複雑・ファジー小説
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- スピリットワールド【合作】
- 日時: 2017/11/03 17:10
- 名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)
この作品は合作です!
こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします! 雅
どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
凜太郎
こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音
遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!
弓道子
〜目次〜
登場人物
空編 >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
>>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
>>060>>062>>064>>066>>068>>070>>072>>074>>076>>078>>080>>082
>>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
>>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編 >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
>>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
>>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
>>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
>>111>>113>>116>>118
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.89 )
- 日時: 2016/03/22 10:48
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: zpiITAde)
目を覚ますと、綺麗な白い天井が見えた。
ここは?
痛む首を無理矢理動かそうとすると、
「ダメ。動かしちゃダメです、怪我しているんだから」
よく通る高い声が飛んできて、少女が俺の顔を覗き込んだ。
明るい空色の髪、紅玉の瞳。
年は俺と変わらないんじゃないか。
たぶん、8〜10歳くらい。
「私、ラキ。君の名前は?」
その子は、まるでその行為が当然であるかのように俺に尋ねる。
俺にとって、名を問われるなんて初めてのことで、動揺した。
そもそも、母親以外の人間とまともに会話をしたこともない。
喘ぐように、たどたどしく音を発する。
「……サラマンダー……」
—————
3つのとき、母親に手を引かれてやってきたこの村が、俺は嫌いだった。
父親がドラゴンだから。混血だから。人間じゃないから。
そんな言葉と暴力に打たれて育ってきた。
先ほどだって、少年に崖から突き落とされた。
「お前は俺が怖くないのか……?」
ラキはきょとんとしてから、笑った。
「怯えているのは君のほうでしょう?」
彼女といると初めてのことが多すぎて、それを拒むかのように毛布を固く身に纏う。
痛くも怖くもないのに涙が出そうになった。
慌てて顔まで覆い隠す。
それを見て、またラキが笑った。
その表情を見ると——上手く言えないが——くすぐったい気持ちになる。
その後も、何度かラキの方から話しかけてくれた。
最初はラキまで迫害されることを恐れていたが、彼女は気にする様子もなく俺にかまってくれた。
次第に、俺の中でラキの存在が大きくなっていった。
もう一つの心の支え、それが母さんだった。
むしろ、母さんが俺の世界のすべてだった。
本を与えてくれたのも。
励ましてくれたのも。
抱きしめてくれたのも。
俺なんかのために、涙を流してくれたのも。
「強くなって」と、毎晩頭を撫でてくれたのも。
ある日、ラキの家にこっそり木の実をおいて帰ると、母さんが血を流して倒れていた。
母さんのそばには、3人ほどの兵士が立っていた。
血に汚れた刀。
それだけで、十分。その状況を説明するのには十分すぎた。
「母さんを虐めるな!」
そんなことを言って彼らの前に飛び出す。
殺されるかもしれない。痛いだろう。
でも、母さんを守るためなら痛いくらい我慢しなきゃって思った。
刃が目の前をかすり、額に鋭い痛みが走る。
痛いよ、誰か助けて。助けて、父さん。
「お前の父親は昨晩捕らえられた。すぐにでも殺される」
そんな兵士の言葉が心臓を抉る。
嫌だよ、母さんを傷つけないで。
母さんの栗毛色の長い髪が、朱に染まっていく。
俺の髪みたいに、先から根元まで、少しずつ、赤く。
「……強く、なって……」
掠れてよく聞こえなかったその言葉が、なぜだが一番深く胸に突き刺さる。
限界。
無我夢中で目の前の兵士に飛び掛った。
刀を奪い取り、何も考えずに刃を振るう。
“何の本を読んでいるの?”
