複雑・ファジー小説

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スピリットワールド【合作】
日時: 2017/11/03 17:10
名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)

この作品は合作です!

こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします!                               雅

どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
                           凜太郎

こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音

遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!

弓道子


〜目次〜

登場人物

空編  >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
    >>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
    >>060>>062>>064>>066>>068>>070>>072>>074>>076>>078>>080>>082
    >>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
    >>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編  >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
    >>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
    >>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
    >>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
    >>111>>113>>116>>118

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.59 )
日時: 2016/01/24 02:44
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)

頭の奥がつんとした。
鋭くて冷たい何かが、顔を、全身を、覆っていく。
シルフが死んだ。シルフが死んだ!
嗚咽のようなものが込み上げた。
口の中が酸っぱい液で溢れて、その場で膝をつくと全部吐き出す。

”いらないんだよ、ただ単に”

今更何を感傷的になっているのか。
あの時の子犬だって、次の日には死んでいた。
一人で様子を見にきて、バッチリ確認したじゃん。
まるで俺らの仲違いを察したような、ひどく冷たい雨にうたれて。
その憐れな子犬を、「死んだならつまらない」って蹴飛ばしたのは誰だったかな、ねえ?

「ハッ、バカらしい」

脳がスッと冷えて、嫌なくらい冷静になっていく。
そうだ、まずサラマンダーに伝えなきゃ。
面倒だな。
歩きだす頃には、まとわりついていた冷たさがスッキリ馴染んでいた。

ーーーーー

サラマンダーのベッドのわきにはたくさんの本が積み重ねられていた。
何の本か眺めてみたけど、英語英語英語……たまに日本語。
『人間失格』にこれほど親近感を覚えたのは、生まれて初めてだ。
俺は幼い頃からあまり本を読んでいない。

「お前こんな本読むのかよ」
「字が読めるのは貴重だからな。国王軍と同じような知識も得られる」

魔物の識字率が低いのは大体想像がつくが、サラマンダーがこんなに本を読むとは。
それにしても、向こうの世界の名作がここまで進出してるものなのか。

「ああ、その本は拾った。そのあたりの紙屑とかと一緒に落ちてた」

サラマンダーが示した先には、いくつかの紙の束が放ってあった。
一番上のものを取ってパラパラと捲る。
『熱田弥裕』『幸野圭』『八郷佑』『福田龍之介』『カイザー=ヴラフ』……。
何かの名簿かな?
どこか懐かしい手触りの紙だ。
もしや、これって……。

「サラマンダー、これを拾ったのっていつぐらい?」
「いつって、つい最近だ。必要ならもっていけばいい。俺は紙屑には興味がない」

間違いない、これは向こうの世界のものだろう。
しかし、なぜここに?

「あ、そうそう。ねえ、サラマンダー」
「何だ」
「シルフ、死んだよ」

彼はしばらく黙っていた。

「……そうか」
「それだけ? 冷たいね」
「別に」

サラマンダーの言う『紙屑』を握って、部屋を後にする。
もしかしたら、この世界から別の世界へ移動する方法があるかもしれない。
……あったとしても元の世界に帰ろうなんて気持ちは微塵もないけど。
退屈しのぎ程度にはちょうどいい。
まずは、いろいろな情報を集めなきゃ。
俺はノームが普段いると言っていた畑のほうへむかった。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.60 )
日時: 2016/01/25 10:37
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

 やはり城というものは、入る度に緊張するものだ。
 だってそうでしょ?
 中世の世界とかに出てきそうなお城だし、向こうの世界でも、当たり前だけど入ったことなんてない。
 まぁなんだかんだで、入らないと僕の目的は達成されない。

「あの〜・・・」
「次はペアを組んで組手ッ!その後はランニングだッ!」

 いつものごとく、グレンさんの怒号が鳴り響く。
 ホント、彼がラキのお父さんなんて信じられないよ。

「相変わらず怖いね〜『氷の中将』は」

 近くにいた兵士の一人がそう言って肩を竦める。
 彼も訓練しなくてもいい人なのだろうか。

「こおりのちゅうじょうって?」
「知らないの?戦場ではいつもクールで冷静沈着。適当にどっかの兵士が付けたあだ名が『氷の中将』。今じゃ知らない人はいないよ。本人は知らないっぽいけどね」

