複雑・ファジー小説
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- スピリットワールド【合作】
- 日時: 2017/11/03 17:10
- 名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)
この作品は合作です!
こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします! 雅
どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
凜太郎
こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音
遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!
弓道子
〜目次〜
登場人物
空編 >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
>>036>>038>>040>>042>>044>>046>>048>>050>>052>>054>>056>>058
>>060>>062>>064>>066>>068>>070>>072>>074>>076>>078>>080>>082
>>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
>>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編 >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
>>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
>>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
>>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
>>111>>113>>116>>118
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.69 )
- 日時: 2016/02/15 13:32
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
まるで生きている心地がしない。
『夢だったら』なんて言葉がグルグルと頭をめぐる。
自分が少しずつ異常になってきたような、あるいは、これが本当に正常な思考なのか。
わからない。
「そもそも俺、向こうの世界でも変なヤツ扱いされてたしな〜」
先ほどの戦闘からそんなに時間もたってない。
サラマンダーと話したら、急に脳がスッと冷えてきて、嫌なくらい落ち着いた。
いつまでもボーっとしているわけにもいかないし、死体処理を少しずつ進めている。
死体を分けて、家族がいる場合は家族に知らせを出す。
場合によっては死体を引き渡す。
いなかったら適当に燃やして処分。
だいぶこの作業も板についてきた。血にも死体にも慣れた。
喜んでいいことなのかどうかはさておき。
次の死体は、見覚えのある大きな体をしていた。
ケントだ。
気づかなかったが、巨人のくせに意外と細くて、脆そう。
・・・・・・
ぐっと引き上げると、彼は眼を覚ました。
俺の思考が停止する。
「あ、おはよー……って、うわあああっ!? 生きてる!?」
「ん……あ、小僧。無事だったか」
「こっちの台詞だよ! 死んだんじゃねぇのかよ」
「回復魔法ってのは、少しでも使えると有利だな。やっぱ。
小僧も使えるのか、そういう魔法」
俺は首を横に振る。
使えるわけないでしょ。俺人間だよ。
魔法使いじゃないんだから。
「そうか、一つ憶えておくと便利だぞ」
だから無理だって。
ケントは体についた砂を払って立ち上がる。
ちなみにシュリーのほうも簡単に処置をしたのでおそらく生きているのでは、と言うことだった。
それにしても意外だ。この大男に回復魔法が使えるとは。
「革命軍は国王軍より断然回復系統の魔法を使える者が少ないからな。
というか、そもそも魔法と呼べるものを扱う者が少ない」
「国王軍って人間ですよね、魔法使えるんすか?」
「あいつら学問は一流に発達しているからな。
魔法使えない人間なんて雑魚ぐらいだろう。雑魚以下だな」
もしも〜し、目の前に魔法使えない人間いるんだけど。
ええっ、俺って雑魚なのか。地味にショック。
魔法って勉強すれば使えるようになるものなのか。
「文字が読めれば魔導書とか読めるだろうな。
俺は読めないから独学だ。たぶん普通の回復魔法とはまったく別物だろうな」
字が読めないのに独学って、地味に自慢だよね。ね?
実はこの人、俺が魔法使えないってわかってこの話してるんじゃないか。
だったら相当性悪だ。字も読めないくせに。
「字が読めるのに何で革命軍なんかにいるんだ、小僧。
人間だろ」
「いいじゃん、別に。
字なら少し教えるけど」
ケントがばっとこちらを向いた。
信じられないと言うようにこちらを見つめている。
「……正気か? 俺は巨人だぞ? 小僧は人間だぞ?」
ケントは俺をなんだと思ってるんだ?
