複雑・ファジー小説
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- スピリットワールド【合作】
- 日時: 2017/11/03 17:10
- 名前: 弓道子&日瑠音&凜太郎&雅 (ID: LCLSAOTe)
この作品は合作です!
こんにちは、あるいははじめまして!
雅と申します! 今回は弓道子さん、日瑠音さん、凜太郎さんとともに合作という形で、この物語を書いていきます
読んでくださる方も含めて、みんなで楽しんでやっていきたいです!
よろしくお願いします! 雅
どうも、最近転んだだけで骨折した凜太郎です!
初めての合作で変な部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
凜太郎
こんにちは、日瑠音と申します!
私も初めての合作でとても緊張してますが、よろしくお願いします!
日瑠音
遅れてすみませんでした…
弓道子です!! もう迷惑かけんよう頑張るので
みなさん 温かい目で読んでください!
弓道子
〜目次〜
登場人物
空編 >>001>>003>>006>>010>>014>>017>>019>>021>>024>>026>>028>>030>>032>>034
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>>084>>086>>088>>090>>092>>094>>096>>098>>100>>102
>>104>>106>>108>>110>>112>>114
時雨編 >>005>>009
椿編 >>004>>008>>012>>016>>018>>023
伝斗編 >>002>>007>>011>>013>>015>>020>>022>>025>>027>>029>>031>>033>>035>>037
>>039>>041>>043>>045>>047>>049>>051>>053>>055>>057>>059>>061
>>063>>065>>067>>069>>071>>073>>075>>077>>079>>081>>083>>085
>>087>>089>>091>>093>>095>>097>>099>>103>>105>>107>>109
>>111>>113>>116>>118
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.79 )
- 日時: 2016/03/01 02:51
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
ドアが開く。
「はい、どなた……っ」
彼女は息をのんだ。
続く言葉がないようで、赤い瞳で怯えたようにこちらを見ている。
静かに、水色の髪に銃口を押し付けた。
「……動かないで」
————
城の前にいた革命軍は、今や一人残らず撤収している。
ちょっと寄り道したのがまずかったかな。
「でもあの白髪はなかなかの逸材だよねぇ。知り合えるなんて僕ってばやっぱりツイてる〜」
まあ誰もいないところでうろちょろしたところで何もならないし、
どうせだから戻ってあの子の観察でもしようかな。
伝斗……彼のあの一言が忘れられない。
“……できるか?”
「……やってみればいいのにね」
そんなことを思いながら、ふと引っかかることが一つ。
あれれ、僕ってそういえば場所をちゃんと伝えた覚えがないなぁ?
急いで戻ろう、契約を解消される前に。
……まあ、解消されたところで彼を殺すまでだけど。
—————
「動かないで。顔に傷跡はつけたくないんだ」
頬がチクッと痛んで、そこから徐々に凍り付いていく。
心臓が冷え切っていく感覚にのまれながらも、頭は至って冷静だった。
予想外だったのは、自分の声が思ったよりずっと優しかったことくらい。
「え……と……」
「言うことを聞けば殺しはしない。怪我させることもない。ただ一緒に来てくれるだけでいい」
彼女はこの戦争の要だ。
下手に傷つけたらどうなるかわかったものではない。
それにまあ、女子を泣かせるのは趣味じゃないしね。
「書置きくらいなら、時間をあげるから。来るか来ないか、はっきり言って」
「そんなの……」
気がついたら引き金を引いていた。
銃弾は少女の耳を掠めて部屋の奥へ突き刺さる。
微塵の躊躇いもなければ、自覚もなかった。
気がついたら迷いなくそれを撃っていたことに、動揺した。
まるで、別の誰かが自分を操ったかのように。
「……早く。次は耳だよ。俺は傷つけたくない」
無意識に出た言葉は、先ほどより遥かに冷たく重かった。
矛盾してるとか、優しくないとか、言いたいことはいっぱいあったけれど、心臓は冷え切ったままだった。
俺、今どうした?