 ふぅんと適当に流しつつグレンさんに視線を送る。
 たしかに、怒号とかは酷いけど、戦場では静かだよな〜としみじみ思う。

「彼は戦うことが自分の娘のためになるって考えてるみたいだけど、普通一緒にいてあげた方が彼女のためになるだろうに」
「そういえば、ラキのお母さんは?家にもいないけど」
「あぁ、彼女の母は数年前に・・・

・・・死んだよ」

 当然のように、そう言う。
 そうじゃないかとは思っていたけど、やはりショックは大きかった。

「だからラキちゃんにとっては彼は唯一の家族というわけ」

 意外、ではなかった。
 べつにこれくらいは誰にでも考えられることだしね。
 予想くらいはできていた。

「あの親子はホント、お互いを尊重し合う良い家族だよ」

 そう言って大きく頷く。
 家族、か・・・。

『両親に捨てられたんですって』
『コインロッカーの中で発見されたらしくて・・・』
『可哀そうな子供・・・』

 家族・・・か・・・。
 義理の、血も繋がっていない両親との記憶はいくらでもある。
 しかし、血が繋がった『本当の』両親との記憶は一つだけ。
 捨てられたという事実だけだ。
 まぁ、良い思い出がなかっただけ、単純に一つの事実として受け止めることはできたけど。
 そのせいかな、何かに感情的になることはなくなってしまったような気がする。

「ぐはぁッ・・・ぁ・・・」

 血まみれになった兵士が城内に入ってきたことで、僕は我に返る。
 そうだ、今はグレンさんにラキからの届け物を渡さないといけないんだった。
 それに今こうして兵士がやってきたということは・・・。

「革命軍、か・・・」
「革命軍の小隊が・・・攻めてきましたッ・・・」

 そう言って兵士は絶命する。
 また、守ることができなかった・・・。
 結局は力の無い少年なのかな、僕は・・・。

「そうか・・・」

 グレンさんはそう言うと大きな剣を取り出す。

「ここにいる者は剣を取れッ!守るべき者のために、戦うのだ!」

 彼の言葉で、疲れていた兵士たちも剣を取り、城の中からも兵士が出てくる。
 僕も刀を持ってきていたので、届け物は一度近くに置き、後で渡すことにしようかな。
 しかし、後から僕は思うのだ。
 ここで止めておくべきだったと。

 そうすれば、『ただの力の無い少年』で追われたという事を。
 思い知らされることになる。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.61 )
日時: 2016/01/27 09:14
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)


そこでは巨人たちがせっせと建物(?)を建てていた。
たぶん、サラマンダーのアジトと同じ類のものだろう。
すごくにぎやかで、楽しそう。

「おう! そこの坊主! 少し手伝ってくれ!」
「えっ、俺?」
「チビのお前! 早くしろって!」

俺がチビなんじゃなくてあなた方が大きいんじゃ?
とか、言いたいことはたくさんあったけど、とりあえず手伝えることだけ手伝おう。
俺も戦闘で足を引き、ほかでも使えないなんて事になったら、目も当てられない。

「わかりました! 何すればいいっすかね?」
「そうだな、お前弱そうだし、背も低いし……これに水汲んでこいよ!」

……できることだけ、ね。
バケツだけで1kgはありそうだけど、声を掛けてくれたあの巨人が行ってしまった以上、文句は言えない。
はあ……頑張るか。

—————

作業がきりのいいところになったのか、巨人たちは休憩を取り始めた。
最初に声を掛けてくれた巨人が、俺の横に腰を下ろす。

「おう、坊主! さっきはナイスプレーだったぜ!」

コイツ、俺をからかってる。絶対からかってる。
ああ、できることなら時をさかのぼってバケツをつき返してやりたい。
そもそも俺にあれが務まるわけがないだろ。
体に巻いたタオルをもう一度しっかり巻きなおしむくれていると、
後ろから別の巨人が近づいてきた。

「おい、シュリー。あんまりそいつ怒らせんなよ」
「別に怒らせてねえよ。ただ俺はさっきのこと言ってるだけだって」
「バケツひっくり返して自分から水を被ったヤツか。このクソ寒い時期に」
「ックシュン!」

ああ、寒い。
そもそもあれはバケツじゃない、湯船だ。大きすぎるんだよ!
別に俺が無能ってわけじゃないからね!
後から来た巨人……ちょっと真面目そうなほうが尋ねた。