確かに教えるのは下手くそだけど。
「代わりに魔法とかこの世界のこととか教えてくれよ。
俺まだ知識あんまりないんだよね」
「おぅ……それでいいなら、別に……」
腑に落ちない顔をするケント。
いや、何がダメなのか俺にはさっぱりわからないけど。
「そうそう、最近何か変なアレがあるから気をつけろよ」
「アレ?」
「気づいてなさそうだから言っとくけど、ちょっと気味の悪いことがあるんだ。
ここにあるしたいにもいくつかあるだろ。例えば、これ」
ケントは手近にある一つの死体を示した。
男の小人だ。だいぶ前の死体で、胸を大きなもので貫かれたのが直接の死因のようだ。
「手の指がすべてないだろう」
「戦いで失ったんじゃ?」
「でも綺麗に根元から切り落とされている。しかも全部。
あまりにも奇妙だ。
こういう死体をたまに見かけるんだよ、最近になってな。
気味が悪いから気をつけろよ」
そんな気にするものなのだろうか。
まあいっか、一応記憶に留めておこう。
何かのヒントにもなるかもしれないし。
「俺はシュリーを訪ねてくる。お前は?」
「じゃあついて行っていいすか」
「かまわん。あとその敬語なのか何なのか中途半端なしゃべり方やめろ」
「あ、はーい」
中途半端か。敬語のつもりと言えばそのつもりだったんだけど。
ついていく途中、死体の山の中にケントの言った気味の悪い死体がいくつかあった。
腕がないもの、足がないもの……みんな胸を刺されて死んでるみたいだけど。
他に今まで見たことあったかな、こんな死体。
妙な引っ掛かりを感じたけど、思い出せないものはしょうがないか。
歩幅の大きなケントの影を踏むようにして、俺は歩き出した。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.70 )
- 日時: 2016/02/14 01:12
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
「・・・・・・ただいま」
頭の中がごちゃごちゃしたまま、僕は家に帰った。
結局、僕はどうすればいいのか分からない。
「あ、ソラ君!おかえりなさい!」
僕を待っていたのは、エプロン姿で晩ご飯の準備をする可愛らしい天使の姿だった。
僕の中の精神ゲージが0から一気に満タンになっていく。
彼女は天使の生まれ変わりに違いない。
もしくは本物の天使か?
「そういえばね、ソラ君。今日はお父さんも、3人でご飯を食べるんだよ」
どくん、と。自分の心臓の音が聴こえた。
だって、グレンさんは、もう・・・・・・。
「あれ、どうかしたの?」
黙ってしまった僕に、彼女は首を傾げる。
言わないと、今言わないと、僕は後悔する。
「ラキ・・・グレンさんは、もう、帰って来ないんだよ・・・・・・」
「・・・・・・え?」
彼女は目を見開く。
ここで止めるな、言い切れ!
「グレンさんは・・・死んだんだよ・・・・・・」
ガシャンッ!
目の前から音がしたので顔を上げると、ラキが今日の晩御飯であろう、シチューの皿を落とし目に涙を浮かべ、震えていた。
「お父さんが・・・死・・・・・・」
彼女はその場にへたり込み、カタカタと震える。
僕は咄嗟に駆け寄る。
「ラキ、しっかりして・・・・・・」
「・・・・・・ろす・・・・・・」
彼女の口から、微かに言葉が聴こえる。
僕の見開く。
やめろ、その言葉は・・・・・・。
「こ・・・・・・ころ・・・・・・ッ!?」
僕は咄嗟に、抱きしめた。
彼女の華奢な体を、強く、ギュッと。
「そら・・・くん・・・?」
ラキは僕の胸の中から、顔を上げる。
僕は笑いかけた。
「君の口から、その言葉は聴きたくない・・・それに・・・」
僕は少しだけ距離をとらせ、彼女の涙を拭う。
彼女は目に涙を浮かべたまま僕の目を見る。
次の言葉を言いきってしまったら、もう戻れない。
でも、彼女のためなら・・・・・・———
「殺すのは、僕の仕事だ」
————悪にだって、なれる。
たとえ血で汚れても、君のためなら。
「ッ・・・・・・ソラ君ッ・・・・・・」
彼女も僕を抱きしめた。細い腕で強く。
「殺して・・・・・・」
「お父さんを殺した人たちを・・・・・・殺してッ・・・・・・」
その日、僕の中で何かが吹っ切れた。
僕の存在が、悪でも良い。
許されなくても良い。
僕を必要としてくれる人がいるのなら。
その為なら、僕は人を殺してでも、生きてみせる。
それで、君が喜んでくれるなら。
君と、一緒にいたいから。