“怪我について。俺もこの前助けてもらったし、俺も母さんのこと助けたい”
“そう、素敵ね”——。
結局何もできない。母さん一人守れない。
もういっそ何もかもなくなれば。みんないなくなってしばえばいいのに。
俺の中には、一つの基準があったのかもしれない。
母さん、そして顔も知らない父さん。それ以外は皆、敵。
だから、イレギュラーなラキの存在に動揺したんだ。きっとそうに違いない。
気がついたら、ラキの家の前だった。
振り返ると、夕焼けのような炎に包まれて死んでしまった村が見えた。
俺の体は刀身とともに炎と鮮血に染まりきっている。
殺した自覚なんてなかった。でも、殺したのは確かだ。
そして、最後にラキとその家族が残っている。
……ごめんなさい。
俺は火を放ち、その場を後にする。
「父さんの元に、行かなくちゃ……」
—————
伝斗は部屋にいなかった。
5年前の出来事なのに、いまだ鮮明に残っている。
ラキは、生きていた。
とりあえず、それで十分。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.90 )
- 日時: 2016/03/22 11:01
- 名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)
「えっと・・・・・・」
僕の2時間にも渡る過去話を聞き終えた彼女は、困惑したような様子で目を左右に泳がせている。
まぁ、異世界から来たなんて話聞かされて、むしろ困惑しない方が無理な話だろう。
彼女を混乱させないためにも、今まで言わなかったようなものだ。
「知らなかった・・・・・・異世界人だった、なんて・・・・・・」
ラキはそう言って両手をギュッと握った。
「別に気にしないでよ。普通、そんなことなんて考えない」
僕はそう言いながら、握りしめた彼女の手の上に手を置く。
生まれてはじめて、心から信用できる人の温もりは、とても温かかった。
「おかしいと思ってたんだ・・・・・・この世界で、白い髪の人なんて見た事ないし、それに、記憶無くしても、この世界では魔法なんて当たり前だし、学んだ知識は覚えてるなら、魔法も覚えてるハズだよね」
僕は無意識に自分の髪を指で触った。
今では一種のトレードマークになってる白髪。でも、別に白くしたかったわけじゃない。
「僕だって、ここに来る前は黒かった。多分、トリップの時にここの魔力とかと反応したんじゃないかな?」
「でも、デントさん?は髪白くないよね。色素は薄いけど」
うーむ、僕の髪が特別・・・・・・というわけではないだろうな。
ここでは椿とも出会ったけど、彼女の髪も大丈夫だった。
これについては、また今度福田さんに聞いてみよう。
とりあえず、今は適当に誤魔化すことにする。
「あー・・・アイツ実は昔から病気なんだよね。徐々に衰弱していってやがて死んでしまうという未知の病。回復魔法でも治せないらしく、アイツの髪は細胞が死んでて、多分僕の髪が白くなった原因の物質とかには反応しなかったみたいなんだ・・・・・・」
「なるほど。だからあんなに体が細いんだ」
あ、冗談で言ったらまともに受け取られちゃった。
まぁ、伝斗だって男子なんだからもっと筋肉をつけるべきなんだよ。
これは部活をすぐにやめちゃった伝斗へのちょっとした罰ってことで。
まぁ、これからラキと伝斗が関わる機会があってほしいわけじゃないけど。
「でも・・・晴れた空君、かぁ〜」
ラキはポツリとそう呟いた。
こうして聞くと僕のフルネームって恥ずかしい。なんだよ晴れた空って。文章じゃないか。
「急にどうしたの?」
「え?えっとね・・・・・・その・・・・・・」
ラキはなぜか少し目を泳がせた後で、俯いて恥ずかしそうに言った。
「ソラ君には、その・・・ピッタリな名前だな〜って」
僕に、ピッタリな名前?そんなこと、考えた事もないや。
むしろ逆。僕は空が大嫌いだ。
それは、今でも変わらない。特に晴れた空なんて、気味が悪くて仕方ない。
被害妄想だと思うけど、僕を嘲笑っているようにしか見えない。
「だって、ソラ君は温かいし、体は小さいけど、その分、心はすごく大きい」
そう言って微笑む。
その笑顔を見た瞬間、最後まで残っていた何かが静かに溶けていった。
あぁ、そうだ。僕はこの笑顔を守りたかったんだ。この笑顔があれば、光があれば、僕の生きる意味があるような気がして。
「ラキ」
「ん?なに?」
「これを、受け取って欲しい」
僕は上官用の拳銃を取り出し、彼女に渡した。
彼女は目を見開いて、それを見る。