「……わかりました。行きましょう。
その前に、彼に一言、書置きを」
「……1分」
少女は手早く何かを走り書きすると、すぐにこちらに来た。
さすが、空が惚れるだけある。
銃をしまい、とりあえず人の少ない森のほうへ。そこから大きく回ってサラマンダーたちの基地のほうへ向かう予定だ。
「急ごう、あんまり厄介ごとに巻き込まれたくないんだよね」
「あの、いいんですか?」
「何が?」
「え……? こ、拘束とかするものかと……」
「ああ、俺そういう趣味ないんだよね〜」
むしろ自由にさせたほうが彼女が自分で身を守りやすいだろう。
俺が全部守れるなんて、そんなに調子に乗ってない。
むしろ「僕が守る」とか言ってるヤツは、自意識過剰すぎて気持悪いよね。
自分のみは自分で守る。守れないヤツは不幸になる。ま、当然だよね。
「たしかラキちゃんだったよね?
無言で行くのもつまんないからさ、なんかおしゃべりしない?」
ラキは黙ったままだった。
警戒されてるな、当たり前か。
うーん、でも黙って行動するなんて絶対俺にはできないんだよね。
人がいたらしゃべりたくならない?
「ねえ、ラキちゃん空と同居ってマジ? あ、噂で聞いただけなんだけど。
どんな関係?」
「……」
「あ、言えないような関係? じゃあ聞かない。
そうそう、親とかは? いないの?」
「……母は、数年前に亡くなりました」
確か彼女、グレンの娘だって話だったな(ライヒェ調べ)。
ってことは現在両親ともにいない。
つまり、空とはそういうことだ(そういうことって、どういうことだ?)。
……思ったよりいい感じなのかもしれないな、この二人。
「へぇ、面白いね」
「……何がですか?」
「いやいや、こっちの話」
空がそんな色恋沙汰になってたら笑える。
まあ、いざ空にあって確かめるとなると相当厄介だけれども。
そんなに魅力的か? 俺女子をそんなふうに見たことないからわかんねえよ。
でも、ラキの凛とした雰囲気は嫌いじゃないかもしれない。
「ところでラキちゃん、魔法使えたりする?」
「え? はい、もちろん」
もちろん、ねえ。じゃあたぶん空も使えるんだろうな。厄介だな。
遠くのほうから足音が聞こえた。
先頭を歩いているのは、紛れもなくあいつだ。
……ちょっとからかってやろうかな。
「きゃ……」
「しっ。大丈夫、どうせすぐ離すから、ちょっとだけ」
ラキの肩を抱き寄せる。
サラマンダーの添い寝のせいで、至近距離なのにまったく緊張しない。。
うーん、嫌な慣れだ。
それにしても、こんなところで空に会うなんて、
本当に、厄介。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.80 )
- 日時: 2016/03/01 16:38
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
森を抜けると、国の前にでた。すると、ラキの姿が見えた。
彼女に出会えた喜びで気持ち悪いテンションになりかけたが、よく見ると伝斗が彼女を抱き寄せているではないか。
優しい優しいラキは口には出さないが、顔の表情は「早く離せよカス」と言いたげな様子だ。
ふむ、あの彼女をあそこまで苛立たせる伝斗には、ある意味才能があるのかもしれないな。
さて、この様子だとどうやら彼女を連れていこうとしているようだ。
はっはっは・・・ふざけんなよ?
僕は一気に、加速する。地面を蹴って距離を詰める。
伝斗はすぐに気付き、銃口を向けようとするが、もう手遅れ。
僕は彼の顔面を、拳で打ち抜いた。
少年が吹っ飛んでいくのを見ながら、僕はラキに駆け寄った。
「ラキッ!怪我はない?」
「ソラ君・・・怪我は、ないけど・・・」
そこまで言った時、彼女の耳に掠り傷のようなものがあるのを確認する。
僕はすぐに初級の回復魔法で治してやる。
やれやれ、痕になったらどうするつもりなんだ。
僕は彼女を家に帰し、走って行くのを確認したところで伝斗に向き直る。
彼女の綺麗な耳を傷付けたんだ。お前は同じ耳を引きちぎってやるよ。
そんなことを考えていた時、僕に銃口が向けられる。
「伝斗・・・?」
「空。俺は、お前を殺す・・・」
彼は、僕の目を見たまま、そう言った。
伝斗が、僕を殺す、だって?
