複雑・ファジー小説

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スピリットワールド【合作】
日時: 2017/11/03 17:10
名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)

この作品は合作です!

こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします!                               雅

どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
                           凜太郎

こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音

遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!

弓道子


〜目次〜

登場人物

空編  >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
    >>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
    >>060>>062>>064>>066>>068>>070>>072>>074>>076>>078>>080>>082
    >>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
    >>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編  >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
    >>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
    >>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
    >>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
    >>111>>113>>116>>118

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.109 )
日時: 2016/05/29 01:47
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: 2GGQ3F7r)

その書は、不安になるほど簡単に持ち出すことができた。
前街を歩いたときの感じではもっと警備が厳しかった気がするが、何かあったのか、三分の一ほどまで減っている気がする。
サラマンダーにそれを教えればほぼ間違いなく革命軍の勝利に貢献できるはずだが、生憎今はアイツに会いたくない。

「誰に会いたくないって?」

空から可愛らしい、且つ皮肉を含ませた声が降ってきた。
見上げると、枝々の間に小さな影があり、そこから二つのエメラルドグリーンの瞳が光を放っている。

「……お前、よく瞳の色変わるよな」
「うーん、そう? あんまり意識してないやぁ」

カラスみたいな黒い陰が揺れて、赤い舌がペロッとのぞいた。
この陰、すなわちライヒェに会うのは久し振りだと思う。
いや、そんなことないか?

「久しぶりだよ。
 僕、君を捜して飛び回ってたんだから」
「その過程でその眼も?
 ってか お前、目 好きすぎだろ」
「まあこの体の前は瞼がただれてくっついてたし、この体の持ち主のも地味な茶色だったし。
 それよりマシかなって」
「地味で悪かったな」

俺は自分の顔をよくみたことはないが、たぶん黒より焦げ茶に近い色をしている。
俺はこの目が嫌いだ。
目だけじゃなくて、鼻も、口元も、顔、いや全部が嫌いだ。
今のままの身長じゃクローゼットの一番上に手が届かないし、
こんなに腕が細かったら、女性1人持ち上げられない。

「伝斗でもルックスに不満とかあるんだぁ。
 なんか意外」
「そうかぁ?
 俺はいっそのこと全部とっかえたいけど」
「わかる〜、その気持ち。
 僕もこんなのよりあの紅い瞳が好きだな」

ライヒェはやや興奮気味だった。
紅い?
そんなのいたっけ?
サラマンダーは金色だし。

「そうだっけ?
 彼はあんまり近づかせてくれないから覚えてないや。
 僕が言ってるのは女の子だよ」
「女?」
「とぼけなくていいよ。
 ラキちゃん、あの子の目って父親譲りの紅色でしょ」

言われて、しばらくしてから思い出した。
ラキ、ああ、彼女か。
もう記憶のかなり端に追いやられていた。
それほどに忘れたかったのか、あるいはどうでもよかったのか。
たぶん後者だろう。

「ラキちゃんで思い出した。
 大ニュースだよ。僕ついにあの白髪ボーイの居場所を見つけたんだ!」
「へー」
「なにそのリアクション。
 もっと大げさに喜んでくれたっていいじゃない」

確かに、空の居場所が分かることは、こちらにとって好都合だった。
サラマンダーに報告すれば間違いなく単身で突っ込んでいくに違いない。
でも、俺にとってはそれすらもどうでもよかった。

「なに? 興味ないわけ?」
「今のところはなー。
 そもそも空とか眼中にないし」
「あっそう。
 じゃああの赤黒い髪のアイツにも言うけどいいんだね?
 引き留めるなら今だけど?」

ライヒェは少し無愛想に言った。
俺が妙に無関心すぎることにご立腹らしい。
でもそんなこといったって、興味ないものは仕方ないじゃん。
それにほら、今はオンディーヌと一緒にいたいし。
それに、最近ライヒェの相手も飽きてきた。

