複雑・ファジー小説
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- 『受拳戦争』
- 日時: 2020/06/10 10:58
- 名前: 四季彩 (ID: EZ3wiCAd)
彩都さんと四季の合作です。
合作といっても、企画や世界観・キャラクターの名前や原形、プロットなどは、彩都さんです。
四季はキャラクターの口調を考えたくらいだけのもので、執筆係です。
よろしくお願いします。
スレ立て 2017.11.19
投稿開始 2017.11.20
プロット停止のため連載停止 2020.3.17~2020.3.23 2020.6.11~
- Re: 『受拳戦争』 ( No.113 )
- 日時: 2019/10/21 19:36
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: jX/c7tjl)
伊良部が倒れて、それ以来、半天と枯淡はずっと踊り続けている。大地を踏み、体をくねらせ、腕を振り、そうやって全身で喜びを表現している。
「らったたん!らったたん!やんたんたかたんらったたん!らったたらたたんらったんご!あーそらー、あーそらー、あーそーらーめん……やっほい!らったんご!らったんご!らったたんらったたらったたぁーん!」
長時間にわたり踊り続ける半天の体力は、目を見張るものがある。
一般人にはとても真似できないことを彼はさらりとやってのけているのだ。
「らんたんたーめんらーめりっく!らーめりっく!らーめりっくゥーッ!らったたん!らったたん!らったたんた!らったたん!」
半天はまだ舞い続けている。
その様は舞踊の女神に乗り移られたかのようだ。
最初は皆「テンション上がって変な踊りをしてるなぁ」くらいにしか思っていなかった。けれど、一息つくことさえせずに動き続ける半天を見ていたら、段々不気味ささえ感じてきて。皆、徐々に、引いてきてしまっている。
「半天くん凄いね……」
さりげなく漏らしたのは麗。
彼女は一応褒めているようなことを言っているけれど、面には、完全に引いている人の表情を浮かべていた。
「らったたん!らったたん!らんたんらんたんたらんたんたんたんらちゅーら!らったたん!らったらんたからっぱめん!らったたん!らったたん!らんたからっぱめん!」
枯淡はとっくに疲れて動けなくなっている。
膝に手をついて、肩で息をしていた。
「あぁーらそこにはおほしさま!らったたん!らったたん!あぁーらそこにはゆめのくも!らったらったんらったんご!らったたん!らったたん!あぁーらそこにはあいのひと!うふぉふふぉうふぉらふぉうふふのほー。らったたん!らったたん!あぁーらそこにはいとしいみらい!」
半天は明らかにおかしな様子になっている。
その口から出るのは、呪文のような奇妙な言葉ばかりである。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.114 )
- 日時: 2019/10/29 02:00
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 4xvA3DEa)
「彼、大丈夫なのかな……」
いつまでも歌い踊り続ける半天を見て、三殊は思わずそんなことを呟いてしまった。
三殊とて心のないロボットではない。伊良部を倒せたことを嬉しく思う気持ちは、十分に理解しているつもりだ。それに、三殊の場合、多々良の苦労話を聞いているから、特に良かったと思っている。
けれど、今の半天の振る舞いには戸惑いを隠せない。
嬉しいのは分かるけど……、と、少しばかり引いてしまう。
「落ち着け、って感じだな」
「だよね。多々良くん」
伊良部を片付けられたことを一番喜んでいるはずの多々良ですら冷静なのだ。
それなのに、半天は浮かれきってしまっている。
歓喜でテンションが上がるのは分かる。踊り出したくなることだって時にはあるだろう。けれど、今の半天の動きは、気が狂れたのかと心配になるような動き。困惑せずにはいられない。
「どうしよう?」
「何だ、その質問」
「踊り過ぎて疲れたらまずいから……止める?」
三殊の脳内には「一旦止めた方が良いかも」という思いがあった。でも、一人だけの意見で止めてしまうのは問題かもしれないと考えてしまう部分もあって。それで、妙に悩んでしまっていたのだ。
三殊としては、誰かに背を押してほしかった。そっとで良いから。
「止めよう、と言ってほしいわけか?」
すぐ隣にいる三殊から意見を求められた多々良。
彼は、三殊が求めているものを見抜いていた。
「……うん、実は」
「そうか。じゃ、止めようぜ」
多々良がそう言ってくれたことで、三殊は、半天を止めようと強く決意することができた。
それから三殊は、3年1組メンバーが見守る中、舞踊の女神と化している半天に歩み寄る。そして、くねくねしている半天の肩に、右手をぽんと乗せる。
「踊るのは、一旦止めない?」
だが、半天はすぐには踊りを止めなかった。
湧き上がる踊りたい衝動を抑えることは、簡単なことではなかったのだ。
止めない、と言われた後も、三殊は懸命に半天を説得。熱くなり過ぎないように、冷静さを欠かないように、気をつけながら、三殊は丁寧に思考を述べていく。奇妙なモードになってしまっている半天が正気を取り戻せるよう、三殊は全力を尽くした。
結果、十分ほどして、半天は踊り続けることを止めた。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.115 )
- 日時: 2019/11/04 18:44
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 4V2YWQBF)