僕は、それを聞いて・・・———
「ぁはははははははははははははははははっはははははははっはははッ!」
———腹を抱えて、笑った。
呵々大笑。
だって、だって可笑しいじゃないか。
あの伝斗が、僕を殺すと言ったのだから。
面白すぎて怒りも殺意も一瞬忘れかけた。
そして、僕の感情が・・・・・・爆発する。
「笑うなよッ!」
「笑うよ。あははッ!だってさぁ、伝斗。君が僕に勝てることが何かあるかい?身長以外で勝てることが、君には、ないだろう?勉強、運動、喧嘩、今まで何一つ勝てたことがないじゃないか。それなのに、僕を殺すだなんて。冗談にもほどがある。もう僕たち中学生なんだよ?夢を見るお年頃は卒業だろう?これからは現実を見ていかなきゃダメだよ。夢を見る暇があるなら英単語の一つでも覚えてみろよ。あぁ、ごめんごめん。君は僕を殺す夢を見るので精一杯だったよね、すっかり忘れ・・・」
「お前に何が分かるって言うんだよッ!」
気付けば、彼は引き金を引いていた。
しかし、元々銃口は僕に向けてたままだったので、引き金を引くタイミングだけを気を付ければよけるのは簡単だった。
銃弾は僕の頬を掠り、背後にあった木に当たる。
まぁ、身のこなしとかを見た感じでは、多少は成長したとは思う。
でもね、伝斗。
「そんな実力じゃ、僕は殺せないよ」
僕は一気に距離を詰め、まず彼が持っていた拳銃を蹴り、どこかに吹っ飛ばず。
そして、彼の首を絞め上げる。
「さっき、俺の何が分かるんだ、とか言ってたね。分かるわけないじゃん。負け犬の気持ちなんか」
君は知らないだろう?手のまめが潰れた時の痛みを。
君は知らないだろう?努力が報われなかった時の悲しみを。
君は知らないだろう?努力が報われた時の喜びを。
あぁ、そっか。怠け者の君は、そもそも努力というものを、知らなかったね。
「やーめた」
僕は彼の首を放した。
彼は喉を押さえて、咳き込み、むせながら僕を睨む。
そんな目で見ないでよ。敗者のくせに。
「君なんか殺しても、革命軍には何の支障もないもんね」
彼の目には、満面の笑みの僕が映り込む。
蔑むような、憐れむような、無垢な笑顔が。
「君なんか、殺す価値もないよ」
僕はそれだけ言って、その場を立ち去る。
その後の彼の表情なんて、見たくもなかった。
とりあえず、先に城に戻って金を頂こうかな。
この戦いは他の兵士も見てたから、殺さなかったことを色々言われるかもしれない。
でも、まぁいいだろう。彼は戦力外。殺すまでもない。
城から帰った後は、ラキを慰めてあげよう。
彼女は父親が死んだショックで、今は少し情緒不安定になっている部分がある。
そんな中であんな負け犬に触られたのだから、今頃泣いているかもしれない。
ドSというわけではないが、泣いている彼女は僕に甘えてくれるから嫌いじゃない。
僕の歩は、自然と速くなっていく。
僕の人生は、順風満帆だ。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.81 )
- 日時: 2016/03/09 09:50
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
空の姿が見えなくなった。
殺さなかった空の本心はわからない。
一思いにやってくれればいいのに。臆病なのか、何なのか。
そっと、自分の首筋に指を這わせる。
ぎゅ……っと力を込めると、喉が痛苦しくて、なんか落ち着く。
別に今に始まったことではない。昔からそうだった。
まるで首を絞めることが、限りなく神聖な行為だと言わんばかりに。
—————
俺は空がうらやましかった。
何も気にせず夢中になれるものを持つ空が。
努力を支えてもらえる空が。
身の上の不幸を同情してもらえる空が。
本当の親でないとはいえ、優しい家族を持つ空が。
——自分にないものを、何食わぬ顔で手にする彼が。
それをわかりやすく実感したのは、中学に入ってすぐ。
ちょうど、部活を始めた頃。
空は早くも剣道部のエースを座を取り合う存在だった(このとき空って一年だよな?)