「引き留めない。
 じゃあな、当分来なくていいよ」
「……あっそ」

ライヒェは最後に疑いの目でじろじろと俺を見てから、唇をとがらせた。
念を押すように強い口調で、

「本当に引き留める気がないんだね?
 ラキちゃんたちが殺されてもかまわないんだよね?」
「まあね」

まだ何か気にしている様子だったが、埒があかないと判断したのか、ライヒェは再び闇に溶けて消えた。

“友達……ではないんだね”

福田とかいうヤツのいやーな一言を思い出した。
気がつけば最近、アイツがいなくなることばかり考えている。
死ねばいいのに、消えちゃえばいいのにって。
そういうときは大抵、自分が追いつめられてどうしようもないことが多いのだけれど。

「……そもそも、嫌いだし」

俯くと、自分の弱々しい身体が目にはいるのが溜まらなく悔しい。
だから、前以外何も見えないフリして、真っ直ぐと洞窟へ足を進めた。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.110 )
日時: 2016/05/29 11:55
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

 家に帰った僕は、すぐに書斎に籠った。
 書斎と言っても、家から持ち出した魔道書と僕の小説が数冊ある程度だが。
 本が日焼けしないために窓の無い部屋は、まだ日は出ているというのに暗かった。
 電気を点けてみると、部屋の壁にはスカスカの本棚が並んでいるだけ。
 僕はその部屋の真ん中で胡坐をかき、本を床にソッと置く。
 試しにペラペラと捲ってみると、この本は英語で書かれていた。
 しかもたまにマニアックな文法とかあるし、読むのに時間が掛かりそうだな。

 小一時間程度掛かって、なんとか半分ほど読み終わった。
 読書は好きだが、小説のように物語性があるわけでもなく、ただ魔法に関する備考的なものが書いてあるだけだった。
 それこそ面白い記事はいくつかあったよ?例えば、『魔法が使える者同士で体の関係を持つと、双方での魔法は無効になる』とかね。
 要約すると、僕とラキが体の関係を持つと互いの魔法が効かなくなるというわけだ。
 つまり、回復魔法を掛けるという名目で体に触れられなくなる。
 ふーむ、これは困った。非常に困った。まぁ、元々そういう機会があったわけではないけれど。
 詳しく読んでみると、元々魔力というものは体に溜まっており、魔法を使えるようになると魔力の流れが変わるらしい。
 それにより、その変わった流れの魔力同士が交わると、その魔力との干渉が不可能になるらしい。
 まぁ、原理はよく分からないが、とりあえず魔法が使える女とヤると魔法が通じないということだろう。

 さて、話は戻し、この本をくれた時に福田さんが言っていた魔力量と髪色の関係についてだ。
 これについては割と早く見つけることができた。
 それが以下の文である。

 人間や種族などは、生まれながらにして魔力量や魔術の才能などは決まっている。
 それらは、その者の髪色で識別することができる。
 それは左から、黒、赤、オレンジ、黄色、紫、緑、青、白である。
 とはいえ、一番下の黒がものすごく小さいというわけではない。
 あくまで黒が一番、一般的な色である。
 それに、努力次第ではいくらでも伸ばせるものである。
 しかしそれは、どの髪色の、どんなに魔力量が多いものにでも、通じるものである。
 だから、自分の髪色が魔力の少ないものだったとしても、そこで諦めず、努力していってほしいと思う。
 しかし、白髪の者には、逆に、努力しないで欲しいと思う。
 奴等の魔力量は、調べてみた所、黒髪の者の100倍くらいの量だった。
 あれだけの魔力があれば、禁断魔術などに手を染めなくとも、世界を滅ぼすことすら可能だろう。
 だから、白髪の者には肝に銘じてほしい。
 力は時に、自身の身を滅ぼすという事を。
 力に酔いしれることなく、制御することが大事だということを。
                     Magic attention bookより

 ・・・・・・。
 まぁつまり、そういうことだ(どういうことだ?)。
 どうやら、僕の体にはとてつもない魔力が備わっているらしい。
 そりゃ、才能は欲しいと思っていた。
 今のところ無駄に優秀な頭くらいしか才能と呼べるものがなかったし。
 でも、100倍は流石に大袈裟すぎやしないだろうか。
 初級水魔法『アクアボール』で例えるなら、黒髪の、つまり一般的な魔力量の人間は1発だとしたら、白髪、まぁ、僕などは100発撃てるってことでしょ?
 さすがに話が誇張されている部分はあるのだろう。
 とはいえ、白髪の理由は気になっていたので、これで気になることは今のところほとんど解決したようなものか。
 その時、部屋がノックされた。