「昨日、伝斗が来たんだよね?多分、革命軍には、この家の場所はばれている。下手したら、これからも来るかもしれない」
「で、でも・・・・・・」
「だから、僕が傍にいない時は、この拳銃を使ってほしい。銃口を向ければ一瞬でも怯むだろうから、その間に逃げて欲しい。もしダメなら、引き金を引いて」
「ちょ、ちょっと待って!」
拳銃を渡した理由を説明する僕を、彼女は遮った。
「ん、どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ・・・・・・ソラ君は、私には人を殺してほしくないんじゃなかったの?」
「そうだよ。僕は君に人殺しをしてほしくない」
「じゃあッ・・・・・・」
「これは、命令だ」
少し声にドスを効かせてみた。ラキが微かに怯んだのが分かった。
僕は彼女の手から拳銃を奪い取ると、頭に押し付けた。
「この拳銃を使って、敵を殺せ」
「ッ・・・・・・」
「さもないと、貴様の命は無い」
彼女が怯えているのが分かる。まぁ、実際に引き金の引くつもりはない。
だって、こうすることで、彼女の手は血で汚れなくなるから。
僕はそのまま拳銃を指先で回し、彼女に持ち手の部分を向ける。
「君はあくまで、僕に脅されて殺すだけ。君の意志じゃない」
「えッ・・・・・・」
「この拳銃だって僕のものだ。つまり、君が殺したんじゃなく、殺したのは僕なんだよ」
彼女は、よく分からないと言いたげな顔で僕を見る。
いや、ホント僕何言ってるんだよ。自分でも言葉がまとまらなくなってきている。
僕はできるだけ口角を上げて、笑顔を浮かべて見せる。
「僕は君に生きてほしい。本当は僕の手で守りたいけど、そこまでの力はまだないから、だから・・・・・・」
「ハァ・・・・・・そういうことか」
彼女はクスッと笑い、僕の手から拳銃を受け取った。
そして銃口の辺りを指でなぞり、僕に笑みを浮かべて見せる。
「ありがとう。すごく嬉しい」
そう、僕はこの笑顔を守りたいんだ。
この笑顔を血で汚したくない。たとえ僕が死んでも、たとえどんな犠牲を払ってでも。
「そ、それじゃあ・・・・・・私、ちょっと出かけてくるね!」
「ん。何か用事?僕もついていくよ」
「ううん、一人で大丈夫。ソラ君は、たまには少しゆっくりした方がいいよ」
そう言って立ち上がると、拳銃を持ったまま家を出て行った。
拳銃出したまま歩く気か?人の目を引くぞ?
今度ホルスターでも買ってあげよう。
いや、僕の給料はラキが管理しているし、自分で買ってもらうしかないか。
僕はソファに倒れ込み、クッションに顔を埋めた。ちょっとだけ彼女の匂いがする。
って、何ラキの匂いを堪能しているんだ僕は。変態か。
「・・・・・・そろそろ、ケリをつけなくちゃなぁ・・・・・・」
僕は立ち上がり、自室に行く。
そして、棚の引き出しから福田さんに直してもらったスマホを取り出す。
僕はそれを、壁に投げつけた。粉々に砕け散った。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.91 )
- 日時: 2016/03/28 16:06
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)
「ノーム、今時間あるかな」
「ええ、かまいませんよ」
畑作業をするノームに名簿を見せた。
「これは?」
「うん、ちょっとね。この写真の中に知ってる顔がないか聞いておきたくて」
「あー……すみません。ちょっとわかりません」
ペラペラとめくった後、ノームはため息をついた。
俺はダメ元で聞いたし、むしろいなくて当然なんだけど。
「私、覚えるとかそういう類が本当に苦手で……」
「あ、いや、いいよ。いるかいないかもわからない人ばかりだし」
むしろノームはすごい。
毎日ほとんど休みもせず革命軍のために働いているのだから。
勝手に動き回ってる俺なんかよりよっぽどすごい。
「ノームってさ、何でそんなにあんなリーダーに尽くせるんだよ。嫌になったりしねーの?」
「嫌……になったことはありません。長いこと生きてきて、もう既に自分にできることとできないことの判別はつくようになりましたから。
できることを精一杯できるだけで幸せです」
「……やっぱりすごいなー。できることを精一杯なんて、絶対無理。
ましてや人のために働こうなんて絶対に思わないね」
俺が言うと、ノームは照れたように笑った。
「それは、彼が16歳って言うのもあると思うんですけどね」
へえ、俺15歳だから一つ違いか。でも、なぜ?