それはまあ、友人として普通に嬉しかった。
俺はバスケ部に入部した。
もともとスポーツは得意だし、好きだし。
バスケはその中でも特に好んで公園とかでやってた。
顧問からも初心者の割にはいい選手だといってもらえて、本当にバスケが好きだった。
今もバスケは好きだ。でも、部活ははじめの1ヵ月半で行かなくなった。
“この前制服とか買ったでしょ。お金ないから”
……どの口が言ってんだ。毎日よその男と飲み歩いてるくせに。
保護者代わりをしてもらってるから、叔母に逆らうことはできない。
しぶしぶ俺はバスケシューズの購入をあきらめた。
顧問も「体育館シューズがあるならそれを使えば」といってくれた。
靴が悪くても、努力すればみんなの足をひっぱることはない。
そう、努力をすれば。
で、あの様だ。
翌日俺の体育館シューズは紛失した。
そりゃあもう、泣きそうになって探すよ。あれないとバスケの練習できないんだから。
結局それは3日後にゴミ箱のななから発掘された。
それからというもの、毎日のように姿を消す体育館シューズ。
ぐしゃぐしゃに濡れてトイレの中から出てきたときは、若干の苛立ちを覚えた。
それはもうわかりやすくいじめだったけど、
誰もが気づかないふりをしているし、助けを求めることは無駄だって、とうの昔に知っていた。
最後に学校の裏のドブに落ちているのを見つけて、拾うのすら馬鹿らしくなって————部活に行くこともやめた。
誰もが努力を支えられているのに、俺はそれすら妨げられる。
何で。何で俺ばかり。
だから、何も阻まれず竹刀を振るえる空が、努力できる空が、余計にうらやましかった。
なあ、空。お前にはわからないんだろうな。
苛立ち隠して部活を去る悔しさだって。
空腹と闇と寒さに耐える生活だって。
常に白い眼で見られる毎日だって。
誰も帰ってこない部屋で手首を切ろうとした弱さだって。
母親の手の温もりを思い出すことへの——恐怖だって。
知らないくせに。わからないくせに。
薄っぺらい不幸で大人の涙誘ってさ。
“君なんか、殺す価値もないよ”
それって、僕は強いですアピール?
あーあ、自意識過剰すぎて気持悪い、反吐が出そうだ……涙が出そうだ。
—————
目の前を急に刃が舞った。
「首なんか絞めちゃって、自殺志望? だったら僕にその頭頂戴?」
ライヒェが大鎌を持って立っていた。
黒いワンピース、白い肌、大釜。
こう見ると悪魔の一種にしか見えない。
でもフランケンシュタインって悪魔じゃないよな。
まあ、何だっていいけど。
「別に、ちょっと気持を落ち着かせてただけだし。
死ぬだなんて、とんでもない」
「あーそうなの? ドM?」
「違—よ! ってか、お前何やってたの? 俺殺されそうで大変だったのに」
「えー、君と空だっけ? が一緒に死んだら一石二鳥じゃん。頭と髪の毛」
……空といたの知ってんのか。いつからいたんだろう?
「君が女の子抱き寄せたあたり」
「そこから見てたなら助けろよ」
「いやぁ、だから一石二鳥的な展開だったらラッキー♪ って」
本当に自分のためにしか働く気がないのか。
ライヒェらしいと言えば、そうだけど。
「でも躊躇なく女の子抱き寄せちゃうなんて、やるよね〜」
「気持悪いこと言うなよ、好きであんなことしねーよ。おぞましい」
「あれ? 女の子嫌いなんだ? やっぱり君の行動は矛盾しすぎて意味不明だね」
アレはあくまでラキちゃんに自分を覚えてもらうためだ。
サラマンダーをうまく扱うなら、彼女に接触しておくのも悪くないし、
どうせ空と一緒にいるんだから、いい印象を植え付ける必要もない。
「そういえば、ライヒェの目、変わったな。赤が好きなんじゃねぇの?」
「うん? 好きだよ。
でもこの前潰されたからさ、その人のを代わりにもらったわけ。
でもやっぱり眼は赤がいいんだよねぇ。
あー……あの子も赤い目だよね、ラキちゃん。殺していいかな?」
「やめとけ、戦争がややこしくなるし、下手したら俺の脳が割れる」
「あ、そう? じゃあまだやめとく。君の脳の方が面白そう」
……ライヒェは俺の考えがわからないって言うけど、俺はライヒェが考えていることがわからない。
俺の脳の何がいいんだよ。
「ねぇ、早く戻ろうよ〜。革命軍はとっくの昔に軍を引いたみたいだよ」
「サラマンダーは戻ってきたのか?」
「さあね。戻ってんじゃないの?」
サラマンダーが戻ってなかったら、それはそれで困るな。
俺が出した指示については、別にもともと期待はしてないけど。
「……戻るか」
「了解」
空は……今はどうでもいいや。
俺にはやることがあるんだから。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.82 )
- 日時: 2016/03/09 13:07
- 名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)
今回は、拠点を潰したという成果のおかげでかなり高い報酬が貰えた。
これなら当分は生活にも困らないだろうし、ラキも喜んでくれるはずだ。
僕は上機嫌で家に帰った。
「ただいま〜」
「あ、おかえり、ソラ君」
僕を出迎えたのは、ソファの上で膝を抱えて少し疲れた様子で笑うラキだった。
目の下に微かに涙の痕があった。
やはり泣いていたのだろうか?
