複雑・ファジー小説
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- 『受拳戦争』
- 日時: 2020/06/10 10:58
- 名前: 四季彩 (ID: EZ3wiCAd)
彩都さんと四季の合作です。
合作といっても、企画や世界観・キャラクターの名前や原形、プロットなどは、彩都さんです。
四季はキャラクターの口調を考えたくらいだけのもので、執筆係です。
よろしくお願いします。
スレ立て 2017.11.19
投稿開始 2017.11.20
プロット停止のため連載停止 2020.3.17~2020.3.23 2020.6.11~
- Re: 『受拳戦争』 ( No.88 )
- 日時: 2019/05/06 02:19
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 32zLlHLc)
多々良——否、太陽ヶ原 サン。
彼女は、魔法少女として、戦いを続けていたらしい。
そうして何度も敵を倒していくうちに、サンは、同じ魔法少女がが黒幕であると知ったそうだ。
「黒幕なんてよく分かったね」
「戦いを繰り返していくうちに真実へ近づいていく。それはよくあることだろう」
「そっか……」
そのような経験のない三殊には、いまいち理解できなかった。
黒幕の魔法少女の名は、五月野 名月(さつきの めいつき)。
月がやたらとついた個性的な氏名だが、彼女こそが転生した伊良部だったのである。
互いの正体が発覚した後、サンと名月はお互いの姿に大笑いした。
だが、そこは仕方がない。なんせ、女性同士で顔を会わせるのは、この時が初めてだったのだから。
「あの時はさすがに笑ってしまった。懐かしいな」
「それは、まぁ……うん。お互い女性だなんて、笑ってしまうよね」
それは三殊にも理解できる。
少女になった知人男性を見たら、驚くとともに吹き出してしまうだろう——三殊はそう思った。
「だが、いつまでも笑っているほど暇ではないからな。しばらく笑ってから、速やかに笑いを止めて、全力での勝負を行うことにした」
多々良は淡々と語る。
そんな彼を、三殊はじっと見つめる。
「あれは凄まじい戦いだった。魔法の雨が降り注ぎ、血の湖が広がる……そんな戦いだった」
二人の全身全霊の攻撃がぶつかり、結果、あまりのエネルギーに街一個が崩壊したらしい。そして、サンも名月も、同士に息絶えたという話だ。
「街一個が崩壊って……信じられないエネルギーだね」
とても現実とは思えないことを言われ。しかし、今の三殊には、それが真実であると分かった。多々良の言葉を信じることができた。
「俺も、まさかあんなことになるとは、想像していなかった」
「だろうね」
「街のやつらには悪かったな」
「まぁ、仕方ないことだよ」
すると多々良は、三殊へ視線を向け、ほんの少しだけ口角を持ち上げる。
「そう言ってくれてありがとな」
多々良からいきなり礼を述べられた三殊は、何だか気恥ずかしくて、多々良から目を逸らす。少し、困ったような表情で。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.89 )
- 日時: 2019/05/14 18:33
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: DYDcOtQz)
魔法少女として伊良部と出会い、戦いによって命を散らした五回目の人生。その話を終え、多々良は次——六回目の人生のことを語り出す。
「六回目、俺の新たな転生先は、剣士だった」
またしても飛び出してきた、普通ではない、意外な転生先。しかし、三殊はもう驚かなかった。なぜなら、これまでに散々、意外な転生先を聞いてきたから。
「剣士って……剣を振るって戦うやつ?」
「あぁ、そうだ」
「何だか漫画みたいだね」
「あぁ。確かにそうだな」
もはや、何が出てきても驚きはしまい。
「俺は宮本 小次郎(みやもと こじろう)という剣士だった。まさかの剣士、呆れたよ」
「戦う系が多いように感じるね」
「またかよ!……って、感じだよな」
宮本 小次郎となった多々良は、巷で噂の剣士・佐々木 武蔵(ささき むさし)と勝負することになったそうだ。
「一体どんな奴なんだ?と思っていたんだがな、現れたのは伊良部だったんだ」
「彼が……佐々木 武蔵だったのかい」
「あぁ。そういうことだ」
まさかの相手に動揺する中、戦いは始まった——多々良は三殊にそう話す。