僕は彼女の顎を持ち、僕を見上げさせ、そして・・・———「んッ」———。
一瞬の繋ぎ目。
本当はもっと繋がっていたいけど、それは我慢。
「もう少し、こうしててもいい?」
「あぁ、いいよ」
「ソラ君、あったかいね・・・・・・」
しばらくして、彼女は安心したのか寝てしまったので、抱き上げてベッドに運ぶ。
彼女の部屋のベッドに寝かせて、掛布団をかけてやる。
僕は起こさないように立ち上がり、部屋を出る。
とりあえず、彼女が落としてしまったシチューの始末をしないといけない。
僕はそう思って一階に下りようとした時だった。
なぜか脳裏に、グレンさんが死んだ時の情景が思い浮かぶ。
なんで今更、と思ったが、そこでとある疑問が浮かぶ。
・・・・・・本当に、グレンさんを殺したのはあの兵士なのか?
違う、そうじゃない。僕がそう思いたかっただけだ。
記憶が、正しく修正されていく。
そして、カチリ、と。ピースが全てはまる。
そこには、一人の少年の顔が浮かび上がった。
僕はその顔を思い出し、戦慄する。
そう、それは数少ない親友の・・・・・・————。
「・・・・・・伝斗?」
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.71 )
- 日時: 2016/02/15 13:34
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
その洞窟には多くの負傷者がいた。
中に収まりきらないのか、外で手当てを受けているものもいる。
その中にシュリーの姿もあった。
「おおおー! 坊主も元気かー!」
「あ、まあおかげさまで」
「おおおおー! ケントも無事かー!」
「何で負傷者のお前がそんなに元気なんだ。
安静にしろ、シュリー」
「ケント、お前少し老けたな」
ケントは何も言わずに、シュリーの隣に腰を下ろした。
呆れてモノも言えないって、こういうことだろうな。
何はともあれ、無事そうでよかった。
「今日は異常に負傷者が多いな。死体数のの割りに」
「近くに援軍がいたから助かったらしいぞ。
しかも今回はやたら気絶してたヤツも多かったしな!
ようするに、ラッキー! ……ってヤツだ。運がよかったよな、俺たち!
あ、そうそう。負傷者には人間も多いらしいぞ。
赤い髪の何とかって強いやつもいるらしい」
赤髪!
脳に電流が走った。
一度だけ俺を殺そうとした男。
そして俺が……撃った。
唇が震える。
「……生きてる、のか」
「さあな、目を覚ましてないって話だぜ。
なんでも頭をぶち抜かれたとかで、相当重症らしい。
まあ、ここで言う負傷者の多くは死に損なったけど助かる見込みのないヤツが多いからな。
死んでも不思議じゃねぇよ。
もう少し技術があるヤツがいればいいんだろうけど、ないものは仕方ないだろ。
お。ケント、どこ行くんだ?」
シュリーの話の途中にもかかわらず、ケントは立ち上がった。
「お前みたいな元気なやつの相手より、洞窟の奥の怪我人の世話が優先だろ。
動けるなら少し手伝えよ」
「いんや、俺はもう少しここにいる。
ケントみたいに天才じゃねえから、魔法使えないしなー」
「はあ? 努力不足って言うんだよ、シュリーは。
グダグダしてないで、あとで小僧と手伝いにこいよ」
「俺も!?」
ケントの背を見送るシュリーの顔は、どこか寂しそうだった。
「ケントはさ、もともと生真面目なヤツなんだけど、あいつの兄貴が死んでからずっとあの調子だ。
母親も患ってるらしいし、そこへ来て父親が幼い頃に行方不明ときたら、
誰だってああなるよなぁ」
「行方不明? 戦死ではなく?」
「ああ、行方不明。戦争が始まる前だよ。
ある日出かけて帰ってこなくて、魔物総出で探したけど見つからなかった。
どっかのジジイが、人間の実験に利用されたんじゃないかって言ってたな。大昔にはよくあったんだとよ。
そんなことがあったら、嫌でも人間が汚く見えるって。
あ、坊主も人間だったな。わりぃわりぃ」
こう言われると、彼らが嫌いになるまでいかなくても、いい気分はしない。
革命軍は人間を非難する魔物の集りだとわかっている。
当然自分が悪く言われても仕方がない。仕方はないが……。
「あ、お前って字とか読めるのか? 国王軍みたいに」
「え? あ、ああ。読めるよ、一応」
「じゃあさ、ケントに教えてやってくれよ。
ただでとは言わないからさ、な?」
頭を下げるシュリーが、いつかの俺と重なる。
“頼むッ! 俺に勉強を教えてくれッ!”