「ソラ君、いる?」

 ラキの声だ。
 どうぞ、と言おうと思ったところでこの本は人に見られて良い物なのか少し考えた。
 この本自体、どこにでも出回っているものではないみたいだし、もしかしたら持っていてはいけないものなのかもしれない。それで隠そうとしている辺りがダメなんだろうけど。
 僕は急いで本を僕専用の本棚にしまい、ドアを開けた。
 そこには、当たり前だが、ラキが立っていた。

「どうしたの?なんか・・・・・・物音が聴こえたみたいだけど・・・・・・」
「な、なんでもないよ。それで、何か用?」
「晩ご飯。ていうか、なんでもないって、絶対何か誤魔化してるよね?」

 ジト目&頬を膨らませるというダブル攻撃に、僕の中のゲージは一瞬でぶっ壊れ・・・・・・るところでギリギリ耐えた。
 もう、最近彼女に対しての可愛いという認識が弱くなっていた頃にこれは卑怯じゃないですか?
 絶対天使の生まれ変わりだってマジで。
 今度天使のコスプレさせてみようかな。白いワンピースはすぐに用意できるから、それに天使の輪と羽を工作で作って着せたら・・・・・・あ、想像以上に似合いそう。
 翼は革命軍の、シルフ、だっけか?あの子の翼が見た目的にちょうど良いんだよなぁ。
 そういえばライヒェとかいうやつも羽生えてたよな。ああいう純白の翼が欲しい。
 でもさすがに人から千切ってまで欲しいわけでもないしなぁ・・・・・・。
 あ、そうだ。ちょうど使ってない羽毛枕があったっけ。
 僕には羽毛枕はどうも合っておらず、とりあえず押し入れにしまっている。
 やはり枕は蕎麦殻のザラザラした枕が好きだったので、安眠は難しいと思っていたのだが、数時間前にロブさんと組み手をする際に切った木についていた種の殻が割と蕎麦殻に似ていたのを発見した。今度あれをもっと取って、麻袋にでも詰めて枕を作ろうと思う。
 さて、話は戻しラキの天使コスの話だ。まぁ、羽毛枕の羽で純白の羽は確保できるな。
 天使の輪の方は黄色っぽい色の木を使って削って、それで骨組み作って。
 イケる気がする。ラキの天使コスプレ。

「そんなことないよ。本当に大したことじゃないって。ちょっと小説読んでただけだから。それより、今日の晩御飯は?」
「むぅ・・・・・・ん。今日はドラゴン肉のビーフシチューだよ」
「美味しそうだなぁ、それは」

 僕はそう言いつつ書斎の扉を閉じた。
 続きは、晩飯と風呂の後でも大丈夫だろう。
 だって僕には、時間は山ほどあるのだから。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.111 )
日時: 2016/06/12 00:30
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: aFJ0KTw3)

僕はこの辺りで一番背丈の高い木によじ登った。
ああ、どうしよう。本当にどこにもいないよ。
ん? もちろん、伝斗ってヤツのことね。
赤黒い髪のアイツも知らないって言うし、ただの家出だといいんだけど。

余談と言えば余談だけど、リーダーのところになんか見たことないヤツがいた。
特に惹かれるような容貌じゃなかったから無視してきたけど、アレ誰だろ?
赤黒の髪が言うには荷物もまとめて出てったらしいし。
困るなぁ、不安なんだよね。
あ、いっとくけど僕が心配してるのは伝斗の脳のことで、あいつ本人には興味ないから。
そこんとこよろしく。
……。