ノームは戸惑うような顔をして、ゆっくりと口を開いた。
「……16年前、私の妻が腹に子を宿したまま亡くなったんです。
だから、リーダーが我が子のように思えるというのも、あるのかもしれません」
我が子、ねー……。
たかが自分の子供と同じ年ってだけでそんなに思い入れ深くなったりするものかな。
まあでも、死んでるならそういうこともあるのかもね。
死んだ者を神聖化するのは、魔物も人間も同じことだ。
「俺とノームは全然違う頭のつくりなんだろうなぁ。
恩でも着せられない限りつくしたりなんかしねぇし。着せられてもしたくない」
「恩、ですか。それなら、この足とか」
ノームによると、彼がサラマンダーを革命軍のほうへ連れてきたとき怪我を負い、
それを治療したのもサラマンダーらしい。
「えー、何それ。アイツそんなことできるの? 詳しく聞きたーい」
「そうですね、長くなりますよ……」
—————
リーダーが捕らえられた。
大半の兵士が士気を失う中で、ノームを含む数名は最後の望みをかけてリーダーを助けに向かった。
砂埃。霞む視界。倒れる仲間。その様はまさに地獄絵図。
やっとのことでノームが処刑場へついたときには、首のないドラゴンの巨体が残っているだけだった。
「そんな……」
ノームは肩から崩れ落ちた。
かすかな希望がたった今、果てしない絶望へと変わる。
リーダーが死んでしまった。兵士はもう戦おうとしないだろう。革命軍は負けたのか……?
なぜだか人は一人もおらず、あたりは燃え盛る業火に包まれようとしている。
いっそのこと、リーダーの死を伝えずに自分がここで命を立ってしまえば——。
そう思ったとき、しゃくりあげるような声が聞こえた。
煙に巻かれながらも目を凝らす。
そこには、うずくまる人間の少年の姿があった。
何かを抱えているようにも見える。
「誰? 何をしているのですか?」
ノームが声を掛けると、彼は怯えた目でこちらを見た。
それからギッと睨みつけて威嚇するように、
「こっ、殺すなら殺せよ! 早く!」
金色の瞳、艶のある黒髪、燃えるような赤い毛先。
ドラゴンではないが、風貌はリーダーにとてもよく似ていた。
思わず、ノームは手を差し出す。
「逃げましょう」
「嫌だ! 俺はここで死ぬ」
「死んでどうなるのですか。
行きましょう。あなたを待っている人がいます」
「そんなのいない! 母さんは殺された。父さんも、今……」
少年は視線を落とした。
彼が抱きしめていたのは、ドラゴンの首。
「俺は……混血だから。人間じゃないから。
俺を待ってる人なんていない。大切な人はもう死んだ。だから」
大粒の涙がこぼれて落ちた。
噂は聞いたことがあった。
リーダーは、人間の女性に恋をし、子をもうけたと。
その女性も、結構前に子を連れてドラゴンの集落から出て行ってしまったそうだ。
とにかく、何にしろ幼い子供を見殺しにするようなまねはできない。
「あなたの母親もリーダーも、あなたの死を望んではいない」
「じゃあ、俺は何で死なないんだよ……何で生きなきゃいけないんだよ……ッ」
「それは」
ふと、妻と二人で過ごした日々を思い出した。
子供が生まれたらなんて考えるのが、幸せだった。
『なぜ生きなきゃいけないの?』
そう問われたら、こう返すと決めていた——。
「私があなたを必要としているからです!」
ノームが強引に少年の手を引いた。
—————
「……へー、いい話」
あと、サラマンダーは昔からあんな性格なんだなーってことはわかった。
ついでにあの頭蓋骨の由来も見当がついた。
「仕事邪魔して悪かった。ありがとな」
「いえ、こちらこそ年寄りの長い話に付き合っていただいて」
畑を後にする。
手伝い? ああ、俺には無理無理。
結局名簿についての手がかりはゼロか。ちょっと面白そうだと思ったんだけど。
そろそろサラマンダーが起きるかもしれない。
そしたら、少し戦闘の練習にでも付き合ってもらおうかな。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.92 )
