物
空編 >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
>>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
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>>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
>>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編 >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
>>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
>>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
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>>111>>113>>116>>118
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.99 )
- 日時: 2016/04/08 17:54
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)
福田竜之介。
名簿の最後のほうに名前があった。
垂れ目で、黒髪の若い男。
「杜来……伝斗君、だったよね」
「……なんで名前知ってるんだよ」
「研究所の近辺に住んでいた人の名前を覚えるくらい、僕には容易いことだよ」
研究所。
やっぱり、向こうの世界の人か。
嫌だな。しかも名前まで知ってるなんて。
「どこまで知ってるんだよ」
「どこまでって、例えば?」
「例えばって、そんなの……」
言いたくない。
そもそも、こっちの世界に着たら、向こうのことなんて関係ないじゃないか。
ああ、聞かなきゃよかった。
福田は優しそうににこっと笑って、悪意もなさそうに尋ねる。
「あれ? もう一人の彼は刀片手に戦っていたのに、君は雑用なのかい?
しかもここ、革命軍の領地じゃない?」
「はは、雑用ね。
ちげーよ。ちゃんと人間を殺す革命軍の一員だし」
「人間を、ね」
彼は少し考えるように目を伏せた。
何もかも見透かしたような態度。実際に名前とか大雑把なことは把握してるらしいし。
気に入らない。何だよコイツ。
「何? 俺が弱いから信じられないとか?」
「まさか。むしろ君が弱いってことはないんじゃないの?
ナイフ振りかざして大人数の相手したり、手八丁口八丁で年上を騙し抜いたり。
革命軍にいても生活できるのは、君が生き抜く術を知っているから。そうでしょ?」
「……マジでどこまで知ってんの」
「あんまり公になってないところまで、かな」
コイツ、意外とあんなこととかこんなとことか知ってんじゃないの。
言いふらされたら困るようなこと……ばかりだから、今更だけど。
「まあ確かに、空君は剣道やってたから剣の扱いに慣れてるかもね」
「そんなの、関係ないでしょ。
剣道なんて一対一で戦うものじゃん。大人数になったら闇雲に刃を振り回す素人と変わんない。
しかも動きが硬いしね。筋力とかつけても動きに変な癖がついてるんだからダメだって、あんなの」
「はは、辛辣だね」
福田がまともに聞いてくれるなんて思ってなかった。
でもさ、事実だし。
多少の速さがあっても、ソラの動き方には限界がある。
いつまであんなことやってるのかな。馬鹿だよね。
「勝つために刀を振るのと、生きるために刃を振るうのは全然違うっての。
空のやり方は、お遊戯の延長だよ」
「厳しいね……」
「まあ、どっか行っちゃったらしいからもう俺とは関係ないけど」
そして一緒にラキちゃんもいなくなった。
惜しかったな。
空が恋焦がれる相手なんて、からかい甲斐があったのに。
福田は唐突に聞いた。
「君は空君の事をどう思ってるのかな?」
「どう思ってる? 別に。特に思うようなこともないけど」
「友達……ではないんだね」
心臓が飛び跳ねた。
『友達』なんて安っぽい言葉に、動揺した。
何それ、空と俺はもうそんな平和ボケした関係じゃない。
「……そんなわけないじゃん」
極端に小さな声になった。
振りかざしそうになったこぶしをぐっと押さえつける。
「なんかお前のこと探してたけど、時間の無駄だったな。
俺まだ雑用があるんで、それじゃ」
「うん。向こうの世界の出身同士として、これからもよろしくね」
ああ、もう本当に嫌なやつ。
去り際に、目を合わせずに吐き捨てた。
「死ね」
—————
俺は珍しくノームたちと一緒に畑作業をしていた。
「リーダー、もっと丁寧に、根から抜いてください」
「うるさい」
「リーダー様、偉そうな口聞いておいてそんなことも出来ねーのかよ?」
「シュリー、お前は自分の仕事をしろ」
いつの間にかこのケントとかシュリーとか何とかってヤツとも打ち解けてしまっている。
大人数で作業とか絶対にできないって思ってたけど、案外効率がいいのかもしれないな。
「そういえば、伝斗は?」
「知らねー。そ言えば最近アイツよくどこか行くことない?」
ケントもノームも首を縦に振る。
こうしてみんなでいることが増えたのは間違いなく伝斗がきっかけなのに、
今では彼がいなくても自然とこのメンバーで集っている。
俺は山になった雑草を捨てる場所を適当に探した。
結構頑張ったな、俺。
「好きな女でもできたんじゃねぇか!? なんてな!」
腕の間からこぼれた一本をきっかけに、俺の手から一気に草の山が崩れ落ちた。
急いで落ちた草をかき集める。
一瞬だけ気がそれた。一瞬だけ彼女の顔が頭をよぎった。
それだけ。
「おう、気をつけろよ!」
「……うるさい」
“もうっ、お兄ちゃんしっかりしてよ! 僕が安心して飛べないじゃん!”
