複雑・ファジー小説
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- 『受拳戦争』
- 日時: 2020/06/10 10:58
- 名前: 四季彩 (ID: EZ3wiCAd)
彩都さんと四季の合作です。
合作といっても、企画や世界観・キャラクターの名前や原形、プロットなどは、彩都さんです。
四季はキャラクターの口調を考えたくらいだけのもので、執筆係です。
よろしくお願いします。
スレ立て 2017.11.19
投稿開始 2017.11.20
プロット停止のため連載停止 2020.3.17~2020.3.23 2020.6.11~
- Re: 『受拳戦争』 ( No.43 )
- 日時: 2018/07/23 03:17
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: CvekxzGv)
それぞれ拳にグローブを装着した黄銅と播磨。
ボクシング対決が幕を開ける。
「遠慮なくいかせてもらうっす」
早速拳を突き出し、黄銅に向かってパンチを繰り出す播磨。
その動き方は、慣れを感じさせるものだった。繰り出されたパンチを見て「ヒィッ!」と情けない声をあげる黄銅とは、大違いである。
「おーい!頑張れよー!」
琢磨は、両の手を口元に近づけ、情けない黄銅を応援する。海斗を応援していた時よりかはテンションが低いが、それでも、その声は黄銅に届いていた。しかし彼は、緊張やら恐怖やらでガチガチになっているため、声援など聞こえていない。
シュッ、と音を立て、播磨の拳が突き出される度、黄銅は身を震わせて後退する。
今の黄銅はとても戦える状態でなかった。
「らっ……乱暴は止めていただきたいのですっ!」
「乱暴なんかしてないっすよー。ボクシングっすよー」
それからも戦いは続いた。
しかし、播磨が攻めて黄銅が逃げ回るというパターンはずっと同じ。それはそれは、退屈な戦いとなってしまっている。
もし仮に、観客がいたとしたら、凄まじいブーイングが起きていたことだろう。
「ヒィッ!ヒィィィッ!」
「逃げ回るだけじゃ勝てないっすよ」
「殴らないでほしいのです!」
繰り返されるのは、そんなやり取りばかり。この有様には、さすがの琢磨も呆れ顔になっていた。もっとも、逃げるばかりで試合になっていないのだから、呆れるのも無理はないが。
左、右、右、左、と播磨は積極的に攻めていく。
黄銅はそれを、半泣きになりながら避け続けている。
考え方を変えれば、播磨の拳を避けられるだけ凄いのかもしれない。凄まじい緊張と恐怖の中で確実にかわしていけているのだから、一般人にしては頑張っている方だろう。
ただ、こんなことを繰り返すだけでは何も変わらないということも、一つの真実である。
「決めるっす!」
「え、え、えぇっ!?勘弁してほしいのです!!」
「それは無理っすねー」
「ヒィィィィィィィィィ!!」
播磨が放ったいきなりの決着宣言に対し、黄銅は甲高い悲鳴をあげた。黄銅の顔面から血の気が引いていく。
「も、もう勘弁し——ブッ!!」
これまでは何とか避け続けてきた黄銅だったが、ついに播磨のパンチを避け損ない、拳を鼻に受けてしまった。
赤いものが派手に飛散する。
直後、彼は卒倒した。
恐らく、恐怖に耐え切れなくなったからだろう。
黄銅のメンタルは、それほどに弱かったのだ。例えるなら、薄いガラス板程度の脆さである。
「はい!終了!」
黄銅が気を失ったのを見て、戦闘続行は不可能だと判断した二重は、戦いの終了を告げた。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.44 )
- 日時: 2018/07/30 18:28
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: xrNhe4A.)