- 日時: 2016/03/28 16:12
- 名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)
相変わらず、大袈裟な広さだな。
城の中をのんびり歩きながら、僕はなんとなくそう思った。
今日は国王に用事があって城にやって来たのだが、この城の大きさには感嘆せざるを得ない。
用事と言っても、大したことではない。
先ほど兵士たちが鍵の束が盗まれていたと騒いでいたので、とりあえず国王と軽く話し合うだけだ。
と、国王への用事を思い出しながら歩いていると、王室の前に着いた。
いるといいけどな〜なんて考えながら、僕はドアノブに手をかける、
「お願いします!もう少し税金を減らして下さい!」
中から聴こえてきた声に、僕はドアを開ける手を止めた。
嫌な予感がする。これ以上この会話を聞いてしまったら、また僕は酷い目にあいそうな感覚。
そう、8年前のあの日のように・・・・・・。
「それはできない」
国王の声。なぜだ?あの人は優しい人のはずなのに、なぜこうも冷たい言い方ができるんだろうか?
僕は扉に耳を付けて続きを待った。
「お願いします・・・・・・税金のせいで、私達の村は金が足りず、なんとか育てた農作物も国の為だとほとんど兵士によって強奪されましたッ・・・・・・税金を減らしてもらわないと、私達の村はもう終わりだッ!」
「知ったことではない。この城下町は人が多いのでな、食料や金が必要なのだ」
冷ややかな声。この声を出しているのは本当に国王なんだろうか?
あぁ、そうか・・・・・・国王も陸人君と同じ、仮面を被った人間なんだ。
「ですが、私達の村のことももう少しッ・・・・・・」
「黙れ。僕に反抗するな。貴様は死刑だ」
「なぜッ・・・・・・」
「僕に逆らう者は、生きる価値などない」
最後の言葉を聞くのと同時に、僕はそのドアを離れ長い廊下を歩く。
ここにいては駄目だ。このままでは、僕もラキも彼の黒さに染まってしまう。
次第に歩く速度は上がる。逃げなくちゃ・・・・・・この国から。あの国王から。
城を出るのと同時に僕は走った。
−−−
「お母さん・・・・・・」
ここは、戦争で死んだ人の墓地。
目の前にあるのは、お母さんのお墓。
お父さんの死体は革命軍が回収したらしく、まだお墓はできていない。
できるのならこのお母さんのお墓の隣がいいな。天国では、二人で幸せにしていてほしい。
「お母さん、私ね。好きな人できたんだ。すごく強くて、優しくて、でも、弱い人。背も低くて、サー君に少し似てる子なんだよ」
一人で墓に語りかけるという行為はとても恥ずかしいことだけど、お母さんには、今の私の状況を知っておいてほしかった。
私が小さい頃、お父さんはいつも戦場に行ってたから、家でお母さんと一緒に待っていた。
怖い夢を見た時は、お母さんの腕の中で子守唄を聴きながら眠ったり、一緒に魔法の練習をしたり。
そんなお母さんは、町に革命軍が攻め込んできた時に逃げ遅れた私を庇って死んでしまった。
剣で真っ二つにされた母親の姿は、今でも脳裏に鮮明に蘇る。
「お母さん・・・・・・私、あの頃よりも強くなれたかな・・・・・・?」
今、私の手には、拳銃が握られている。
これは、世界で一番大切な人がくれたプレゼント。
『僕は君に生きてほしい』
彼の声、顔・・・・・・思い出すだけで顔が熱くなる。
って、なんで私親の墓の前で好きな人のこと思いだしてるんだろう。
「・・・・・・サー君」
その時なぜか、幼い頃に出会った少年を思い出した。
たしかあれは、10歳の頃のことだ。
まだ私達が町じゃなくて村に住んでいたころ、崖の下で怪我をしていた毛先の赤い黒髪の少年を家に連れて行って、看病してあげたことがあった。
別に私が誰かを連れ帰って怪我の治療をするのは初めてのことじゃないのに、お父さんもお母さんのあまり良い顔はしていなかった。