シルフの声を思い出す。
俺が失敗すると、いつもそう言うんだ。
……ダメだ、忘れなきゃ。忘れろ、早く。
「……リーダー?」
忘れ去ろうとすればするほど、くっきりと彼女の像が鮮明になる。
足音、声、表情、その羽の一枚一枚まで、嫌なほど鮮やかに……。
「おい、固まってないで働けよ」
ケントに言われて、我に帰った。
彼女はもういない。
そんなのわかりきったことなのに。
拾おうとしゃがみこんだとき、腕が伸びてきて草を拾い上げた。
「俺に手伝わせてよ。こういうの、結構好きなんだよね」
茶色い髪の少年はにこっと笑った。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.100 )
- 日時: 2016/04/08 17:58
- 名前: 凜太郎 (ID: qToThS8B)
小さな丸太を切り株の上に置き、斧で思い切り真っ二つに斬る。
それがこの村に来て初めての仕事である。
最初は簡単すぎやしないかと思ったが、やってみると意外と疲れた。
足腰に常時力を入れていなければ斧を振り上げられないし、振り下ろす時に毎回全力を注がなければ割れるものも上手く割れない。
「ははっ、やってるね〜」
僕に仕事を任せたおじさん、えっと名前はたしか・・・・・・パウロさん、だったかな。
「パウロさん」
「これだけあれば当分の薪には困らないな。村人への振り分けは俺がやっておくから、少し休みなよ」
「お言葉に甘えて」
僕は肩を竦め、近くにあった岩に座る。
そして竹から作った水筒に入った水で喉を潤す。
ちなみにこの水筒やらは僕の家の隣のフレッドさんがくれたものだ。
「パスパス〜」
「行くよ〜」
さて、薪割りに疲れて休憩している僕の目の前の広場では、幼い男子4人が2人ずつに分かれてバスケをしていた。
年齢は5歳くらいの子供が多い。
木や古い網でできたゴール。地面に木の枝で線を引いただけのコート。
それを見ていると、中1になったばかりの頃を思い出す。
−−−
僕は伝斗のことを、『磨けば光る原石』だと思っていた。
伝斗は、僕が努力で補わなければいけなかった才能をたくさん持っていた。
なんていうか、彼は機転が良く利いていた。
発想力が柔軟というか、僕が考え付かないようなことを考えたりするのだ。
運動神経も良く、体育だけなら僕と同等だと思えた。
中学生になって彼がバスケ部に入ったと聞いた時は、応援したいと思った。
多分、自分が努力によって救われた人間だから、人の努力を支えてあげたいと思ったのだろう。
剣道部の活動が早く終わって体育館を覗きに行った時、なんていうか、普通に驚いたよ。
伝斗は、1年の中では確実に一番上手かった。
彼の発想力と運動神経は、バスケに向いてると思っていたけど、本当にすごかった。
今から一生懸命努力すれば、確実にエースになれると思った。
僕は彼を応援したかった。信用しているかは置いといて、一応友達だから。
何かできることを探していた時、部活の中で彼だけが体育館シューズを使っていることに気付いた。
なんで買わないのかは知らないけど、多分やむを得ない事情があるのだろう。
そこで思いつく。彼にバスケシューズを買ってあげようと。
体育館シューズでもできなくはないだろうけど、やはり専用の物の方が走ったりしやすいだろうし。
それから僕は、時間がある時にインターネットを使ったりしてバスケシューズの有名なブランドなどを調べまくった。
使い道がなくて溜まりに溜まっていたお小遣いやお年玉の貯金を下ろして、僕はシューズを買った。
その時が6月くらいだったかな。ちょっと早いけど、彼への誕生日にしてやろうと思った。
デザインもカッコいいし性能も良い。絶対喜ぶぞ、なんて意気揚々としていたさ。