彼が転向してきた日。そしてその前日から、俺の家には3日ほど叔母がいた。
酒を飲んで愚痴る彼女があまりにも嫌いで、どうしても家に帰りたくなかった。
逃げ場を探さなきゃ。でも、知り合いの家はダメだ、連絡される。
そこで何とか転校生の家に転がり込もうと考えた。
『教えてくれ』は俺にとって絶好の言い訳ってところだ。
ふと我に帰ると、シュリーはさらに頭を垂れていた。
「あ、ごめん。大丈夫、文字の読み方ぐらいでそんな頭下げなくても。
シュリーにもちゃんと教えるから」
「俺はいいよ。どうせ憶えられねえ。巨人って言う生き物はどうも脳が弱くてさ。
だから俺の分までケントに教えてやってくれよ。
……あいつ、回復魔法で人を助けたいらしいんだ。だからさ」
……本当に二人を見ていると、友情ってヤツを思い知らされる。
本当に綺麗で、強くて……もろい。
絆ってそんなものだ。どちらか絶とうとすれば、簡単に切れる。
そう、いとも簡単に。
空なんていい例だ。親友なんて信じていたのは、俺だけだったらしい。
「よし、そろそろケントのヤツを手伝いに行くかー!
坊主もくるんだろ?」
「……シュリーは優しいね」
「は? 優しい? ……まあな!
俺って優しいからな! はっはっは!」
たぶんこの人はまだ裏切られたことがないんだろう。
羨ましい。羨ましい。頭の中で繰りかえす。
それを意識すると、頬の表面がチクッと傷み、全身が凍りつくような感覚に襲われる。
ああ、羨ましい、羨ましい。妬ましい。妬ましい! 憎い憎い憎い!
「……坊主?」
シュリーが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
全身の氷がぱりぱりと音をたてて溶けていく。
……何だ、今の?