でも放っておけないし、客室に寝かせてあげて治療した。
私は初級の回復魔法しかまだ覚えてなかったから、浅い傷だけ治して後のところは包帯で不器用に治してあげた。
サー君は、なぜか怯えていた。
なんだかそれが可愛くて、まるで弟ができたような気持ちになった。
その後も、彼に会うのが楽しみになって、よく話しかけたりした。
彼のことが好き、というわけではなかった。恋とは別の感情。
友達とか、守ってあげないとっていう責任感みたいな。
そんな幸せな日常はすぐに途絶える。ある日、村を燃やされた。
その時はお父さんと一緒にいた時だったから、お父さんに抱かれて家を出た。
お母さんはその時晩ご飯の買い物に出かけていたから、一家全員無事だった。
その頃はあまり裕福じゃなかったし、お父さんも中将じゃなかったから、町に行ったり家を探したりするのは大変だったけど、家族3人で一緒にいられるだけで私は幸せだった。
でも、家を焼かれた時、私は密かに見ていたのだ。走り去っていくサー君の姿を。
でもお父さんには言わなかった。だって言ったら、サー君が殺されちゃうから。
結局、サー君はどこかに行ってしまった。
元々私が勝手に仲良くしていただけだし、いつかいなくなることは予想していた。なんて、言えればいいんだけど。実際は想像もしていなかった。
自分がどれだけ甘やかされていたのかを、知ることになった。
人はいずれ自分の前から去ってしまう。そんなの当たり前のことなのに。
サー君と話したりするこの日々が永遠に続くものだと、信じて疑わなかった。
お母さんやお父さんだってそうだ。ずっと私の傍にいてくれるんだって、甘えていた。
人はいずれ自分の前からいなくなる。それが早くなるか遅くなるかの差だったんだ。
「お母さん、安心してね。私は・・・・・・ラキは、今も元気に過ごしてるからね。だから、だから・・・・・・」
気付けば、目から涙が流れていた。
悪い癖だ。お母さんのお墓に来ると、いつも泣いてしまう。
優しかったお母さん、大好きなお母さん。そんなお母さんを、私が殺した。
私が逃げ遅れたせいで、優しいお母さんは私を庇って死んでしまった。
私が逃げ遅れなければ、私がもっと強かったら・・・・・・。
「私なんか・・・・・・生まれてこなければ・・・・・・ッ!」
「そんなこと言わないでよ」
気付けば、私は抱き寄せられていた。
白い髪。グレーの軍服。
なんで・・・・・・なんで、あなたがここにいるの・・・・・・?
「なんでそんなこと言うんだよ・・・・・・僕は、君がいるおかげで生きていられるのに・・・・・・」
彼の真剣な瞳が私の泣き顔を映し出す。
つい数時間前は私が慰めてた立場なのに・・・・・・。
「だって、私のせいで、お母さんが・・・・・・」
「例えばもし、僕が死んでラキが生きられるって言うのなら、僕は喜んで自害する」
ソラ君の言葉に、私は目を見開く。
少し離れて、彼は私の手から拳銃を取ると、自分のこめかみに銃口を付ける。
「君は僕だ」
ハッキリと、そう言い切った。
「君は、僕の生きる意味だ。君がいるから僕は生きられる。君がいなかったら、僕の存在価値なんてない」
「そんなこと・・・・・・」
ないよ、と私は力なく言う。
私は、彼の生きる意味なんかにはなれない。そんな立派な人間じゃない。
そう思っていた時、さらに強く抱きしめられた。
「君はすごい人だよ。僕なんかより、ずっと・・・・・・」
「私は別に・・・・・・」
「君がすごくないのなら、僕はただの人殺しだよ」
「そんなことないよ。ソラ君は、国のために殺しているんだから」
「そんなの、僕の行為が美徳化されているだけだ」
「でも・・・・・・」
「それに、この国は守るほどの価値なんてない」
「え?」
彼から唐突に放たれた一言。
優しい彼が放った言葉とは思えず、私は思わず目を見開く。
その後彼は、国王が酷い人だったということを話した。
信じられないけれど、彼が私に嘘をついたことなんてない。信じざるを得ない。
「国王が、そんな人だったなんて・・・・・・」