その日もたまたま剣道部の活動は早く終わって、僕はシューズが入った箱を持って体育館に行ったんだ。
でも、そこには伝斗はいなかった。
僕はバスケ部の顧問の先生に聞いたよ。伝斗は休みですか?って。
やめたと聞かされた時は、なんかもう・・・・・・何も言えなかったよ。
僕にはなかった才能に恵まれた彼が、努力せずに部活をやめたんだからさ。
本当は責めてやりたかったけど、彼にだって何か理由があると思うとできなかった。
シューズを捨てようかと思ったけど、もしかしたら彼がまたバスケを始めるんじゃないかって思うと、できなかった。
でも、結局彼がバスケをすることはなかった。
多分、僕の部屋の押し入れを探せば新品のシューズが出てくるんじゃないかな?
僕は彼が羨ましかった。僕にはなかった才能に恵まれた彼が。
努力しなくても、友達を作ることができる彼が。とにかく羨ましかったよ。
でも、それなのに努力しなかった彼のことを、僕は・・・・・・。
−−−
「すいませーんッ!」
少年達の声に、僕は我に返る。
見れば、目の前にボールが迫って来ていた。
「うおッ!」
僕は咄嗟にそのボールを両手で掴む。
しかし、その力は思いの外強く、バランスを崩してその場に倒れてしまった。
「うわぁ、強いなぁ・・・・・・これは将来有望だね」
「すいません!大丈夫ですか?」
仰向けになって転ぶ僕に少年達が駆け寄ってくる。
僕は立ち上がり、服に付いた土などを払い落としてボールを拾い上げた。
これ本当に子供が作ったのか?皮とかもちゃんとしてるし、大きさだってバスケボールと同じサイズだ。
「このボールすごいね。君達が作ったの?」
「ううん!このゴールとかも含めて、廃材とか集めて、おじさんたちに作ってもらったの!」
「そうなんだ。しかし、さっきのボールの威力はすごかったなぁ。これは君達の将来が楽しみだね」
元兵士でありそこそこ有名人である僕に褒められたからか、皆照れたように笑う。
やはり子供というものは褒めれば伸びると思う。これからも伸ばしてあげよう。
「よし、それじゃあ君達のその素晴らしい才能をこの僕が直々に鍛えてあげよう」
「実際はただ遊びたいだけなんじゃないの?」
「あ、ばれた?ま、そこは気にするなってことで。それじゃあまずシュートから」
「はーい(笑)」
ゴールにシュートを入れていく少年の姿を見ながら、僕は空を見上げる。
今日は生まれて初めて、晴れた空を憎たらしく思わなかった。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.101 )
- 日時: 2016/04/19 18:18
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)
「誰?」
人の良さそうににこにこしている少年をさしてサラマンダーに訪ねた。
「ども! 俺は陸人。
気軽に下の名前で呼んでよ」
相手が握手を求めてきたように見えたから、俺は思わず右手を引っ込めた。
あきらかに彼を避ける動作をとったにも関わらず、陸人は肩を二度ほど叩いて「よろしく!」と笑う。
空なんかより遙かに親しみはわくけど、俺はあまりこのタイプは好きじゃない。
「おい、サラマンダー。
なんでこんなヤツがここにいるわけ?」
「……家がないらしい」
革命軍リーダーとか言っておいて、サラマンダーにはまるで危機感というものがない。
俺のときもそうだったが、家がないと言われたら簡単に上げちゃうし、
スパイとかだったらなんて疑うことも知らないんだろう。
しかも一緒に寝ろとかマジふざけんな。刺されるぞ。
あれ、そう言えば俺は添い寝係のためにここに来たんだよな。
代わりがきたってことは、俺、お役ごめんじゃね?