と無駄なおしゃべりをしていると、町より少しはずれた方向に人影が見えた。
うーん、よく見えない。
ハーピーの目ってやっぱダメだなー。超鳥目って言うか、超暗いとこ見えない。
その前の目はサイズががっばがばだったし、年頃の子の目が一番しっくりきていいんだよねー。
とりあえず近くで確認してみるしかないかな。
大鎌を携えて、思い切り枝を蹴飛ばす。
木々の隙間を飛び移るのはフランケンシュタインとか死神とかそんなワードにはほど遠いんだろうな。
でも超速いから。ほら、もう着いたっと。
その男は人間らしい風貌で、明らかに伝斗より年上だった。

「ねえ、そこのおにーさん。
 僕に興味ない?」

薄暗い中にとけ込んだ僕に気づいてなかったんだろう。
その人は一瞬驚いた顔をして、すぐににっこりと笑った。

「はじめまして。君は……人間なのかな?」
「んー、元人間。今は違うかも」

へんてこな僕の返答にも「そっか」と頷いただけだった。
普通はもっとあからさまに敵意をむき出しにしたり、そうでなくても何らかの警戒はするだろうに。
大して気にする様子もないし、この人変人なのかな。

「僕に用事でもあるのかな?」
「あっ、そうそう。
 僕さ、男の子探してるんだ。えっとね、細くてー、長い武器もっててー、髪とかの色が白っぽい……?」
「白? じゃあ空君かな?」

違う、と言おうとして思いとどまる。
よく考えたら彼も行方不明扱いなのだ。
情報は一つでも多い方がいいに決まってる。

「うーんと、その子も探してる」
「なんで?」

なんで?
なんでって何が?
首を傾げていると、その男は笑顔のまま言った。

「君に教えるメリットなんてこちらにはないじゃないか。
 それに空君に危害が及ぶようなことはできないからね。当然だろう?」
「えー、メリット? 空とかいうヤツに危害を加えないじゃダメなの?」
「それじゃ交換条件として釣り合わないからね」

……この男、なかなか一筋縄ではいかなさそうだ。
やだなぁ。
僕めんどくさいの嫌いなのに。
うーん、何かいいのないかな。

「僕の体の一部をあげるっていうのは?」
「そんなものを僕がもらってどうするの」

男は苦笑した。
彼の顔は最初から張り付いたような笑顔なんだけどね。

「じゃあ禁断魔法のなかの一つを教えるってのは?」
「うーん、なかなか悪くないね。
 僕は魔法つかえないけど」

お、これはいい手応え。
よし、このままこれで押し通そう。

「いやいや、魔力の量に差はあるけど基本的には魔法は使えるはず……だし、
 そもそも禁断魔法の類って魔法をかけられる側の魔力にも依るから、
 君本人の魔力量だけでできないと決めつけちゃうのはもったいないしね」
「ふーん……詳しいんだね」

僕、禁断魔法の被害者ですから。
まあ、でも損ばかりじゃないよ?
あの魔法のおかげでこんなにかわいい顔になれたんだからむしろ感謝。
棺桶に閉じこめられて腐り落ちるよりよっぽどいい人生だと思わない?

「まず材料はね……」
「おっと、ちょっとストップ。
 これじゃ声が筒抜けだし、紙にまとめてくれないかな。
 僕も空君の居場所を教えるけど、紙にまとめてある方が君的にもいいだろう?」
「あー、ごめん。僕、字書けない。
 魔物ってそんな人ばかりだよ」

彼は少し驚いて、でも納得したような表情をした。
そして空のいる村の名前とだいたいの方角を示す。
僕もつらつら長々と死者蘇生の手順を説明したけど、彼はメモを取ることもなくニコニコして聞いてるだけだった。

「まあね、僕記憶力には自信があるんで」
「じゃあはじめから紙にまとめなくてもいいじゃん」
「ああ、確かに」

彼はキュッと目を細めた。
容姿も特別そそるものはないし、何か生き甲斐があるようにも見えない。
ライヒェにはこの男が欲を満たすために生きているようには見えなかった。
彼は何が楽しくて微笑んでいるのだろうか。
っと、大事なことを聞いてなかった。

