複雑・ファジー小説
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- 『受拳戦争』
- 日時: 2020/06/10 10:58
- 名前: 四季彩 (ID: EZ3wiCAd)
彩都さんと四季の合作です。
合作といっても、企画や世界観・キャラクターの名前や原形、プロットなどは、彩都さんです。
四季はキャラクターの口調を考えたくらいだけのもので、執筆係です。
よろしくお願いします。
スレ立て 2017.11.19
投稿開始 2017.11.20
プロット停止のため連載停止 2020.3.17~2020.3.23 2020.6.11~
- Re: 『受拳戦争』 ( No.1 )
- 日時: 2017/11/20 16:06
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 07aYTU12)
プロローグ 僕たちは『受拳』する
10月、よく晴れた日。
3年1組の生徒たちは、受験のために色々な勉強をしていた。
高校といっても様々なレベルの学校がある。さぼりさえしなければ通れる学校もあれば、かなり努力しても通れるかどうか怪しいような学校もあるのだ。
生徒たちは各々の志望校に合格するべく、その日も真面目に頑張っていた。
「今日は先生からみんなに提案がある。一度手を止めて、聞いてくれないか?」
朝、教卓の前に立った先生——生先(いくさき)先生からそう言われ、生徒たちは仕方なく手を止めた。先生に「聞いてくれ」と頼まれれば、さすがに断れない。
「みんな、『文武学園』を受験してみないか?」
先生のその言葉を聞き、3年1組の生徒たちは困惑した顔をした。
奈緒三殊もその一人である。
「待って下さい先生。何のお話ですか?私たち、みんな、もう進路を決めています。この時期になってそんな提案……意味が分かりません」
一番に口を挟んだのは冷褪麗という女子生徒。
彼女は裁縫がとても得意だ。それを生かし、クラスメイトの制服や体操服なんかをよく修繕してあげている。それに加え常ににこやかで、男子からも女子からも高い人気を誇る。
彼女は進んで人前に出ることはしない。しかし肝心なところではしっかりと確認をとったりする。だからこそ密かに権力を持っているのだ。
人気者の力、というやつである。
しかし、三殊だけはそんな彼女が苦手だ。
常に笑顔。誰にでも平等。家庭的で心優しい。
三殊は純粋にそれを信じることができないのだ。
齢十五の少女が、これほど完璧なわけがない。絶対に裏があるような気がしてならない。
麗はすべてのクラスメイトに平等なので、当然三殊にも親切にしてくれる。以前三殊の体操服袋が破れてしまった時も、彼女は笑顔で「私が直そうか?」と言ってくれた。だが麗をどうしても好きになれない三殊は断った。
「そうだな、もっとちゃんと説明するよ。『文武学園』に入学して、無事卒業できた人はな、日本でも有数の存在になれるんだ。学園は今までも、卒業生を様々な業界に送り出している」
「それはおいしいですね!ボクも将来の夢に近付けるかもしれません!」
瞳を輝かせ興奮気味に言ったのは、最前列に座っている小柄な男子生徒。
名前は、袖槻半天という。
クラス替えでこのクラスになった直後、一部の生徒から「衣類」というあだ名をつけられていた。恐らく名前の音のせいだ。
「ただ、一つだけ特別な受験条件があるんだ」
「何ですか?先生」
首を傾げる麗。
「『文武学園』の入学試験は、『1クラス全員で受けること』という条件があるんだ。つまり、誰かだけというのは認められない」
先生は少し間を空けて続ける。
「条件だけ聞けば嫌だと思うかもしれない。だけどこのクラスは優秀だし、もし合格すれば全員将来は保障される。せっかくの機会だ。みんなで協力してやってみないか?」
暫し沈黙があったが、やがて生徒たちは「賛成」と言い出した。将来が保障されるというところに価値を見出したのだろう。抱いている夢が叶いやすくなる、ということは誰だって魅力を感じるものだ。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.2 )
- 日時: 2017/11/27 16:24
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: REqfEapt)
そして年明けの1月。
3年1組の30人の生徒たちは、吐く息が白くなるような寒さの中、『文武学園』の入学試験を迎えた。
1組の生徒たちは、今まで必死に勉強してきた。
時に喧嘩になったり険悪な空気になりかけたりもした。諦めかける生徒が現れることもあった。けれどお互いに助け合い、本心で向き合って悩み考え、多くの困難を乗り越えてきたのだから、恐れることは何もない。
30人で1つのチーム。彼らはいつしか、そんな雰囲気になっていった。
もちろん気が合う生徒もいれば合わない生徒もいる。それでも各々が全力で受験勉強に励んだ。
『文武学園』の入学試験にて、彼らは全力を出しきる。
疲れ果て、灰になってしまうくらい、全員が力を出しきった。数か月の努力は無駄ではない、とみんなが思えただろう。
そしてその夜は『文武学園』に宿泊することとなった。
普通の合宿所なら10人以上で1つの部屋に泊まるものだが、まさかの贅沢な二人部屋であった。
3年1組の生徒たちは疲れながらも、ホテルのような部屋に興奮気味だ。
ふかふかの柔らかく立派なベッド、天井から吊り下がるオシャレな照明器具。風呂場の床はピカピカに磨かれているうえ、ご丁寧にテレビまで設置されている。
30人は、そんな贅沢な部屋で一夜を明かすのだった。
——そして翌朝。
受験者全員に対し、『文武学園』の校長である『蒲郡伊良部』という人物から呼び出しがかかった。場所は学園の敷地内にある体育館である。
生徒たちはそんなことを前もって聞いていなかった。だから、いきなりのことに驚き戸惑いながらも、指示に従いそこへ向かうのだった。
「何があるんでしょうね。ボク、ドキドキしてきましたよ」
移動の途中、独り言の呟いているのは袖槻半天だ。
昨日の試験も彼はかなり緊張した面持ちだった。その緊張が一晩にして解消されるはずがない。だから、今こうして独り言を言っているのも、込み上げる緊張を和らげるためなのだろう。
しかも彼は、明らかに不自然な動きをしている。数歩ごとに右へ行ったり左へ行ったり。これも気を紛らわせるための行動に違いない。
「おい、半天!お前何一人で喋ってるんだ。さすがにキモイぞ!」
緊張のあまり言動が少しおかしい半天に話しかけていくのは、筋肉質で大柄な男子生徒。まるで昔の漫画に出てくるような風貌をしている。
ちなみに、名前は呑道枯淡という。
3年1組の中ではかなりの力自慢で、掃除の時間だけは女子に群がられていた——もっとも、押し付けられていただけだが。
「枯淡、キモイとは酷いですね……」
「いやいや。事実事実」
「女子もいるところでそういうのは止めて下さいよ」
「いや、事実を言っただけだろ」
「酷いですね……」
枯淡は小学生の頃から力が強かった。おかげで、小学校6年間と中学校3年間の計9回、握力計測器を破壊してしまった。そんな話が逸話となっている。
三殊はというと、そんな二人のくだらないやり取りを、ぼんやりと眺めていた。昨日の疲れでまだ結構眠いうえ、特にすることもないからだ。
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