「決めた、俺出てく」
「ダメだ」
「なんでだよ。
添い寝係はソイツにパス」
「嫌だ」
「俺だって添い寝係は嫌だ」
出ていったらどこに行くかって?
とりあえずオンディーヌのところにでも転がり込もうかな。
別に野宿でもいいし。
二人でにらみ合ってると、あいだに陸人が割って入った。
「俺からもちょっといい?」
「どーぞ」
「ありがと」
彼はひょいと右手をふった。
そういう仕草は軽いのに、礼儀はきちんとしてる。
生徒にも先生にも、加えて保護者にも受けのいいどこかのアニメの主人公みたいなヤツ。
俺、こういうタイプ嫌い。
「俺、確かにここに来たばかりで知らないことも多いけどさ、
そのかわりここにいる限り君に尽くす。絶対に。
それに、体使う仕事も自信あるし。
ボディーガードとかそういうのも君には必要だろ?」
あー、こういう自分を売り込むのが上手いヤツも嫌い。大嫌い。
話の流れでいくと俺に有利そうだから、今だけ調子合わせておくけど。
適当に首を縦に振っておく。
「でも」
「どうしてもだめかな?
俺に非があるなら直すから、だめな理由を教えてくれないかな?」
陸人の説得は、なんて言うか、抜け目がない。
サラマンダーはなにも言い返せないようで、ずっと押し黙っていた。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ、サラマンダー」
ちょっと冷たく言ってやったら、陸人はなだめるように笑った。
俺の言い方が悪かったのか、陸人の気が俺に向いたのが気に入らなかったのか、
(たぶん前者だが、)
サラマンダーはふてくされたような顔になる。
「……もうどこにでも行けよ」
「本当にいいんだね?」
「知らない。もういい」
陸人が不安そうにこちらを伺う。
かまわない、コイツはこうなったらもう言うことを聞かない。
そして俺はそれをねらってあんな言い方をしたんだ。
「じゃーな、サラマンダー」
「勝手にしろ」
もうしばらくここには戻らない。
俺には別でやりたいことがあるし、そのためにはサラマンダーは足枷にしかならない。
゛いらないんだよ、ただ単に゛
その言葉を聞いたとき、俺は何故か恐ろしい不安に駆られた。
でも、よく考えてみろよ。
俺だっていとも簡単に誰かを切り捨てる。
それと同じだろ。
それに……。
あのいい人ぶった笑顔が脳裏をよぎる。
福田、だっけ。
向こうの世界からきた人が俺だけじゃないことは何となく予想してたけど、
まさかそいつが向こうでの俺を知ってるなんて。
下手に革命軍の誰かの耳に入ったら面倒くさい。
「ライヒェあたりはケロッとしてそうだけど」
急に裾がぐっと引かれた。
なにを惜しんでいるのか、サラマンダーが引き止めるようにガッチリ掴んで離さない。
……邪魔。
強く振り払って、振り返らずに歩き出す。
お荷物もなくなってすっきりしたはずなのに、澄んだ青空が憎たらしくて仕方なかった。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.102 )
- 日時: 2016/04/19 18:31
- 名前: 凜太郎 (ID: qToThS8B)
子供達との楽しいバスケも終わり、彼等は現在休憩中である。
僕はダメもとで自分に回復魔法をかけたら疲労が回復したので、子供達にもかけてやる。
まぁ、これで魔法すげーアピールをしておけば、昼からのラキの魔法の授業にも集中できるだろう。
「ははっ、やってるね〜」