「ねえねえ、ついでに伝斗とかいうヤツ知らない?」
「……本当に君は彼らに危害を加える気はないんだろうね?」

念を押すように、彼が訪ねる。
いや、逆にこちらが聞きたいよ。
何で彼はここまで空や伝斗を意識するんだろうって。
君はいったいヤツらの何だっていうのさ。

「そうだね、僕らは同じ次元の出身なんだ。
 ここから遥か離れた、ね。
 仲間意識とか、そんな類のモノが芽生えちゃってるんじゃあないかな」
「それだけ?
 まあいいや。僕、伝斗と約束があったのに向こうが逃げちゃって困ってんだよね。
 知ってるなら早く教えてよ」
「その小川の辺り。あまり詳しい訳じゃないけど、そこで会ったんだ。
 洞窟のそばともいうかな? 僕が知っているのはそれだけだよ」

詳細なことじゃないからか、案外あっさり教えてもらえた。
僕が満足げにしてると、「そうだ」と、付け足すように彼は続ける。

「仲がいいならかまわないんだけど、少し伝斗君は様子を見た方がいいかもしれない」

……意味不明。
首を傾げると、彼は笑顔のままいう。

「僕らがここに来る前、彼については悪い噂が絶えなかった。
 一部挙げるなら、例えば……いじめの一環で盗みをしているとか、同級生にナイフで切りかかったとか、
 あと先生を何人か退職に追い込んだとか、母親殺しとかね。
 根も葉もない噂だけど」
「そう、でも噂でしょ」
「でも彼は否定しなかった。
 僕が若干ほのめかしたけど、そのとき彼はこう言ったんだ。
 『どこまで知ってんの?』ってね」

……だから? って言うのが僕の感想だけど。
いっか、知りたいことはわかったし。
あーあ、空の居場所までわかっちゃうなんて、僕ってなんてラッキー!
赤黒髪には教えないでおこう。
空の白髪を汚されたりするのはイヤだし。
ほら、アイツ野蛮じゃん?
伝斗には教えた方がいいのかなぁ。

「とりあえずありがと、ニコニコさん」
「ニコニコさんって……」

彼は苦笑した。
やっぱり笑顔は変わらない。
へーんな人間。

「最後に教えてよ。
 ニコニコさんは魔物の味方? それとも人間?」

彼はすぐに答えた。

「僕は誰の味方でもないよ。
 僕は僕の味方」

ですよね。
それさえわかれば満足。
僕二 三度頷いて、すぐに闇の向こうに消えた。
僕は革命に興味はない。人間にも興味はない。
僕が大切なのは僕だけ。
たとえ強くても弱くても、所詮みんな考えることは同じだよね。

“僕らは同じ次元の出身なんだ。
 ここから遥か離れた、ね”

どんな環境で育ってもそれは同じ。
赤黒髪のアイツも、ニコニコさんも、伝斗だってよく似た理想を追いかけているはず。
だから、と言い訳のように言葉を補う。

リーベだって、同じだったはず。

自己肯定で満ちた胸を躍らせながら、僕の姿は夜に溶けていく。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.112 )
日時: 2016/06/12 21:43
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

 朝起きると、体には疲労感が溜まっていた。
 昨日は大変だった。サラマンダーとかいう革命軍のリーダーが、俺の力を見たいとか言うから軽くあしらってやったら、どうやら負けず嫌いだったらしく、「もう一回」と言った感じで、彼の体力が切れるまでやらされた。
 戦うこと自体はそこまで疲れない。俺強いし。
 でも、真剣使った状態で、相手を『殺さない』っていうのは結構疲れる。
 殺したらいけない相手と真剣で戦うなんて、力を制御するのが大変だった。
 とはいえ、俺の中で殺して良い人間なんて、知り合いの中じゃ一人しかいないけど。

「そういえば・・・・・・アイツもこの世界、いるんだよな・・・・・・」

 6年ぶりに会った時は驚きの方が大きくて、何もできなかった。
 アイツが里親に貰われてからはおもちゃが無くて、ストレス溜まったんだよな。
 次会った時には殺そう。アイツは目障りだ。

