複雑・ファジー小説

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『受拳戦争』
日時: 2020/06/10 10:58
名前: 四季彩 (ID: EZ3wiCAd)

彩都さんと四季の合作です。

合作といっても、企画や世界観・キャラクターの名前や原形、プロットなどは、彩都さんです。
四季はキャラクターの口調を考えたくらいだけのもので、執筆係です。

よろしくお願いします。

スレ立て 2017.11.19
投稿開始 2017.11.20

プロット停止のため連載停止 2020.3.17~2020.3.23 2020.6.11~

Re: 『受拳戦争』 ( No.138 )
日時: 2020/04/06 09:38
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: YUWytwmT)

 縄による拘束から逃れた伊良部は、途端に鋭く言い放つ。

「そんな言葉に乗るかぁ!?そもそもスマホなんかこの文武学園に持ってこられないはずだ!スマホの持込は禁止しているからな!もしも見付かったら生活指導の教師に怒られるし!」

 だが櫂真は余裕の表情。
 伊良部が何を言おうが関係ない、というような顔つきをしている。

「いえ、『その持込すらセーフ』なんですよねぇ……」

 櫂真は小さく述べて、口の端を歪ませる。
 その時の彼の表情といったら、まるで、彼が悪の組織の親玉であったかのよう。

 刹那、伊良部は何かを察したらしく、顔を強張らせた。

「も、もしかして……『文武学園の教師陣、全員を君の能力で支配している』という事ですか……?」

 伊良部は声を震わせながら述べる。だが、対する櫂真はというと、ちっとも心を揺らしはしない。今や彼は誰よりも強く見える状態。無敵状態、と言っても過言ではないような顔をしている。

「君の能力で『生活指導の教師でさえ支配している』と……?」

 数秒後、櫂真は微笑む。

「そのまさかですよ」

 伊良部の顔面に絶望の色が溢れる。

「そ、そんな……」

 膝をつき、地面に崩れ落ちる伊良部。
 その姿はあまりに情けなかった。

Re: 『受拳戦争』 ( No.139 )
日時: 2020/04/14 20:18
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: idHahGWU)

「もう……アンタの負けだよ、伊良部」

 櫂真はそう呟いて、伊良部の前から立ち去る。
 漫画のラストシーンのような、物語的な去り方だった。

 場に残された伊良部は、絶望し、小さくなっている。狡猾そうな目つきも、憎たらしい声も、今はもう存在しない。今や伊良部は抜け殻のようになってしまっている。彼は、まるで、本体がすべて脱ぎ去った後寂しく放置される殻のよう。幾度も多々良を叩きのめしてきた者と同一人物とはとても思えない。

「全部、全部終わったんだな……」

 静寂の中、三殊は呟く。
 抜け殻のようになった伊良部へ視線を向けたままで。

 その後、やるべきことを終えた3年1組メンバーたちは、抜け殻のような伊良部に教えてもらった道を行く。最初は「伊良部が本当のことを教えるはずがない」と訴える生徒もいたが、伊良部が3年1組メンバーに伝えた情報は偽りのものではなかった。意外にも、その情報は正しかったのだ。三殊を始めとする3年1組メンバーたちは、無事地下から脱出することができた。

 その時には、既に夕暮れ。
 陽は傾き、空の色は暖色に変わり始めている。

 3年1組メンバーたちの努力を祝福しているかのような空だった。

Re: 『受拳戦争』 ( No.140 )
日時: 2020/04/21 01:13
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: LdHPPNYW)

 受験は朝から始まっていたはずなのに、もう夕方か。懸命に課題達成を目指していたから気づかなかったけど、実はかなり時間がかかっていたんだな。空を見るまで全然気づかなかった。でも、本当に、時間が経っているというのが現実なんだ。夢中になり過ぎていたから時の流れを感じなかっただけのことなんだな。

 三殊は夕暮れ時の空を見上げつつそんなことを思う。

 これまで積み上げてきた努力と、合格できたという事実。その二つのものが、胸の内で混じり合う。そして、意図せぬうちに、独特の感情が生み出される。それはまるで、ありとあらゆる絵の具を考えず混ぜたようなものだ。誰もが感じたことのないような感情が、今の三殊の胸の内には存在している。