そんなことをやっていると、おじさんが一人話しかけてくる。
名前はよく覚えてないけど、顔には見覚えがある。
「しっかし運動なんかしちゃって。今からも農作業は残っているんだよ?」
そう言って鍬を渡してくる。僕は苦笑いをしてそれを受け取る。
「今からちょっと土を耕してくれないかな?」
「はは・・・・・・いいですよ。かなり疲れてますけど」
−−−それから3時間後
「あっつ・・・・・・」
僕はTシャツの胸の辺りをパフパフとやる。
冬だというのに、農作業のせいでとにかく暑い。
今の恰好だって7分丈の黒いズボンに白い長そでシャツだぞ。
それなのに汗が止まらず次から次へと溢れてくる。
「今からそんなに汗だくじゃ、夏には脱水症状で倒れちまうかもな」
僕に畑を耕す作業を押し付けた男、ケビンさんはそう言ってははっと笑った。
ちなみに彼は僕達が村に来た時にランタンを持って村長に叫んだ男でもある。
一通り畑を耕し終えた僕は、鍬を近くに置き岩に腰かけた。
「ふぅ・・・・・・」
「疲れたようだな。でもこのまま次の仕事をしてもらうぞ」
ケビンさんが笑顔でそう言うので僕が軽く身震いをしてしまった時だった。
膝に何か、白くてフワフワした物体が乗った。
空を見上げると、いつのまにか白い雲が空を覆いつくし、雪が降っていた。
「うわ・・・雪だ・・・・・・」
「おいおい・・・・・・農作業は中断だ。今日は早く帰って休め」
ケビンさんはそう言って農具を片付け始める。
僕も鍬を近くに置いていたのでそれを持ってケビンさんに持って行く。
「なんでもうやめちゃうんですか?」
「ん?いや、今雪降ってんだろ?この雪は今夜にでも積もるやつだからな、明日は雪かきすることになるだろうし、今日はもう休んで明日の為に体力を整えておくんだよ」
ふむふむ、勉強になるね。
たしかに今降っているのは、粒も量も多いし、これはかなり積もりそうだ。
そういえば、この世界で積雪は初めて経験するな。一体どんなものなのか、今から楽しみである。
−−−
「うおおお・・・・・・ッ!」
夜、日も沈み辺りは真っ暗闇。それぞれの家の明かりと月の光だけが外を照らす中、その光を反射して白銀の世界がきらきらと光る。
僕はそれを窓に貼りついて見つめる。
すごい。すごいぞこの世界!別に雪を見たのが初めてというわけではない。
しかし、僕たちが住んでいたところは結構都会な方だったので、人の足跡などでボコボコした醜い雪原しか見た事が無かったのだ。
誰も踏んでない雪原・・・・・・もし僕の精神年齢が少しでも幼ければ飛び込むぞ。
なんて考えつつ試しに雪を踏んでみる。
ていうか外寒いなおい。一応上着着てきたけど、やっぱりコートか何か着てくれば良かったか。持ってないけどね。
ちなみに余談だが、僕の服はジュリアさんという女性がくれたものだ。
なんでも、息子が今城に兵士として行っているらしく、歳は僕とほとんど一緒くらい。
なので、その息子のお古を使っていた。
「すっごい綺麗・・・・・・絵になるな・・・・・・」
喋る度に口から白い息が漏れる。自分の体が少し震えているのが分かる。
僕は試しに雪を適当に掴んでみた。シャリシャリとした感触が伝わってくる。
雪自体はさすがに向こうの世界と一緒か。冷たくて、フワフワしていて、それで・・・・・・。
パフンッと音を立てて、背中に何か当たる。
見ると、ラキが口に手を当ててクスクスと笑っていた。
なるほど、戦争というわけか。受けて立ってやろうじゃないか!