半天の奇妙な踊りはようやく終わった。だがそれからも3年1組メンバーたちは、喜びを噛み締め続けていた。ある者は元気に友人と喋り、ある者は写真を撮ったりして、この穏やかな時を謳歌している。皆、緊張から解放された、良い顔をしていた。伊良部との因縁、そして重苦しい幾つもの前世を背負ってきた多々良さえも、今はほんの少し笑みを浮かべている。伊良部を倒してからというもの、まだ少しも進展がないが、そこは誰もあまり気にしていない。喜びに浸っているから。
「多々良くん、これからどうなるんだろうね?」
歓喜する3年1組メンバーたちを温かく見守りつつ、三殊は多々良に話を振る。
「……よく分からないな」
「誰かが合格って言いに来てくれるのかな?」
「多分そうなんじゃないか。分からないが」
三殊は多々良から辛い前世の記憶についてたくさん聞いた。だからこそ、今、二人の間には他にはない特別な友情が芽生えている。辛い記憶を勇気を出して打ち明け、それをきちんと聞いて受け入れる。そうして生まれた絆だ。
「これが終わったら、多々良くんはどうするんだい?」
「正直……まだあまり考えていない」
「まぁそっか。伊良部を倒すために生きてきたんだもんね」
「そんなところだな」
今までにない柔らかい顔つきをする多々良を目にして、三殊はホッとした。
彼もこんな顔をできるようになったんだ、と思ったら、涙がポロリとこぼれそうになったくらいだ。
「もしよかったらさ、一緒に色々してみないかい」
「二人で……か?」
「うん。あ、でも、二人が嫌なら何人かでもいいよ。クラス皆とかでもいいよ」
「いや、それは止めておく。騒がしいのは嫌いだ。二人にしよう」
「そっか。じゃ、二人だね」
三殊と多々良はどうでもいいような会話をする。
でも、彼らにとっては、それこそが幸せ。それが彼らの幸福の形なのだ。
特別なことなんて要らない。特別な行事なんて必要ない。
穏やかに暮らせること、ただそれだけが、大きな大きな幸せへと繋がる道の始まりだから。
- Re: 『受拳戦争』 ( No.116 )
- 日時: 2019/11/12 00:55
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: jFPmKbnp)
歓喜に満ち溢れた空間の中、三殊は、「あれは一体何なんだったのだろう?」と、思う。
自分の手を見つめながら。
あれは一体何だったのだろう。俗に言う『能力』なるものだったのだろうか。自分には何もないと思っていたが、それが、今になって発現したというのか。
それともただの気分?プラシーボ効果を受けただけ?
三殊は不思議で仕方がなかった。
これまで一度も起こったことのなかった奇跡、それが、ここにきて起きたことに。
3年1組メンバーたちとの固い絆があったことは間違いない。長い時間をかけて育んできたものだから、絆が生まれているのは当然のことだ。だから、彼ら彼女らと特別な縁があるということは、確かなことだ。
でも、それが唐突に奇跡を起こすなんて、あり得ることなのだろうか。
じっくり育んできたものが、危機的状況に陥った時に花開く——少年漫画の世界でなら起こりそうなことだ。
だが、そんなことが現実世界で起こるとは、とても思えない。
まるで、小説に出てくる伏線なき奇跡ではないか。
なぜあんなことが起きたのか。その原因が分からない限り、三殊は納得できない。三殊は、実は、理解できないことというものが苦手だったりするのだ。不思議な経験自体を悪と捉えはしないものの、説明してほしい、と思ってしまう心は、なかなか消せない。
そんな風に、一人密かに考え込んでいた三殊だったが、やがて思考することを止めた。
奇跡は計算問題ではない。考えれば答えを出せるというわけではないし、考え込んでいたら近くの誰かが答えを教えてくれるというわけでもない。常識をフルに活用して思考し続けたところで、答えが見つかるはずはないのだ。だからこそ『奇跡』と言う。
答えのない問いの答えを考え続けていても、何かが変わるわけではない。
そう思ったから、三殊は納得しようとするのを諦めた。
「……まぁ、伊良部も倒したし、もういいか」
- Re: 『受拳戦争』 ( No.117 )
- 日時: 2019/11/20 00:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: yOB.1d3z)
突然起きた奇跡に戸惑っていた三殊。
しかし、思考を続けても何も変わらないと思い、奇跡について考えることはもう止めた。無駄だと気づいたから。
それまで皆とは少し離れた場所にいた三殊だったが、思考を止め、皆の方へと進んでいく。
「このぼくを含むクラスメイトたちと盛り上がる気になったんでんな?」
「うん。永保くん」
「よし!盛り上がっていこうでんな!祝いはまだまだこれからでんな!」
その時、三殊の顔面に暗いものはなかった。
「やりましたね!ボク、嬉しすぎて泣きそうです!」
「嘘ついたら駄目だぞ、半天!泣いてなんてなかったの、見ていたぞ!踊りまくっていただろ?」
「うっ……嘘じゃありません。あくまで表現ですから!」
他のメンバーたちのようにうかれているということはないし、踊ったり歌ったりはしていない。そのため、周囲と比べればローテンションにも見える三殊。だが、彼も、彼なりに喜んではいるのだ。
「事実、嬉しいー!」
「上手くいったね、真実坂さん」
「うんうんー!」
こうして三年一組の『文武学園』入学試験、『受拳戦争』は終わった──かと、思われた。
だが、それは間違いだったのだ。
三殊らが起こした奇跡によって倒れていた伊良部。
その指が、ぴくり、と動く。
けれども誰も気づいていない。伊良部の方なんて誰一人見ていないから。
伊良部は口角を微かに歪ませる。
誰も見ていないと分かっていながら、にやり、と怪しげな笑みを浮かべた。
──そして、音もなく立ち上がる。
それはまるで怨霊のよう。ゆらり、と体を不気味に揺らしながら、体を元の位置へ戻した。
──発動するのだ、能力を。
今まさに、終焉への幕が上がろうとしている。
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