「ごめんね。僕が守れなかったせいで」
「ううん、平気。ソラ君も頑張ってたんだもんね」
そう言ってふにゃりと微笑む。
僕は上着を掛けて彼女の隣に座ろうと歩く。
その時、机にメモ帳が置いてあるのを視認した。
「ん、これは?」
「あっ、それは・・・」
ラキが微かに反応する。もしかして、伝斗に攫われかけた時の書置きか何かかな?
こんなものを用意してくれるなんて、相変わらず気が利く優しい少女だ。
僕は彼女の隣に座り、ゆっくりそのメモ帳を開く。
『ソラ君へ
革命軍のソラ君の知り合いの人が来て一緒に来いと言っています。
殺されることは多分ないと思うので、安心して下さい。
晩ご飯は作ってあるので、温めて食べて下さい。
ラキより』
それを読んだ僕は、息を吸って・・・。
「ラキの中で僕ってラキのこと晩ご飯作ってくれるだけの人としか思ってないと思ってるの!?」
何か勘違いしているんじゃないか?
無意識に大声を出してしまった僕を見て、彼女は・・・———
「クスッ」
———笑った。
まるで微笑ましいものを見たような温かい笑い。
「な、なんだよ・・・?」
「いえ・・・やっぱり、これ書いてて正解だったなって思って」
「え?」
彼女は僕の方を見て微笑む。
「ソラ君って、一人で溜めこむ時多いから、こういうこと書いとけば、少しはリラックスできるかなって」
彼女の優しさに、僕の胸がチクリと痛んだ。
守りたい人に気遣われるような人間になりたかったわけじゃない。
僕はただ、彼女を守る力が欲しくて・・・それで・・・・・・。
「またそうやって一人で考え込む」
気付けば、僕は彼女に抱き寄せられていた。
まるで弟をあやすような手つきで、頭を撫でられる。
よく分からないけど、なんか良い匂いがした。
「少しくらい、私に頼ってくれてもいいんだよ?」
「僕は、ただ・・・・・・」
言葉が続かない。
みっともないな、こんなの。
子ども扱いするなと言いたいが、年上の彼女から見れば、僕は子供だ。
「ソラ君は充分頑張ったから、ね?たまには、頼ってほしい」
「ん・・・・・・」
僕は目を逸らす。
ここは甘えるべきなのだろうか?それとも拒絶するべきなのだろうか?
どれも、ダメだな。
好きな女の子に甘やかされるために努力してきたんじゃない。
守るために、頑張ってきたはずなのに。
「ラキ・・・」
「ソラ君」
彼女は、僕の頬に手を添えて目を合わせる。
そして、彼女の顔が近付いてきて・・・。
「んッ・・・!?」
唇に柔らかいものが触れる。
直後、まるで電流でも走ったかのような感覚が僕の体中を駆け巡る。
初めてではないのに、だ。
いや、あの時は僕からだったし、あれはどちらかというとラキを慰める的な意味でやったことだから、あまり初々しさはなかったというかなんというか・・・・・・?