僕はしゃがみこみ雪を適量掴んで玉を作る。
さぁ、戦争の始まりだ!
———閑話休題。
「ぜぇ・・・ハァ・・・・・・やっぱり足場がこんなんだと疲れるね〜」
「はぁ・・・・・・うん、そうだね・・・・・・」
僕とラキは雪の上に仰向けで寝転がり夜空を見ていた。
未だに止むことのない雪が僕の顔に降り注ぐ。
背中からはひんやりとした冷たさが伝わってくる。
「ふぅ・・・体が冷えるといけないしそろそろ戻ろうか」
僕は起き上がり軽く伸びをした。
髪に付いた雪を払っていると、ラキが僕の上着の裾を掴んできた。
「ん、何?」
「ソラ君はさ・・・・・・向こうの世界に戻りたいって、思う?」
夜空を見上げたまま、彼女は言う。
この質問をどんな気持ちでしているのかなんて、僕は知らない。
でも、分かることが一つだけある。そう、この質問の答えだ。
「思わないよ」
僕は彼女の手を握った。
雪遊びをしていたせいか、その手はとても冷たかった。
「僕はあっちの世界に戻るつもりはないし、戻りたくもない」
「そっか・・・・・・良かった・・・・・・」
ラキはか細い声でそう呟き、安堵の表情を浮かべた。
このままにしていてもいいが、風邪を引いても良くない(もっとも魔法で治せるが)。
僕は彼女の手を引き、家に戻った。
彼女が風呂に入っている間、僕は暖炉の火で少し湿った体を温める。
「・・・・・・にしても、あっちの世界か・・・・・・」
強いて言えば両親との記憶くらいしか楽しい思い出も特にない場所。
その両親だって、血が繋がってないってだけで周りから勝手に憐みの視線を向けられハッキリ言って少し邪魔だった。あの二人には、本当に感謝しているけど。
この村に来たんだし、できれば伝斗や陸人君にも二度と会いたくない。
伝斗の場合は、僕の自業自得でもあるけれど。
やっぱり信用できない人間には自分からは会いたくないものだ。
殺す価値もない、なんて粋がってしまったけど、もしかしたら今頃僕より強い可能性も無くはないな。
まぁ、戦いから身を引いた僕には、もう関係の無い話だ。
そうだ、今度ロブさんの狩りにでも連れて行ってもらおう。
ドラゴンの狩り方とか教えてもらおうかな。
あの人強そうだし、僕よりロブさんがいた方が村の皆の安心感というものも大きいだろう。
僕もドラゴン倒せるようになったらカッコいいだろうな。
明日すぐに、とかは雪が積もっているだろうから難しいだろうけど、いずれ行きたいな。
「明日が・・・・・・楽しみだな・・・・・・」
今まで感じたことないようなこの気持ち。
この村でなら、僕はやり直せる。新たな人生を、信用できる人達と共に。
自然と笑みが零れた。
−−−
膝まで降り積もった雪に、少女は顔をしかめる。
もう一週間も飲まず食わずのこの状況。できれば少しでも体力を温存しないといけないという時に、これだ。
早く村でも見つけなければ、餓死してしまう。
「急がなくちゃ・・・・・・」
少女は素足で、雪を踏みしめる。
それを嘲笑うように、雪は少しずつ勢いを増すのであった。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.103 )
- 日時: 2016/04/25 21:09
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)
「誰?」
人の良さそうににこにこしている少年をさしてサラマンダーに訪ねた。
「ども! 俺は陸人。
気軽に下の名前で呼んでよ」
相手が握手を求めてきたように見えたから、俺は思わず右手を引っ込めた。
あきらかに彼を避ける動作をとったにも関わらず、陸人は肩を二度ほど叩いて「よろしく!」と笑う。
空なんかより遙かに親しみはわくけど、俺はあまりこのタイプは好きじゃない。
「おい、サラマンダー。
なんでこんなヤツがここにいるわけ?」
「……家がないらしい」
革命軍リーダーとか言っておいて、サラマンダーにはまるで危機感というものがない。
俺のときもそうだったが、家がないと言われたら簡単に上げちゃうし、
スパイとかだったらなんて疑うことも知らないんだろう。
しかも一緒に寝ろとかマジふざけんな。刺されるぞ。
あれ、そう言えば俺は添い寝係のためにここに来たんだよな。
代わりがきたってことは、俺、お役ごめんじゃね?