二重が戦いの終了を告げてから、数分。播磨の強烈な拳を受けて気を失っていた黄銅が、ようやく目を覚ました。
「あ……こ、ここは……」
床に横たえられていた黄銅は、目を覚ますや否や、上半身を起こす。そして、頭を左右に動かし、辺りを見回していた。今どこにいて、自分が何をしているのか、すぐには分からなかったのだろう。
「おー。起きたじゃん」
自身がおかれた状況を理解できず戸惑いの中にいる彼へ一番早く声をかけたのは、応援という形でかなり活躍している琢磨。
「わ、わたくしは……一体何を……」
黄銅はまだ状況を理解しきれていないようだ。目をぱちぱちさせている。
「覚えてない?ボクシング対決で殴られて、気を失ったんじゃん。でも安心しな、鼻血はちゃーんと止めといたからさ」
意外にも丁寧に説明する琢磨。
彼女は男と間違われるような容姿だが、根は優しく仲間思いなのだ。だから、黄銅がなかなか状況を飲み込めなくても、怒ったりはしなかった。
応援はもちろん、フォローまでしっかりと行うところは、頼もしい。
「止血して下さったのですね。ありがとうございました。けど……わたくしは負けてしまいまったのですか……」
暗い声で述べつつ、目を伏せる黄銅。その顔には、負けてしまったという罪悪感が色濃く浮かんでいる。
そんな彼の背を、琢磨はバシッと叩いた。
「べつに、負けたっていいじゃん!」
彼女の口から出たのは、温かい言葉。
そこには、母親級の思いやりがこもっている。
「何回も避けられてたし!頑張ったよ!」
「あ……ありがとうなのです」
「さ、次の応援に行こ!動けそう?」
「はい。ですが……次は誰が出るのです?」
琢磨に手を取ってもらい、黄銅は何とか立ち上がる。
彼の顔には、生気が戻ってきていた。暗い影のようなものは消え、体調ももう問題なさそうだ。
「次は、冥 魔宵!ムエタイ対決だってさ!」
「そうなのですか。では、わたくしもここからは、応援を頑張ります!」
すっかり元気になった黄銅。片手を握り、拳を頭上へ掲げる。その動作には、恐らく、「応援を頑張る」という切り替えの意思が籠もっているのだろう。
こうして二人は、第三戦となるムエタイ対決の舞台へと向かった。
全力で応援するために——!
- Re: 『受拳戦争』 ( No.45 )
- 日時: 2018/08/06 01:26
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: Oh9/3OA.)
「ミッツメノキョウギハムエタイ。マモナクハジマリマス」
三重が片言の日本語で、三つ目がムエタイによる勝負であることを告げる。
「タタカウノハ、メイマヨイトエサカホナミ」
彼女は続けて両者の名を述べる。だが、片言過ぎて、何が何だか分からない。そこへ、一重がすかさず突っ込んだ
「三重は分かんネィヨゥ!両者、それぞれ自分で名乗ること!」
ドレッドヘアーが印象的な一重の一言により、今からムエタイ対決に挑む二人は、それぞれ自己紹介をすることとなった。
先に話し出したのは、3年1組メンバーの魔宵。
「まよいは、冥 魔宵(めい まよい)なのなの。よろしくなの。ムエタイなんてやったことないけど、まよいはまよいなりに頑張るの」
黒い帽子を被り、セミロングの黒髪を二つにくくっているのが特徴的な魔宵。彼女は、小学生低学年に見えるほどに胸がない。
「ヒューッ!貧乳だねぇーっ!……あ、心配すんな。オレィには幼女趣味なんてないから!」
軽いノリで放たれた一重の言葉に、魔宵の顔が般若のようになる。
「失礼なのなの!まよいは貧乳なんかじゃないの!!」
「す……すいません」
般若のような魔宵に睨まれ、一重はすぐに謝った。
一重とはいえ、凄まじい睨まれ方をする恐怖には勝てなかったのだろう。
少しして、次は魔宵の対戦相手が自己紹介を始める。
「ええと……江坂 穂波(えさか ほなみ)です。あの、えっと……よろしくお願いします」
穂波は非常に大人しい、すべてが控えめな少女だ。地味であることが個性、といっても過言ではない。とにかく「地味」としか言い様のない少女である。
二人が名乗り終えるのを確認すると、三重は、先ほどよりも大きめの声で告げる。
「デハハジマリマス!ムエタイタイケツ、ヨーイ……」
そこで一旦切り——そして。
「ハジメッ!!」
向かい合う魔宵と穂波の目は、真剣そのものだ。
ムエタイ対決に勝つ。
今は、その熱く強い思いだけが、二人の胸を満たしていることだろう。
こうして、第三戦ムエタイ対決が始まる。
対決が始まり、先に動いたのは、意外にも穂波。様子を窺っていた魔宵に、中段の蹴りを加えたのである。
大人しく、控えめで、地味。
そんな三拍子が揃った彼女だから、積極的には出そうにない感じではあったのだが、案外好戦的だ。
「なのっ!?」
「遠慮は……しません」
魔宵が戸惑っているうちに、穂波は素早く蹴りを繰り出す。高さを変え、位置を変え。穂波の足から繰り出される様々な蹴りは、華麗であった。
だが、徐々に魔宵も反撃を開始する。大人しくやられてたまるか、といった感じでやり返し始める。
ようやく本格的になってきた。
激しい蹴りの応酬。それはまるで嵐のよう。