「ところでお前、何しに来たんだ」
「何しにって、俺は特に何も……」
「ふん、そうか。
お前って確か最近サラマンダーのところのヤツだよな」

質問の意図がわからないまま、「うん」とうなずくと、
その巨人はこちらを睨んだままいった。

「シュリー、あんまりコイツとかかわるな」
「何でだよ」
「下手に関わって何告げ口されるかわかんねえぞ、あのリーダー様に」

頭に来た。
言葉を理解する前に俺は立ち上がって怒鳴りつけていた。

「俺は告げ口なんか……」
「ああそうだな、告げ口するヤツもみんなそう言うんだよ」

俺の勢いは、静かに吐き捨てるような言葉にいとも簡単にかわされた。
行き場のない怒りを抱え唇を噛みしめていると、シュリーとか呼ばれていた巨人がなだめるように、

「あいつついこの間目の前で仲間が死んだんだよ。ショックで気が立ってるだけだからさ。
俺からもあいつに言っとくから、お前は休めって」
「いや、俺帰る」

ああ、もう二度とあいつに会いたくねえ。
何なんだよ、あの巨人。

「俺は告げ口とか関係なくお前と仲良くしたいからさ、もう少しここにいろって
ケントもそんなにカッカすんなって……」
「シュリー! いつまでお前はサボってるんだ!」

ケントと呼ばれた巨人が叫んだとき、ちょうど別の声がそれをさえぎった。

「国王軍が攻めてきた! 応戦の用意をしろ! 被害は最小限に抑えろよ!」
「チッ、またあいつらかよ……。
 おい、小僧。あのおっかないリーダー様は今どうしてるかわかるか」
「どうしてるも何もあいつは今怪我で動けねぇよ」
「ってことは向こうから仕掛けてきたってことで間違いないな。
 自分からやられに行くバカはあいつだけだ」
「ケント、お前俺に注意しておきながら自分でリーダーの悪口言ってどうすんだよ」

シュリーの指摘はもっともだが、今はそれどころではない。

「小僧、俺たちは戦いに行く。ねんねして待ってな」
「俺も戦うに決まってるだろ。薙刀だって持ってる」
「おっ、坊主はチビだけど武器は大きいのな!」

ダメだ、いちいち気にしてたら俺のライフが余分に磨り減る。
できるだけ無視を決め込んで、俺は二人から離れた。
脳裏に焼きついたシルフの姿が、俺の背を押す。
シルフを殺したヤツら——絶対に殺す。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.62 )
日時: 2016/01/27 16:56
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

 眼球だけ動かし敵を把握する。
 急所は外し、できるだけ出血も最小限で抑えられる場所を攻撃する。
 殺さなくても、戦えるんだ。
 僕は背後に現れた兵士の顎を剣の柄で殴り気絶させながら、そう自分に言い聞かせる。
 少しして、僕が相手をしていた兵士は全員倒れた。

「よし、次だ・・・」

 そう思って辺りを見渡した時だった。
 グレンさんが巨人を相手に戦っているのを視認する。
 たしかにあの人は強いけど、やっぱり巨人相手に一人で戦うのも大変だろう。
 殺しはしないけど、戦うことはできるはずだ。
 僕は応援に行こうと一歩踏み出した時だった。
 ダァンッ!
 銃声が鳴り響き、グレンさんの頭から鮮血が吹き出した。

「え・・・」

 僕は立ち止まり、視線を横にずらした。
 そこには、銃を構えた・・・——僕が生かした兵士が、立っていた。

「グレン・・・さ・・・?」

 僕は困惑しながらも、グレンさんに駆け寄る。
 即死だったらしく、すでに彼はこの世にいなかった。

「な・・・んで・・・」

 結局、僕は人を殺すことしかできないのか?
 回り回って、結局何をしても、人は死ぬ。
 僕には、人を殺すことしかできないのか・・・?

「ま・・・待ってくれッ!殺さないでくれッ!」

 ならいっそのこと、全部壊しちゃえばいいんだ。
 ほら、今だって刀を振っただけでグレンさんを殺した兵士は死んじゃった。
 残りの兵士だって、僕が刀を振れば死んじゃった。
 あはは、人を殺すなんて簡単だよね。
 僕がこの刀を振れば人は死ぬ。
 僕が守りたいと思えば人は死ぬ。
 僕が生きてるから人は死ぬ。

「あ、そっか・・・」

 僕が死ねば誰も死ななくて済んだんじゃないか。
 僕がいたから皆死んだ。
 僕が死ネバ、ミンナイキカエルヨネ。

「もう・・・どうでもいいや・・・」

 足元に転がっていた拳銃を拾い、弾が入っていることを確認する。
 あ、この拳銃、真新しいし弾も一発も使われてない。
 僕と違って、まだ人を殺してないのかな。
 僕は自分のこめかみに銃口を突きつけた。
 今更怖がっているのかよ、死ぬことを。
 震えが止まらないや。
 涙が、出るよ。