『陸人君、はさ・・・・・・僕のことを騙していたの?』

 あぁ、そうだよ。俺は君のことなんかハッキリ言えばどうでも良かった。
 でも、無駄に頭は良いし、俺に無い物を持っていて、アイツのあの澄んだ目で真っ直ぐ見られると、「お前は完璧にはなれない」そう言われているような気がした。
 だから関わらないようにしていたのに、アイツがいつも一人でいるせいで先生に仲よくしてやってくれとか言われたから、仕方なく一緒に遊んでやった。
 はっきり言って、苦行だったよ。アイツと長く一緒にいるのは。
 だからいじめた。幸い、他の奴らも空君を嫌っていたので、俺が指示を出せばその通りに動いてくれた。俺の命令で空君が苦しむのを見るのは、かなり楽しかったさ。
 でもしばらくして、彼は完璧を求め始めた。
 夜にコッソリ筋トレしたり、当時の俺じゃ読めないような難しい本や、色々な本を読み漁ったり。
 完璧になることなんてできないくせに。努力なんかじゃ埋められない差があることに気付かず、無駄に努力して、空回りして。まるで道化師だった。

「ハァ・・・・・・アイツのこと思い出すなんて、最悪の目覚めだな」

 俺は前髪を掻き上げ、息をつく。
 頬を叩き、頬の筋肉を少し緩ませ顔に笑顔を貼りつける。
 そして長刀を担ぎ、いざ出陣・・・・・・というところで、棚の隙間に冊子のようなものを見つける。

「これは・・・・・・」

 手に取るとそれは、色々な人間の情報が載った本だった。しかも、向こうの世界の。
 なんでここにあるのかは知らないが、別にあっても困らない。
 俺はそれを丸めてズボンのポケットに突っ込み、俺は外に出た。

「・・・・・・」

 それとほぼ同時に、周りにいた魔物(笑)さん達がこちらを見てくる。
 普通に見るだけでなく、明らかに嫌悪とか、負の感情が籠った視線。
 とりあえず、俺は『それに気付かない爽やか青年』を演じることに徹した。

「おはようございます。皆さん」

 笑顔でそう挨拶してみたが、返事は無し。
 随分とまぁ、嫌われたなぁ。ただ君達のリーダーと戦って文字通り百戦百勝しただけじゃないですか。
 自分達に強い仲間が出来て嬉しいと思えないの?バカなの?死ぬの?精神年齢低すぎじゃないですか?幼稚園からやり直すんですか?そんな疑問が純粋に頭に浮かぶ。
 これ言ったら怒られるだろうなぁ。この人数で囲まれたら、疲れそう。
 まぁ、負けないから命には関係はないんだけど。
 俺はそんなことを考えつつ、しばらく歩き、人目のつかない場所に行く。
 そこで岩に座って、冊子を開く。
 なんていうか、個人情報保護法とか関係なさそうな、つまびらかな情報がギッシリ載っている。
 その人の利き手とか、恋愛履歴とか、貯金残高とか。

「うわ、すげ・・・・・・」

 ペラペラと捲っていくと、とあるページで俺の手は止まる。

 晴太 空。

 見覚えのある顔。憎い顔。
 過去の思い出が色々と思い出される。

『はい、これ落としたよ?』

 ウザい、ウザい、ウザい、ウザい、ウザい、ウザい、ウザい、ウザいッ!消えろッ!

『陸人君はすごいよ。僕もいつか、陸人君みたいに・・・・・・完璧に、なれるかな、なんて・・・・・・』

 お前は!完璧になんて!なれないんだ!
 俺の右手は、気付けば近くに落ちていた古びたナイフを持っていた。
 左手は、彼の写真を握りしめ、グシャグシャにしていた。

「ぁ・・・ぁあッ・・・・・・」

 俺はそのまま、しわだらけになった写真にナイフを・・・・・・———。

「何をやっているんですか?」

 いつの間にか隣に立っていた巨人の言葉に、俺は我に返る。
 俺は何をやっていたんだろうか。我を忘れるなんて、俺らしくない。

「いえ。特になにも」

 俺はすぐに笑顔を顔に張り付けつつ、ナイフを音を立てないように地面に落としておく。
 確かコイツの名前は、ノーム、とか言ったか。
 筋肉質でがっしりした体に、右足は義足で左目には眼帯を装着している。
 実物を見たことなどないが、歴戦の戦士とか、そんな言葉がよく似合いそうな男だ。