魔宵と穂波、二人だけの戦いだ。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.46 )
- 日時: 2018/08/13 17:29
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: xPB60wBu)
ムエタイ対決に挑む、魔宵と穂波。
二人とも、極めて運動が得意というタイプではない。だが、それでも、勝敗はなかなかつかない。魔宵も穂波も、そう易々と負ける気はない、ということなのだろう。
「スバラシイ。スバラシイタタカイデス」
対決の様子を見守る三重は、興奮気味に目をぱちぱちさせていた。緩急のある蹴りの応酬に、盛り上がっているのだろう。だが、彼女が興奮するのも無理はない。一生懸命さの伝わる戦いを目にすれば、誰だって興奮するはずだ。
「負けるわけにはいかないのなのなのっ!」
「こちらも……それは同じです」
魔宵の発言に対し、小さく言い返す穂波。
「うるさいのーっ!」
「うるさいのは……そちらです」
魔宵の中段の蹴りを素早くかわした穂波は、一気に脚を振り上げる。魔宵は咄嗟に腕で防ぎ、反撃に出ようと体勢を整えた。しかし、彼女が反撃するより先に、穂波の次の蹴りが繰り出される。
「なのぉーっ!!」
穂波の鋭い蹴りを胸元に受けた魔宵は、数メートル飛ばされ、床に倒れ込んでしまう。黒い帽子は飛んでいった。
「アァ……コレハオワリデスカネ……」
ほんの少し残念そうな顔をする三重。
しかし、魔宵は負けない。
彼女は根性でゆっくりと立ち上がる。華奢な体を自力でぐいっと持ち上げ、それから叫ぶ。
「負けないなのなのーっ!!」
可愛らしい容姿に似合わない凄まじい雄叫びをあげ、魔宵は穂波のもとへと走っていく。真っ直ぐ、一直線に。
「行くの行くのっ!まよい、負けないのーっ!」
凄まじい勢いに乗っている魔宵の脚から放たれた、強烈な蹴り。
その一撃は、目にも留まらぬ速度で穂波に突き刺さった。
「コレハ……オワリデスネ」
戦いをじっと見つめていた三重が、ついに告げる。
「ダイサンセン!ショウシャケッテイ!」
片言の日本語であることには変わりないが、これまでより大きな声のため迫力があった。心なしか聞き取りやすいような気さえする。
「ダイサンセンショウシャハ、メイマヨイ!」
勝者の名が告げられるや否や、魔宵は「やったなの!」と歓喜の声をあげた。それと同時に、大きくジャンプする。
こうして、魔宵は勝利するのだった。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.47 )
- 日時: 2018/08/20 01:04
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: tDpHMXZT)
3年1組は二勝一敗という成績。決して悪い成績ではない。油断大敵という言葉はあるにせよ、二戦中あと一勝すれば良いというのは、精神的にも余裕があるだろう。
「四人目はキックボクシングだヨゥ!夜路市苦ぅ!」
いよいよ後半戦。
審判は一周回って一重に戻ってきた。
「さぁ!早速自己紹介してもらおうかぁ!」
まとっている白衣をマントのようにひらめかせてかっこつけ、手を銃の形にして撃つアクションをし、ウインクをする。
一重の動作は、相変わらず謎だった。
「音張坂 環視(おとはりざか かんし)だカン。よろしくお願いしますカン」
先に名乗ったのは3年1組の環視。
「アタイは桃園 一色(ももぞの いっしき)!キラキラのチアリーダーだよっ。よろしく!」
明るい雰囲気をまとう少女・一色は、ハキハキとした声色で自己紹介をした。チアリーダーらしい活発さが感じられる少女だ。
「よーし、自己紹介タイム終わりィ!」
いよいよ、第四戦が始まる。
「両者、準備はいいかいィ!?」
「問題ないカン」
「いいよっ」
「ちょっとノリ悪ぅッ!?」
環視と一色が自分のノリについてきてくれなかったことにショックを受けつつも、一重は役目を果たす。
「……ま、いいや。それじゃ、始めるヨゥ!!」
一重は両手を頭より高く掲げ、そこで手のひらと手のひらを合わせる。そして、合わせた手と腰を左右にスライドさせるという、奇妙な動作をとる。
「スタートゥゥゥゥゥ!!!!」
開始が告げられるや否や、一色が右ストレートを放つ。
環視は慌ててかわそうと動いたが、そのかいもなく、強力な右ストレートを浴びてしまった。
「カンンンッ!」
数メートル後ろに飛ばされる環視。何とか転倒は免れたものの、そこへ一色の脚が迫る。
「はいっ」
「ぐへっ!」
一色の蹴りは環視の胸元に直撃。環視は痛みに顔をしかめ、胸元に手を当てる。
「はいっ」
「ぶべべっ!」
さらに蹴りを繰り出す一色。
彼女の中に「躊躇い」の文字は欠片もない。
「それっ」
「ぶばっ!」
「はいっ」
「ぎゃあっ!」
環視は一方的にやられ続ける。
「それっ」
「カンンンッ!」
「まだまだいくよーっ」
「ぎゃっ!」
「はいっ」
「ぶべっ!」
「それっそれっ」
「ぶばっ!ぶばべっ!!」
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