「ごめんなさい・・・」

 謝っても仕方がないよね。
 謝っても誰ももう生き返らないもんね。
 まだ自分から望んで死ねるだけありがたいと思えよ。
 僕は深呼吸をして空を見上げた。
 今までの人生が、走馬灯のように蘇る。
 あぁ、せめて最後に・・・ラキと、話したかったなぁ・・・。
 僕は静かに、引き金を引いた。
 乾いた音が響き渡った。

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.63 )
日時: 2016/01/28 09:53
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)


「何だあいつ……逆に気味が悪い」

ケント……とか言う巨人がつぶやいた。
確かにそれは、ここで過ごしてきた彼らに言わせると異様な光景だったのだろう。
空のまわりには人が転がっていた。
その人は皆死んでいない。気絶しているだけなのだ。

「今度は何考えてんだよ、国王軍のヤツら……! 俺たちをなんだと思ってんだ!
なあ、坊主!」
「えっ、あっ、そうだな、シュリーさん」

俺は——勝手な思い込みだが——少しその理由がわかっていた。
ここに倒れている人はきっと全部空がやった。彼に前ほどの実力があったなら間違いない。
そうだとしたら理由は一つ。彼が人を殺せなくなったから。
何故……と問われると、そこまではわからないが。

「また昔の実験とか何とかに使う気か……?」
「実験?」
「……小僧、お前何も知らないんだな……道理であんなリーダー様と一緒にいられるわけだ」
「まあまあ、坊主は若いんだからさ」

そろそろ『坊主』とか『小僧』とか呼ぶのやめて欲しいんだけどな。
って言うか俺はいつまでもここにいていいのかな? みんな戦ってるよ。

「俺はもう少しここで様子を見る。殺されるのも嫌だし実験に使われるのもごめんだ」
「坊主いってこいよ、俺はここにいるから」

いいのか、この二人。言うことはわからなくないけど。
俺は薙刀を持って戦場に出ようとすると、ケントが小さな声で言った。

「おい、小僧。そういう長い武器はできるだけ遠くから使え。
お前は国王軍に比べて手足が長いから、ちょっと遠くても十分戦える」
「ん、ありがとう」

思ったよりいい二人なのかもしれない。
空の姿を探して戦場の真ん中のほうへ向かう。
思ったとおり、気絶していた人が多いのは空が通った場所だけだ。

“伝斗! 死ぬな! 目を覚ませ、伝斗!”

……あれ? 絶対どこかで空に言われた台詞だけど、いつ言われたんだ?
この世界に来てからじゃないと思うけど……もっと昔……?
ま、いっか。今思い出さなくても。

「小僧、後ろ!」
「えっ」

ケントさんがすごい速さで俺の後ろへ駆け抜けた。
鈍くて大きな音が響いた。
後ろに立っていたのは、赤髪の大男。
とたんに全身の血が沸き立った。
この男、憎い! 憎い!
突っかかろうとする俺を、ケントの声が止めた。

「離れろ! 感情的になるな! 俺の言ったことを忘れたのか!」

そうだ、俺は俺のできることをしないと。
思い切り間合いを取る。
そのとき、ケントの体から赤いものが散った。

「ケントさっ」
「ケント!」

反応したのは、シュリー。
ケントに向かって発砲した兵士を殴り倒し、銃を奪って迷わずに打ち抜いた。
銃声が耳を劈く。
赤い髪の大男が倒れた。
命懸けってこういうことなのだと、今更思い知る。
俺はあの覚悟を持って戦っていたっけ?

「シュリー!」

次はケントの声だ。
視界の隅で大きな体が倒れた。巨木が切り倒されるように。
切ったのは——白髪の少年。

「そッ」
「小僧! 逃げろ! コイツ、普通じゃねぇぞ!」
「でも!」
「殺されたいなら勝手にしろ!」

ケントはシュリーをしょって逃げた。
たぶん彼らは助からないことを知っている。
それでも助けるのは、友情。

“伝斗! 死ぬな!”

いつか俺がその友情に救われたとしたら。
空は銃を手に取った。
俺は空めがけて飛んだ。

“ちょっと遠くても十分戦える”

俺なら、できる。
腕を伸ばした。
もう少し。あと少し。
届かせる、届かせてみせる。

乾いた音が響き渡った。


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