「あれは真剣勝負だった。少しでも気を抜けば、気を抜いた方が死ぬ。そんな、かなり際どい戦いだった」
淡々とした調子で語る多々良を見て、三殊は思わず「えぇっ……」と発してしまう。
三殊は、少しでも気を抜けば死ぬというような状況に陥ったことは、これまでに一度もない。それゆえ、その緊迫感のすべてを理解することはできない。だが、想像することくらいはできた。
「そんな状況だったのだが。見物客の中に紛れ込んでいた武蔵の部下に邪魔をされてな。結局俺——いや、小次郎は、首を刎ねられてあっさりと死んでしまった」
多々良が語った六回目の人生。その最期は、あまりに呆気ないものだった。言葉にならないくらいあっさりとした、命の落とし方である。
呆気ない死、というのは、案外世に溢れているものだ。
しかし、この多々良の死は、呆気ないという域を軽く越えている。
これほどの呆気なさを表現する言葉は、この世にはまだ、存在していないのかもしれない。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.90 )
- 日時: 2019/05/20 02:35
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 1Fvr9aUF)
六回目、剣士としての生を終えたことまで述べた多々良は、暫し口を閉じた。が、数分経たないうちに、再び口を開いた。
「七回目の人生の話をしてもいいか?」
多々良の問いかけに、三殊は少し戸惑いながら「もちろん」と頷く。
七回目、まだあったのかと、思いながら息を飲む。聞かない理由など、ありはしないから。
「七回目の人生……俺は、藤岡 敬慕(ふじおか けいぼ)という暴虐無人な殿様の息子として生まれた。幼名は、藤岡 糞(ふじおか くそ)。滅茶苦茶な名前だろ」
残念としか言い様のない名を聞かされた三殊は、ただ苦笑することしかできなかった。
「後に敬具(けいぐ)という名になったがな」
「へぇ……」
三殊は相応しい言葉を見つけられない。
「敬具である俺は生まれた後、すぐに他の城に引き取られ、捕虜となっていた。そして、成人——江戸時代では十五歳になってから、ようやく、父親と会うことが可能となった」
そして、また重なる。
二つの存在が。二つの人生が。
「こうして出会った父親、敬慕。やつは、佐々木 武蔵——そう、伊良部だった」
「えっ。じゃあ、七回目は伊良部の息子だったのかい?」
「そういうことだ」
「うわぁ……えぇ……」
何と酷なことだろう。
自分を何度も殺めた人物が、父親になるなんて。
「『まさか息子として生まれるとは!?』と思いながら、俺は父親に歯向かった。が、敬慕の圧倒的な戦力の前には無力で、切腹を命じられた」
三殊とて、何も知らない赤子ではない。だから、かつて切腹という行為が存在していたことは知っている。学校で習ったからだ。ただ、それを実際に見たことはないし、命じられた者に会ったこともなかった。
「もちろん拒否した。すると敬慕は、近くの手下に刀を抜かせ、俺——敬具の首を切らせた。こうして俺は、またもやあっさり殺害された」
またしてもあっさり殺害されるという最期。
三殊は何も言えなかった。
こういう場面でこそ、気の利いた発言ができれば良かったのかもしれない。しかし三殊にはその能力はなくて。一応、何か言わなくてはと思ってはいたのだが、結局相応しい言葉を見つけることはできずじまいだった。
ただ、多々良がそれを責めることはなかった。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.91 )
- 日時: 2019/05/27 01:50
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: YUWytwmT)
八回目、多々良はモス・ベーカリーという男性として、世に誕生した。
彼は「何回目の転生だろう?」とぼんやり思いながらも、一人の人間、モス・ベーカリーとして生きてゆく。そんな多々良は、憎き相手である伊良部と出会うことこともなく、穏やかに生きていった。やがてパートナーとなる女性と出会い、結婚し、父親となる。これといった特別なことはない人生で、けれども、それは確かに幸福な時間であった。
——子が生まれるまでは。
「もしかして、その子が……?」
「あぁ。想像通りだ」
誕生した我が子が、七回目の時の伊良部——敬慕と、よく似た顔をしていたのだ。