「どうした?」
「いや、なんでもない。早くケントのところへ行こうぜ」
前だけ向いて真っ直ぐと歩く俺を見て、シュリーが首をかしげていた。
が、「まあいっか!」みたいなことを言ってずんずん歩いていく。
気楽な人だ。
俺が壊れるまでのリミットは、だいぶ近い。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.72 )
- 日時: 2016/02/15 16:39
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
『あはは、待て〜』『いっくよ〜』
僕と同い年くらいの少年達が、ボールを追いかけて走り回っている。
勉強以外にとりえのない僕は、こうしてみんなが遊んでいるのを見ているだけ。
その時、コロコロとボールが足元に転がってきた。
僕はそれを拾う。
『悪い悪い』
その時、少年が僕に話しかけてきた。
僕は彼にボールを渡す。
彼はボールを受け取ると、首を傾げた。
『ねぇ、君はみんなと一緒に遊ばないの?』
−−−
いつからだろう、着替えがちゃんとたたまれて用意されているのが当たり前になったのは。
いつからだろう、朝木刀を振るのが当たり前になったのは。
馴れは恐ろしい、だなんて聞いたことあるけど、まさにその通りだ。
だって、この世界にきてほんの数日で、僕の存在がこの世界に溶け込んでいるのだから。
「おはよう。ラキ」
「おはよ、ソラ君」
僕は席につき、彼女が作った美味しい朝ごはんを食べる。
うむ、相変わらず美味しい。
多分これから、彼女が作った料理よりも美味しいものに出会える気がしない。
・・・・・・さて、現実逃避の時間はここまでだ。
「本当に、伝斗が殺したのか、か・・・・・・」
「ん?何か言った?」
僕の独り言に、彼女は反応してしまった。
僕はなんでもないよ、と笑ってみせる。
さて、これからどうしたものか・・・・・・。
本当に伝斗がグレンさんを殺したというのならば、僕は彼を殺さないといけない。
狂ってるって?異常だって?関係ないね。
誰かが言った。愛故にすることは美徳だ、と。
少し違ったかな?まぁ、つまりはそういうことだ。
僕にとって、今ではラキが世界の中心だ。
伝斗かラキ、どちらが大事なのか聞かれたら、即答でラキだと答えられる。
とはいえ、僕だって自分から進んで友人を殺したいわけではない。
とりあえず、直接聞いてみてから決めようかな。
そんなこんなで朝食を食べ終わる。
ちなみに今日は昨日のシチューとパン。それからベーコンとサラダという、いつもより少しだけ豪華なメニューだった。
さて、朝食を食べ終わった後はいよいよお待ちかねの時間、魔法の特訓タイムだ。
実は、この世界に来てから独学、魔法書を読み漁る、ラキに教えてもらうなどして密かに魔法の特訓を重ねていたのだ。
主に回復魔法の練習というとても地味な作業だったので、今までは特筆してこなかった。
さて、初級中級と今まででマスターしており、本日はいよいよ上級をマスターすることになった。
そんなこんなで、目の前にはこの家に住みついていたというネズミのチュー太(ラキ命名)がいる。
「これをどうするんだっけ・・・?」
「ですから、チュー太を殺して、命が尽きる寸前で回復させて生き返らせるんですよ」
当然のように言ってるけど結構怖いよねそれ!?
聞いた話では、ラキは上級をマスターする際に二桁のネズミをあの世に葬ったという。
いやね?上級をマスターするために動物を使うこともそれにはネズミが一番適任だということも笑顔で何度も語ってくれたけどね?
やっぱりなんかこう・・・道徳的なものがあるじゃん?
「じゃあやるよ?いい?」
「ぅん・・・いいよ、大丈夫・・・」
あぁ、ついに殺るのか・・・。
彼女は可愛らしい笑顔と「えいッ」というこれまた可愛らしい掛け声と共に、チュー太にナイフを突き立てた。
吹き出す血。さぁ、ここからは時間との勝負だ。
僕はチュー太の上で両手を広げた。