「決めた、俺出てく」
「ダメだ」
「なんでだよ。
添い寝係はソイツにパス」
「嫌だ」
「俺だって添い寝係は嫌だ」
出ていったらどこに行くかって?
とりあえずオンディーヌのところにでも転がり込もうかな。
別に野宿でもいいし。
二人でにらみ合ってると、あいだに陸人が割って入った。
「俺からもちょっといい?」
「どーぞ」
「ありがと」
彼はひょいと右手をふった。
そういう仕草は軽いのに、礼儀はきちんとしてる。
生徒にも先生にも、加えて保護者にも受けのいいどこかのアニメの主人公みたいなヤツ。
俺、こういうタイプ嫌い。
「俺、確かにここに来たばかりで知らないことも多いけどさ、
そのかわりここにいる限り君に尽くす。絶対に。
それに、体使う仕事も自信あるし。
ボディーガードとかそういうのも君には必要だろ?」
あー、こういう自分を売り込むのが上手いヤツも嫌い。大嫌い。
話の流れでいくと俺に有利そうだから、今だけ調子合わせておくけど。
適当に首を縦に振っておく。
「でも」
「どうしてもだめかな?
俺に非があるなら直すから、だめな理由を教えてくれないかな?」
陸人の説得は、なんて言うか、抜け目がない。
サラマンダーはなにも言い返せないようで、ずっと押し黙っていた。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ、サラマンダー」
ちょっと冷たく言ってやったら、陸人はなだめるように笑った。
俺の言い方が悪かったのか、陸人の気が俺に向いたのが気に入らなかったのか、
(たぶん前者だが、)
サラマンダーはふてくされたような顔になる。
「……もうどこにでも行けよ」
「本当にいいんだね?」
「知らない。もういい」
陸人が不安そうにこちらを伺う。
かまわない、コイツはこうなったらもう言うことを聞かない。
そして俺はそれをねらってあんな言い方をしたんだ。
「じゃーな、サラマンダー」
「勝手にしろ」
もうしばらくここには戻らない。
俺には別でやりたいことがあるし、そのためにはサラマンダーは足枷にしかならない。
゛いらないんだよ、ただ単に゛
その言葉を聞いたとき、俺は何故か恐ろしい不安に駆られた。
でも、よく考えてみろよ。
俺だっていとも簡単に誰かを切り捨てる。
それと同じだろ。
それに……。
あのいい人ぶった笑顔が脳裏をよぎる。
福田、だっけ。
向こうの世界からきた人が俺だけじゃないことは何となく予想してたけど、
まさかそいつが向こうでの俺を知ってるなんて。
下手に革命軍の誰かの耳に入ったら面倒くさい。
「ライヒェあたりはケロッとしてそうだけど」
急に裾がぐっと引かれた。
なにを惜しんでいるのか、サラマンダーが引き止めるようにガッチリ掴んで離さない。
……邪魔。
強く振り払って、振り返りもせずに歩き出した。
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