誰かにそんな意味不明な言い訳をしていた時、唇が離れる。
困惑する僕を置いたまま、彼女は立ち上がり、
「それじゃあ、ご飯作ってくるね!」
笑顔でそう言って、台所に入っていった。
僕は、自分の唇を手で触る。
「・・・・・・熱い」
耳が、顔が、熱い・・・。
まだ、冬の寒さは残っているし、動いてないと寒い時期だけど・・・・・・。
「・・・・・・人生って、こんなに上手くいくものなんだなぁ・・・なんてね」
完璧な人間なら、完璧な人生が送れる。
やはり、僕の認識は間違っていなかったんだ。
だって、『彼』がそうだったから。
「アイツ、今何してるんだろう・・・」
僕は窓から、空を見上げる。
今日は、月が綺麗だ。
−−−
暗い空の下、一人の少年が何もなかった空間から飛び出す。
「いたたた・・・ここどこなんだよ?」
彼は辺りを見渡す。その時、軍服を着た男が長い刀を振り上げ、襲いかかってきた。
少年は、その刀を避け、男の顎を下からアッパーで殴る。
男が気絶したのを見た後で、ソイツの持っていた長刀を拝借する。
さて、と彼は空を見上げた。
「自分で考えろってわけか・・・はいはい、分かりましたよっと。ひとまず、町でも探そうかな」
自惚れた少年が、凡人に戻る瞬間は、刻一刻と迫ってくる。
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.83 )
- 日時: 2016/03/11 13:16
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
「ところで、ライヒェ」
「何?」
「お前って結局のところ何なんだよ」
「何なんだよって、何が?」
何が? と言われても。
この場合なんて言えばいいのかな、正体?
「あー、この体のこととか?
これは人間の女の子の体だけど?」
「その前って言うのかな。何でその体を選んだのか、って言うか」
ライヒェは一瞬目を伏せて、わざとらしく鎌を回した。
「……もともと、僕は人間の魔法の失敗作の一つでさ。
蘇生って言うの? 他人の死体寄せ集めて、魔法かけたんだけど、うまくいかなかったのかな。
見た目は酷いし、殺しても死なない。
もうバケモノだよね。
で、まあいつまでも虐められるのは嫌だし、そこにいる人適当に殺して出てきたんだけどさ」
生れてきたときから、バケモノ……。
変な仲間意識が芽生えそうになる。
いやいや、こいつは死体だから。人間じゃないから。
「だんだん生きる要領がわかってきてさ。
腕がもげたら、腕を付け直せばいいし。足が折れたら、足を取り替えればいい。
そうするとだんだん欲が出てくるわけ。
自分より強くて、自分より美しいものが欲しくなる。
そのときに出会ったのが……」
ライヒェは左手で自分の頬を撫で、にっこり微笑んだ。
この顔、ってことか。
確かに、整った顔立ちだ。可愛いとは思う。
「その子ったら、可愛いんだよ。
すごく綺麗な声で歌うし、無邪気に笑うし……僕の姿を見ると、泣いて怯えるんだ。
遠くで眺めて、追い掛け回すのも悪くなかったけど、
でも、一度でも言葉をかわせたら素敵だなって思った。
全部僕のものになったら……もっと素敵だなって……」
そこでライヒェは一度言葉を切り、歩みを止めた。
つられて、俺も足を止める。
彼女(あれ? 彼?)はしばらく空を仰ぎ見た。
「でもさ……やっぱり、あの子じゃないんだよね。
あの子はもっと柔らかい赤みの差した頬だったし、
もっと優しい目だった。
記憶も声も同じはずなのに。
仕草の、表情の、言葉の、ひとつひとつがあの子じゃない。
すべては手に入らない……」
ライヒェらしくない、寂しそうな表情。
かける言葉が見つからない。
長い沈黙のあと、またライヒェはニッと笑った。
「でも僕、後悔はしてない。
だってこれから先も、ずっとこの子といられるんだから!
永久に一緒なんて……ロマンチックすぎない?」
背筋が凍りつく。
いつもより数百倍、毒々しい笑み。
ライヒェはきっと、強がりでも何でもなくて、本当に後悔していないのだ。
心から、自分の犯した罪に酔っている。
「あの子が自分のものにあって、僕は幸せ。
僕が愛情をたっぷり込めて殺してあげたから、あの子も幸せ。
こんな幸せな結末の恋物語なんて、なかなかいいと思わない?」
死んだ彼女も幸せ……か。
ライヒェらしい発想だ。
もしそんなふうに考えられていたら……俺も、少しは幸せになれたのかな。
「昔話なんてどうでもいいでしょ。
僕は今を楽しく生きるほうが大事!」
……それ、激しく同意。
どうせどこに行っても俺の居場所はないんだから。
ならここで思いっきり暴れて、何も考えずに死ねたら、それほど楽なことはない。
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