そして目を閉じて両手に魔力を集中させる。
初級ではちょっとした浅い傷、中級では基本的な怪我、病気全般を治せるほどの魔力が備わった。
上級では、死にかけた命を救う、死者蘇生にも近い何かをする。
だんだん、傷が塞がっていく。流れ出した血や、体細胞などが傷の中に戻っていく。
あぁ、僕が死んだ時もこんな感じだったのかな、としみじみ思う。
そんな場合じゃないだろ、とツッコまれるかもしれないが、ネズミの死体が修正されていくのをただ見ているのは、なんかこう・・・よく分からないけど不快な何かが湧き上がってくるのだ。
まぁ、結果だけ述べるのなら、チュー太は無事に生き返り、何食わぬ顔で静かに巣に戻って行きましたとさ、めでたしめでたし。
「はぁぁ・・・疲れたぁ・・・・・・」
「お疲れ。良かったね!これで、上級の回復魔法も使えるよ!」
「ホントに疲れたよ!なんなんだよあの特訓ッ!」
つい声を荒げてしまう。
だってさぁッ!ネズミにナイフ突き立ててそれを治すって!ただでさえ汚いネズミを血まみれにして数分見続けるなんて、地獄だ。生き地獄だ。
「まぁまぁ・・・何かを手に入れるためには犠牲も必要なんですよ」
「それは分かってるけどさぁ・・・・・・」
ハァ、と溜め息をつく。
まぁでも、上級もマスターできて良かった良かった。犠牲になったものは大きいけどね。
「それじゃあ次は風魔法とかが簡単だけど・・・・・・」
「中将ッ!」
その時、国王軍の兵士が玄関の扉を開けて入ってくる。
そうそう、余談だが、最近僕は中将になりました。
理由がグレンさんが死んで、跡継ぎは僕以外ありえないだろうという多数決。
その時に僕が意思表示をした回数、1。
無論、それすらも無視されてしまった。
「・・・・・・なに?」
「国王がお呼びですッ!」
「分かった。すぐ行くから、もう戻ってもいいよ」
「はッ!分かりましたッ!」
年上の大人が僕に敬語を使うのも変な気がしたが、まぁ気にしないでおこう。
僕はラキに笑顔で行ってきますを言い、家を出た。
まぁ、これが・・・僕のこの世界での一日です。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.73 )
- 日時: 2016/02/16 02:06
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
その人は、確かに息はしていた。
頭に血で朱に染まった包帯を幾重にも巻かれ、その目は固く閉じていたとしても。
「無理だろ。こいつはさすがに助からない。
と言うか助かったら奇跡だ。相当の根性の持ち主だな」
この大男の名は、グレン。グレン・サルガーナ。
氷の中将とも名高い、国王軍の兵士の一人。
こう巨人たちに囲まれていると遥かに小さく見えるのは、たぶん目の錯覚。
でも、戦場で見たときもごついって言う印象はなかったな。
「脳天ダーン!って撃たれても息してるのかよ、コイツ。すげぇな」
「シュリー、うるさい」
ケントはあちこち忙しそうに動き回っている。
回復魔法って言うのは想像以上に重宝するらしい。
俺から言わせると全部宗教めいて見えるんだけどな。
「ったく、人間でも生かしておけとか。
相変わらず無茶言うよな、あのリーダー様はさ」
「あんな若造のくせしてなぁ」
近くで誰かが愚痴を言っている。
リーダー様、ってことは人間をわざわざ助けているのはサラマンダーの指示なのか?
まったく、あいつの考えていることはよくわからん。
「大体あんなイカれた子供をリーダーとか言うからおかしくなるんだろ。
誰かがちゃんと大人の偉さを見せ付けるべきだって」
「誰がそんなことするんだよ。殺されるぞ」
「みんなでやればいいじゃんか、『赤信号、みんなでわたれば怖くない』ってな」
赤信号? 何でそんな地球カルチャーが聞こえてくるのか。
『人間失格』といい、謎の名簿と言い、妙なことが立て続けに起こる。
意外と俺ら以外にもこっちに飛ばされた人がいるんじゃないか?