「もうこの国はダメだよ・・・・・・国王がひどすぎる・・・・・・」
彼は私の耳元に口を近づける。
そして小さい声で言った。
「ラキ・・・・・・一緒に逃げよう」
「・・・・・・うん」
その日私たちは、軽く荷物をまとめて町を出た。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.93 )
- 日時: 2016/04/01 16:02
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)
「サラマンダーのチビ!」
「お前だって同じくらいの背だろ!」
「じゃあ、デブ!」
「それはお前が痩せすぎてるだけだろ!」
「おー、太刀筋が乱れてるぞ。集中しろ」
「伝斗がうるさいから!」
「俺はしゃべってるほうが集中できるんだよ」
「そんなわけないだろ!」
ギャーギャー言いながら剣を交わす二人を、ノームは遠巻きに見ている。
そこへケントとシュリーがやってきた。
「何見てるんだ?」
「二人が剣の練習をしていて、危ないので」
「子供のケンカにしか見えない」
ケントの言葉に、ノームは笑った。
サラマンダーが伝斗に馬乗りになって頬をつねっている。
なるほど、確かに子供だ。
「いっつもこんなのにつき合わされて、ノームさんも大変ですね」
「いえいえ、楽しいですよ。
ケントニスも、そんな堅くならなくてもいいのに」
「あ、いえ、年上なんで」
「そうだぞ! 堅くなるな!」
「シュリーはもっと礼儀を重んじろよ!」
ケントがつっこんだところに、ちょうどサラマンダーの太刀が地面に突き刺さる。
伝斗がふっ飛ばしたらしい。
「ごめんごめん、ちょっと力入れすぎた。
お! シュリーもいるなら一緒に相手してよ」
「おっしゃ、任せろ! 手加減はしねぇぞ坊主!」
子供みたいに駆けていく三人。
少し前まで戦場で足を引っ張っていた伝斗も、だいぶ武器の扱いに慣れたようだ。
「小僧、強くなりましたね」
最近の伝斗は、気がついたら片手で薙刀を振り回しているときさえある。
今までの彼からは想像もつかないほど強くなっているはずだ。
その成長には、目を見張るものがある。
「でも……私はそれが少し気がかりです」
「どういうことですか」
「かつてののサラマンダーに似てきている……何かに依存しながら戦っているように思えるのです」
“母さんは殺された。父さんも、今……”
父親の存在だけを頼りにふるった刃は、死という絶望によって錆付いた。
依存先を失った怯えた少年の姿が、くっきりと脳裏に焼きついている。
かつて、と言ったが、ノームはずっと気づいていた。
きっと彼はいまだ父親のためだけに戦い続けているに違いない。
「それは、依存先を失ったら弱くなるから……ですか」
「それもありますが……。
依存しているもののために心をすり減らす。それが怖いんです」
首をかしげるケント。
「すみません、俺にはちょっと。わかんないです」
「そうですね……トライデントの普段の表情が、少し愁いを帯びてきているような気がして」
かなり時間がかかって、
ようやくケントはトライデントが伝斗のことだと言うことを理解したようだ。
「確かに。ちょっと以前と比べて暗くなったかも……です」
「何か悩んでいるようにも見えるし、きちんと相談とかできると言いのですけれど……」
「“愁い”って? なーあに?」
いつの間にかちゃっかり後ろにライヒェが立っている。
一通り決着のついた3人休憩がてらこっちに集ってきた。
サラマンダーだけは何故かちょっとふくれっ面だったが。
「どうしたんだよ、ライヒェ。
みんながいるとこにわざわざ出てくるなんて、めずらしー」
「うん、できるだけ早く伝えなきゃと思って」
いつも通りの読めない笑顔で続ける。
「ラキちゃんと空君、いなくなっちゃったー」
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