「そうですか・・・・・・」

 彼は右目で俺の体を見下ろし、小さく呟くように言う。
 俺としては、単純に寝泊りできる場所が欲しくて上がり込んだのだが、まぁ、このまま嫌われたままより好かれた方が生活しやすいのは分かり切っている。何か手伝いでもして点数稼ぎをした方がいいだろう。
 そう思って俺は、冊子をポケットにしまいつつ、彼の持ち物を見る。
 桑に、何やらでかい袋。
 単純に考えるなら、農作業だろうか。

「あ、もしかして、農作業ですか?だったら手伝わせてください!」
「いえ、大丈夫です。間に合っていますので」
「じゃあせめて、この袋を運ばせてください。俺、こういう力仕事とか得意なので」

 俺の言葉に、彼は渋々といった様子で頷き、袋を渡してくる。
 結構重いが、まぁ気にするほどの重さではない。手触り的に、肥料か土だろう。
 どこに運べばいいのか聞いて、俺は歩き始める。
 それと同時に、考える。
 力はある。あと足りないのは情報だけ。
 今の空君の情報。あちらの世界でのものと、こちらの世界でのもの。それと、こちらの世界自体の情報。
 集めきれば、準備は完了。俺なら、彼を殺せる。

 だって、俺は完璧だから。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.113 )
日時: 2016/06/29 21:15
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: 6JsXmMyw)

禁断魔法の本は、非常に便利だった。
ところどころ意味不明な単語があるが、魔法についての手順は詳細に記されていた。
それだけではない。
その魔法に関する魔物や失敗例などまで載っている。
もっとも、後者はあとから書き込んだ手書きのものらしかったが。

目次に書き込まれた『魔物の核は心臓であり、姿形は魔力の規模を示す装飾にすぎない』から始まるメモはいろいろな人の手で書かれているらしい。
筆跡がバラバラだ。
人魚の欄にはこうある。
『雌雄で価値は大きく変わる。
 女性は妖艶で美しく、多くの男を魅了する。
 男性は筋力が劣り、痩身で骨ばかり。力がなく使えるとは言い難い。
 人魚の血は銀色だが、強い毒を持ち……

「わっ」

ページに夢中になっていると不意に、背後から腕が伸びて伝斗の首を捕らえた。
その冷たさに、肩が跳ねる。

「す、すみません」

手を絡めた側であるオンディーヌも驚き悲鳴をあげた。
その様子からするに、意識的にしたのではないのだろう。

「その岩で、本を読む後ろ姿を見ると、つい……」

伝斗は思い出した。
暗く湿ったこの洞窟に近づく者はまずいないだろう。
ほんの少し前までここには彼と、その親しい人の二人きりで暮らしていた——と。

「オンディーヌの姉ちゃんも文字読めるんだ?」
「はいっ。
 姉上はとても読書を好んでおりました。
 小生とは異なり、空想の話はあまり好みませんようでしたが。
 それでも、姉上は様々な書を手に入れては小生に与えてくださり……」

彼の能面のような顔に光が射す。

「小生が文字を読むことができるのも姉上のおかげでございまして、
 しかしながら、父上は小生のことを大層嫌っておりましたから、
 本をせがむときは、姉上に、こう……」

そこで彼は先ほどの自らの失態を思い出して、黙り込んだ。

「あの、申し訳ありませんでした」
「気にすんなって。
 俺この前までほぼ同い年の男と添い寝してたしな」

オンディーヌの顔がひきつる。
……これがふつうの反応なのだ。
これからはなるだけ口外するのは控えた方が良さそうだ。

「……えっとさ、お前の父親ってどんな人?」
「父上、ですか。
 父上、父上は……」

オンディーヌは視線を中に泳がせた。
言うべきか、言わぬべきか、何と言えばいいのか。
狼狽の表情がたやすく見て取れる。
彼は思い口をやっとのことで開いた。

「父上は……酷い人です……」


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