そんなことを考えながら聞いていると、やつらの視線が俺に集った。
「その辺にしろよ、あの人間がいるんだからさ」
「どこだよ?」
「あのうっすい髪のやつ」
「ああ、なんだ。ついでにあいつにも一言警告しといてやろうぜ」
「やめろって」
うっすい髪とか言うな。その言い方だと俺ハゲちゃうじゃん。
ちゃんと色が薄いって言ってよ。
そいつは周りの言葉にかまわず、俺の後ろから近づいてくる。
ふりむくと、すぐ真後ろに牛男が立っていた。
後ろに牛男って、なんかダジャレっぽくね? どうでもいいか。
「おい、人間。一つ教えといてやる。
あのリーダーとか何とかって言ってる子供だがな、あいつは親しい人間も平気で殺す。
あんまり関わらないほうがいい」
「おい! やめろよ!」
口々に彼を止めにかかるが、牛男は話すのをやめない。
「しかもやり口が残虐だ。
やつは昔自分が育った村ですら一晩で焼き尽くして、女や子供かまわず皆殺しにした。
さらに全部首を持ち帰ってきたんだよ。異様な光景だった、あれは」
急に止めていた男たちがいっせいに黙った。
牛男は気づかずにはなし続けていたが、
他の魔物たちは慌てて仕事をしているふりをしたり、気まずそうな目でこちらを窺ったりし始めた。
そして、その理由を俺も悟った。
一人の少年が洞窟に入ってきたのだ。
「サラマンダー……なんでここに」
「ひえっ!? なっ……」
牛男は言葉にならず、後ずさりする。
サラマンダーはそんな牛男を一瞥した。
しかし何も言わず、すぐに彼はグレンと言う男のもとへ歩む。
「サルガーナ……間違いない。あの時と変わっていない」
ぶつぶつと何かつぶやいたあと、大きな声で「この男は絶対に殺すな」とだけ残して、サラマンダーは洞窟を出て行った。
直後、安堵のため息と緩んだ空気で洞窟の中が満たされた。
「いつあいつが戻ってくるかわかんねぇな」
「手当てだけしたら俺たちは帰ろうぜ」
口々に呟くと、皆一斉に洞窟を出て行った。
その中にはわけがわからないような顔をしたシュリーや、ため息をつくケントもいた。
俺と、眼を覚ましていない大量の魔物や人間兵士だけが残った。
あたりが急に静寂に包まれる。
今までまったく知らなかったが、これが今の革命軍の現状。
「……ここは……どこだ」
傍らに寝ている兵士が眼を覚ましたようだ。
呻くような声で、場所と時間を尋ねてくる。
これって、素直に答えていいんだろうか。
「今、あなたの手当てをしているんです。大丈夫ですか」
「ああ……水、水をくれ」
目は開けていない。
水を汲みにいこうとしたそのとき、頬がチクッと痛んだ。
顔が、脳が、全身が、氷に覆われていく。
痛くて、痺れて、心まで麻痺してしまいそうなほどの冷たさ。
衝動的に。そう、衝動でナイフを手に取り、振り上げた。
「水を……み、ぐっ……」
勢いよく喉に突き立てる。
刺した刃に肉が絡みついて、抜けにくい。
やっとのことで抜くと、もう一度突き立てた。
今度は、ゆっくり。奥の奥まで刃先を押し込むように。
何度も、何度も。
刺すたびに肉が絡みついて、抜くたびに血があふれ出す。
ぐじゅぐじゅと気持の悪い音を立て、その兵士は死んだ。
「俺が殺した……俺が……殺した」
手は、血まみれだった。
きっと顔まで飛んだのだろう。唇を舐めると、鉄分の味が身に染みる。
不思議と、嫌な気分はしなかった。もっと、こう——。
グレンとか言うヤツに引き金を引いたときは気づかなかった、このなんとも言えない感情。
そうだ、次こそ俺はグレンを。
ナイフを手に取り、グレンに歩み寄る。
殺してやる! 殺してやる!
ちゃんと覚悟してナイフを振り上げたのに、俺の気合ははかなく散った。
グレンの赤い目が、俺を捕らえてた。
「え」
恐怖、戦慄。
俺は何をやっている?
気がついたときには体を覆う氷のようなものはなかった。
俺は普通の中学生。何をやっているんだ。
脱力感に襲われ、崩れ落ちる。
俺は、さっき何をした?
自覚がなかったじゃ済まされない。
俺が……殺した。
グレンがこちらを見、何か言いかけた、そのとき。
一陣の風が吹き、大男の胸は抉られたように穴が開いていた。
その背後に見えるのは、黒髪の少女。
「ラッキー、本当に僕ってば今日はついてるなぁ」
青い瞳の少女はにっこりと微笑んだ。
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