といっても、多々良は敬慕が赤子だった頃を知っているわけではない。ただ、見たことがある敬慕の顔から考えて「こんな感じだっただろうな」という目鼻立ちを、モスの子はしていた。
モスは恐怖に包まれる。
だがそれは当然のことだ。かつて何度も自身を殺めた張本人が息子として現れたのだから。伊良部の魂を持っている以上、彼はいずれ牙を剥くだろう。それゆえ、息子だからといって呑気に可愛がっている場合ではない。
「親子って、何だか嫌な感じだなぁ」
「あぁ。最悪な気分だったよ」
「うん……だよね……」
妻はというと、子の誕生を喜び、マックと名付けた。
モスが恐怖のどん底へ突き落されていることなど、彼女は気づいていなかった。
「それで、どうなったんだい?」
その後モスは「どうやって殺そうか」と考えたという。「今殺しておくべきだ」と。だが、妻がいる。妻は幼い息子から滅多に目を離さない。さすがに、彼女の目の前で息子を殺めるようなことはできそうになく。モスは迷い、考え続けた。
やがて起き上がるようになった息子のマックは、「今殺しても無駄なんだよなぁ」というような挑発的なことを言い、モスと口論になる。
結果、モスは口論に負けた。
そして、約十一年間、一緒に過ごすことになったのだった。
「なんていうか……複雑だね」
三殊は思わず漏らす。
これまでずっと戦いを続けてきた相手と、これまで何度も己を殺めた相手と、一緒に生きる——その歪さに戸惑いを隠せなかったのだ。
三殊は密かに思っていた。
自分が多々良の立場であったなら、因縁の相手と共に生きてゆくことなどできなかっただろう、と。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.92 )
- 日時: 2019/06/02 01:14
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: REqfEapt)
「俺とて、それを望んだわけではない。一応正式な父息子の関係であるとはいえ、あんなやつと何年も一緒に暮らすというのは、喜ばしいことではなかった。大きくなってきてからは、特に。いつ殺されるか分からないという状況で毎日を過ごすのは、本当に胃が痛い。勘弁してくれ、という感じだったな。本当に、もう、嫌だった」
多々良は珍しく長文を放った。
伊良部の魂を持つ息子マックとの暮らしが、よほど嫌だったのだろう。
だが、それが嫌だろうなということは、実際に経験してはいない三殊にでも容易に想像することができた。
「これまでのこともお互い覚えてるわけだから、結構な苦労がありそうだね」
「あぁ。もはや苦労しかない」
「……まぁ、うん、そうなるよね」
そして、マックの十一歳の誕生日。
モスがやや濡れた手で作業をしていると、マックが何かを持ってきた。それはコードだった。電気を使用して稼働する物を利用する時に使う、誰もが見たことのあるような、至って普通のコード。
モスはそれに面倒臭そうに触れる。
と、体に電流が流れた。
「信じられない衝撃だった」
「何それ、怖い……」
体に電流が流れた衝撃で息絶えそうになりながらも、モスは「一体何なんだ」と思う。そして、コードの先へ視線を向ける。コードの先はコンセントに刺さっていた。それを見てモスは、「それで電流が流れたのか」と理解する。
しかし、今さら気づいても遅い。
もはやどうしようもない。
電流によって心臓が止まり、モスは生を終えた。
それが多々良の八回目の人生である。
「うわぁ。酷いなぁ」
多々良の八回目の人生について聞き終えた三殊は、聞いていて純粋に思ったことを口から出した。
「俺もそう思う。やはり、もっと早くに殺しておくべきだったかもしれないと、今はそう思っている」
「お嫁さんがいるから殺しづらいよね」
「あぁ。せっかく生まれた子を父親が殺したなんてことになったら大変だしな。……だが、それでも早く仕留めておくべきだったと、今は思うよ」
確かに、父親が息子の命を奪ったとなれば、事件になることだろう。残虐な事件だ、と、騒ぎになったかもしれない。ただ、父親が息子の命を奪うことが残虐なのは、息子側に罪がない場合であって。モスとマックの間にはそれまでの人生で重ねてきたものがあるから、もし仮にモスがマックを殺めていたとしても、一概に「モスが悪」とは言えないかもしれない。
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