 そんな複雑な心境になっている三殊に対し、3年1組メンバーたちは「受験も終わったし、帰りましょうか」というような雰囲気を醸し出していた。

 また、すべてが終わったことへの安堵もある。
 差はあれど、3年1組メンバーたちは皆少なからずホッとしていた。

 長い間緊張感に包まれていた。緊張感を抱いたまま、次から次へと迫り来る困難に立ち向かっていたのだ。それは、十代という繊細さのある年頃の男女にとって、ある意味では酷なことだったかもしれない。精神が出来上がった大人ならともかく、まだ未完成の精神を持つ彼らにとっては、恐ろしいくらいの緊張感に長時間晒されるというのは辛いことに違いない。

 それでも、3年1組の皆はやってみせた。

 目標達成してみせた。

 彼ら彼女らにとって、そのことは、これから先の人生において宝となることだろう。

Re: 『受拳戦争』 ( No.141 )
日時: 2020/04/27 15:29
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: oN2/eHcw)

 一人、また一人、クラスメイトたちは帰っていく。

 腹が減ったのでご飯を食べに向かおうとする者もいれば、一人で行動する者、数人のグループで行動する者もいる。皆自由に動き、バラバラになっていく。だがそれは、すべて終わったからだ。別段勝手な行動をしているわけではない。

 そんな中で、三殊は息を漏らす。
 誰に何を言うでもなく。ただ、胸を満たす安堵を味わうだけだ。

 すると、まだ帰っていなかった多々良に声をかけられる。

「家に帰るまでが、受験だぜ?」

 彼は冗談めかしてそんなことを言った。それを聞いた三殊は、不思議な気分になる。多々良が冗談を言うことなんて、これまであまりなかったから。多々良が冗談めかした発言をしている、それは驚くべきことなのだ。同じクラスで過ごしてきたからこそ分かる。

「そんなの、君にも言えるよね?君が生きている中で伊良部が死ぬ、それが最後の目的。今回のはその目的に近付いただけ、だろう?」

 三殊はさらりと言葉を返した。

「まぁな。でも……長い長い戦いが終わった気がするんだ……。後はお前等と高校生になるだけ、だな」

 多々良は爽やかな顔をしていた。真夏のレモンスカッシュみたいな顔を。そして、声もまた、晴れやかなもので。しかも、頬さえ微かに緩んでいる。以前の多々良とは別人みたいだ。

「それじゃあ、先に帰るぜ」

 最後、多々良はそう言って、歩いていってしまった。
 三殊は一人その場に取り残される。

「さよなら、文武学園」

 深呼吸して、周囲を見回した後、三殊はそう呟く。
 そして、彼もまた、その場から立ち去った。

Re: 『受拳戦争』 ( No.142 )
日時: 2020/05/04 00:23
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: YUWytwmT)

 数週間後、卒業式が行われた。
 3年1組メンバーもこの会に参加する。もちろん卒業生として。

 式に参加しているのは、卒業生だけではない。下級生も、先生も、皆同じように参加しているのだ。だが、参加している者たちの反応ときたら、非常に様々である。どうでもいいというような顔をしている下級生もいれば、感動のあまり号泣してしまっている先生も存在する。卒業式に参加する者たちの顔というのは、実に個性豊かなものだった。

 卒業式は決して長い式典ではない。
 たった数時間ほどの、気づけば終わっているかもしれないような式典だ。

 それでも、旅立つ勇気を与えてくれる。
 卒業式という名の祝福だから。

 式典の最中、三殊は今までのことを思い出していた。

 楽しかったこと、辛かったこと、喧嘩したこと、笑いあったこと……。

 そのすべてがもうすぐ過去の記憶へと変わっていってしまう。

 でも、そんな日々が幻になることはない。
 たとえ時が流れてすべてが過去になろうとも、何もかもすべて、確かにあったことなのだから。

「今までありがとう」

 そんな思いを抱え、三殊は中学校を卒業した。


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